ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁

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第4章~②~

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 電車とバスを乗り継ぎ、人工島内に作られた宿泊用ロッジ前のバス停に到着すると、時刻は午後六時を十五分ほど過ぎていた。夏の名残を感じさせる夕日の太陽も、水平線に近づいている。バス停から宿泊施設の入口から受付に向かうと、ちょうど、マイカーでロッジに到着した両親が駐車場から施設内に入ってくるところだった。

「夏生たちも、いま着いたところか?」

 クラスメート六名と連れだっているところに、父親から声が掛かる。

「あ、ナツキのお父さん! 今日は、花火観賞に呼んでいただいて、ありがとうございます!」

 真っ先に反応した哲夫が、体育会系らしい爽やかさで、父に向かって挨拶する。
 他のメンバーも続いて、

「ありがとうございます!」

と、声を揃える。

「いやいや、夏生にも言っているけど、お礼は花火観賞を主催してくれるカワタさんに伝えてほしい」

 父親は、苦笑しながら同級生に答え、「特に夏生は、しっかり挨拶するんだぞ」と付け加えた。

「わかってるよ!」

 家を出る時に、玄関先で返したものと同じ言葉で応じると、

「それじゃ、受付に行くか」

と、本来の集合場所に先導した。

 ロッジの建物に入り、受付に移動すると、同じ花火観賞のギャラリーなのだろうか、十数人の人たちが、受付前のロビーに集まっていた。
 その中の一人、ウチの父親と同年代に見える、四十代くらいの男性が、声を掛けてくる。

「いらっしゃい、坂井さん」

「カワタさん、お招きいただきありがとうございます。しかも、二家族分ということにしてもらって……」

 そう応じた父親に、カワタさんと呼ばれた少し痩せ気味の男性は、

「いやいや、出来る範囲で親しい人に、なるべく多くの人に楽しんでもらいたいと思っていたので、たくさんの方に来てもらえて嬉しいですよ。ウチにも、高校と小学校に子どもがいるので、同じ世代の人たちに来てもらって大歓迎です」

 柔和な顔で答え、父親の隣に立っているこちらに視線を向け、「坂井さんの息子さんですか?」と、たずねてきた。
 父が答える前に、

「はい! 今日は、お招きいただいて、本当にありがとうございます。友達も、みんな楽しみにしていて……」

そこまで語ると、カワタさんは、こちらが恐縮するくらい丁寧にお礼を言ってくれた。

「そうですか……こちらこそ、たくさんお友達を呼んでくれて、ありがとう」

 そして、その言葉に、最初に反応したのは、意外な人物だった。

「あの……今年は、もう打ち上げ花火を観ることはできないと思っていたので、本当に感謝しています。ありがとうございます」

 初対面の、しかも、かなり年齢の離れた人に自分から積極的に話し掛ける積極的なコミュニケーションを取るタイプだとは思っていなかったので、思わず、その言葉を発した小嶋夏海に視線を向ける。

 彼女の表情は、それだけで、今日のイベントが、彼女自身にとって、とても重要な出来事であることが伝わってくる真剣なモノだった。

 その雰囲気を察したのか、カワタさんも、感慨深げに、

「それだけ楽しみにしていてくれると、この催しを企画した甲斐があったな。今日は、みんなも楽しんで行ってね」

と、こちらに語りかける。カワタさんの言葉に、今度は、自分を含めた同級生全員で、声を揃えた。

「はい、ありがとうございます!」

 あらためて、礼儀正しい級友たちに目を向けると、中嶋由香だけが、自分と同じく小嶋夏海のようすを気に掛けているようだった。

 ※

 受付前のロビーでの挨拶が終わったあと、花火の観賞会場となっているバーベキュー・フィールドに移動すると、太陽は水平線に沈み、「ブルー・アワー」と呼ばれる陽の名残りに、辺りが濃い青色に染まる光景が拡がっていた。

 この時間帯を表す「黄昏時=誰そ彼(誰ですかあなたは)とたずねる時間帯」だと聞いたことがある。
 確かに、周囲の照明がないと、人の顔の識別がつかない程度の明るさで、一時間もせずに打ち上げられる予定の花火への期待と、夏の終わりを感じさせる儚さが同居する不思議な気持ちにさせられる。

 バーベキューが行えるベンチに腰掛け、周囲に目を向けると、康之、哲夫、大嶋の三人は、来たるべき時間を待ちわびているのか、ソワソワとしながらも、娯楽の少なかった夏休みの報告をしあっている。

 小嶋夏海は、その輪から少し離れて何やら物思いに耽っているようだ。
同級生たちのようすを観察していると、

「坂井、ちょっとイイ?」

と、声を掛けてくる人影があった。
 周囲が薄暗くなりつつあるなか、照明の明かりに照らされて確認できた声の主は、受付で、カワタさんにお礼を述べる小嶋夏海のようすを気に掛けていた中嶋由香だった。
 予想外の人物から声を掛けられたことに少し驚き、

「お、おう!? ナニか用か?」

声を上ずらせて返答すると、中嶋は、あらためてたずねてきた。

「突然、話しかけてゴメンね。ちょっと、二人で話せない?」

(いったい、何の話だろう?)

 と、訝しく思いながらも、「ん? あぁ……」と答えると、他の四人と距離を取るためか、オレの座っている隣のテーブルを指さして指定してきた。

 彼女と二人で移動し、席に着く。こちらが腰を下ろすと、

「あらためて、今日は誘ってくれて、ありがとう。それと、ユミコから聞いたんだけど、今日のことで、色々と気をつかってくれたんだよね」

 華やかな見た目に反した、おっとりとした口調で、同級生の女子は話し始めた。

 友人も絡む色恋沙汰に関わる話しなので、どう答えたものか悩んだ挙げ句、

「あっ、いや、オレは、そんなに大したことは……」

少し口ごもりながら返答すると、「ううん」と、中嶋は首を横に振り、申し訳なさそうに語る。

「プールに行ったことも、結果的に、坂井たち男子を自分たちのことに巻き込むことになっちゃったしね……」

 その言葉に、(アイツのことだけは、少し気に掛けてやってほしいが……)というワードを飲み込みつつ返答する。

「いや、まあ、プールでは、オレたち三人は楽しませてもらった部分が多いしな……」

 当の中嶋のことを憎からず想っている康之のことは気になるが、やはり、そこは当人たちでケリをつけてもらう問題だろう。

「うん……そう言ってもらえると助かるけど、気を使ってない?」

 気が楽になったのか、少し微笑みながら、問い掛ける同級生女子に、「いやいや、そんなことは……」と、自分でも、まるで説得力のないとわかる言葉を返すと、彼女は、さらに可笑しそうに、唐突な申し出をする。

「そっか、そっか……じゃあ、私の方から勝手にお節介を焼かせてくれない?」

(お節介ってなんのことだ?)

 と言う疑問が顔に出たのか、こちらの考えを推しはかったように言葉を続けて、直球勝負の質問が、ぶつけられる。

「お節介ってのは、ナツミと坂井のこと。単刀直入に聞くけど、ぶっちゃっけ、二人は付き合ってんの?」

「え!? そ、それは……」

 ただでさえ、挙動不審だった言動に加え、視線をそらしてしまったことで、すべてを察したのか、今度は、大げさに「はぁ~」と、タメ息をついて、

「やっぱり、夏休み前からのナツミの態度は、のムーブだったか……」

と、つぶやいたあと、今度は、胸元をえぐるようなボールを投げ込んできた。

「でも、坂井は、気になってるんでしょ?ナツミのこと」

「あ、いや……」

 などと、言葉にならない言葉を返すと、

「で、実際、どうするつもりなの?」

もっとも、触れられたくないことをたずね、言葉に詰まるオレをアッサリと打ち取った。
 
 そして、矢継ぎ早の質問を受けて、まるで時間が止まったかのように固まるこちらの状態に気付いたのか、彼女は、謝罪の言葉を口にする。

「あっ、ゴメン……ちょっと、先を急ぎすぎた」

 最初に、おっとりとした口調で語り始めたのと同一人物とは思えないくらい、前のめりな質問を繰り返したことを気にしたのか、ふたたび、落ち着いた口調で、今度は、まったく、別のことを問い掛けてきた。

「少し前までは、私の方がナツミに話しを聞いてもらってばかりだったんだけど……最近、あのコのようすが、ちょっと、おかしかったから気になって……ねぇ、坂井は、なにか気付いたことはない?」

 ナイーブなことに関わる質問攻めに対して停止状態に陥っていた自分にカツを入れて、彼女に問い返す。

「中嶋も気になっていたことがあるのか!?」

「うん、話しを聞いてもらってるときは、自分のことばかりで、気が回っていなかったんだけど……八月になった頃くらいから、ナツミと話していると、何か思い詰めたような表情が、前よりも増えた気がするんだよね……」

 その言葉に、ハッとして、

「そうか……」

と反応すると、中嶋由香は、声を落として同意の意思を汲み取ってくれた。

「坂井も、気にしてくれていたんだね……」

 彼女の言葉にうなずくと、クラスメートは、寂しそうにつぶやく。

「まぁ、ナツミ自身が話してくれないと、どうにもならないんだけど……」

 友人を想う、その表情に、何か話さないと……。
 そう考えて、中嶋に自分の想いを伝えることにした。

「そのことなんだが……少し前に、小嶋と話した時に、『何か悩んでいることがあるなら話しを聞かせてくれないか?』と言ったら、『話せるようになったら、聞いてもらおうかな?』って言われたんだ。自分でチカラになれるかはわからないが、小嶋が話してくれるなら、シッカリと話しを聞かせてもらおうと思う」

 すると、今度は彼女が大きくうなずき、

「うん、そうしてあげて……今のところ、私が出来るは、ここまでだから……もし、もう少し進展があったら、ナツミを落とす必殺のテクを教えてあげる」

と言って、最後の言葉に、不意打ちを食らったようなこちらの表情を確認して、クスクスと楽しそうに笑った。
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