118 / 454
第11章〜よつば様は告らせたい〜④
しおりを挟む
~白草四葉の心理考察~
――――――六年前、四月六日(水)
東京行きの新幹線のドアが閉まった瞬間、私は絶望という名の真っ暗な穴に突き落とされた気がした。
(「友達でいたい……」って、なんだソレは!?)
(私に優しくしてくれたのは、なんだったの?)
(私の歌を憧れるように見つめてたじゃない!)
この二週間たらずの間に親しくなった少年の、あまりに無神経な言葉に、私は怒りを感じずにはいられなかった。
(竜司とは、心が通じあっている、と思ったのに……)
お互いに両親のことで子どもながらに我慢を強いられること、春休みを一人で過ごさなければいけなかったことなど、私と黒田竜司少年とは置かれている環境に近いモノがあると思っていた――――――。
それだけに、彼とは互いの境遇に、シンパシーを感じあっているのではないか、と考えていたのだが――――――。
もしかして、それは、自分だけの思い込みだったのだろうか?
そうだとすれば、私には、そのことが、なによりも悲しかった。
(結局、私のことをわかってくれるヒトなんて、どこにも居ないんだ……)
そう考えると、鼻の奥にツンとした痛みを感じ、ひとりでに涙が溢れてきた。
それは、それまでの二週間足らずの思い出が、すべて否定されたような気がしたからだ。
とめどなく流れる涙をぬぐい、一刻も早く、座席にいる母のもとに戻らなければ、と思うのだが……。
泣いている姿を見せては、母も心配するだろう――――――。
そんな風に考えた私は、車両の連結部に近いドアから、駅を出発したばかりで、まだ誰も使用していない化粧室に駆け込み、ジャブジャブと顔を洗う。
目の腫れは治まらなかったが、なんとか、涙のあとは誤魔化すことができそうだ。
ハンカチで顔を拭いた私は、急いで母のいる座席に戻り、何事もなかったように、母の隣の席に座った。
「お友達とキチンとお別れはできたの?」
と問う母の声には、
「うん、まあね……」
と素っ気なく答え、気を紛らわせるのと、母からの追及を避けるため、
「ねぇ、さっき買ってくれたマンガを読みたいんだけど……」
とリクエストする。
「気が早いわね……そんなに急いで読み始めなくても、東京に着くまでには、まだ時間があるのに……」
そう言って苦笑しながらも、母は本屋で受け取った手提げ用のビニールの包みからコミックを取り出して渡してくれた。
「ありがとう」
と答え、シュリンクのビニールを破る。
なるべく集中していると見えるようにコミックを読み始めると、ページを開いたカバーの部分に、
「純愛とは怠慢を表す言葉である―――。」
という言葉が書かれていて、さらに、ページをめくると、
「恋愛は告白した方が負けなのである!」
「好きになったほうが負けなのである!!」
というショッキングなフレーズが並んでいた。
それは、まるで、今のわたしの心のなかを覗き見た上で、浴びせられた言葉のように感じられ、スレッジ・ハンマーで頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
(そんなふうに言わなくてもイイのに……)
とは思ったものの、その作品のストーリーは、お互いに想い合っている男女が、相手に告白させようと頭脳戦(?)を繰り広げる、というモノだった――――――。
(ス、スゴく面白い……)
むさぼるようにページをめくった私は、気がつくと、名古屋駅に到着するまでに、第一巻のコミックを読み終えてしまっていた。
「集中して読んでると思ったら……なに? もう読み終わったの?」
こちらのようすを見ていたのか、母から掛けられた言葉には、
「うん……このマンガ、スゴく面白かったから……」
とだけ応じる。
読んだばかりのコミックに影響を受けるというのは、我ながらあまりにも短絡的であるとは思うが――――――。
このとき、私のなかでひとつの目的が定まった。
「今度、再会したときには、絶対に黒田竜司に告白させてみせる――――――」
決意表明が、思わず口をついて出ていたのか、
「どうしたの? なにか言った?」
と、横目で見ながら問いかける母の言葉には、
「ううん……なんでもない。ただ、マンガを読んで、自分の新しい目標ができたな、って思っただけ」
と、笑顔で答える。
この日から、私の密かな計画が始まった……。
自分の《ミンスタ》アカウントに名付けた、クローバーの花言葉のもう一つの意味に誓って――――――。
――――――六年前、四月六日(水)
東京行きの新幹線のドアが閉まった瞬間、私は絶望という名の真っ暗な穴に突き落とされた気がした。
(「友達でいたい……」って、なんだソレは!?)
(私に優しくしてくれたのは、なんだったの?)
(私の歌を憧れるように見つめてたじゃない!)
この二週間たらずの間に親しくなった少年の、あまりに無神経な言葉に、私は怒りを感じずにはいられなかった。
(竜司とは、心が通じあっている、と思ったのに……)
お互いに両親のことで子どもながらに我慢を強いられること、春休みを一人で過ごさなければいけなかったことなど、私と黒田竜司少年とは置かれている環境に近いモノがあると思っていた――――――。
それだけに、彼とは互いの境遇に、シンパシーを感じあっているのではないか、と考えていたのだが――――――。
もしかして、それは、自分だけの思い込みだったのだろうか?
そうだとすれば、私には、そのことが、なによりも悲しかった。
(結局、私のことをわかってくれるヒトなんて、どこにも居ないんだ……)
そう考えると、鼻の奥にツンとした痛みを感じ、ひとりでに涙が溢れてきた。
それは、それまでの二週間足らずの思い出が、すべて否定されたような気がしたからだ。
とめどなく流れる涙をぬぐい、一刻も早く、座席にいる母のもとに戻らなければ、と思うのだが……。
泣いている姿を見せては、母も心配するだろう――――――。
そんな風に考えた私は、車両の連結部に近いドアから、駅を出発したばかりで、まだ誰も使用していない化粧室に駆け込み、ジャブジャブと顔を洗う。
目の腫れは治まらなかったが、なんとか、涙のあとは誤魔化すことができそうだ。
ハンカチで顔を拭いた私は、急いで母のいる座席に戻り、何事もなかったように、母の隣の席に座った。
「お友達とキチンとお別れはできたの?」
と問う母の声には、
「うん、まあね……」
と素っ気なく答え、気を紛らわせるのと、母からの追及を避けるため、
「ねぇ、さっき買ってくれたマンガを読みたいんだけど……」
とリクエストする。
「気が早いわね……そんなに急いで読み始めなくても、東京に着くまでには、まだ時間があるのに……」
そう言って苦笑しながらも、母は本屋で受け取った手提げ用のビニールの包みからコミックを取り出して渡してくれた。
「ありがとう」
と答え、シュリンクのビニールを破る。
なるべく集中していると見えるようにコミックを読み始めると、ページを開いたカバーの部分に、
「純愛とは怠慢を表す言葉である―――。」
という言葉が書かれていて、さらに、ページをめくると、
「恋愛は告白した方が負けなのである!」
「好きになったほうが負けなのである!!」
というショッキングなフレーズが並んでいた。
それは、まるで、今のわたしの心のなかを覗き見た上で、浴びせられた言葉のように感じられ、スレッジ・ハンマーで頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
(そんなふうに言わなくてもイイのに……)
とは思ったものの、その作品のストーリーは、お互いに想い合っている男女が、相手に告白させようと頭脳戦(?)を繰り広げる、というモノだった――――――。
(ス、スゴく面白い……)
むさぼるようにページをめくった私は、気がつくと、名古屋駅に到着するまでに、第一巻のコミックを読み終えてしまっていた。
「集中して読んでると思ったら……なに? もう読み終わったの?」
こちらのようすを見ていたのか、母から掛けられた言葉には、
「うん……このマンガ、スゴく面白かったから……」
とだけ応じる。
読んだばかりのコミックに影響を受けるというのは、我ながらあまりにも短絡的であるとは思うが――――――。
このとき、私のなかでひとつの目的が定まった。
「今度、再会したときには、絶対に黒田竜司に告白させてみせる――――――」
決意表明が、思わず口をついて出ていたのか、
「どうしたの? なにか言った?」
と、横目で見ながら問いかける母の言葉には、
「ううん……なんでもない。ただ、マンガを読んで、自分の新しい目標ができたな、って思っただけ」
と、笑顔で答える。
この日から、私の密かな計画が始まった……。
自分の《ミンスタ》アカウントに名付けた、クローバーの花言葉のもう一つの意味に誓って――――――。
0
あなたにおすすめの小説
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~
root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。
そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。
すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。
それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。
やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」
美人生徒会長の頼み、断れるわけがない!
でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。
※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。
※他のサイトにも投稿しています。
イラスト:siroma様
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話
頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。
綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。
だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。
中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。
とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。
高嶺の花。
そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。
だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。
しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。
それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。
他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。
存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。
両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。
拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。
そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。
それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。
イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。
付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる