ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁

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第2章~⑫~

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 7月23日(金) 天候・晴れ

 翌日も、朝から眩しいほどの太陽が輝き、猛暑日になることが容易に想像できる晴天だった。

 前日、大学訪問をすることに決めたあとも、オレたちは、閉館時間である午後六時まで図書館に残って、文献調査続けた。

 そして、この日は、入試のため大学見学も兼ねて、キャンパスの総合図書館に足を運んだのだが――――――。

 附属図書館の入り口には、

《蔵書点検のため、学外の方の図書館利用は、ご遠慮いただいております》

という張り紙が貼り出されていた。

 私鉄の最寄り駅から徒歩二十分をかけて炎天下を歩いてきた身にとっては、ガックリと来る告知内容であったが、これは、致し方のないことだろう。

 さらに、スマホで大学附属図書館の案内を調べてみると、論文の掲載誌などの『貴重図書』については、事前の閲覧申し込みなどが必要だったようだ。

「ゴメン……わざわざ一緒に来てもらったのに……昨日、図書館に電話して、確認しておくべきだった……」

 小嶋夏海は申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にするが、単なる付き添いのような身の自分としては、彼女を責めるつもりはない。

「まぁ、夏休みだし仕方ないんじゃね? オレとしては、小嶋に誘ってもらわなけりゃ、この大学のキャンパスに来られるチャンスもなさそうだし、貴重な機会に感謝だ。論文を確認するなら、蔵書点検が終わってから、また来ればイイさ」

「――――――ありがとう。そう言ってもらえると、助かる。そうね、また、このキャンパスに戻ってくれば良い……」

 彼女は、感謝の言葉を述べたあと、何かを決意したかのように、つぶやいた。
 落ち込んでいる様子だった、研究調査のパートナーを励ますと言うよりは、あくまで、こちらの本音を語ったつもりなのだが、彼女の気持ちが楽になったのなら、それに越したことはない。

「で、どうする? ちょっと、時間は早いけど、ネコリナを置いてるショップに行ってみるか?」

 そう提案すると、

「うん! 坂井が構わないなら……」

と、了承を得たので、本日の学術調査は打ち切ることになった。

 ここから、本日の第二の目的地である雑貨屋に向かうことになるのだが……。

 酷暑の中を再び二十分も歩くには、水分と鋭気を補充する必要がある、と二人ともに判断し、図書館に歩いてくる途中で見つけた学生交流課のラウンジで一休みしてから、大学を離れることにした。

 ※

 本日の主要目的地となった動物小物を中心に販売している雑貨屋は、国内有数のターミナル駅から、徒歩十分ほどの場所にあった。ここは、SNSや雑誌などでも、よく話題になるショップが集うエリアだ。

 真昼の時間帯で、さらに気温が高くなる中、駅からの道のりで疲労の色を濃くしている様子だった小嶋夏海だが、緩やかに空調の効いた店舗に入った途端、

「!」

と、声にならない興奮の様相を示し、動物小物、とりわけネコグッズに見入り始めた。

 店内には、キーホルダーに、コースター、イヤホンジャックに、アクセサリー類、はては何に使用するのか不明な小物まで、様々なモノが揃っている。

 やはり、その中でもネコ関連のグッズは人気が高いのか、商品点数が多いようだ。
 自分も、なるべく小物には触れないように気を付けながら、店内の商品を観察する。

 開店から間もない時間帯のためか、店内には自分たち以外の客はおらず、店主らしき男性も声を掛けてこないため、居心地は悪くない。

 それでも、このテの店舗に長時間滞在するのは、自分のような男子学生にとっては、なかなかの苦行ではある。
我らが、『トカリナ』の能力を借りずとも、まるで時が止まったかのように、ゆったりと時間が流れている感覚に襲われる。

(女子は、良く飽きもせずに見てられるな)

と、思いつつ小嶋夏海の様子を眺めていると、ようやくお目当てのモノを発見したようだ。
彼女が手にしたは、十センチにも満たない大きさで、両手にすっぽりと収まるサイズだった。

 愛おしむように、両手でネコリナを持つ彼女に、

「その毛色ので良いのか?」

と、たずねると、

「うん! お祖母ちゃんに居た子と近所の子も同じ毛色なんだ」

と、答えが返ってきた。

 腹の部分が白く、それ以外の部分は、黒と灰色の縞模様で覆われた塗装がほどこされていて、オーソドックスなネコの毛色だと思うのだが、彼女にとっては、思い入れのあるモノなのだろうか?

 そんなことを考えつつ、

「じゃあ、会計をしようか?」

そう言って財布を取り出すと、

「本当に、イイの……?」

と、上目遣いで、遠慮がちに問い掛けてきた。

 普段の彼女が見せることのない、その仕草と眼差しに、一瞬、ドキリとして言葉に詰まりかけるが……

「い、いまさら、確認することでもないだろ? 最近、小嶋には、迷惑を掛けたり、頼り切りになりっぱなしだったからな……その礼だと思ってくれ」

何とか取り繕って、返答することができた。

「そっか……ありがとう!」

 その満面の笑みをたたえた表情に、またも動揺してしまったことを隠しつつ、彼女とともに商品をカウンターに持って行くと、ネコリナを受け取った店主らしき男性が、

「ありがとうございます。へのプレゼントですか?贈り物用の包装をさせていただきましょうか?」

と、たずねてきた。
 隣に立つ彼女の様子をうかがうと、コクリと、首を縦に振ったので、

「はい! じゃあ、お願いします」

と、返答して、夏休み前に両親からの誕プレとしてもらった一万円札を差し出す。

 お釣りを受け取り、陶磁製のネコリナを丁寧に梱包してくれている様子を眺めていると、作業を進める男性と数秒前に交わした会話の内容が、脳内によみがえってきた。

へのプレゼントですか?」

 最初の単語が、単純に隣に立つ同級生の女子を指す三人称の意味なら、さして問題はないが、その言葉が、一般名詞としての意味だとしたら――――――。

(思いっきり、『はい!』と答えてしまった。恥ずかしい…………)

 三度みたび、心がザワつくのを抑えつつ、チラリと彼女の顔色をうかがうが、特に変わった様子はないようだ。

 安心しつつも、さきほどから、周りの言動に動揺し過ぎる自分の感情の不安定さが腹立たしくなる。
 同時に、

(いまの会話、気にならなかったか――――――?)

という疑問を彼女自身にぶつけてみたい衝動に駆られたが、そのフレーズを口にしてしまうと、彼女からの答えを待つまでの心の動揺を抑えきる自信がなかったので、なんとか、言葉を飲み込んだ。

 そんな、こちらの動揺をよそに、プレゼント包装されたネコリナを受け取った小嶋夏海は、

「ありがとう、坂井」

と、感謝の言葉とともに、屈託のない笑顔を見せる。

「それだけ喜んでくれたら、こっちとしても本望だよ」

 そう返答し、店主さんにも礼を述べて、店をあとにする。
 外に出ると、すぐに、彼女は、

「ねぇ、坂井。今日はコカリナの調査が出来なくなっちゃったけど、このあとは、どうするの?」

と、聞いてきた。

「う~ん、そうだな~。せっかく、こっちに出てきたし、明後日のプールに行くように水着でも見に行くかな?」

 水着を買いに行くのは、前日の土曜でも良いだろう、と考えていたが、色々な店舗が揃う繁華街に出てきた上に、時間もたっぷりあるとなれば、今日中に買い物を済ませておくのも悪くない、と思い直して、答える。

「ふ~ん、じゃあ、私も付き合ってあげよっか?プレゼントをもらったお礼も兼ねてね」

 そんな提案をしてきたので、なるべく平静を装って、

「あぁ、小嶋が構わないなら……」

と、答えた。
 十日ほど前までなら、

(なんて恩着せがましいヤツだ……)

と、感じていたであろうことを考えると、自分の感情の変化に驚く。

 女子を伴って水着を選びに行くということに、気恥ずかしさというか、こそばゆさのようなモノを感じるものの、ここは、彼女の好意に甘えることにする。

 買い物を終えた小さな雑貨店から、徒歩五分ほどの場所に、ビル一棟まるごと生活雑貨を扱っている大型店舗があるので、二人で、そのビルに向かい、紺色に落ち着いた柄の入ったインナーメッシュ付きの水着を購入した。
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