魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第九話 レベルを上げて物理で殴る

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───ポロック───
オダリムの近くに位置する森のことである。出てくる魔物も強くないため、初心者はこの森でレベル上げをする事が多い。また、モンスターが一切出てこないエリアがあり、ハイキングやキャンプに利用される。薬草やキノコなども豊富に生えているため狩りのついでに採集すると良い。───────Maoupediaより抜粋





☆   ☆   ☆   ☆






 四季折々で色々な顔を見せる『ポロックの森』。柔らかい木漏れ日が動物たちを照らし、穏やかな風が植物を揺らし心地よい音を奏でる。こんなところで昼寝でもしたら最高だろう。ハイキングするのも良いかもしれない。
 そんな静かな森で俺は──────





「ハァァァァァァ!」


 死にかけていた。
 敵はこん棒を持ったゴブリンが3体。そのうちの1体が降り下ろしてきたこん棒をかわし、無防備な腹に木刀を叩き込もうとする。


「!?、くっ!」

 
 木刀が当たる寸前、後ろから何かが飛んでくる気配を感じて身を屈める。すると、頭があったところを光る何かが通りすぎる。


───ラギアハード───
命中すると防御力に関係なく命中した者のHPの5割のダメージを与える魔力の弾を打ち出す。ただし、服の上からでは効果は無い。
消費MP 50000



 服の上からなら効果は無いみたいだが、奴は的確に露出している部分を狙ってくる。しかも、攻撃の瞬間を狙われ攻撃が上手く当たらない。結果的に俺は攻めあぐねていた。
 どうしてこうなったのか。それはこの森に来たときまでさかのぼる。




☆   ☆   ☆   ☆





 クリスタルを使うために街から少し離れた場所に来た。
 遠くにうっすらと森のような影が見える。


「あれが今から向かうポロックっていう森か?」
「そうじゃ。静かで良いところじゃよ。詳しくは森についてから説明する」


 フランはワープクリスタルを取り出した。


「それでは行くぞ。わしの手に掴まれ」


 フランが差し出した手を掴もうとして一瞬躊躇する。この手を掴んだらもう逃げられないんだよな……。いや、もうやるしかないんだ。腹をくくろう。
 意を決して手を掴んだ瞬間、俺達は青色の光に包まれた。






☆   ☆   ☆   ☆





 気がつくとそこは草木が生い茂る森の入り口だった。
 モンスターが出るって聞いたからもっと禍々しい感じかと思ったけど、普通の森だな。


「ここからモンスターが出る場所まで移動する。ついてこい」
「おう」


 森に入ると小鳥のさえずりが聞こえてきた。風も気持ちいいしレベル上げに来ていなければ散歩でもしたい所だ。


「いいところだな」
「そうじゃろ?人の手があまり加わっておらんし危険なモンスターもおらんから自然そのものを感じることができる。じゃから、ほれ」


 フランが指差した所を見ると、見た目が桃に似た木の実がたわわに実っていた。


「あのように野性の木の実や薬草が豊富に採れる」
「あの木の実は何て名前だ?」
「あれは『ピスケの実』じゃな。柔らかな食感と濃厚な甘さざ特徴の実じゃな」


 うまそうだな、食べてみるか。
 実がなっている木に登っていく。木登りは飽きるほどやったから体が覚えているのか、するすると登れる。
 てっぺんに登ると、熟れているものから2つ選んで下に降りてフランに渡す。


「ほら、お前の分だ」
「ありがとじゃ」


 皮を剥かずにそのままかじってみる。食感は桃に似ているが味はマンゴーに似ているな。


「やっぱり、この実は美味いのう」
「確かに美味いな。これならいくつか余分にとっても良かったかもな」

 
 次に採る時は多目に採ろう。
 ピスケをかじりつつモンスターが出るエリアまで移動する。
 数十分歩くとフランが急に止まった。


「近くに敵がおる。少し隠れるぞ」


 そう言って草むらに身を隠した。俺も身を隠すと角が生えた緑色のモンスターが一匹やって来た。手にはこん棒を持っており、腰にはぼろぼろの布を巻いている。


「あれはゴブリンじゃ。見ての通りこん棒で攻撃してくる。攻撃力は高いが動きが遅いから避けるのは簡単じゃ」
「スキルとかは使ってくるのか?」
「特にない。じゃが、仲間を呼ぶことがあるからそこは注意じゃ」


 なるほど。攻撃を避ける練習と素早く倒す練習にはちょうど良い相手だな。


「じゃあ、行ってくる」
「お主なら大丈夫じゃと思うが気を付けるんじゃぞ?」
「わかってるって」

 
 ゴブリンが逆の方向を向いた瞬間に一気に飛び出して木刀を振るった。


「グギャゴ!?」


 不意をつかれたゴブリンは対応出来ず、腹に木刀が命中する。
 硬めの手応えが木刀を通して伝わってきた。防御力も高めみたいだ。
 

「ガギャギャ!」


 殴られたことに怒ったのかメチャクチャにこん棒を振るってきた。後ろに跳んで木刀を構え直す。
 怒りがおさまらないのか、走りながらこん棒を降り下ろしてきた。


「ガギャッ!」
「当たるか!」


 こん棒を最小限の動きで躱し、あらかじめ握っておいた土を顔に向かって放る。


「ゴギャ!?」


 ゴブリンはとっさに顔を庇う。その瞬間、足を払ってゴブリンの体制を崩す。


「とどめだ!」


 体制が崩れたゴブリンの首に木刀を突き立てた。


「ア、アギャ……」


 動かなくなったゴブリンは光の粒になって消え、代わりに小さな角が残った。
 ゴブリンを倒した後、草むらからフランが出てくる。


「鮮やか、とは言いづらいの」
「うるせー。勝てば良いんだよ」


 隠れていたフランが文句を言ってくるが相手にしない。
 とりあえず、角をアイテムボックスに入れる。


「ゴブリンの角って何に使うんだ?」
「主に薬の材料じゃな。アクセサリに使われることもある」


 こんなものが薬になるとはさすが異世界。だったら、多目に獲っておいた方がいいな。


「で、次の敵はどこに居るんだ?」
「うーむ、ここから少し離れた所におるな。少し歩くぞ」
「おう」


 そう言って歩き出したフランを追いかけた。
 今のところ何かする様子もないし、とりあえずは安心だな。




☆   ☆   ☆   ☆



 
「あれが『ブロンズウルフ』じゃ。ゴブリンとは違い、動きが早く攻撃力も高めじゃ。その代わり仲間を呼ぶ事はない」



 秋田犬位の大きさの茶色の狼が穴を掘っているのを見てフランが言った。まさに一匹狼だな。


「他に気を付ける事は?」
「特に無い。たまにユニークモンスターの『シルバーウルフ』も混ざっておるからそこは注意じゃな。まあ、そうそう出会うこともないじゃろ」


 人はそれをフラグという。
 まあ、勝てない敵ではないだろう。


「ひとつ忠告なんじゃが、あいつ、わしらに気付いておるぞ」
「知ってる」

 
 ブロンズウルフはさっきから穴を掘っているがこっちに背中を見せない。
 恐らく俺らに気付いてはいるが敵かはわからないから放置しているだけだろう。


「じゃあ、行ってくる」


 木刀を構えてゆっくりと草むらから姿を現す。同時にブロンズウルフは穴を掘るのを止めてこっちを向いた。


「グルルル……」


 敵意が伝わったのか低く唸って威嚇して、前足に力を入れてすぐにでも飛び出せるようにしてる。
 俺も木刀を油断なく構えて相手の出方を待つ。
 お互いに硬直状態が続いた。


「………………」
「………………」


 先に動いたのはブロンズウルフの方だった。
 俺の首元を狙って飛びかかってきた。


「ガウッ!」


 確かに、ゴブリンよりは数段早いようだが、避けられないほどじゃない。ブロンズウルフをしゃがんで避ける。
 しゃがんだ後に即座に後ろを向き、ブロンズウルフが空中にいる間を狙って木刀を振るう。


「ハッ!」
「ギャッ!」

 
 俺が振るった木刀はブロンズウルフの後ろ足に当たってボキッと骨の折れる音がした。
 ブロンズウルフは折れてない3本の足を使って何とか着地する。
 すかさず、俺はブロンズウルフの顔に蹴りを放つ。


「オラッ!」
「キャイン!」

 
 足を負傷していて上手く避けられないのか、まともに蹴りをくらって倒れこんだ。
 そこに止めの蹴りをいれる。


「キャ……ウン……」


 動かなくなったブロンズウルフは光の粒になって消え、代わりに茶色の毛皮が残った。


「みごとじゃな」
「まあ、これぐらいは出来ないとな」


 草むらから出てきたフランが褒めてくれる。正直、これぐらいで手こずっているようなら、今俺は生きていないだろう。
 茶色の毛皮を手に取ってみる。少しごわごわしていて、熊の毛皮みたいな感触だ。
 毛皮をアイテムボックスに入れつつフランに聞く。


「毛皮は防具に使われるのか?」
「そうじゃな。革製の防具や服などに使われる。強度はそれなりじゃがな」


 防具か……。武器が木刀で固定されている以上、防具ぐらいは強い物が欲しいな。


「とりあえず、この森の敵は問題ないようだな。安心したぜ」
「何を言っておるんじゃ?」
「へ?」

 
 背中に寒気が走る。この感覚は旅で何度も経験している。全て『死』が近いときにこの感覚が出てきていた。
 フランが満面の笑みで言った。


「本番はこれからじゃぞ?」





☆   ☆   ☆   ☆





「し、死ぬかと思った……」


 ゴブリン3体(+フラン)との戦闘を切り抜けて地面にへたりこむ。
 あの戦闘の何がキツイかというと、間違ってあの魔力の弾をくらったら全身の力が抜けてこん棒がほぼ確実に当たる所だ。あの時はギリギリ木刀でのガードが間に合ったけど、もう一度同じような状況があったら、対処出来ないかもしれない。


「ずいぶんと疲れておるの」
「誰のせいだと思ってんだよ……」


 他人事みたいに言うな。


「まあ、これも修行の一環じゃ。そう文句を言うでない」


 嘘だ。絶対に楽しんでるだけだ。


「それはさておき、危なくなったら助けようと思ったんじゃが、その必要はなかったのう」
「少し危なかったが、あの程度ならまだ問題ない。むしろ、運の要素が絡まないだけましだ」
「さらっとお主の闇が見えた気がするが深くは聞かんでおこう」


 あの旅をしていた頃、ひどい時は宝くじの1等を1発で当てる確率を引かないと死ぬ状況もあった。それに比べたらまだ易しい方だ。


「とりあえず、元気そうじゃな。その調子で次も頑張るんじゃぞ?」


 ん?次?


「もう終わりじゃねぇの?」
「何を言っておるんじゃ。まだ終わらんぞ。ほれ、もう次が来ておる」


 フランが指差した先に4体のゴブリンがいた。しかも、こっちにまっすぐ向かってきている。


「おい、終わりじゃないってどういう───」


 抗議をしようと振り替えるがそこにフランの姿はなかった。
 どうやら、本当に終わりでは無いらしい。


「フゥラァァァァン!あの野郎、次に姿を見せたらぶん殴ってやる!」


 そうこうしているうちに、ゴブリンが戦闘距離まで近づいてきた。


「チクショウ!やってやるよ!」


 このあとも、修行という名の虐待は続いた。
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