ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁

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第2章~⑥

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 7月21日(水) 天候・晴れ

 今日は、一学期の終業式。
 全校生徒待望の夏休みが、ついに始まる!

 一週間前、学食でコカリナの実験(と言って良いのか?)を行って以来、小嶋夏海は、特に目立った行動を起こさなかった。

(いや、きっと彼女の言う『本格的な実験と調査』とやらに向けて、準備に専念しているんだろうな……)

 そんな風に考えていた矢先、終業式が終わって康之と下校している最中、スマホにメッセージアプリの着信記録が表示された。

《小嶋夏海:新着メッセージがあります》

 画面表示をチラッと確認したあと、すぐにスマホを胸ポケットにしまうが、目ざとい悪友は、その動作に気付いたようだ。

「おっ、ナツキ! デートの誘いでも入ったか?」

 冗談めかした口調に、否定をしておこうと口を開きかけるが、

「ま、ンなわけねぇか!」

と、口の悪い友人は、こちらより先に結論を出す。

 甚だしく失礼な話であるが、都合が良いので、今回は、その失言をスルーしておく。

「あぁ、そうだな」

 適当な相槌を返すと、

「それよか、オレたちが考えるべきは、日曜のことだよな!」

と、あっという間に別の話題に話しをうつす。

 落ち着きに欠ける康之の性格に感謝しつつ、

「あぁ、確かに、そうだな」

と、今度は少し実感を込めて言うと、

「なんだかんだで、ナツキも楽しみなんだな! やっぱ、小嶋が来るからテンションも上がるか!?」

 そう言って、背中をバンバンと叩いてくる。午前中から猛暑日になっている気候の中、暑苦しさが増す行為は控えてもらいたいのだが……。

 先週、レジャー・プールに誘われた時と、この件に関する受け止め方が、自分の中で百八十度近く変わっていることに、気付いた。

——————なんだかんだで、ナツキも楽しみなんだな!

 そう言った康之の言葉は、確かに正しい。自分の行動を縛る《契約書》の存在を認識しつつも、この一週間の間、小嶋夏海からの連絡を心待ちにする気持ちがなかったと言えば、嘘になる。

(できれば、プールにも二人で……)

 頭の中に、そんな考えが浮かんだ瞬間、自分よりも早くから、今週末の件を楽しみにしていた友人二名の想いとともに、挑発的かつ悪戯っぽい笑みで、

「私と二人きりになりたいなら、ハッキリと言えばイイのに……」

と言ってきた相手の顔が思い浮かび、あわてて、その想いを打ち消した。

 悪友とは言え、自分よりテンション高めの友人たちに申し訳なく、それに、小嶋夏海のペースに乗せられているようで、なんだか面白くない。

 灼熱の太陽の下、そんなことを考えながら下校を続けていると、康之と別れる交差点に差しかかった。

「この週末をキッカケに、今年は熱い夏にしようぜ! 」

親指を立てて、真上から照りつける太陽と同じくらい輝かしい笑顔で語る友人に、

(連日、猛暑が続いているとニュースでも言っているのに、これ以上、熱くしてどうする!?)

と心の中でツッコミながらも、その無邪気さを微笑ましく感じて、

「あぁ、そうだな」

と、大きくうなずいて、心から賛同の意を示した。

 康之と別れ、一人になったオレは、スマホを取り出して、教室で前の席に座るクラスメートからのメッセージを確認しつつ、家路を急ぐ。

 アプリを開くと、こんなメッセージが表示されていた。

 ==============
 ・トカリナ実験のお知らせ

 集合日時:7月22日午前9時
 集合場所:市立図書館ことば蔵
 (下記の地図を参照のこと)
 持ちもの:
 ①トカリナ
 ②水分補給用ドリンク
 ③その他の熱中症対策グッズ
 ※昼食の準備は任意
 ==============

 彼女らしいと言えばらしいが、何とも簡潔な内容である。

 まぁ、小嶋夏海とのメッセージ交換に、なにかを期待していた訳ではないのだが……。

 自宅に帰り着き、メッセージに返信する。

 ==============
 連絡、感謝!
 明日は、楽しみにしている!
 ==============

 こちらも、シンプルな内容にしておいた。
 すると、すぐに「既読」のマークが付き、

 《遅刻厳禁》

と文字の書かれたヒヨコのイラスト付きのスタンプが返信されてきた。

《OKAY!》

 こちらからは、メッセージアプリにデフォルトで装備されているウサギのスタンプを返しておいた。

 7月22日(木) 天候・晴れ

 夏休みの初日は、前日に続き朝から太陽が照りつける猛暑の一日となった。

 シャ~シャ~、シャ~シャ~、シャ~シャ~と、がなり立てるようなクマゼミの大合唱が目覚まし時計の代役を果たし、午前七時過ぎに目覚めたオレは、登校の必要のない貴重な朝を満喫するべく、テレビの情報番組を眺めつつ、優雅なブレックファストを楽しみながら(と言っても、我が家の朝食は、白米・味噌汁・納豆の和テイストのモノなのだが……)、昨日、小嶋夏海から送られたメッセージを確認する。

 持ちもの:

と書かれた欄に注目すると、『トカリナ』の停止時間を正確に計測するために必要なモノが欠けていることに気付いた。
 
 初日にコカリナが発生させる停止時間を確認した際に、自室で使用したモノを持って行くことを思いつき、自室に戻って学習机からストップウォッチを取り出した。

 彼女のことなので、このテのアイテムを自分で用意してくることも考えられるが、万が一の時に備えて、坂井夏生が『頼れるオトコ』であることをアピールしておくのも悪くはあるまい。

 小嶋夏海から憧憬の視線を向けられるシーンを想像して、自然に笑みがこぼれるのを感じつつ、再度、メッセージアプリの内容を見直す。

 集合場所に指定された市立図書館は、自宅から自転車で二十分もあれば到着できる距離なので、八時半に家を出れば、午前九時の集合時間に、十分に間に合うハズだ。

 彼女にクギを刺されるまでもなく、初日から遅刻という事態は避けておきたいが、リビングの壁掛け時計で、まだ八時前であることを確認したオレは、浴室でシャワーを浴びてから家を出ることにした。
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