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第2章~④~
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♪ミ・ミ・ファ・ソ・ファ・ミ・レ・レ・レ・ミ・ファ
♪ミ・ミ・ミ・ファ・ソ・ファ・ミ・ミ・レ・レ・ド
「あっ! これは、わかった! 『夏の思い出』だ! 」
演奏の途中で、声をあげると、彼女はそこでコカリナを口もとから離し、
「別に、早押しクイズじゃないんだけど……」
ツッコミを入れてきたので、「ぜひ、演奏を続けてくれ」と、手のひらを差し出してうながす。
♪ラ・ラ・ラ・シ・ド・シ・ラ・シ・ソ・ソ・ラ・ファ
♪ソ・ソ・ソ・ソ・ソ・ソ・ソ・ファ・ミ・ファ・ファ・ミ・レ・ミ・ファ
♪ミ・ミ・ファ・ソ・ファ・ミ・レ・レ・レ・ミ・ファ
♪ミ・ミ・ミ・ソ・シ・ラ・ラ・ラ・シ・レ・ド
演奏を終えた奏者は、何事もなかったかのように、澄ました表情でコカリナをテーブルに置いた。
見事に一曲を披露してくれた彼女に、あらためて賛辞の拍手を贈ると、
「今朝の坂井たちの会話に、曲名が出てきたから、これなら知ってるかな、と思っただけ……」
と、つぶやくように返答する。
「こっちのレベルに合わせてくれたのか……」
オレは、苦笑しながら言って、さらに続ける。
「それにしても、初見で、そこまで演奏できるなんてスゴくないか? 小嶋は、どこかで音楽を習ってたのか?」
こちらの問い掛けに、小嶋夏海は、大したことではない、と素っ気なく答えた。
「小学校までは、ピアノ教室に通ってたし、中学では、スイ部に入ってた」
「そうか、ピアノとブラバンやってたのか……」
なるほど。どおりで、音楽全般に精通していそうなわけだ。
しかし、そんなこちらの関心をよそに、即興の演奏を終えたコカリナ奏者は、逆に問い掛けてくる。
「この子が楽器としても使えることはわかったケド……停止する時間の長さが、何によって決まるのかは、まだ未知数ね。坂井、他にわかっていることとかはないの?」
彼女は、すでに、もうひとつの検討事項に興味を移しているようだ。
「高音の時よりも、低音を鳴らした時の方が、停止時間が長かった気がするが……スマン、それ以上のことは、よく覚えていない」
そう答えると、小嶋夏海は、
「そっか……まぁ、息を吹き込んで時間停止を実行した回数は、まだ少ないみたいだし、仕方ないかもね……」
と、少し落胆したを見せたものの、すぐに、気を取り直したように明るい顔色になり、
「でも、これで、次の目標が見えたんじゃない?」
と、勝手に話しを進めだす。
「何だよ、次の目標って?」
いぶかしげに、彼女に問うと、好奇心を抑えきれないといった感じで、語りだした。
「決まってるじゃない! 今度は、《長時間停止》の継続時間を計測しなくちゃ! 坂井の話しから推測すると、音階によって、時間停止の継続時間が変わると思うんだよね。最短の停止時間は一分程度として、一番長い停止時間は、どれくらいになるんだろう?」
そんな様子を眺めながら、それにしても……と、思う。
『時間停止』という非日常的な出来事を体験できることは、たしかに貴重な経験と言えるが、いったい、なにが、小嶋夏海をここまで夢中にさせているのだろう?
そんなことを考えながら、
「で、その実験にオレも駆り出される、と……」
相槌のように言葉を返すと、余裕の笑みで、予想通りの答えが返ってきた。
「もちろん、強制はしないけど……一昨日、結んだ契約のことは、忘れない方がイイんじゃない?」
その返答に、学食の床に転がったままだったテニスボールを拾い上げて、提案した。
「わかったよ……でも、もう今日は、この辺りで切り上げないか? これも、テニス部に返したほうが良さそうだしな」
「あまり、同じ場所に留まらない方が良いだろうし……確かに、今日は、これ以上実験を続けない方が良いかもね」
彼女は、こちらの申し出に賛同しつつ、新たな案を持ち掛けてきた。
「本格的な実験と調査は、夏休みに入ってから、ってことでどう?」
『本格的な実験と調査』という大げさな物言いに苦笑しつつ、オレは
「小嶋が、それで良いなら……夏休みなら、時間もタップリと取れそうだしな」
と、答える。
「じゃあ、決まり! 実験のために、準備しておきたいモノもあるしね……」
小嶋夏海は、そう言ったあと、またも除菌シートでコカリナの吹き込み口を念入りに拭き取った。そして、
「この』のメンテナンス方法も、ちゃんと調べておかないとね……」
と、優しげな表情でつぶやくように語ったあと、「はい、返しておくね。ありがとう」と、言ってコカリナをこちらに手渡してきた。
自分の手元に戻ってきたコカリナを、ジッと見る。
感染症予防のためということもあって、彼女は、念入りに吹き込み口を除菌してくれたのだろうが……。
(さっきまで、この先端に、小嶋夏海が唇をあてていたんだよな)
その至極当然の事実に気付いたとき、
トクン——————。
オレは、わずかに心臓の音が高鳴るのを感じた。
一瞬、時が止まったような感覚に襲われ、息苦しさを覚える。
一方、無言でコカリナを見つめ続けていたこちらの様子を不思議に思ったのか、初見で見事な演奏を披露したコカリナ奏者は、
「どうしたの? そんなにジックリ眺めて。この子に、何か変わったことがあった?」
と、たずねたあと、何かに気付いたのか、「ハッ」とした表情になり、声を張りあげた。
♪ミ・ミ・ミ・ファ・ソ・ファ・ミ・ミ・レ・レ・ド
「あっ! これは、わかった! 『夏の思い出』だ! 」
演奏の途中で、声をあげると、彼女はそこでコカリナを口もとから離し、
「別に、早押しクイズじゃないんだけど……」
ツッコミを入れてきたので、「ぜひ、演奏を続けてくれ」と、手のひらを差し出してうながす。
♪ラ・ラ・ラ・シ・ド・シ・ラ・シ・ソ・ソ・ラ・ファ
♪ソ・ソ・ソ・ソ・ソ・ソ・ソ・ファ・ミ・ファ・ファ・ミ・レ・ミ・ファ
♪ミ・ミ・ファ・ソ・ファ・ミ・レ・レ・レ・ミ・ファ
♪ミ・ミ・ミ・ソ・シ・ラ・ラ・ラ・シ・レ・ド
演奏を終えた奏者は、何事もなかったかのように、澄ました表情でコカリナをテーブルに置いた。
見事に一曲を披露してくれた彼女に、あらためて賛辞の拍手を贈ると、
「今朝の坂井たちの会話に、曲名が出てきたから、これなら知ってるかな、と思っただけ……」
と、つぶやくように返答する。
「こっちのレベルに合わせてくれたのか……」
オレは、苦笑しながら言って、さらに続ける。
「それにしても、初見で、そこまで演奏できるなんてスゴくないか? 小嶋は、どこかで音楽を習ってたのか?」
こちらの問い掛けに、小嶋夏海は、大したことではない、と素っ気なく答えた。
「小学校までは、ピアノ教室に通ってたし、中学では、スイ部に入ってた」
「そうか、ピアノとブラバンやってたのか……」
なるほど。どおりで、音楽全般に精通していそうなわけだ。
しかし、そんなこちらの関心をよそに、即興の演奏を終えたコカリナ奏者は、逆に問い掛けてくる。
「この子が楽器としても使えることはわかったケド……停止する時間の長さが、何によって決まるのかは、まだ未知数ね。坂井、他にわかっていることとかはないの?」
彼女は、すでに、もうひとつの検討事項に興味を移しているようだ。
「高音の時よりも、低音を鳴らした時の方が、停止時間が長かった気がするが……スマン、それ以上のことは、よく覚えていない」
そう答えると、小嶋夏海は、
「そっか……まぁ、息を吹き込んで時間停止を実行した回数は、まだ少ないみたいだし、仕方ないかもね……」
と、少し落胆したを見せたものの、すぐに、気を取り直したように明るい顔色になり、
「でも、これで、次の目標が見えたんじゃない?」
と、勝手に話しを進めだす。
「何だよ、次の目標って?」
いぶかしげに、彼女に問うと、好奇心を抑えきれないといった感じで、語りだした。
「決まってるじゃない! 今度は、《長時間停止》の継続時間を計測しなくちゃ! 坂井の話しから推測すると、音階によって、時間停止の継続時間が変わると思うんだよね。最短の停止時間は一分程度として、一番長い停止時間は、どれくらいになるんだろう?」
そんな様子を眺めながら、それにしても……と、思う。
『時間停止』という非日常的な出来事を体験できることは、たしかに貴重な経験と言えるが、いったい、なにが、小嶋夏海をここまで夢中にさせているのだろう?
そんなことを考えながら、
「で、その実験にオレも駆り出される、と……」
相槌のように言葉を返すと、余裕の笑みで、予想通りの答えが返ってきた。
「もちろん、強制はしないけど……一昨日、結んだ契約のことは、忘れない方がイイんじゃない?」
その返答に、学食の床に転がったままだったテニスボールを拾い上げて、提案した。
「わかったよ……でも、もう今日は、この辺りで切り上げないか? これも、テニス部に返したほうが良さそうだしな」
「あまり、同じ場所に留まらない方が良いだろうし……確かに、今日は、これ以上実験を続けない方が良いかもね」
彼女は、こちらの申し出に賛同しつつ、新たな案を持ち掛けてきた。
「本格的な実験と調査は、夏休みに入ってから、ってことでどう?」
『本格的な実験と調査』という大げさな物言いに苦笑しつつ、オレは
「小嶋が、それで良いなら……夏休みなら、時間もタップリと取れそうだしな」
と、答える。
「じゃあ、決まり! 実験のために、準備しておきたいモノもあるしね……」
小嶋夏海は、そう言ったあと、またも除菌シートでコカリナの吹き込み口を念入りに拭き取った。そして、
「この』のメンテナンス方法も、ちゃんと調べておかないとね……」
と、優しげな表情でつぶやくように語ったあと、「はい、返しておくね。ありがとう」と、言ってコカリナをこちらに手渡してきた。
自分の手元に戻ってきたコカリナを、ジッと見る。
感染症予防のためということもあって、彼女は、念入りに吹き込み口を除菌してくれたのだろうが……。
(さっきまで、この先端に、小嶋夏海が唇をあてていたんだよな)
その至極当然の事実に気付いたとき、
トクン——————。
オレは、わずかに心臓の音が高鳴るのを感じた。
一瞬、時が止まったような感覚に襲われ、息苦しさを覚える。
一方、無言でコカリナを見つめ続けていたこちらの様子を不思議に思ったのか、初見で見事な演奏を披露したコカリナ奏者は、
「どうしたの? そんなにジックリ眺めて。この子に、何か変わったことがあった?」
と、たずねたあと、何かに気付いたのか、「ハッ」とした表情になり、声を張りあげた。
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