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第三部
第3章〜裏切りのサーカス〜③
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「こっちの方は、まだ確約をしてもらったわけじゃないから、どうやって話そうかと思っていたんだが……」
コンピュータクラブとの交渉内容を明らかにした竜司は、少しバツが悪そうな表情で、口にした。
「そうだったの……そういうことなら、この場で、お互いの状況を詳らかにできたことは、良かったのかもね。あとで、黄瀬くんたちが、コンピュータクラブに訪問したときに、混乱するようなことも避けられるだろうし」
鳳花部長は、親友の言葉を受け、あくまで冷静に現状の把握に努めているようだ。
「はい……そうですね……」
ボクも、表面上は平静をよそおって、そう口にしたけれど、落胆の色は隠しきれていなかったようだ。
「スマンな、壮馬……」
申し訳なさそうな表情で、竜司が声をかけてくる。
「いや、別にクラブへの取材は、ルールがあったわけじゃないから竜司に謝ってもらうようなことはないよ……」
そんな風に返答したものの、なんだか同情されているような友人の言葉は、ボクをより惨めな気持ちにさせるのだった。
思わずため息が出そうになるのをなんとか堪えていると、鳳花部長は、竜司からの報告のまとめに入る。
「いま、黒田くんから報告があったように、今後は取材先が被って無用な混乱を来さないように、各グループから、提携先と取材状況を報告してもらいましょう。そして、提携する意志がないクラブについても報告してもらえば、他のグループは、取材のチャンスありと考えられるから、より便利になるんじゃないかしら?」
生徒会副会長にして、広報部の部長でもある先輩の提案を、ボクらは揃って受け入れる。
さらに、鳳花部長は続けて、
「これを今回の『動画コンテスト』の紳士協定……いえ、女子の参加者も多いから、この言葉は相応しくないわね。このルールを《紳士淑女の協定》として、定めたいと思います。異存のある人は、いない?」
と、念を押す。
この問題の当事者であるボクと竜司、そして、どうやら、ダンス部以外との提携を考えているようすのない宮野さんのグループにも意見を異にする理由はなかった。
さらに、自身の提案が受け入れられたことで満足そうな鳳花部長に、生徒会書紀の生野茉純さんから声がかかる。
「副会長、いまの提案をもとに、各グループの取材先と提携内容がわかるように一覧表を作成しました。エクセルで作成した表をスプレッドシート化して、生徒会の共有ドライブにアップロードしますので、アクセス権のあるユーザーは、いつでも、自分たちの活動内容を書き込んで、リアルタイムで他のグループの動向を知ることができます」
「さすが、茉純さんね! いつも、仕事が早くて助かるわ」
部長の言葉どおり、これが、普段の生徒会の仕事ぶりなのだろう。
これまで、ボクらの会話に加わってくることがなかったので、生野先輩が、どんな業務をしているのかわからなかったけれど、この短時間の間に、最適なツールを用意してくれるその事務処理能力と適応力の高さに驚きつつ、鳳花部長や生徒会長をはじめ、一学年上の生徒会メンバーの業務遂行力に劣等感すら覚えてしまう。
「まだ、議題はひとつしか出ていないけれど、他に話し合っておきたいことがなければ、今日の連絡会は、ここまでにしましょうか? 今日の内容を受けて、対策を練るグループもあるだろうし……」
進行役の広報部部長が語るように、ボクは、いち早くこの連絡会の内容を文芸部に持ち帰って、取材の意思確認のために、各クラブを再訪問するスケジュールを立てないといけない。
竜司から聞かされた内容は、ショックだったけれど、ボクひとりで落ち込んでいる訳にはいかない。
一刻も早く図書室に戻って、天竹さんたちに報告と相談をしないと――――――。
そう考えて、真っ先に席を立とうとした矢先、鳳花部長が、
「黄瀬くん、ちょっと良いかしら?」
と、声をかけてきた。
ついさっき、彼女が「今日の内容を受けて、対策を練るグループもあるだろうし……」と言ったのは、当然ボクたちのグループのことを指して言ったのだろう、と感じていたので、わざわざボクを呼び止める意図がわからず、
「えっと……なんですか? できれば早く戻って、今日の報告のあと、対策会議をしなくちゃなんですけど……」
思わず、いぶかしげな表情になってしまったことを後悔しながら返答すると、鳳花部長は即答する。
「いえ……黄瀬くんたちが大変なのは理解しているつもりだから、大して時間は取らないわ」
部長に呼び止められている間、
「お先に失礼しまス」
「お疲れさまでした」
と、退室のあいさつをして、宮野さんと竜司は生徒会室を出て行った。
「短い時間であれば……」
ボクが、ふたたび返答すると、部長は穏やかな笑みを浮かべながら、こう言った。
「今日、黒田くんから聞いたことは、黄瀬くん自身も、グループのみんなもショックだと思うけれど……私は、黄瀬くんたちのグループに一番期待しているから……落ち込まずにがんばってね! そして、もしも、活動中に迷うことがあれば、ここに来なさい。私で良ければ、いつでも相談に乗るから」
「はい……ありがとうございます」
ボクは、そう答えながらも、鳳花部長の言葉に、少し拍子抜けしていた。
彼女なら、なにか具体的な助言や各クラブに対する根回しをしてくれるのではないかと、一瞬、淡い期待をしたんだけど、どうやら、そうではなかったようだ。
なんだか、同情だけを受けたようなモヤモヤした気持ちを抱えながら、ボクは、図書室に戻ることにした。
コンピュータクラブとの交渉内容を明らかにした竜司は、少しバツが悪そうな表情で、口にした。
「そうだったの……そういうことなら、この場で、お互いの状況を詳らかにできたことは、良かったのかもね。あとで、黄瀬くんたちが、コンピュータクラブに訪問したときに、混乱するようなことも避けられるだろうし」
鳳花部長は、親友の言葉を受け、あくまで冷静に現状の把握に努めているようだ。
「はい……そうですね……」
ボクも、表面上は平静をよそおって、そう口にしたけれど、落胆の色は隠しきれていなかったようだ。
「スマンな、壮馬……」
申し訳なさそうな表情で、竜司が声をかけてくる。
「いや、別にクラブへの取材は、ルールがあったわけじゃないから竜司に謝ってもらうようなことはないよ……」
そんな風に返答したものの、なんだか同情されているような友人の言葉は、ボクをより惨めな気持ちにさせるのだった。
思わずため息が出そうになるのをなんとか堪えていると、鳳花部長は、竜司からの報告のまとめに入る。
「いま、黒田くんから報告があったように、今後は取材先が被って無用な混乱を来さないように、各グループから、提携先と取材状況を報告してもらいましょう。そして、提携する意志がないクラブについても報告してもらえば、他のグループは、取材のチャンスありと考えられるから、より便利になるんじゃないかしら?」
生徒会副会長にして、広報部の部長でもある先輩の提案を、ボクらは揃って受け入れる。
さらに、鳳花部長は続けて、
「これを今回の『動画コンテスト』の紳士協定……いえ、女子の参加者も多いから、この言葉は相応しくないわね。このルールを《紳士淑女の協定》として、定めたいと思います。異存のある人は、いない?」
と、念を押す。
この問題の当事者であるボクと竜司、そして、どうやら、ダンス部以外との提携を考えているようすのない宮野さんのグループにも意見を異にする理由はなかった。
さらに、自身の提案が受け入れられたことで満足そうな鳳花部長に、生徒会書紀の生野茉純さんから声がかかる。
「副会長、いまの提案をもとに、各グループの取材先と提携内容がわかるように一覧表を作成しました。エクセルで作成した表をスプレッドシート化して、生徒会の共有ドライブにアップロードしますので、アクセス権のあるユーザーは、いつでも、自分たちの活動内容を書き込んで、リアルタイムで他のグループの動向を知ることができます」
「さすが、茉純さんね! いつも、仕事が早くて助かるわ」
部長の言葉どおり、これが、普段の生徒会の仕事ぶりなのだろう。
これまで、ボクらの会話に加わってくることがなかったので、生野先輩が、どんな業務をしているのかわからなかったけれど、この短時間の間に、最適なツールを用意してくれるその事務処理能力と適応力の高さに驚きつつ、鳳花部長や生徒会長をはじめ、一学年上の生徒会メンバーの業務遂行力に劣等感すら覚えてしまう。
「まだ、議題はひとつしか出ていないけれど、他に話し合っておきたいことがなければ、今日の連絡会は、ここまでにしましょうか? 今日の内容を受けて、対策を練るグループもあるだろうし……」
進行役の広報部部長が語るように、ボクは、いち早くこの連絡会の内容を文芸部に持ち帰って、取材の意思確認のために、各クラブを再訪問するスケジュールを立てないといけない。
竜司から聞かされた内容は、ショックだったけれど、ボクひとりで落ち込んでいる訳にはいかない。
一刻も早く図書室に戻って、天竹さんたちに報告と相談をしないと――――――。
そう考えて、真っ先に席を立とうとした矢先、鳳花部長が、
「黄瀬くん、ちょっと良いかしら?」
と、声をかけてきた。
ついさっき、彼女が「今日の内容を受けて、対策を練るグループもあるだろうし……」と言ったのは、当然ボクたちのグループのことを指して言ったのだろう、と感じていたので、わざわざボクを呼び止める意図がわからず、
「えっと……なんですか? できれば早く戻って、今日の報告のあと、対策会議をしなくちゃなんですけど……」
思わず、いぶかしげな表情になってしまったことを後悔しながら返答すると、鳳花部長は即答する。
「いえ……黄瀬くんたちが大変なのは理解しているつもりだから、大して時間は取らないわ」
部長に呼び止められている間、
「お先に失礼しまス」
「お疲れさまでした」
と、退室のあいさつをして、宮野さんと竜司は生徒会室を出て行った。
「短い時間であれば……」
ボクが、ふたたび返答すると、部長は穏やかな笑みを浮かべながら、こう言った。
「今日、黒田くんから聞いたことは、黄瀬くん自身も、グループのみんなもショックだと思うけれど……私は、黄瀬くんたちのグループに一番期待しているから……落ち込まずにがんばってね! そして、もしも、活動中に迷うことがあれば、ここに来なさい。私で良ければ、いつでも相談に乗るから」
「はい……ありがとうございます」
ボクは、そう答えながらも、鳳花部長の言葉に、少し拍子抜けしていた。
彼女なら、なにか具体的な助言や各クラブに対する根回しをしてくれるのではないかと、一瞬、淡い期待をしたんだけど、どうやら、そうではなかったようだ。
なんだか、同情だけを受けたようなモヤモヤした気持ちを抱えながら、ボクは、図書室に戻ることにした。
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