フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁

文字の大きさ
60 / 60

第4章~オレの幼なじみがこんなに素直なわけがない~最終話

しおりを挟む
 始業のチャイムが鳴るまでは、あと、10分ほど余裕があるはずだ。

 朝の時間帯は、生徒が来ることの少ない校舎4階の空き教室の前まで来ると、

「もう! 強引なんだから…」
 
と、冗談めかした口調で口答えしながらも、オレについてきたクラスメートに、あらためて伝える。

「リッちゃん、オレは、あのときの約束を忘れたわけじゃないから……!」

 他に生徒の姿が見当たらない朝の空き教室の前で告げたオレの言葉に、リッカは、

「良かった…ムネリンが記憶力のイイ人で……」

と言って、フッと笑みを漏らす。

「まだ、十分にあのときの約束を果たせたわけじゃないけど、オレは、いつかきっと――――――」

 リッちゃんみたいに、誰かを笑顔に出来るようになるから……と、続けて伝えようとすると、オレの言葉を制するように、右手を軽くかざした彼女は、

「約束、覚えていてくれて、ありがとう」

と、穏やかであたたかさを感じさせる表情を見せたあと、さらに、口角を上げ、ニヤリと微笑んだかと思うと、

「私の小指も覚えているんだ」

と小指を立てて、何事かをアピールしてくる。

 その仕草に、オレが一瞬だけ怪訝な表情をすると、リッカはクスリと笑い、小指を指切りの形に変えて、言葉を続ける。
 
「指切りげんまん、ウソついたら、ムネリンをイ~ジる! 指切った!」

 彼女のその宣言を鮮明に思い出したオレの表情が青ざめるのを確認したのか、リッカは、今度こそ満足げに微笑んでたずねてくる。

「まだ、約束を果たせたわけじゃない、ってことは~。私は、ムネリンをイジって良いってことだよね?」

「うっ……それは――――――」

 オレが、言葉につまると、彼女はサッと表情を変えたかと思うと、

「やっぱり、ムネリンは約束を守ってくれないんだ……悲しい……うるうる」

と、わざとらしく泣き真似をする。

 し、白々しい…と感じつつも、あのときの約束を持ち出されては、オレに拒否権などあるはずもない。
 そんなわけで、

「わ、わかったよ。ちゃんと、約束は果たすから」

そう言って、彼女の言葉を受け入れることを了承することを告げると、リッカは、フフッと上機嫌に微笑んだかと思うと、「あっ」と、声を上げ、

「一応、確認しておくけど……私とコミュニケーションが取れるのが嬉しすぎて、わざとイジられようとか思ってないよね?」

などと、失礼なことをたずねてくる。

「そんなわけないだろ!」

 張り上げた声が、オレたち以外の生徒がいない廊下に響き渡ると、彼女は、クスクスと可笑しそうに笑った。
 
 そして、「そうだ!」と言って、手をポンと叩いたリッカは、思い出したように付け加える。
 
「ムネリンに謝らなきゃいけないことがあったんだ」

「な、なんだよ、オレに謝ることって…?」

 オレがたずねると、リッカは神妙な面持ちで謝罪の言葉を口にする。

「この前、ムネリンの推しキャラの桜田志穂子さくらだしほこちゃんについて、酷いことを言っちゃったよね? そのことについて、謝らないといけないと思ってたんだ。ゴメンナサイ!」

 申し訳なさそうなようすで頭を下げる彼女の意外な態度に、少々、面食らったオレは、

「ま、まぁ、わかってくれたなら、別にイイよ」

と、たどたどしく返答する。

 すると、リッカは、「良かった…」と、安堵するように言ったあと、表情を一変させて、こんな言葉を口にした。

「これで、あらためてわかったこともあるし」

「な、なんだよ、わかったことって…?」

 オレの再度の質問に、彼女は「それは~」と、もったいぶりながら言ったあと、

「やっぱり、ムネリンは、ってこと」

と言って、また、クスリと楽しげに微笑む。
 
 その言葉と表情に、オレは「な、なに言ってるんだよ」と、言ったきり言葉を失ってしまう。

 本当は、『ナマガミ』の桜田志穂子さくらだしほこのような、ずっと一緒にいる系の幼なじみと、オレとリッカのように再会系の幼なじみは、分けて考えなければならない、というのがオレ自身の持論なのだが、いまは、そのことについて、反論しても意味がない気がした。

 渋い表情のままのオレをリッカは、興味深そうにのぞき込もうとしてくる。
 そんな相手のようすを頬の内側を噛みながら確認すると、オレは、一矢報いようと、食い下がった。
 
「それより、久々知と交際中ってことになってるのに、オレに構っていてイイのか?」

 ただ、なんとか、やり返そうと発した言葉を余裕の笑顔で受け止めたリッカは、ケロリとした表情で返答する。

「あぁ、そのことなら、心配しないで! これ以上、大成たいせいクンとの関係を続ける必要もないし、今週中にも、彼との交際関係は解消することになってるから」

 唯一の反撃の手立てを封じられたオレは、「うぐぅ……」と唸って、仕方なく白旗をあげる。

「わかったよ…けど、すぐに約束を果たしてみせるからな!」
 
 なかば意地になって、そう答えると、彼女は笑みを浮かべたまま、「そっか~」と、つぶやいたあと、

「ちなみに、ここに、もうすぐクラス委員の男子と別れて、転校後のクラスで寂しく過ごす予定の女子がいるんだけど……ムネリンは、こんな女の子のことを放っておくつもり?」

そう言って、オレの表情をジッと見ながら、こちらの反応を楽しんでいるようだ。

「リッちゃんが、本当にツラい思いをしてるなら、いつでもチカラになるさ」

 精一杯の判断でそう答えると、リッカは、少し伏せ目がちに、

「そう…もし、そんなときが来たら、よろしくね」

と返答したあと、ニコリと笑って、

「そろそろ、朝のホームルームが始まりそうだし、教室に戻ろっか?」

と、提案してくる。

 彼女の申し出に、うなずいたオレは、心のなかでため息をつく。

(リッちゃんと話せたことは良かったけど…もしかして、オレって、ただイジられるだけの運命なのか?)
 
 そんなことを考えながら、階段を下り、ふたたび教室に続く廊下に戻ったときだった――――――。

 ドンッ!

と、右半身に衝撃を感じ、ヨロヨロと、よろけそうになるのをなんとかこらえると、

「キャッ!」

という声とともに、尻もちをつく女子生徒の姿を確認し、階下から階段を駆け上がってきた勢いでぶつかって来た相手が、自分たちのクラスメートだということがわかった。

「おっ、大島! 大丈夫か!?」

 自分の中では、相手にぶつかられたという認識ではあるのだが、床についたまま立ち上がれないでいる大島睦月おおしまむつきに目を向けると、彼女を立たせようと手を差し伸べる。
 よく見ると、彼女の瞳には涙が浮かんでいた。オレのような、スポーツをしていないヒョロガリな体型でも、女子にとっては、涙が出るほどの衝撃だったのか…と感じて、
 
「すまない……ちょっと、考え事をしていたから……」

と、申し開きをしながら、彼女の手を取って、立たせようとするのだが、彼女はフルフルと首をヨコに振り、床から立ち上がろうとしない。

「どうしたんだ? 保健室に行くか?」

 そうたずねても、なおも、大島は首を振るばかりだ。

 そばにいた女子生徒に助けを求めようと、リッカに視線を送るが、彼女も肩をすくめて、対処の仕様がないことを暗に示す。
 
 そして、廊下に座り込んだままのクラスメートは、、大粒の涙を流して、オレにこう言い放った。

「立花、どうしよう……私、きた先生にフラれちゃった!」

「な、なんだって!?」

 衝撃の発言に、思わずオレは声を上げる。
 ただ、幸運なことに、始業時間直前のためか、廊下に連なる階段の周りに生徒や教師の姿は見えなかった。

 その状況を確認して、オレは心の底から安堵する。
 学年でも三本の指に入る容姿を持ち、隠れファンも多い大島睦月の失恋話となれば、アッという間にウワサが広まってしまうのは、火を見るよりも明らかだ。

 しかも、その相手が、教師とあっては、そのウワサに、どんな尾ヒレが付くか、わかったモノではない。

「大丈夫だ、大島。幸い、近くに他の生徒は居ないし、いったん、落ち着こう」

 大島睦月に、そう話しかけると、彼女は、だまってコクリ、とうなずく。

「とりあえず、彼女の話しを聞いてあげたら?」

 そんな提案をしてくる幼なじみに、

「大島が話してくれるならな」

と、条件付きで、その申し出を受け入れる。

(話を聞く場所は――――――あの店しかないよな……)

 先日、自分の幼なじみにフラレた、と勘違いして号泣していたクラス委員の姿を思い出しながら、

(武甲之荘のコメダ珈琲って、予約は出来たっけ?)

と、あとでスマホで検索しておこうと考える。

 そのかたわらで、さっきまでオレをイジっていたクラスメートは、

「早速、機会に恵まれるなんて……すごい引きね、ムネリン」

と言ったあと、

「それじゃ、お手並み拝見をさせてもらおうかな?」

と、つぶやいてクスリと微笑む。

 こうして、オレは、二人目のダメヒロインの失恋トークに立ち会うことになった……。

 思えば、そもそもは、幼い頃に交わした約束を果たそうと、行きつけの喫茶店で号泣するクラス委員の女子生徒の復縁にチカラを貸そうとしたことが発端なのだが……。

 そのことをきっかけにして、予想もしないことに、教室内ぼっちだったオレが、クラスメートと親密に話し合う機会が増えてきた。
  
 季節は、そろそろ、春が終わり、梅雨前線が居座りそうな時期になろうとしている。
 これから、熱い季節になりそうだ――――――。
 そんな予感がした、5月の終盤の出来事だった。

★★★★★★★★

最終話までお読みいただき、ありがとうございます。

登場人物の言動に共感やツッコミ、ワカ姉のラブコメ十戒の続きが読みたいなどのご意見がありましたら、いいねや感想をいただけると幸いです。

読者の皆さまのブックマークやコメントが本作品の続編の執筆のモチベーション向上につながります。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

処理中です...