僕のペナントライフ

遊馬友仁

文字の大きさ
63 / 78

第4幕・ARE(アレ)の章〜⑨〜

しおりを挟む
 9月10日(日)

 タイガースの快進撃は、ファンの期待を上回るスピードで継続していた。

 最短の日程でリーグ優勝が決まってしまうと、阪神百貨店で販売される優勝記念グッズは、胴上げ翌日に間に合わないという。
 ただ、連勝に連勝を重ねて、最短で優勝を決めなくても、甲子園でのカープ戦とジャイアンツ戦で、マジックを2に減らせたら、奈緒美さんとの約束の日である17日(日)の優勝決定を避けられる――――――。

 僕は、そんな風に考えていた。

 9月最初の山場と目されている甲子園でのカープ三連戦は、我がチームが、村上むらかみ大竹おおたけ伊藤将司いとうまさし。カープが、床田とこだ森下もりした九里くりと、今シーズン好調の先発陣をぶつけ合う、文字通り『天王山の戦い』と言っても良かったのだが……。

 その三連戦の初戦――――――。

 タイガースは、ここまで苦戦していたカープの床田廣樹とこだひろき森下翔太もりしたしょうた佐藤輝明さとうてるあきのホームランで攻略すると、今やエースの風格さえ漂いはじめた村上頌樹むらかみしょうきも素晴らしい投球ピッチングを見せて、あっさりとモノにしてしまった。

 ここまで、2戦してどちらも大敗を喫していたカープの床田を相手にして、今シーズン、先発陣の大黒柱と言って良い存在に成長した村上が、どこまで試合を作ってくれるか――――――?

 試合前の段階では、僕はそう考えていたが、防御率や勝ち星でリーグトップを争うカープの左腕を序盤の一発攻勢で攻略するとは予想もできなかった。
 本当に、今年の我がチームは、僕の予想や期待を良い意味で裏切ってくれることが多い。

 しかし、この大事な一戦でカープのエース床田から先制ホームランを打てる森下という新人選手は、本当にスゴい。そして、9月に入ってから、覚醒したようにホームランを量産し始めた佐藤輝明にも長距離打者ヒッターとしての迫力が感じられるようになってきた。

(今回は、三連敗さえしなければ大丈夫……)

 自分自身にそう言い聞かせていたことで、第一関門をクリアしたタイガースの戦いぶりに安堵し、僕は平穏な気持ちで翌日を迎えた。

 ※

 三連戦の二試合目となる9日(土)の試合では、ペナントレースでも滅多に見られない現象が発生した。

 通常は、マジックが点灯しているチームが勝利してマジック対象のチームが敗れたとき、マジックナンバーは2つ減るのだが、この日、タイガースの勝利によって、そのマジックナンバーが、一気に3つも減ったのだ。

 その理由はセントラル・リーグの規定にあるという。セ・リーグの順位を決定する規定では、シーズンの優勝球団は、

 ・勝率が1位
 ・勝率が並んだ場合は、勝利数が多い方とする

と定められている。さらに、上記の2つの条件が並んだ場合は、

 ・「直接対決の勝率が高い方」が優勝
 ・直接対決の勝率も並んでいる場合は、「交流戦を除いたリーグ内の勝率が高い方」を優勝とする。

と定められているそうだ。

 9日の試合で、タイガースは2回裏に、シェルドン・ノイジーのタイムリーと大竹、近本の連続タイムリー2ベースで4点を先制。先発の大竹は、7回途中までを投げて1失点に抑え、自身初の二桁となる10勝目をあげた。
 我がチームがこの試合に勝ったことで、カープは残り15試合に全勝しても、阪神が残り19試合のうち7勝をあげれば最終的な勝率と勝利数で並ぶことになる。

 さらに、この9日の試合前までは、直接対決の勝率でカープが、我がチームを上回る可能性が残されていたが、この勝利でカープとの対戦成績は12勝7敗1引き分けとなり、残り5試合の直接対決すべてに敗れた場合でも12勝12敗1引き分け、直接対決での勝率が並ぶ。

 このため、上記に挙げた最後の条件である

 ・直接対決の勝率も並んでいる場合は、「交流戦を除いたリーグ内の勝率が高い方」を優勝とする。
 
の項目が適用され、阪神タイガースは、広島東洋カープを上回ることになるため、優勝球団になるということだ。

 カープとの三連戦で、マジックを4つ減らすことができれば、なんとか来週の16日(土)までに優勝を決める条件が揃う――――――。

 僕は、そう考えていただけに、2試合で、マジックが5つも減ったことは、期待以上の喜びだったと言える。

 そして、東京でのライブ・イベント1週前となる日曜日の三連戦最終戦でも、我がチームは勝利し、マジックナンバーは5に減った。
 
 この勝利を受けて、いよいよ、岡田監督の言うところの『アレ』への本格的なカウントダウンが始まり、これまで自制していた阪神ファン、さらに、テレビ局やスポーツ新聞を始めとする各メディアも、一気にテンションが上がり始める。

 奈緒美さんから、メッセージが送られてきたのは、こんな風に、予想以上の快勝に終わったカープ三連戦の日の深夜のことだった――――――。

 【本日の試合結果】
 
 阪神 対 広島 21回戦  阪神 5ー1 広島

 タイガース・伊藤将司いとうまさし、カープ・九里亜蓮くりあれん、両先発の好投で、中盤まではお互いに無得点のまま試合は進む。5回表にカープが、ライアン・マクブルームのソロホームランで先制すると、タイガースも6回裏に、ルーキーの森下翔太もりしたしょうたのタイムリーで試合を振り出しに戻した。
 試合は、そのまま終盤に進む。8回裏、タイガースは、力投を続ける九里を攻めて二死満塁の好機を作ると、代打に送られた糸原健斗いとはらけんとが値千金の2点タイムリーを放つ。さらに、続くチャンスでも木浪聖也きなみせいやのタイムリーで試合を決定づける。
 8回に志願の登板を行った伊藤将司いとうまさしは、2年ぶりに二桁勝利となる10勝目を挙げる。
 タイガースの連勝は8に伸び、優勝へのマジックナンバーは、5となった。

 ◎9月10日終了時点の阪神タイガースの成績

 勝敗:75勝42敗 4引き分け 貯金33
 順位:首位(2位と11ゲーム差) マジック5
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...