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第五部
第3章〜汚れた聖地巡礼について〜①
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7月27日(木)
少しばかりの軌道修正はあったものの、ライブ配信の最後を飾る次回は、当初の予定どおり、うしおんなのウワサが囁かれる場所で撮影を行うことが決まったことに安心したオレは、撮影準備を壮馬に任せて、もう一つの課題に取り組むことにした。
「お疲れさま。夏休み中なのに、わざわざ、済まないな」
夏季休暇期間中も解放されている我が校の図書館で待ち合わせた文芸部の代表者に声をかける。
「いいえ、私もあの店主さんから課された課題の内容は、気になっていますし……それに、こういった調査は嫌いではないですからね」
澄ました表情で答える天竹葵の協力姿勢に感謝しながら、オレは、
「それで、あの幽霊屋敷について、わかったことはあるか?」
と、たずねてみた。
週の初めに、天竹と二人で古美術堂を訪ねたときに聞かされた、世界でもっとも有名な幽霊屋敷とされる、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスについて、文芸部に調査を依頼していたのだ。
「まだ、基本的なことではありますが、まずは、『呪われた屋敷』と言われるミステリー・ハウスの基本的な情報を集めてみました」
図書室の一角にある学習用の机に席を取ったあと、天竹は、タブレットPCを開いて、集めてきたというデータを示しながら、解説をはじめる。
「まずは、ミステリー・ハウスと当時のウィンチェスター家の置かれていた状況をあらためて、おさらいしておきましょう。ウィンチェスター社はアメリカの西部開拓時代、コルト社と共に『西部を征服した銃』と称される銃器の開発で有名になった企業。オリバー・ウィンチェスターが、ウィンチェスター・ライフルを開発しウィンチェスター社を設立したのは、西部開拓時代まっただ中の1873年のこと。世界中の戦争や紛争で大ヒットしたウィンチェスター・ライフルのおかげで、ウィンチェスター家は巨万の富を築き、大富豪の仲間入りを果たします」
「ところが、オリバー・ウィンチェスターの息子、ウィリアムと妻サラの代になり、不幸が訪れる。1866年に娘のアニーが、そして1880年に1代目であるオリバー、1881年に二代目ウィリアムが相次いで死亡。ひとり残されたサラは、孤独と喪失感に苛まれるようになり、そこで助言を求めたのがひとりの霊媒師でした」
「霊媒師はサラに、一家の不幸は『ウィンチェスター銃でこれまで命を奪われてきた人々の呪いのせいだ』と告げます。そして『西へ向かい、これまで亡くなった人々の霊魂を鎮めるため、家を建て続けるようにと助言します。呪いで死なないため、犠牲者の魂の居場所を作るためには、家を増築し続けなければならない』と……」
「これを真に受けたサラは、東部のコネチカット州から西部のカリフォルニア州に引っ越し、家の建設を開始しました。夫の遺産と、日々転がり込む会社の一部の収益を惜しむことなく投じ、その屋敷を増築しはじめた1884年から、彼女が亡くなる1922年までの38年間365日24時間、22人の職人によって絶えず休まず、屋敷は拡張を続けた――――――。これが、世界でもっとも有名な幽霊屋敷、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスの概要です」
ウィンチェスター家の来歴とミステリー・ハウスの概略について簡潔にまとめられた内容に感心しつつ、オレはたずねる。
「おおまかな内容は、あの古美術堂で聞いたとおりみたいだな。……で、肝心のミステリー・ハウスの実態は、どんなものなんだ?」
「それについても、詳細な情報が公表されていました。以下が、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスの基本データです」
そう言って、天竹はドキュメントにまとめた情報を指し示す。
【ウィンチェスター・ミステリーの基礎データ】
◆正式名称:Winchester Mystery House
◆住所:アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼ525 サウス・ウィンチェスター通り
◆広さ
総面積:24,000平方メートル、建物面積:72,000坪、7階建て
◆部屋
総部屋数:160、舞踏室:2、寝室:40、浴室:13、金庫室:6、地下室:2
◆設備
ドアの数:2,000枚、窓の数:10,000枚以上、暖炉の数:47、階段の数:40、煙突の数:17本、エレベーター:3基
「これらの部屋や設備だけでも充分圧巻の奇妙さですけど、この屋敷には部屋や設備の数だけではなく、いくつものユニークなギミックが満載のようです。以下が、その代表的なものです」
・天井に突き当たる階段
・天井にある手すり
・床に設置された窓
・開けたら壁のドア
・2階に設置された開けた先に足場のない即、外のドア
・廊下ピッタリに納められた馬車
・扉の横にもうひとつ小さな扉
・細すぎる廊下
・ヘアピンカーブの階段
・壁に突き当たる階段
・上がって降りるだけの階段
・開けると壁の棚
・ドアノブのないドア
・床部に設置された屋根
・床のない部屋
などなど
「また、サラは『13』という数字と、『クモの巣』のモチーフに尋常じゃないこだわりを持っていて、屋敷内のあちこちにそれらを取り入れているそうです」
・クローゼットのフックの数が13、またはその倍数
・階段の段数が13
・シャンデリアのライト数が13
・浴室の数が13
・扉に打ったクギの数が13
・窓に設置された13色の石
・排水溝の数が13
・クモの巣が施されたティファニー製の窓
「さらに、屋敷に使われている調度品も建材も、一流のものばかり。増築を重ねたこの家の床や天井の高さは、ちぐはぐにズレていることもざらだそうです。この奇妙な家は屋敷の奥に作られた『降霊室』と呼ばれる部屋で、霊と相談しながら、サラ自身が設計をしていたのだとか。私はネット上に公開されている幾つかの写真を見ただけなんですけど……実際の建物を見なくても、この徹底したこだわりは、狂気じみていることが分かる気がしますね」
少しばかりの軌道修正はあったものの、ライブ配信の最後を飾る次回は、当初の予定どおり、うしおんなのウワサが囁かれる場所で撮影を行うことが決まったことに安心したオレは、撮影準備を壮馬に任せて、もう一つの課題に取り組むことにした。
「お疲れさま。夏休み中なのに、わざわざ、済まないな」
夏季休暇期間中も解放されている我が校の図書館で待ち合わせた文芸部の代表者に声をかける。
「いいえ、私もあの店主さんから課された課題の内容は、気になっていますし……それに、こういった調査は嫌いではないですからね」
澄ました表情で答える天竹葵の協力姿勢に感謝しながら、オレは、
「それで、あの幽霊屋敷について、わかったことはあるか?」
と、たずねてみた。
週の初めに、天竹と二人で古美術堂を訪ねたときに聞かされた、世界でもっとも有名な幽霊屋敷とされる、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスについて、文芸部に調査を依頼していたのだ。
「まだ、基本的なことではありますが、まずは、『呪われた屋敷』と言われるミステリー・ハウスの基本的な情報を集めてみました」
図書室の一角にある学習用の机に席を取ったあと、天竹は、タブレットPCを開いて、集めてきたというデータを示しながら、解説をはじめる。
「まずは、ミステリー・ハウスと当時のウィンチェスター家の置かれていた状況をあらためて、おさらいしておきましょう。ウィンチェスター社はアメリカの西部開拓時代、コルト社と共に『西部を征服した銃』と称される銃器の開発で有名になった企業。オリバー・ウィンチェスターが、ウィンチェスター・ライフルを開発しウィンチェスター社を設立したのは、西部開拓時代まっただ中の1873年のこと。世界中の戦争や紛争で大ヒットしたウィンチェスター・ライフルのおかげで、ウィンチェスター家は巨万の富を築き、大富豪の仲間入りを果たします」
「ところが、オリバー・ウィンチェスターの息子、ウィリアムと妻サラの代になり、不幸が訪れる。1866年に娘のアニーが、そして1880年に1代目であるオリバー、1881年に二代目ウィリアムが相次いで死亡。ひとり残されたサラは、孤独と喪失感に苛まれるようになり、そこで助言を求めたのがひとりの霊媒師でした」
「霊媒師はサラに、一家の不幸は『ウィンチェスター銃でこれまで命を奪われてきた人々の呪いのせいだ』と告げます。そして『西へ向かい、これまで亡くなった人々の霊魂を鎮めるため、家を建て続けるようにと助言します。呪いで死なないため、犠牲者の魂の居場所を作るためには、家を増築し続けなければならない』と……」
「これを真に受けたサラは、東部のコネチカット州から西部のカリフォルニア州に引っ越し、家の建設を開始しました。夫の遺産と、日々転がり込む会社の一部の収益を惜しむことなく投じ、その屋敷を増築しはじめた1884年から、彼女が亡くなる1922年までの38年間365日24時間、22人の職人によって絶えず休まず、屋敷は拡張を続けた――――――。これが、世界でもっとも有名な幽霊屋敷、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスの概要です」
ウィンチェスター家の来歴とミステリー・ハウスの概略について簡潔にまとめられた内容に感心しつつ、オレはたずねる。
「おおまかな内容は、あの古美術堂で聞いたとおりみたいだな。……で、肝心のミステリー・ハウスの実態は、どんなものなんだ?」
「それについても、詳細な情報が公表されていました。以下が、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスの基本データです」
そう言って、天竹はドキュメントにまとめた情報を指し示す。
【ウィンチェスター・ミステリーの基礎データ】
◆正式名称:Winchester Mystery House
◆住所:アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼ525 サウス・ウィンチェスター通り
◆広さ
総面積:24,000平方メートル、建物面積:72,000坪、7階建て
◆部屋
総部屋数:160、舞踏室:2、寝室:40、浴室:13、金庫室:6、地下室:2
◆設備
ドアの数:2,000枚、窓の数:10,000枚以上、暖炉の数:47、階段の数:40、煙突の数:17本、エレベーター:3基
「これらの部屋や設備だけでも充分圧巻の奇妙さですけど、この屋敷には部屋や設備の数だけではなく、いくつものユニークなギミックが満載のようです。以下が、その代表的なものです」
・天井に突き当たる階段
・天井にある手すり
・床に設置された窓
・開けたら壁のドア
・2階に設置された開けた先に足場のない即、外のドア
・廊下ピッタリに納められた馬車
・扉の横にもうひとつ小さな扉
・細すぎる廊下
・ヘアピンカーブの階段
・壁に突き当たる階段
・上がって降りるだけの階段
・開けると壁の棚
・ドアノブのないドア
・床部に設置された屋根
・床のない部屋
などなど
「また、サラは『13』という数字と、『クモの巣』のモチーフに尋常じゃないこだわりを持っていて、屋敷内のあちこちにそれらを取り入れているそうです」
・クローゼットのフックの数が13、またはその倍数
・階段の段数が13
・シャンデリアのライト数が13
・浴室の数が13
・扉に打ったクギの数が13
・窓に設置された13色の石
・排水溝の数が13
・クモの巣が施されたティファニー製の窓
「さらに、屋敷に使われている調度品も建材も、一流のものばかり。増築を重ねたこの家の床や天井の高さは、ちぐはぐにズレていることもざらだそうです。この奇妙な家は屋敷の奥に作られた『降霊室』と呼ばれる部屋で、霊と相談しながら、サラ自身が設計をしていたのだとか。私はネット上に公開されている幾つかの写真を見ただけなんですけど……実際の建物を見なくても、この徹底したこだわりは、狂気じみていることが分かる気がしますね」
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