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第二十三話 狙い撃つぜ!
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───ユミリンピック(戦闘)───
ユミリンピックの種目には『戦闘』というものがある。武器は弓のみで他の武器は使うことが出来ない。フィールドはコロシアムで行われ、相手に三本の矢を当てるか戦闘不能にすると勝ちである。ユミリンピックの中でもトップの人気があり、この種目で優勝することは世界一の弓使いと世間から認められる。
☆ ☆ ☆ ☆
ユミリンピック当日、僕はホウリさん達と一緒に控室で出番を待っていました。
控室には見ただけでフカフカだとわかるソファーと頑丈そうな机、予備の弦等が用意されていてこの部屋だけで弓の整備が出来る造りになっています。
ホウリさんは壁にもたれ掛かり本を読んでいて、フランさんとノエルちゃんは二人で手遊びをしています。
「今の調子はどうだ?」
ホウリさんが読んでいた本から顔を上げて僕に話しかけてきます。僕は自分の弓を抱きながら無理矢理笑顔を作って答えます。
「だ、大丈夫ですよ。弓を抱いていれは自然と落ち着いてきますから」
「それフランスパンだけどな」
ハァーっとため息を吐きながら僕を見てくるホウリさん。僕はフランスパンを齧りながらホウリさんを見つめます。
「ふぉうふぁふぇふぉっふんふぉふぃふぁんふぇふふぁふぁ」
「飲み込んでから話せ」
「(ゴクリ)今日まで特訓をしてきたんですから大丈夫ですよ。全力を出し切るだけです」
「弓とフランスパンを間違える奴の台詞じゃねぇな」
ホウリさんが頭をかきながら本に視線を戻しました。僕はフランスパンを置いて今度こそ自分の弓を手に取り最後の整備を始めます。
えーっと、弦は緩んでいない、木の部分は傷んでいない。後は整備用のオイルを弓に塗るだけですね。
机の上の整備用のオイルの瓶を開けて弓に塗ろうとしたところで再度ホウリさんが本から顔を上げます。
「おい、お前何やってんだ?」
「何って弓の整備を……」
「その瓶のラベル見てみろ」
言われるがまま僕は瓶に貼ってあるラベルを読んでみます。
『チョコクリーム』
「お前はチョコクリームを弓の整備に使うのか?」
「すみません、間違えました。整備用のオイルはどこにありましたっけ?」
「そもそも弓の整備にオイルは使わないだろうが」
そういえばそうでした。すっかりと忘れていました。
ホウリさんがパタンと本を閉じてアイテムボックスに仕舞います。そして、僕が置いたフランスパンを千切ってチョコクリームに付けて口に運びます。
「緊張しているのは分かるがもう少し落ち着け」
「で、でも初めての大会がユミリンピックですよ?緊張しないなんて無理ですよ」
「それもそうか」
ホウリさんは顎に手を当てて考えるような仕草をして、口を開きました。
「だが、こういう場ではどうしてもプレッシャーがついて回る。その中でも自分の実力を出せないとロワの父親みたいになれないぞ?」
「……そうですね」
初めての大会がユミリンピック。かなりイレギュラーですが頑張らなくてはいけませんね。
『(ピンポンパンポーン)ロワ・タタンさんは入場の準備をお願います。繰り返します、ロワ・タタンさんは───』
気を引き締めているとアナウンスで入場の指示がスピーカーから流れました。
「では、行ってきます!」
「頑張れよ。俺達も客席で応援しているからな」
「ロワならいけるはずじゃ。気楽に行くが良い」
「ロワお兄ちゃん頑張ってね~」
「はい!」
いつもの弓が少し重くなったような感覚を覚えるも、皆さんの声援を受けながら僕は控室を後にしました。
☆ ☆ ☆ ☆
『さあ、始まりました、ユミリンピック戦闘本戦!解説は私「ベック」と!』
『わたくし、「チフール」でお送りしますわ』
コロシアムは大観衆の歓声や身が焼けるような熱気に包まれており大規模な大会だと分かる。
『ルールを簡単に説明します!持てる矢は20本、相手に3本当てるか戦闘不能にするかで勝敗が決まります!』
『勿論、弓と矢以外の攻撃手段は反則ですわ』
『そんなバカいませんけどね!』
『さて、第一回戦は「必中のラガルト」選手と「最強のロワ」様ですわ』
『どちらの味方か分かる一言をありがとうございます!それでは、選手入場です!』
コロシアムの環境が沸く中、二人の選手が入場する。一人は緑の髪に整った顔立ちをした男、『ロワ・タタン』だ。もう一人は黒い髪に黒い布を口元に巻いた切れ目の男、『ラガルト・リラ』だ。
『ロワ選手は中らない事で有名でしたが一週間前の予選ではかなりの腕前を見せてくれました。チフールさんはこの試合をどう見ますか?』
『ラガルト選手はこのルールではかなり有利になるスキルを持っています。ロワ様は命中率を上げるスキルしかないので、かなり厳しい戦いになると思いますわ』
『では、ラガルト選手が勝つと?』
『1000%ロワ様が勝ちますわ』
『チフールさんは公平という言葉を覚えましょうね』
入場したロワはラガルトに向い手を差し出す。
「よろしくお願いします」
「……………」
ラガルトはロワの手を一瞥するとそのまま所定の位置まで歩いていく。ロワは寂しそうに笑うと自分の所定の位置まで歩く。
二人とも所定の位置につくと弓を構え、矢筒から矢を取り出す。二人の距離は約30m、どちらも油断なく相手を見据えている。
『両選手「長弓」をつかっていますね。これについてはどう見ますか?』
『「長弓」は威力が大きく遠くまで届く分、弓が大きくて動き辛いですわ。長距離からの打ち合いになるでしょうね。勝つのはロワ様ですが』
『最後の言葉が無ければ完璧な解説でしたね』
大観衆の盛り上がりとは裏腹に二人の選手の間には異様な緊張感が漂う。そんな中、コロシアム内に大歓声に負けぬ程の大音量のアナウンスが流れる。
『ただ今よりユミリンピック「戦闘種目」の一回戦を始めます!両選手構えて!』
アナウンスを聞いたロワとラガルトは矢筒から矢を取り出して弓にセットする。
『それでは、試合開始ィィィィィィ!!』
試合開始の宣言と同時に二人は矢を放つ。ラガルトの放った矢は的確にロワを捉える事が出来ずに少し外れた所に飛んでいく。だが、
『おーっと!ここでラガルト選手の「クリムゾンクラウド」が炸裂だ!』
ラガルトが放った矢は裂けるように別れていき5本の矢となりロワに襲いかかる。
───クリムゾンクラウド───
放った矢を分裂させる。矢が全て着弾するまでは次の『クリムゾンクラウド』は発動出来ない。分裂する数は魔力に依存する。
消費MP 1本につき10
『ロワ選手の弓は「長弓」という大きな弓だ!複数の矢を躱すのは難しいか!』
『それはどうでしょうか?』
『どういうですか?』
『見ていればわかりますわ』
ロワの放った矢はラガルトの放った矢の1本に当たり勢いが無くなる。だが、残りの4本がロワに殺到する。
「……くっ!」
ロワは回避しようとするが弓が邪魔で回避することが出来ない。そんな中、ロワは皆が予想しなかった行動をとる。
『な!?弓を捨てた!?』
ロワは弓から手を離し、横に大きく飛び退いて矢を全て回避し、直ぐに体制を立て直す。
『弓を手放せば回避できます!しかし、ロワ選手には攻撃する手段が無い!ここからどう巻き返していくのか!』
ラガルトはこのチャンスを逃すまいと矢を番える。だが、ロワが腕を大きく振るとロワの手に弓が吸い込まれるように戻っていく。
『これはどういう事だ!ロワ選手の弓が一人でに戻っていった!』
『ロワ様の腕と弓をよく見てみなさい』
『腕と弓?』
腕と弓に注目すると太陽の光をキラリと反射する何かが見える。
『あれは、ワイヤーですか?』
『そうですわね。あのワイヤーがある事によって弓を捨てての回避が出来ますわ。ただし、回避した後の攻撃には時間がかかってしまいますわ』
『なるほど、チフールさんはそれを見越していたんですね』
『当たり前ですわ。ロワ様の事なら見ただけで使っているシャンプーも分かりますわ』
『最後の言葉が無ければ素直に感心できたんですがね』
弓を回収したロワは直ぐにラガルトに矢を放つ。
「…………ふっ」
ラガルトはそれを少し身をよじるだけで躱す。そしてロワに向かい再び矢を放つ。
ロワは弓を捨て横に飛び退き寸での所で回避する。
『ロワ選手の矢は精密であるが故に軌道が読まれやすく、ラガルト選手の矢は連射が効かない。これは硬直状態ですかね』
『そうですわね。どちらかが仕掛けない限り戦況はこのままですわ』
そんな戦況の中先に動いたのはラガルトだった。
分裂した矢をロワがかわし、弓を引っ張り構えようとする。
「絶対に当てる……」
「………………っふ」
ロワが弓を引き絞り狙いを付けようとした瞬間、
「!?、っ痛!?」
ロワの左の足の甲に激しい痛みが走る。足を見てみるとラガルトの矢が突き刺っており、地面と足を縫い付けている。
───ステルスショット───
矢を視認出来なくする
消費MP 1本につき30
『おっーと!ここでロワ選手が初の被弾だ!』
『しかも、今のロワ様は自由に移動が出来ませんわ。このままだと…………』
チャンスと言わんばかりにラガルトはロワに矢を射る。
「……クッ!」
飛び退く事ができないロワは矢を放ち、ラガルトの矢との相殺を狙う。だが、1本と5本では数が違う。1本は相殺出来たが残りの4本がロワに殺到する。
「グアッ!」
「……………」
ロワは身をよじって回避しようとするも1本が肩に深々と突き刺さる。
『またまた命中だ!ロワ選手、後が無くなりました!ここから巻き返すことは出来るのか!』
ロワは足に刺さった矢を引き抜くと、矢筒から矢を取り出しラガルトに向かって狙いを付ける。
肩で息をしていて出血も酷いが、それでもロワの目は死んでいなかった。
『まだロワ選手は諦めていないようだ!』
『当たり前ですわ!ロワ様がこの程度で負けるわけありませんわ!』
ロワはラガルトをまっすぐと見つめると一度大きく深呼吸をする。
(ここで外したら負ける。絶対に当てる!)
ロワはラガルトが動くまで狙いをつけながら待つ。
ラガルトは慎重にロワを観察していたが、痺れを切らしたのかロワに向かって矢を放つ。
(……ここだ!)
ロワはラガルトに向かって矢を放つ。放たれた矢はラガルトが放った矢をすり抜けラガルトに向かって飛んでいく。だが、
「………………」
放たれた矢は、ラガルトの肩をかすめつつ後ろの壁に突き刺さった。ラガルトは避ける様子すら見せない。
『あーっと、ロワ選手外してしまった!痛みで精度がおちてしまったか!』
ロワはなんとかラガルトの矢を回避し、次の矢を矢筒から引き抜く。ラガルトも矢筒から矢を取り出そうとする。すると、
『これはどういう事だ!ラガルト選手の矢筒の紐が切れている!』
いつの間にかラガルトの矢筒の紐が切れて地面に落下していた。
『さっきのロワ様の射撃はラガルトではなく矢筒の紐を狙ったもののようですわね。さすがロワ様ですわ』
『これでラガルト選手は次の矢を取り出すには大きなスキを晒さなくてはいけなくなりました!』
ラガルトは矢を取り出すには一度しゃがんで矢を取り出さなくてはならない。そのスキをロワが見逃す筈が無い。
ロワは弓を構えてラガルトを注意深く見据える。
「………………」
ラガルトは慌てる様子なく体制を整える。そして、その体制のまま散乱した矢を蹴り上げてキャッチする。
『なんと!ラガルト選手、矢を蹴り上げる事で拾う時のスキを無くしました!このまま行けばダメージを負っているロワ選手が不利になります!』
『何を言っていますの?』
ラガルトは矢を番えて再びロワに向かって弓を引き絞る。
『もう勝負はついていますわ』
瞬間、ラガルトの弓の弦が弾ける音と共に切断した。
「!?」
ラガルトは目を見開き、手元の弓とロワを交互に見る。そして、ロワが油断なく弓を構えているのを見て目を閉じながら両手を上げる。
『決着ぅぅぅぅ!ラガルトの降参によりロワ選手の勝利です!』
ロワの勝利が決まった瞬間、コロシアム内の観衆が一際沸いた。
『うおぉぉぉ!最高の試合だったぜ!』
『あそこから逆転するとはやりますねぇ!』
『ラガルトもカッコよかったぞー!』
緊張の糸が解けたロワは観衆に向かって笑顔で手を振る。チラリとラガルトを見ると颯爽と退場していくのが見えた。
ロワは少し微笑むとラガルトを追うように退場していった。
『しかし、ロワ選手はいつの間に弓の弦を切っていたんでしょうか?』
『矢筒の紐を切ったときですわ。その時に紐と弦を一緒に射抜いていたのでしょう』
『そんな精密な射撃を!?』
『むしろ、ロワ様は完全に切断するのを狙っていたでしょうね。痛みからなのか、狙いが定まらずに弦を傷つけるだけになってしまったようですけど』
『なるほど、ロワ選手の射撃精度のなせる技ですね。勝者が傷つき敗者が無傷というちょっと変わった試合でしたが、ロワ選手2回戦進出です!』
ユミリンピックの種目には『戦闘』というものがある。武器は弓のみで他の武器は使うことが出来ない。フィールドはコロシアムで行われ、相手に三本の矢を当てるか戦闘不能にすると勝ちである。ユミリンピックの中でもトップの人気があり、この種目で優勝することは世界一の弓使いと世間から認められる。
☆ ☆ ☆ ☆
ユミリンピック当日、僕はホウリさん達と一緒に控室で出番を待っていました。
控室には見ただけでフカフカだとわかるソファーと頑丈そうな机、予備の弦等が用意されていてこの部屋だけで弓の整備が出来る造りになっています。
ホウリさんは壁にもたれ掛かり本を読んでいて、フランさんとノエルちゃんは二人で手遊びをしています。
「今の調子はどうだ?」
ホウリさんが読んでいた本から顔を上げて僕に話しかけてきます。僕は自分の弓を抱きながら無理矢理笑顔を作って答えます。
「だ、大丈夫ですよ。弓を抱いていれは自然と落ち着いてきますから」
「それフランスパンだけどな」
ハァーっとため息を吐きながら僕を見てくるホウリさん。僕はフランスパンを齧りながらホウリさんを見つめます。
「ふぉうふぁふぇふぉっふんふぉふぃふぁんふぇふふぁふぁ」
「飲み込んでから話せ」
「(ゴクリ)今日まで特訓をしてきたんですから大丈夫ですよ。全力を出し切るだけです」
「弓とフランスパンを間違える奴の台詞じゃねぇな」
ホウリさんが頭をかきながら本に視線を戻しました。僕はフランスパンを置いて今度こそ自分の弓を手に取り最後の整備を始めます。
えーっと、弦は緩んでいない、木の部分は傷んでいない。後は整備用のオイルを弓に塗るだけですね。
机の上の整備用のオイルの瓶を開けて弓に塗ろうとしたところで再度ホウリさんが本から顔を上げます。
「おい、お前何やってんだ?」
「何って弓の整備を……」
「その瓶のラベル見てみろ」
言われるがまま僕は瓶に貼ってあるラベルを読んでみます。
『チョコクリーム』
「お前はチョコクリームを弓の整備に使うのか?」
「すみません、間違えました。整備用のオイルはどこにありましたっけ?」
「そもそも弓の整備にオイルは使わないだろうが」
そういえばそうでした。すっかりと忘れていました。
ホウリさんがパタンと本を閉じてアイテムボックスに仕舞います。そして、僕が置いたフランスパンを千切ってチョコクリームに付けて口に運びます。
「緊張しているのは分かるがもう少し落ち着け」
「で、でも初めての大会がユミリンピックですよ?緊張しないなんて無理ですよ」
「それもそうか」
ホウリさんは顎に手を当てて考えるような仕草をして、口を開きました。
「だが、こういう場ではどうしてもプレッシャーがついて回る。その中でも自分の実力を出せないとロワの父親みたいになれないぞ?」
「……そうですね」
初めての大会がユミリンピック。かなりイレギュラーですが頑張らなくてはいけませんね。
『(ピンポンパンポーン)ロワ・タタンさんは入場の準備をお願います。繰り返します、ロワ・タタンさんは───』
気を引き締めているとアナウンスで入場の指示がスピーカーから流れました。
「では、行ってきます!」
「頑張れよ。俺達も客席で応援しているからな」
「ロワならいけるはずじゃ。気楽に行くが良い」
「ロワお兄ちゃん頑張ってね~」
「はい!」
いつもの弓が少し重くなったような感覚を覚えるも、皆さんの声援を受けながら僕は控室を後にしました。
☆ ☆ ☆ ☆
『さあ、始まりました、ユミリンピック戦闘本戦!解説は私「ベック」と!』
『わたくし、「チフール」でお送りしますわ』
コロシアムは大観衆の歓声や身が焼けるような熱気に包まれており大規模な大会だと分かる。
『ルールを簡単に説明します!持てる矢は20本、相手に3本当てるか戦闘不能にするかで勝敗が決まります!』
『勿論、弓と矢以外の攻撃手段は反則ですわ』
『そんなバカいませんけどね!』
『さて、第一回戦は「必中のラガルト」選手と「最強のロワ」様ですわ』
『どちらの味方か分かる一言をありがとうございます!それでは、選手入場です!』
コロシアムの環境が沸く中、二人の選手が入場する。一人は緑の髪に整った顔立ちをした男、『ロワ・タタン』だ。もう一人は黒い髪に黒い布を口元に巻いた切れ目の男、『ラガルト・リラ』だ。
『ロワ選手は中らない事で有名でしたが一週間前の予選ではかなりの腕前を見せてくれました。チフールさんはこの試合をどう見ますか?』
『ラガルト選手はこのルールではかなり有利になるスキルを持っています。ロワ様は命中率を上げるスキルしかないので、かなり厳しい戦いになると思いますわ』
『では、ラガルト選手が勝つと?』
『1000%ロワ様が勝ちますわ』
『チフールさんは公平という言葉を覚えましょうね』
入場したロワはラガルトに向い手を差し出す。
「よろしくお願いします」
「……………」
ラガルトはロワの手を一瞥するとそのまま所定の位置まで歩いていく。ロワは寂しそうに笑うと自分の所定の位置まで歩く。
二人とも所定の位置につくと弓を構え、矢筒から矢を取り出す。二人の距離は約30m、どちらも油断なく相手を見据えている。
『両選手「長弓」をつかっていますね。これについてはどう見ますか?』
『「長弓」は威力が大きく遠くまで届く分、弓が大きくて動き辛いですわ。長距離からの打ち合いになるでしょうね。勝つのはロワ様ですが』
『最後の言葉が無ければ完璧な解説でしたね』
大観衆の盛り上がりとは裏腹に二人の選手の間には異様な緊張感が漂う。そんな中、コロシアム内に大歓声に負けぬ程の大音量のアナウンスが流れる。
『ただ今よりユミリンピック「戦闘種目」の一回戦を始めます!両選手構えて!』
アナウンスを聞いたロワとラガルトは矢筒から矢を取り出して弓にセットする。
『それでは、試合開始ィィィィィィ!!』
試合開始の宣言と同時に二人は矢を放つ。ラガルトの放った矢は的確にロワを捉える事が出来ずに少し外れた所に飛んでいく。だが、
『おーっと!ここでラガルト選手の「クリムゾンクラウド」が炸裂だ!』
ラガルトが放った矢は裂けるように別れていき5本の矢となりロワに襲いかかる。
───クリムゾンクラウド───
放った矢を分裂させる。矢が全て着弾するまでは次の『クリムゾンクラウド』は発動出来ない。分裂する数は魔力に依存する。
消費MP 1本につき10
『ロワ選手の弓は「長弓」という大きな弓だ!複数の矢を躱すのは難しいか!』
『それはどうでしょうか?』
『どういうですか?』
『見ていればわかりますわ』
ロワの放った矢はラガルトの放った矢の1本に当たり勢いが無くなる。だが、残りの4本がロワに殺到する。
「……くっ!」
ロワは回避しようとするが弓が邪魔で回避することが出来ない。そんな中、ロワは皆が予想しなかった行動をとる。
『な!?弓を捨てた!?』
ロワは弓から手を離し、横に大きく飛び退いて矢を全て回避し、直ぐに体制を立て直す。
『弓を手放せば回避できます!しかし、ロワ選手には攻撃する手段が無い!ここからどう巻き返していくのか!』
ラガルトはこのチャンスを逃すまいと矢を番える。だが、ロワが腕を大きく振るとロワの手に弓が吸い込まれるように戻っていく。
『これはどういう事だ!ロワ選手の弓が一人でに戻っていった!』
『ロワ様の腕と弓をよく見てみなさい』
『腕と弓?』
腕と弓に注目すると太陽の光をキラリと反射する何かが見える。
『あれは、ワイヤーですか?』
『そうですわね。あのワイヤーがある事によって弓を捨てての回避が出来ますわ。ただし、回避した後の攻撃には時間がかかってしまいますわ』
『なるほど、チフールさんはそれを見越していたんですね』
『当たり前ですわ。ロワ様の事なら見ただけで使っているシャンプーも分かりますわ』
『最後の言葉が無ければ素直に感心できたんですがね』
弓を回収したロワは直ぐにラガルトに矢を放つ。
「…………ふっ」
ラガルトはそれを少し身をよじるだけで躱す。そしてロワに向かい再び矢を放つ。
ロワは弓を捨て横に飛び退き寸での所で回避する。
『ロワ選手の矢は精密であるが故に軌道が読まれやすく、ラガルト選手の矢は連射が効かない。これは硬直状態ですかね』
『そうですわね。どちらかが仕掛けない限り戦況はこのままですわ』
そんな戦況の中先に動いたのはラガルトだった。
分裂した矢をロワがかわし、弓を引っ張り構えようとする。
「絶対に当てる……」
「………………っふ」
ロワが弓を引き絞り狙いを付けようとした瞬間、
「!?、っ痛!?」
ロワの左の足の甲に激しい痛みが走る。足を見てみるとラガルトの矢が突き刺っており、地面と足を縫い付けている。
───ステルスショット───
矢を視認出来なくする
消費MP 1本につき30
『おっーと!ここでロワ選手が初の被弾だ!』
『しかも、今のロワ様は自由に移動が出来ませんわ。このままだと…………』
チャンスと言わんばかりにラガルトはロワに矢を射る。
「……クッ!」
飛び退く事ができないロワは矢を放ち、ラガルトの矢との相殺を狙う。だが、1本と5本では数が違う。1本は相殺出来たが残りの4本がロワに殺到する。
「グアッ!」
「……………」
ロワは身をよじって回避しようとするも1本が肩に深々と突き刺さる。
『またまた命中だ!ロワ選手、後が無くなりました!ここから巻き返すことは出来るのか!』
ロワは足に刺さった矢を引き抜くと、矢筒から矢を取り出しラガルトに向かって狙いを付ける。
肩で息をしていて出血も酷いが、それでもロワの目は死んでいなかった。
『まだロワ選手は諦めていないようだ!』
『当たり前ですわ!ロワ様がこの程度で負けるわけありませんわ!』
ロワはラガルトをまっすぐと見つめると一度大きく深呼吸をする。
(ここで外したら負ける。絶対に当てる!)
ロワはラガルトが動くまで狙いをつけながら待つ。
ラガルトは慎重にロワを観察していたが、痺れを切らしたのかロワに向かって矢を放つ。
(……ここだ!)
ロワはラガルトに向かって矢を放つ。放たれた矢はラガルトが放った矢をすり抜けラガルトに向かって飛んでいく。だが、
「………………」
放たれた矢は、ラガルトの肩をかすめつつ後ろの壁に突き刺さった。ラガルトは避ける様子すら見せない。
『あーっと、ロワ選手外してしまった!痛みで精度がおちてしまったか!』
ロワはなんとかラガルトの矢を回避し、次の矢を矢筒から引き抜く。ラガルトも矢筒から矢を取り出そうとする。すると、
『これはどういう事だ!ラガルト選手の矢筒の紐が切れている!』
いつの間にかラガルトの矢筒の紐が切れて地面に落下していた。
『さっきのロワ様の射撃はラガルトではなく矢筒の紐を狙ったもののようですわね。さすがロワ様ですわ』
『これでラガルト選手は次の矢を取り出すには大きなスキを晒さなくてはいけなくなりました!』
ラガルトは矢を取り出すには一度しゃがんで矢を取り出さなくてはならない。そのスキをロワが見逃す筈が無い。
ロワは弓を構えてラガルトを注意深く見据える。
「………………」
ラガルトは慌てる様子なく体制を整える。そして、その体制のまま散乱した矢を蹴り上げてキャッチする。
『なんと!ラガルト選手、矢を蹴り上げる事で拾う時のスキを無くしました!このまま行けばダメージを負っているロワ選手が不利になります!』
『何を言っていますの?』
ラガルトは矢を番えて再びロワに向かって弓を引き絞る。
『もう勝負はついていますわ』
瞬間、ラガルトの弓の弦が弾ける音と共に切断した。
「!?」
ラガルトは目を見開き、手元の弓とロワを交互に見る。そして、ロワが油断なく弓を構えているのを見て目を閉じながら両手を上げる。
『決着ぅぅぅぅ!ラガルトの降参によりロワ選手の勝利です!』
ロワの勝利が決まった瞬間、コロシアム内の観衆が一際沸いた。
『うおぉぉぉ!最高の試合だったぜ!』
『あそこから逆転するとはやりますねぇ!』
『ラガルトもカッコよかったぞー!』
緊張の糸が解けたロワは観衆に向かって笑顔で手を振る。チラリとラガルトを見ると颯爽と退場していくのが見えた。
ロワは少し微笑むとラガルトを追うように退場していった。
『しかし、ロワ選手はいつの間に弓の弦を切っていたんでしょうか?』
『矢筒の紐を切ったときですわ。その時に紐と弦を一緒に射抜いていたのでしょう』
『そんな精密な射撃を!?』
『むしろ、ロワ様は完全に切断するのを狙っていたでしょうね。痛みからなのか、狙いが定まらずに弦を傷つけるだけになってしまったようですけど』
『なるほど、ロワ選手の射撃精度のなせる技ですね。勝者が傷つき敗者が無傷というちょっと変わった試合でしたが、ロワ選手2回戦進出です!』
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逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。
割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。
※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。
※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
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下昴しん
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