魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第十話 きょうのほうり

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───銀の閃光───
銀の閃光とはA級パーティーの中でも屈指の実力を持つパーティーである。前衛が高い攻撃力と防御力を誇るパンクとボローネ、後衛が高い魔力を誇るミルとナップ、ヒーラー兼呪術師としてシースがおり、皆のまとめ役をミルがしている。町が巨大なドラゴンに襲われた時に銀の閃光がそのドラゴンを退けた事は伝説になっており、全パーティーの憧れの的である。────────────Maoupediaより抜粋





☆   ☆   ☆   ☆





「ふぁ~、今日も良い天気じゃな~」


 ベッドから降りて太陽の日射しを浴びる。空には雲ひとつなく出掛けるには良い天気じゃな。
 今日は休日。いつもならポロックへ修行に出かけるところじゃが、今日は街の探索などの好きな事をする日となっておる。
 寝起きで冴えていない頭を動かして今日の予定を考える。


「今日はどこへ行くかのう?買い物に行くのもよいし、演劇を見に行くのもよいの」


 今日の予定を考えながら部屋を出るとちょうど隣の部屋からホウリが出てきた。


「おはようフラン」
「おはようじゃ」


 こいつはホウリ。異世界から来た勇者じゃ。黒い髪に中性的な顔立ち、中肉中背といたって普通な見た目をしておるが、へいきで店主を脅したりゴブリン3体(+わし)を相手するなど普通ではない。
 


「フランは今日はどうするんだ?」
「今どうしようかと考えておったところじゃ。お主はどうするつもりじゃ?」
「今日はこの街で祭りがあるんだ。一緒にまわるか?」
「そうか、今日は祭りじゃったか」


 毎日祭りみたいに賑やかじゃったから忘れておった。
 


「では、わしも一緒に行くとするか」
「それじゃあ、朝飯も外で食べちまおう」

 
 そういえば、ホウリがこの世界に来て二週間経つが、こいつの休日の過ごし方を知らないのう。いつもいつの間にか出掛けていていつの間にか帰ってくるからどこで何しておるか全くわからん。


「お主は普段の休日はどこに行っておるんじゃ?」
「主に道具屋を冷やかしたり図書館に行ったりだな」
「以外と普通じゃな。わしは何か極悪非道な事でもやっておるのかと思ったわい」
「一度俺に対するイメージについて話し合う必要があるな」


 自業自得じゃと思う。
 他愛のない話をしながら1階の食堂に行くと、この宿の看板娘のディーヌがテーブルを拭いていた。
 ディーヌがこっちに気付くとテーブルを拭いている手を止めて挨拶してきた。


「あら、ホウリさんフランちゃんおはよう。今日は朝ごはん食べていかないの?」
「せっかくの祭りだし外で食べようかと思ってな」
「あら残念。やっぱりお祭りの日は朝ごはんを食べる人が少ないわねぇ。私もお祭りに行こうかしら?」
「彼氏と行くのか?」
「もー、私が彼氏いないこと知ってるくせに」
 
 
 ディーヌが少し頬を膨らませる。
 端から見たらこいつが彼氏に見えるわい。 
 

「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃ~い」


 ディーヌの見送りを受けながらわし達は宿を後にした。




☆   ☆   ☆   ☆




 宿から出ると街はいつも以上に賑わっておった。ここは宿エリアで普段は静かなんじゃが、今日は宿の前にも屋台が並んでおり、いつも以上に人通りが多い。


「それにしてもなんの祭りじゃ?領主の誕生日とかかのう?」
「この町では年に一度様々な町や村から優れたものを持ち寄って販売したり劇とかの見せ物なんかをするらしい。だから特別な日とかではないな」


 わしの知らない事をこいつが知っておる。何か悔しい。


「で、どこか行きたい所はあるか?」
「特には無いのう」
「なら、適当にぶらつくか」
「うむ」


 屋台でホットドッグを買って食べながら他の店を見て回る。が、


「ようホウリ。彼女とデートか?羨ましいぜ」
「ちげーよ。こいつはただのパーティーの仲間だ」
「ホウリさん、この間はありがとうございました」
「もうワンちゃん逃がさないようにな」
「ホウリ君、この前はありがとね。ホウリ君のアドバイスのお陰でお客さんが沢山来てくれたよ。これお礼ね。そこのお嬢さんもどうぞ」
「サンキュー。お、また腕を上げたんじゃねーの?」


 すれ違う人ほとんどに声をかけられるからなかなか前に進まん。


「お主、この町に来たのは二週間前じゃったよな?」
「そうだな」
「なんでこんなに顔が広いんじゃ?おかしいじゃろ」
「おかしくねぇよ。ただ、酒場で色々な人の愚痴を聞いたり、店が繁盛するためのアドバイスをしたりして、全力で人脈を築いただけだ」
「おかしいのはお主のポテンシャルじゃったか。ちなみに、どのくらいの人と知り合いなんじゃ?」
「町の人口の6割ってとこか」

 
 この町の4割は観光客で残りの6割は冒険者と住人。
 つまり、観光客以外は全員知り合いと言うことになる。コミュ力の化け物かこいつは。


「大変だったが、おもしろい情報が結構集まったぞ」
「おもしろい情報?」
「それはな────」
「ホウリさーん!」


 ホウリが喋ろうとした瞬間、一人の冒険者が焦った様子で走ってきた。ホウリの前に来るとぜえぜえと息を整える。
 

「どうした?」
「あっちの広場でちょっとしたゲームをやっていたんですが、その景品がホウリさんの喜びそうなものだったんっすよ!」
「景品?何だ?」
「行けば分かると思うっす。自分もやってみたんですが後一歩及びませんでした……」


 そいつは悔しそうに地団駄を踏んだ。


「そうか、ありがとな。お前の仇は俺がとってやるよ」
「頼んだっす!じゃ、自分はこれで!」

 そいつはホウリの手を握りしめた後、走り去っていった。


「ゲームか。何だろうな」
「まあ、何であろうとわしのなら楽勝じゃがな」
「説得力がすげぇ」




☆   ☆   ☆   ☆





 広場に行ってみると1ヶ所人だかりが出来ている所があった。
 そこから、客を呼び込む男の声がする。


「さあさあ、よってらっしゃいみてらっしゃい!ボールがどのカップに入っているか3回当てるだけで豪華景品があなたのものに!1回たったの1000G!」


 男の後ろにはピエロのメイクをした奴とテーブルの上に裏返ったカップが3つ置かれている。
 なるほど、カップの1つにボールを入れてあのピエロがカップを動かした後にどのカップに入っているかを当てる動体視力のゲームじゃな。
 そして、1回当てる毎に動かすスピードが上がるようじゃ。それで景品が……


「ケーキ屋『ディフェンド』のスペシャルコースチケットだと…………!?」


 横で見ていたホウリが呟く。


「知っておるのか?」
「ケーキ屋『ディフェンド』と言えばこの町にある世界一のケーキ屋だ!連日予約殺到で1年は予約がとれない店なんだよ!その『ディフェンド』にはこの祭りの期間限定でスペシャルコースがあるんだが1ヶ月前に販売されたチケットを持っていないと食べられないというプレミアムなコーススイーツなんだ!このチケットは最高100万Gで取引されているという滅多にてに入らないチケットなんだよ!そのチケットがこんな所に有るとは……」
「話が長いわ」


 つまり、美味しいスイーツが食べられるチケットって事じゃな。


「よし、わしがぱぱっとクリアしてくるわい」
「いやまて。少し様子を見よう」


 意気込んで前に出ようとするわしをホウリが制した。
 そこにはさっきまでの親しみやすい雰囲気は無く、戦闘に挑む前の真剣な雰囲気を漂わせたホウリがおった。もしかしたら戦闘よりも真剣かもしれん。


「なぜじゃ?早くせんと他の奴に取られてしまうぞ?」
「よく考えろ、祭りが始まって結構立つが誰もクリアしていんだぞ?おかしいとは思わないか?」
「遅めに始めたのではないか?」
「あの売り上げを入れてあるだろう箱を見てみろ。結構入ってるだろ?」


 箱の中身を見てみると、かなりの硬貨が入っておった。金額にして五万G位か?


「50人挑戦して誰もクリアしていない。適当にやっても1/27の確率で当たるのにおかしいだろ?」
「それもそうじゃな……。少し様子を見るとしよう」


 と、言ってる間に冒険者風の男が名乗りを上げた。


「俺がやってやるぜ!」


 観衆から『おおー』と喚声が上がる。


「新しい挑戦者が現れました!はたして豪華賞品を獲得することは出来るのでしょうか!」


 客を呼んでいた男が観衆を煽るように叫んだ。
 挑戦者はテーブルの前に立つと得意気に言った。


「俺はな10m離れた所から放たれた矢をかわす事が出来るんだよ。こんなゲーム楽勝だぜ」
「おお!凄い意気込みです!これは初のクリアが出るかもしれません!」


 ちなみに、わしは2~3センチ離れた所から放たれた矢をかわせる。


「それでは挑戦していただきましょう!」
「余裕でクリアしてやるぜ!」


 意気揚々と宣言する挑戦者に観衆から歓声が沸く。


『兄ちゃん頑張れよ!』
『クリアしちまえ!』
「さあ!盛り上がって来たところでまずはレベル1です!」


 ピエロは右のカップに赤いボールを入れる。挑戦者は少しも見逃すまいと目を見開いてカップを凝視しておる。
 ピエロがカップを素早く動かす。普通の人なら見逃すようなスピードじゃが冒険者ならこれぐらいわからんとダメじゃな。
 ピエロがカップを止めると男はいつの間にか持っていたマイクを挑戦者に向けた。


「それでは答えをどうぞ!」
「簡単だぜ。答えは右だ!」


 ピエロが右のカップを取ると中から赤いボールが出てきた。観衆から歓声が上がる。


「みごとレベル1をクリアしました!」
「当然だぜ!」
「続いてレベル2です!」

 
 ピエロがカップの中にボールを入れるとさっきより早く動かした。並みの冒険者なら目で追うことも出来んじゃろう。
 ピエロがカップを止めると男はさっきと同じように挑戦者にマイクを向けた。


「それでは答えをどうぞ!」
「か、簡単だぜ。答えは左だ」


 顔をひきつらせながら答える。恐らくギリギリだったんじゃろうな。それでも凄いが。
 ピエロが左のカップを取ると中から赤いボールが出てきた。


「みごとレベル2をクリアしました!先程の意気込みに嘘はなかったようです!」


 観衆がウォォと沸き上がった。『後1回だ!』『ここまで来たらもうクリアしたも同然だぜ!』といった声があっちこっちから聞こえる。


「それでは、最難関のレベル3に挑戦です!」


 ピエロはカップに赤いボールを入れてニンマリ笑うと目にも止まらぬ早さで動かした。残像まで見える。
 正直、Aクラスの冒険者でないと正確に見極めるのは難しいじゃろう。
 ピエロがカップを止めると男はマイクを挑戦者に向けた。


「さあ、答えをどうぞ!」


 挑戦者は少し悩んで口をモゴモゴさせた。


「右……いや真ん中……やっぱり右だ!」


 やっぱり目で追えてなかったようじゃな。
 ピエロがもう一度ニンマリ笑って右のカップを取った。
 カップのなかにボールはなかった。観衆から落胆の声があがる。
 

「おーっと、ここでまさかの不正解だ!」
「クソッ!」


 挑戦者はバンッと苛立たしげにテーブルを叩くと硬貨を男の前に突きだした。


「もう一度挑戦するぜ!」
「残念ですがお一人様1回までの挑戦になります」
「なんだと!」


 挑戦者と男がもめているのを横目に見つつ、ホウリの様子を確認する。
 腕を組みながら黙ってピエロとカップの方を静かに見つめている。
 わしはホウリの服を引っ張る。


「ホウリよ、諦めるぞ。あれはわしでも無理じゃ」


 わしの言葉を聞いたホウリは組んでいた腕をほどき、高く手を上げた。


「次は俺がやる」


 観衆から『おおー』と歓声があがる。
 わしはそのまま前に出ようとするホウリの腕を掴んでホウリにしか聞こえないように喋った。


「わしの言うことを聞け!あれは─────」
「イカサマだろ?」


 あっけらかんとホウリが言った。


「おそらく、3回目の時はカップの中にボールを入れる振りをして入れなかったんだろう。相手が外したらカップを取りつつその中に素早くボールを入れてるんだ」
「それをわかっていながらなぜじゃ!」


 ホウリは顔色ひとつ変えずに言った。


「フラン、お前は1つ勘違いをしている」
「勘違い?」



 ホウリはそう言いきると、わしの腕を振りほどいて司会の男の前に向かった。
 とぼとぼと去っていくさっきの挑戦者を尻目に硬貨を渡した。


「1000Gだ。これでいいな?」
「おーっと、ここで新しい挑戦者が現れました!」


 司会の男がマイクに向かって叫んだ。そのままマイクをホウリに向ける。


「では、意気込みをどうぞ!」
「どうでもいいからさっさと進めろ」


 二人の間に気まずい沈黙が流れる。
 わしは人混みをかき分けて何とかホウリの隣に並ぶ。それを見た司会の男がマイクに向かって叫ぶ。


「おーっと、彼女さんの登場か!?これは彼氏さん、良いところを見せたいですね!」
「いちいちうるさい。さっさとしろ」


 司会の男が顔をひきつらせながら進行をする。


「か、かなり自信があるようです!これは期待できそうです!」


 こうしてゲームは始まった。
 1回目と2回目を順当にクリアして、問題の3回目になった。
 観衆のボルテージも最高潮になっており、さっきのよりも多くの歓声が聞こえる。


『そのピエロの鼻を明かしちまえ!』
『絶対にクリアしろよ!』
『ホウリくん結婚して!』


 なんかホウリに熱烈なラブコールを送っておる奴がおるが、無視する。


「レベル3です!クリアまで目前、彼氏さんは彼女さんに良いところを見せられるか!」


 ホウリは何も言わずじっとピエロとカップを見ている。


「それでは、最難関のレベル3に挑戦です!」


 さっきと同じように目にも止まらぬ早さでピエロがカップを動かす。
 動かし終わるとピエロはニンマリと笑ってホウリを見た。


「さあ、答えをどうぞ!」

 
 司会の男が言うとホウリは右のカップを掴んだ。


「右のカップですね?」


 司会の男が確認するとホウリは左のカップも掴んだ。


「真ん中のカップにボールは入っている。その証拠に……」


 ホウリは2つのカップを同時に取った。





 もちろん、カップの中には何も入っておらんかった。
 ピエロはさっきの笑った顔とはうって変わって、心なしか怯えた表情になった。
 ピエロが震える手でカップを取るとそこには赤いボールが入っていた。
 観衆から大歓声が巻き起こる。


『おおぉ!あの兄ちゃんすげぇ!』
『お兄ちゃんなら出来ると思ってたよ!』
『ホウリくん愛してる!』


 相変わらずラブコールを送ってくる奴がおるが気にしない。
 呆気にとられている司会の男にホウリが手を突きだした。


「ほら、景品をよこせ」
「あ、えーっと……、ちょっと待って下さいね……」


 司会の男は胸元をまさぐると、金色のチケットを手渡した。


「こちらが景品です……、お持ち帰り下さい……」


 チケットを手に取るとホウリは人が変わったようにはしゃいだ。


「ひゃっほう!客を呼び込むために嘘ついているかとも思ったが、まさか本当にあるとはな!ラッキー!」


 そこには、さっきのピリピリしたホウリはどこにもなかった。むしろ観衆に手を振るほど穏やかじゃ。


「さあ、早速『ディフェンド』に向かうぞ!」
「あ、ああ。そうじゃな……」


 テンションの落差についていけないわしは頭を抱えている男とピエロがいる広場を後にした。
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