魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二十二話 バレなきゃ犯罪じゃない

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───ロワ・タタン───
『グランガン』の街に住んでいる弓使いである。決して的に中らない事とイケメンである事が有名である。父親はユミリンピックの種目を総ナメした『トレット・タタン』でありその息子と言うことで色々と注目されていた。父親はロワが10才の時に旅に出ており現時点での消息は不明である。────Maoupediaより抜粋




☆   ☆   ☆   ☆





 ユミリンピックの予選日の夕方、俺達は旧射撃場に近いカフェでロワを待っていた。フランとノエルは隣に座り、その向かいに俺が座る。


「ご注文はお決まりですか?」
「チョコパフェ2つにショートケーキ1つ、それと紅茶を3つ」
「かしこまりました」


 注文を済ませ俺達はロワを待つ。そんな中、向かいに座っているフランが心配そうに話す。


「それにしても、ロワの奴大丈夫かのう?」
「あいつの腕なら確実に大丈夫だ。必ずユミリンピックに出られるだろう」
「まあ、そこは特に心配しておらんのじゃがな。心配しておるのはお主が昨日出した条件の事じゃ」
「ああ、『弓神を使うな』ってやつか。あいつまだ使いこなせていないから使わない方が強いんだよ」


 ユミリンピック予選は朝から夕方まで続き、結果は明日の朝一番に発表される。ユミリンピックに参加出来るのは1競技につき16人。予選の参加者は競技によって違うが、最大で3000人にも登る。ロワが出るのは『的当て』と『戦闘』の種目。どちらも人気が高い種目だ。


「お待たせいたしました。チョコレートパフェとショートケーキです」
「ありがとうございます」


 俺とノエルがチョコレートパフェを、フランがショートケーキを食べながら話を続ける。


「わしが心配しておるのは優勝出来るかどうかじゃ」
「さあな」
「お主でもわからんのか?」


 フランはフォークでケーキを口に運ぼうとした動作のまま俺を見つめてくる。


「勝負はやってみるまでわからないものだ。昨日勝った相手に今日負けるなんてザラだしな」

 
 ある程度の予想は出来るが基本的にはやってみるまで勝敗はわからない。ロワの実力でも優勝するのは不可能ではないな。


「だけどな、本当に心配すべきなのはそこじゃ無いだろ?」
「む?なにかあったか?」
「あいつが来てから説明する」


 チョコレートパフェを3分の1まで食べ進めた所でカフェの扉が開く音がした。扉に目を向けると相変わらずイケメンなロワが扉から入ってくる所だった。光の当たり方や動作などが絶妙に合わさり、まるで絵画のように幻想的な光景になっている。
 俺が軽く手を挙げるとロワは俺たちに気が付き、まっすぐと俺たちがいる席へと向かってきた。


「お待たせしました」
「打ち合わせしていたから気にするな。それよりも、なにか頼むか?」
「ではコーヒーをいただきます」


 ロワはウエイトレスを呼び止めてコーヒーを注文する。


「コーヒーを1つお願いします」
「は、はい!かしこまりましひゃ!」


 かなり緊張した様子で注文をとったウエイトレスはすぐさま厨房に引っ込んでいった。


「で?手応えとしてはどんな感じだったんじゃ?」
「そうですね……、的当ては問題ないと思うのですが、戦闘に関してはなんとも言えないですね」
「悪かったのか?」
「いえ、10戦中8回は勝てたのですがこれで通るかがわからなくて」


 確かにユミリンピックは予選の選定が謎なんだよな。選定方法は毎年変わるらしいし、軽く調べても何もわからなかったしな。


「ロワの実力なら通るだろ。それより、今日の予定をなんだが……」
「特訓ですよね?これからも頑張ります!」
「いや、俺達はこれから予定がある。すまないが今日は休みにしてくれ」
「え?どこに行くんですか?」


 俺は食べ終わったチョコレートパフェの容器にスプーンを入れて答える。


「ジル・クミンバの家に殴り込み」




☆   ☆   ☆   ☆



 
 ジル・クミンバ。グランガンの領主の息子で何人もの手下を従えている。弓の腕は高く領内でも5本の指に入るほどだ。ロワの事が気に食わないらしく射撃場を使わせない等といった嫌がらせを続けている。


「まあ、碌でもない坊っちゃんって思っていいな。弓の腕は良いみたいだがな」
「それで、ここがそいつの家か」


 俺達はグランガンの中央にあるジルの屋敷の門の前まで来ていた。屋敷は終わりが見えないほど広く、鉄柵で厳重に囲まれている。庭にはよく手入れされた薔薇のような植物が植えられており、優雅な雰囲気をかもし出している。


「というか、いつアポなんか取っていたんじゃ?」
「ロワと初めてあった日、予選の後に取材させて欲しいとアポを取っていた」
「仕事が早いのう。というか、このカメラは何なんじゃ?」


 フランが首に下げているカメラを持って聞いてくる。
 ノエルは小さな録音機を嬉しそうに振り回している。


「二人にはアシスタントになってもらう。関係ない奴と一緒にはいけないからな」
「なるほどのう。わしは写真を撮りまくれば良いわけじゃな?」
「その通りだ」


 録音はボタンを押してもらうだけの簡単な操作だからノエルか担当する。これで怪しまれることはないだろう。
 フランは納得した様子で頷く。


「次に今回の目的を聞いといてよいか?」
「そうだな、前提としてジルの手下かわユミリンピックの優勝候補を怪我させて棄権させている事を理解してくれ」
「ふむふ───む?」


 頷いていたフランが急に目を丸くしてこちらを見つめてくる。


「は?え?どういうことじゃ?てっきりジルが怪我させたという証拠を見つけに行くと思っておったのじゃが?」
「勘違いするなよ?見つかってないのは『ジルが指示を出した証拠』だ」
「指示?ああ、奴が関わっているか分からんってことか」
「理解が早くて助かる」


 後ろ盾にジルがいるから手下を検挙できない。となると、見つけるべきものはジルが手下に指示を出したという証拠になる。


「つまり、ジルが関与している証拠を探すんじゃな?」
「それが1つ。もう1つはジルの真意を知ることにある」
「ん?それってどういう───」


 俺がそこまで言うと屋敷の奥から何者かがこちらに向かって来るのが見えた。俺はフランとノエルに素早く支持をする。


「続きは終わってからだ。ここからは打ち合わせ通りに頼む」
「うむ」
「わかった」


 門が重々しい音と共に両側に開き中から初老の男性が現れ、恭しく頭を下げる。


「私は執事の『ウォルト』と申します。ホウリ様ですね。ようこそお越しくださいました」
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます」


 俺はなるべく良い印象を与える様に表情を作る。


「では、ジル様の所までお連れいたします」
「お願いします」

 カツカツと歩くウォルトの後に続き俺達は屋敷の中に入っていった。
 


☆   ☆   ☆   ☆




 屋敷の中は予想通り豪華な作りとなっていた。壁には高価そうな絵画が何枚もかけられており、光を鈍く反射している鎧が来たものを出迎える。正直、予想通り過ぎて何の面白みもない。
 そんな屋敷の中を俺達はウォルトの先導で移動する。ノエルも大人しく付いてきているようで胸を撫で下ろす。
 5分ほど移動すると俺の身長の2倍はあるであろう大きな扉の前でウォルトは俺達に待つようにとだけ言ってどこかへと行ってしまった。
 二人には余計な発言はしないように言っているし大丈夫だな。……多分。
 少しの間扉の前で待っていると、突然扉が音を立てて開いた。部屋の中には様々な装飾品が付いた椅子でふんぞり返っているジルがいた。
 部屋の中は廊下とは比べ物にならない程の芸術品が飾ってあり、ジルと対面する形で1つの椅子が置いてある。


「よく来たな」
「はい、今日はお招きいただきありがとうございます」
「3人で来たのか。もう2つ椅子を用意しておけばよかったか?」
「いえ、大丈夫です。ジルさんの取材に行くと言ったら『どうしてもついてきたい』と申してですね。ジルさんに連絡する時間がなかったんですよ」
「そうかそうか」


 嬉しそうに俺の話を聞くジル。
 ちなみに俺の話に嘘はない。本来なら俺一人で行く予定だったがフラン達がどうしてもと言うのでついてこさせた訳だ。
 俺は席に付き両脇に二人を立たせる。そして、メモ帳とペンを取り出して取材を始める。


「本日、ユミリンピックの予選がありましたが手応えはありましたか?」
「当然だ。的当ても戦闘も1位通過間違いないぜ」


 自信満々のジルの言葉に俺は頷きながら質問を続ける。


「ユミリンピック3連覇がかかっていますが今の心境は?」
「緊張やプレッシャーなんて微塵も感じてねぇ。俺が優勝するのは確定だからな」
「そんなジルさんにお聞きします。ズバリ、ライバルはいますか?」


 俺の言葉を聞いたジルは顔から笑みを消すと真面目な表情で俺を見つめてくる。


「ライバルか……、一人だけ俺のライバルと呼んでもいい奴がいる」
「それは?」
「ロワ・タタンだ」


 なるほど、そっちか。
 俺はメモ帳にペンを走らせながらジルへの質問を続ける。


「ロワ・タタンといえば『矢が中らないイケメン』で有名ですが、そんな人がジルさんのライバル何ですか?」
「ああ、最近までそう言われていたな。だが、今回の予選のあいつは今までのあいつとは全然違う。今のあいつは俺のライバルと呼ぶに相応しい」


 ニヤリと笑いながらジルは答える。その表情からは嬉しさと期待が読み取れる。


「世間ではジルさんがロワ・タタンに嫌がらせをしているという噂がありますが、本当でしょうか?」
「ああ?なんで俺があいつに嫌がらせをしなきゃいけねぇんだ?」


 俺はメモ帳をパラパラと捲り噂の具体的な内容を確認する。


「えー、『正式な射撃場を使わせない』や『ギルドのクエストを達成出来ないようなものにしている』等といった噂が立っていますね」
「う、うーん。あれは嫌がらせというよりも……」


 歯切れが悪そうにジルは唸る。恐らくやったことは本当なんだろう。


「何か嫌がらせ以外の目的があったんですか?」
「……まあな」
「お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「……ああ」


 ジルは少し考えるように天を仰ぐと、少しずつ言葉を紡ぎだした。 


「俺はなあいつのことが気に食わねぇんだよ」
「女性にモテるからでしょうか?」
「いや、そうじゃねぇ。あいつが本気出さねぇからきにいらなかったんだ!」


 少しイラついた表情でジルは答える。


「本気とは?」
「あいつは子供の時から実力を隠してやがった。それが気に入らなかったんだ」
「ロワさんにインタビューしたときに、毎回本気を出していると言っていましたが?」
「そんなの嘘に決まってんだろ?一度も的に中らないなんざわざとでも無い限りありえねぇだろ?」
「ユニークスキルという可能性もありますが?」
「それこそありえねぇ」


 ジルは手をひらひらと振りながら俺の言葉を否定する。


「なぜでしょう?」
「有名な鑑定士にあいつを鑑定してもらったんだが、ユニークスキルなんて無かったからだ」
「……本人の承諾なしに鑑定する事は犯罪ですよ?」
「バレなきゃ犯罪じゃねぇんだよ」


 ガハハと大笑いするジル。俺に話している時点でバレてんだけどな。


「ジルさんがロワさんを気に入らない理由はわかりました。ですが、射撃場やクエストの件とは結びつかないのですが?」
「ああ、あれはなあいつに本気をたさせるためだ」
「本気を?」


 ジルが言っている意味がさっぱり分からない。
 首を傾げている俺に、得意げにジルは答える。


「俺様の完璧な作戦だ。まずは旧射撃場にロワを一人にする。するとロワは人目を気にせずに本気を出す。そこを俺様の手下が記録する。どうだ?完璧だろ?」
「は……、はぁ」


 そんな理由でロワは普通の射撃場が使えなかったのか。もう少しまともな作戦があっただろ。


「ちなみに、予選の前も見張ってたんですか?」
「いや、予選の一週間前から見張りはさせてねぇ」
「なぜですか?」
「練習不足で予選を通らなかったら申し訳ねぇからな」
「なるほど、お優しいんですね」
「手下に気を配るのは上の役目だからな」


 そっぽを向きながら無愛想にこたえる。そこに、フランからの念話が頭の中に響いてきた。


『こいつ、噂に聞いてた性格とは随分違うのう?』
『噂なんて曲げられているものがほとんどだし、こいつは誤解されても可笑しくない行動してるからな』


 俺はペンで頭をかきながらジルへの質問を続ける。


「では、クエストの件は?」
「強い奴と戦ったらあいつも本気を出すだろ?」


 それで死んだらどうすんだよ!こいつ本物のバカか!?


「で、では嫌がらせのつもりはなかったと?」
「ああ、そんなことは微塵も考えてない。俺はあいつに本気を出させればそれでいい」


 なるほど、結果的に嫌がらせと変わらない気がするが悪気は無かったんだな。


「結果的にロワさんは本気を出したようですが、それについてはどう思いますか?」
「本気のあいつを叩き潰すのが楽しみだ」


 なるほど、こいつの真意はよく分かった。次に聞くべきものは……。


「話は変わりますが、ユミリンピックの危険者が3年前から増えているのは知っていますか?」
「ああ、それで俺が疑われている事も知っている」
「ジルさんはやっていないと?」
「当たり前だ。そんな事しなくても俺は優勝する」


 当たり前の事を言うようにジルは話す。
 嘘をついている様子はない。と言うことは、ジルは本当に関与していないのか?
 とりあえず、聞きたい事は聞いたな。


「それでは次の質問ですが……」


 この後、30分程の取材と弓を射っている写真を数枚撮って俺の取材は終わった。



☆   ☆   ☆   ☆




「犯人が自分の手下じゃとジルに伝えなくて良かったのか?」
「言ったとしても信じてもらえないだろうな。ああ見えて手下を大切にしている奴みたいだし」
「それにしても、ジルの奴は聞いていたイメージと全く違う奴じゃったのう。『強さの秘訣は?』と聞かれて『早寝早起き朝ごはん』と真顔で答えた時は思わず吹き出しかけたぞ」
「少し乱暴な所があるから誤解されやすいんだろうな」
「それで、これからどうするんじゃ?」
「とりあえず、ロワの特訓は継続。後は襲撃犯を捕まえるのが最優先だな。詳細は考え中だ」


 少し面倒になったな。どうするか……。
 疲れて寝てしまったノエルを背負いながら、夕焼けに照らされている道を俺達は歩いていった。
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