ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁

文字の大きさ
70 / 70

エピローグ

しおりを挟む
 四月一日(金)晴れ

 まさに散り際を迎えた桜の花びらが舞う河川敷のホールで、私は入学式を迎えた。

 高校二年生の夏の終わりに引っ越しをした先から、早く親元を離れたかったこと、そして、あの夏に体験した数々の不思議な出来事を起こした謎のアイテムについて、自分なりにつき詰めて研究しようと、中央ヨーロッパの文化や歴史を専攻できるこの大学を選んだ。
(引っ越した後も、色々と調査した結果、笛の形をした木製のオカリナは、やはり、ハンガリーを起源とする楽器ということで、間違いなかったらしい)

 大学所在地の市外にある、国内有数の規模を誇るコンサートホールを借り切って行われる式典には、全学部の一千人近くの新入生が集合する大掛かりなもので、今年度、数年ぶりに復活したそうだ。

 講堂に入り、学籍番号ごとに指定された座席を見つけて座ろうと、すでに隣の座席に着席している男子学生に、声を掛ける。

「おとなり、失礼します」

 少しうつむき加減で彼がのぞき込んでいるそのスマートフォンは、見慣れたものであるような気がした。

 さらに、着慣れていないであろう真新しいスーツの胸ポケットには、あのコカリナが刺さっている。

 そして、私の声に反応してコチラを見上げたマスクをしていないその顔は、あの夏の終わりに、私が見つめた輪郭そのものだった。
 一瞬、こわばった彼の表情はすぐに緩んで、あの夏の間は、観る機会が少なかった口もとからは、

「よお、久しぶりだな」

と、返事が返された。

 その瞬間、彼——————坂井夏生がコカリナに触れたわけでもないのに、私は時間が止まったように感じた。

「だから、言っただろ……『蟹座のオトコの執着心を舐めるな』って……」

 ニヤリと笑って、つぶやくように言う語り口は、一年半前の夏の終りの時のままだ。
 座席を立ち、まっすぐにコチラを見つめる彼に歩み寄って、私が口にするセリフは決まっている。

「私のお願いは守らずに、呆れた執念ね。ホント、最低なオトコ!」

 初めて唇に触れた、最後に目にした時のままの彼の口もとが、優しく微笑んだ様に見えた。

「残念だけど、オレは、クラスの連中からも依頼されてることがあってな……それを小嶋に伝えるまでは、小嶋の最後のを聞くわけにはいかないんだよ」

 その一言に、友人たちの顔が思い浮かび、言葉を発せない私に、彼は続けて、

「あの時、大嶋は、『私たちに、お別れの挨拶をしないなんて許せない! ナツミに自分たちの気持ちを思い知らせてやる!』って言い出して大変だったんだぜ……それで、こんなことをSNSで拡散させたんだ」

 そう言うと、自身のスマートフォンを取り出して、紫色のカメラマークのアイコンをタップした後、しばらく操作を続け、私にその画面を示した。

 ====================
 いいね!を見る
 ooshima_yumiko 

 JRの駅前にあるカリヨンの伝説って知ってる?
 このカリヨンの音が奏でられている間に、駅前のペデストリアンデッキで恋人同士がキスをすると、『永遠の愛』が約束されるんだって!
 とっても、ロマンチックだね!!

 #カリヨン広場
 #フランドルの鐘
 #カリヨンコンサート
 ====================

 その書き込みを目にした瞬間、私の顔色は、一瞬にして紅潮した。

「な、なに、コレ!? こんな話し、私は、まっっったく知らないんだけど!」

 思わず、声を上げると、彼は苦笑しながら語る。

「当たり前だ……その話しは、古い映画を参考にして、大嶋がデッチあげた都市伝説みたいなモノだからな……」

 その言葉に、なるほど、ユミコらしいーーーーーーと妙に納得し、笑みがこぼれてしまう。

「もしかして、その映画って、ツカサさんとユカが好きな『リトル・ロマンス』のこと?」

 そうたずねると、

「あぁ~、たしか、そんなタイトルだったと思うわ。イタリアかどこかの伝説なんだろ?面白がって、ツカサさんと中嶋も、その書き込みの拡散に一役買ったらしいから、今じゃ、あの駅前が、地元でちょっとした聖地になって、カリヨンコンサートの時に若いカップルが増えたりしてるんだぜ……」

彼は、少しあきれたように苦笑いを続けていたが、急に真剣な表情になり、

「それに……オレだってーーーーーー最後にあんなことされたら、小嶋のこと、忘れられるわけないだろ」

そう言って、彼は私の背中に腕を伸ばし、優しく抱きしめてきた。

 あの時よりも、少しだけ背が伸びた相手の胸元に寄りかかり、その場所に顔をうずめた私には、もう、その表情を確認することは出来ない。

 彼は、耳元で、こうささやいた——————。

「小嶋……ずっと、気持ちに気付けなくて、ゴメンな……」

 そして、声を潜めて、つぶやく様に

「ヒトを勝手に実験台にしやがって……オレのファーストキスだったんだぞ! どう責任とってくれるんだよ!?」

と、背中に回していた腕にチカラを込める。

 その力強さに、自分の鼓動が早くなるのを感じる。

 そして、坂井夏生は、私の頭に手を置き、そっと、二度かきなでた。

 鼓動が、さらに高鳴り、この瞬間を永遠のものにしたい――――――。

 私は、その胸元にこすりつけるように、頭部を振った。

 今度こそ、この言葉を口に出す時が来たと感じる。

「フェルヴァイレ・ドホ・ドゥ・ビス・ゾーシェーン(時よ止まれ、汝は美しい)――――――。」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...