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第八十三話 それは違うよ!
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───ラビ・プレン───
ラビ・プレンとは新米の検察官である。親が優秀な検察官であったためラビ自身も検察官をなることを夢見ており、努力の甲斐あって王都の検察官になることが出来た。思考力は並みだが、とある能力は秀でており、それを察知したホウリが自身の補佐に選んだ。余談だが、検察内では初めの自己紹介の事からラビュという愛称で呼ばれており、その度に本人はラビと訂正している。─────Maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
裁判3日目、先日の脱税の容疑はこちらの主張に対して相手が反論出来なかった形になっている。先手はこちらが取ったといってもいいだろう。それにしても……
「……ひどかったなぁ」
「どうした?」
「いや、ホウリさんの裁判ひどかったなって思いまして」
「砂糖畑を麦畑にする悪人にかける情けは無い」
「砂糖畑を潰しただけで、あの追及は厳し過ぎると思うんですけど?」
「奴の罪の4割は砂糖畑だろ」
「思いっきり私怨が入ってますよね?」
畑をつぶした位で投獄は独裁者でもやらないと思う。
「まあ、昨日までの事は良いだろ。それよりも今日の事だ」
「国家転覆の方法についてですね」
国家転覆の方法を証明できない場合はこちらの負けが決まってしまう。今日が正念場といっても過言じゃないだろう。
弁護席にいるパンケもそれが分かっているのか昨日よりも表情が真剣だ。昨日の負けが相当悔しいんだろう。
「どうやって攻めるんですか?」
「まずは国家転覆の方法を提示して根拠を補足していく」
「ホウリさんらしくない普通な攻め方ですね」
「俺の事を何だと思っているんだ」
「ホウリさんだと思ってます」
昨日までは相手が予期しない所から全力で攻め抜いていたのに、今日は随分とおとなしい。もしかして別人なんじゃないだろうか。
「失礼な事考えてないか?」
「そんな事ないですよ?」
「本当かよ」
ホウリさんがジト目で私を睨んでくる。ホウリさんって勘も鋭いんですね。
私たちがコントみたいなやり取りをしていると国王が入ってきて裁判長席へと座る。
「これよりローブオ・サンドの国家転覆に関する裁判、3日目の審議に入る。検察側は本日の審議内容を申すがよい」
「本日の審議は国家転覆の手段についてです。検察は被告人が武力による国家の制圧を企てていたと主張します」
「では根拠を提示せよ」
「分かりました」
私は資料を取り出して国王へと提出する。国王に資料が行きわたった事を確認したホウリさんは資料を手に説明を始める。
「武力による制圧と言っても兵士や武器の数を揃えるのではなく、一つの大きな魔道具によるものでしょう」
「魔道具によるもの?」
「端的に言えばMP発射装置です。お手元の資料をご覧ください」
資料には精密な魔道具の設計図が載っている。一般人が見ただけじゃ何の魔道具かは分からないだろう。
「これは?」
「MP発射装置の設計図です。簡単に説明すると全長100mくらいの大きさの魔道具で、MP効率を極限まで高めて発射する魔道具です。最大出力であれば王都の城を跡形もなく破壊出来るでしょう」
「なるほど、この魔道具で王都を破壊してわし諸共、城を破壊する訳か」
「その通りです。城を破壊した後は各領地に投降するように呼び掛けるつもりでしょう。また、この2年で設計図に記載されている材料をサンドの街が購入していることも確認出来ています」
「異議あり!全て根拠のない憶測です!また、その設計図も検察側で捏造できる物であり、根拠としては不適切です!」
「異議を認める。検察側は設計図の出所を明示するように」
国王の言葉にパンケが勝ち誇ったようにこちらを見てくる。まるで、証人を連れてこられないことを確信しているかのようだ。
「ホウリさん」
「分かってる。相手もさすがに手を打ってるだろうよ」
ホウリさんの話を聞く限りだとパンケさんは手段を選ばずに勝ちに来るタイプみたいだし、書いた人が分かっても証言は期待できない。だとしたら、どうやって出所を証明するかが……
「検察側、出所を明示してください」
「おや?出来ないんですか?だったらこの話は終わりに───」
「分かりました、明示します」
「ほう?どうやって明示するんだ?」
「事前に申請していた証人の召喚を要求します」
「証人の召喚を許可します。10分間の休廷の後、証人の証言を聞きます。では、一時休廷」
国王が木槌を打ち鳴らして休廷を宣言する。
───10分後───
休廷が終わり、証言台にスーツを着たメガネの男が立つ。髪も七三分けにしていて一見すると身綺麗な印象を受けるが、手を抑えず欠伸をしたり頭を掻き毟ったりといった行動をとっている。とても国王様の前での態度とは思えない。
証人が証言台に立った事を確認し、木槌を打ち鳴らして再開の宣言をする。
「これより審議を再開する。証人は名前と職業を言うように」
証人はめんどくさそうに頭を掻きながら口を開く。
「えーっと、ミンティ・カモミル。発明家をしてます」
「ん?」
ミンティさんの自己紹介を聞いたパンケが首を捻る。何か気になる事でもあるのだろうか。
「では、検察側はミンティ・カモミルへの尋問を開始せよ」
「わかりました」
ホウリさんは軽くお辞儀するとミンティさんへ見えるように設計図を突き出す。
「単刀直入にお聞きします。この設計図はあなたが描いたものですか?」
「ああ、俺が2年位前に描いたものだ」
「…………まさかお前は発明家のミントか!?」
「そうだ。いつもはミントって名乗ってる」
「バカな!お前の名前はミンティ・ハムステッドだったはず!」
声を荒げるパンケにミンティさんが面倒くさそうに溜息を吐く。
「1週間前に結婚してラミスから名前貰った。今の俺はミンティ・カモミルだ」
「そんな事聞いていないぞ!」
「言いふらす事でもないだろう?」
「いや、でも……え?」
状況が飲み込めていないパンケを無視してホウリさんは尋問を再開する。
「2年前に設計図を描いたと言いましたが、誰に依頼されましたか?」
「さあな、名前までは覚えていない」
ミンティさんの言葉にパンケがあからさまにホッとした表情になる。すかさず、私は資料の中から1枚の写真を取り出してミンティさんの前へと置く。
「なんだこの写真?」
「質問を変えます。依頼したのはその写真の人でしたか?」
「……そうだ。この男だ」
「検察側はこちらにも写真を提出してください」
「分かりました」
裁判長に促されるまま私は写真を提出する。写真には1人の若い男が写っていた。
「この男は被告人の息子であるザリオ・サンドです。証人、この男で間違いないですか?」
「間違いない」
「い、異議あり!2年前の記憶です!他人の空似である可能性もあります!」
「それはないな」
パンケの異議をミンティさんが否定する。
「設計図を渡した奴は間違いないくこいつだ」
「何を根拠にそんな事!」
「設計図を渡した時に依頼人の写真を撮っていたからだ」
「は?」
「証人、その写真は今ありますか?」
「ある。絶対に忘れるなってラミスに念を押されたからな」
そう言うと、ミンティさんはアイテムボックスから写真を取り出す。そこにはミンティと話すザリオの姿が写っていた。
「国王、検察側はこの写真を証拠として提出します」
「受理する」
国王がミンティさんの写真とザリオの写真を見比べる。
「確かに同一人物だ」
「異議あり!都合よく写真を撮っていたのは不自然です!弁護側から写真を撮った理由を求めます!」
「異議を認めます。わざわざ依頼人の写真を撮るのは不自然です。証人は理由を述べなさい」
国王の言葉にミンティが欠伸を噛み殺しながら答える。
「3年位前に王都の憲兵から認識阻害スキルを無効化して撮れるカメラの作成依頼があった。作成は1年で終わったが認識阻害スキルを持っている奴が見つからずに動作テストが出来なかった。そこに認識阻害スキルを使って以来をしてきた奴がいたからこっそりテストをさせて貰ったという訳だ」
「確かに憲兵から3年前に証人へカメラの作成依頼をしており、2年前からカメラを捜査に導入しています。ザリオ。サンドは認識阻害スキルを持っていることは確認できていますし、証言の信憑性は高いでしょう」
「ふむ、それならば説明はつく」
裁判長が納得したように頷く。
それを見て不味いと思ったのか、パンケが立ち上がって叫ぶ。
「い、異議あり!この男はザリオ・サンドと似ていますが、別人である可能性があるのではないのでしょうか!」
「異議あり。それを言い始めたら証拠は意味を持ちません。認識障害スキルみたいなレアなスキルを持った顔が似ている奴がいるならば探し出してください」
「弁護側の異議を却下します。可能性を示すのであればその人物を探し出すがよい」
「くっ……。ミントぉ、貴様こんなことしてどうなるか分かっているのか?」
「は?どういうことだ?」
恨みの視線を向けるパンケをよく分かっていない目で見るミンティさん。
「ミンティさん、設計図を受け渡した時に何か言われませんでしたか?」
見かねたホウリさんが尋問という形で助け舟を出す。
ホウリさんの質問にミンティさんは顎に手を当てて考え始める。
「そういえば、『この事は誰にも言うな』って言われたな。『言ったらどうなるか分かってんだろうな?』とも言われた」
「お前、それどういう意味か分かってるのか?」
「さあ?興味ないからすぐに忘れた」
「お前なぁ……」
思わず素で話してしまうホウリさんに対し、マイページを貫くミンティさん。なるほど、口を封じているからどうにでもなると思っていたけど、ミンティさんがよく分かってなかったから意味が無かったのか。なんというか……敵ながら不憫に思ってきた。
ホウリさんは咳ばらいをすると尋問に戻る。
「とにかく、証人に対して明らかな脅しも行っていることから、設計図を犯罪に使おうとしていた事は明白です」
「明らかか?」
「……訂正します。証人には分からなかったですが、明らかに脅していました。犯罪に使われていたのは明白です!」
「検察側の言い分は理解した。弁護側からの反論はあるか」
流石にさっきみたいな子供みたいな言い訳は通じないし、似ている人を探してくるのも無理だろう。打つ手は無いんじゃなかろうか。
そう思っていると、パンケは目を閉じて息を短く吐いた。そして、目を開くとはっきりとした口調で宣言する。
「弁護側の主張は変わりません。この写真の人物はザリオ・サンドとは別人であると主張します」
「では心当たりがある人物がいるという訳か?」
「はい!」
「分かった。3日だけ時間を与える。3日後の裁判までにその人物を証人として召喚するように」
「分かりました」
パンケが国王に向かって深々と頭を下げる。
3日という短い時間でそっくりさんを探してくるなんて無茶だ。パンケは何を考えているのだろうか。
「ホウリさん、どういうつもりなんでしょうか?」
「相手もそんな人物が見つかるとは思っていない筈だ。無意味に時間を稼いでるとは思えないし、何か企みがあると考えるのが普通だろう」
「企みってなんです?」
「俺の予想が正しければ、相手はまともに勝つつもりは全くない筈だ。この3日間は気が抜けないな」
ホウリさんはそう言うと黙りこくってしまった。恐らく、分かってはいるんだろうけど、それを話して相手に分かっていることを悟れると行動が変わる可能性があるのだろう。だったら、ホウリさんに全面的に任せた方がいいわね。
「そういえば、ホウリさん一ついいですか?」
「なんだ?」
「巨大なMP発射装置で王都を攻撃するというのは分かったんですけど、そんな膨大なMPってどこから持ってくるんですか?」
今の議論の論点は設計図を頼んだのがサンドか別の人物かだ。だが、装置がサンドの街にある事が認められたとしてもエネルギーであるMPが足りなければ意味が無い。魔石で賄おうにサンドにとっては値段が高すぎて買えないはずだ。仮に無理やり買ったとしても、1発で終わりだろう。
「それは弁護側も知ってますよね?わざわざ設計図の事で時間を稼がなくても、そこを突けば簡単に勝てるんじゃないですか?こちらもMPの調達方法までは分かってませんし」
「お、良いところに気が付いたな」
そう言うと、ホウリさんは私の頭をグシャグシャに撫でまわす。
「やめてください!せっかくセットした髪型が!」
「確かにそこを突けば勝てると普通は思うが、相手は触れてすらこない。その疑問の答えは相手にとっては弱点だからだ。話題に出ただけで負けが決まるほどにな」
私の抗議を無視して頭を撫でまわす手を止めないホウリさん。というか、相手にとっても弱点ってどういうことなんだろう?
「どういうことですか?」
「俺には切り札があり、相手の目的は裁判で勝つことじゃないって事だ。これは相手の時間稼ぎの理由でもある」
「意味が分からないんですけど?」
「俺からの宿題とでも思ってくれ。答え合わせは今後の裁判でな」
そう言うとホウリさんは私の頭から手を離した。私は乱れた髪型を整えながらホウリさんが言ったことの意味を考える。
つまり、相手はMPを大量に手に入れる手段があるけど、今は無いのかもしれない。そして、ホウリさんはそれの行方を知っていて、サンドから隠している。相手の目的は裁判に勝つことでないとしたら……
「あー!わかんない!」
「はっはっは、頑張って考えてみてくれよ」
結局、その日の裁判はそれ以上の進展がないまま終了したのだった。
ラビ・プレンとは新米の検察官である。親が優秀な検察官であったためラビ自身も検察官をなることを夢見ており、努力の甲斐あって王都の検察官になることが出来た。思考力は並みだが、とある能力は秀でており、それを察知したホウリが自身の補佐に選んだ。余談だが、検察内では初めの自己紹介の事からラビュという愛称で呼ばれており、その度に本人はラビと訂正している。─────Maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
裁判3日目、先日の脱税の容疑はこちらの主張に対して相手が反論出来なかった形になっている。先手はこちらが取ったといってもいいだろう。それにしても……
「……ひどかったなぁ」
「どうした?」
「いや、ホウリさんの裁判ひどかったなって思いまして」
「砂糖畑を麦畑にする悪人にかける情けは無い」
「砂糖畑を潰しただけで、あの追及は厳し過ぎると思うんですけど?」
「奴の罪の4割は砂糖畑だろ」
「思いっきり私怨が入ってますよね?」
畑をつぶした位で投獄は独裁者でもやらないと思う。
「まあ、昨日までの事は良いだろ。それよりも今日の事だ」
「国家転覆の方法についてですね」
国家転覆の方法を証明できない場合はこちらの負けが決まってしまう。今日が正念場といっても過言じゃないだろう。
弁護席にいるパンケもそれが分かっているのか昨日よりも表情が真剣だ。昨日の負けが相当悔しいんだろう。
「どうやって攻めるんですか?」
「まずは国家転覆の方法を提示して根拠を補足していく」
「ホウリさんらしくない普通な攻め方ですね」
「俺の事を何だと思っているんだ」
「ホウリさんだと思ってます」
昨日までは相手が予期しない所から全力で攻め抜いていたのに、今日は随分とおとなしい。もしかして別人なんじゃないだろうか。
「失礼な事考えてないか?」
「そんな事ないですよ?」
「本当かよ」
ホウリさんがジト目で私を睨んでくる。ホウリさんって勘も鋭いんですね。
私たちがコントみたいなやり取りをしていると国王が入ってきて裁判長席へと座る。
「これよりローブオ・サンドの国家転覆に関する裁判、3日目の審議に入る。検察側は本日の審議内容を申すがよい」
「本日の審議は国家転覆の手段についてです。検察は被告人が武力による国家の制圧を企てていたと主張します」
「では根拠を提示せよ」
「分かりました」
私は資料を取り出して国王へと提出する。国王に資料が行きわたった事を確認したホウリさんは資料を手に説明を始める。
「武力による制圧と言っても兵士や武器の数を揃えるのではなく、一つの大きな魔道具によるものでしょう」
「魔道具によるもの?」
「端的に言えばMP発射装置です。お手元の資料をご覧ください」
資料には精密な魔道具の設計図が載っている。一般人が見ただけじゃ何の魔道具かは分からないだろう。
「これは?」
「MP発射装置の設計図です。簡単に説明すると全長100mくらいの大きさの魔道具で、MP効率を極限まで高めて発射する魔道具です。最大出力であれば王都の城を跡形もなく破壊出来るでしょう」
「なるほど、この魔道具で王都を破壊してわし諸共、城を破壊する訳か」
「その通りです。城を破壊した後は各領地に投降するように呼び掛けるつもりでしょう。また、この2年で設計図に記載されている材料をサンドの街が購入していることも確認出来ています」
「異議あり!全て根拠のない憶測です!また、その設計図も検察側で捏造できる物であり、根拠としては不適切です!」
「異議を認める。検察側は設計図の出所を明示するように」
国王の言葉にパンケが勝ち誇ったようにこちらを見てくる。まるで、証人を連れてこられないことを確信しているかのようだ。
「ホウリさん」
「分かってる。相手もさすがに手を打ってるだろうよ」
ホウリさんの話を聞く限りだとパンケさんは手段を選ばずに勝ちに来るタイプみたいだし、書いた人が分かっても証言は期待できない。だとしたら、どうやって出所を証明するかが……
「検察側、出所を明示してください」
「おや?出来ないんですか?だったらこの話は終わりに───」
「分かりました、明示します」
「ほう?どうやって明示するんだ?」
「事前に申請していた証人の召喚を要求します」
「証人の召喚を許可します。10分間の休廷の後、証人の証言を聞きます。では、一時休廷」
国王が木槌を打ち鳴らして休廷を宣言する。
───10分後───
休廷が終わり、証言台にスーツを着たメガネの男が立つ。髪も七三分けにしていて一見すると身綺麗な印象を受けるが、手を抑えず欠伸をしたり頭を掻き毟ったりといった行動をとっている。とても国王様の前での態度とは思えない。
証人が証言台に立った事を確認し、木槌を打ち鳴らして再開の宣言をする。
「これより審議を再開する。証人は名前と職業を言うように」
証人はめんどくさそうに頭を掻きながら口を開く。
「えーっと、ミンティ・カモミル。発明家をしてます」
「ん?」
ミンティさんの自己紹介を聞いたパンケが首を捻る。何か気になる事でもあるのだろうか。
「では、検察側はミンティ・カモミルへの尋問を開始せよ」
「わかりました」
ホウリさんは軽くお辞儀するとミンティさんへ見えるように設計図を突き出す。
「単刀直入にお聞きします。この設計図はあなたが描いたものですか?」
「ああ、俺が2年位前に描いたものだ」
「…………まさかお前は発明家のミントか!?」
「そうだ。いつもはミントって名乗ってる」
「バカな!お前の名前はミンティ・ハムステッドだったはず!」
声を荒げるパンケにミンティさんが面倒くさそうに溜息を吐く。
「1週間前に結婚してラミスから名前貰った。今の俺はミンティ・カモミルだ」
「そんな事聞いていないぞ!」
「言いふらす事でもないだろう?」
「いや、でも……え?」
状況が飲み込めていないパンケを無視してホウリさんは尋問を再開する。
「2年前に設計図を描いたと言いましたが、誰に依頼されましたか?」
「さあな、名前までは覚えていない」
ミンティさんの言葉にパンケがあからさまにホッとした表情になる。すかさず、私は資料の中から1枚の写真を取り出してミンティさんの前へと置く。
「なんだこの写真?」
「質問を変えます。依頼したのはその写真の人でしたか?」
「……そうだ。この男だ」
「検察側はこちらにも写真を提出してください」
「分かりました」
裁判長に促されるまま私は写真を提出する。写真には1人の若い男が写っていた。
「この男は被告人の息子であるザリオ・サンドです。証人、この男で間違いないですか?」
「間違いない」
「い、異議あり!2年前の記憶です!他人の空似である可能性もあります!」
「それはないな」
パンケの異議をミンティさんが否定する。
「設計図を渡した奴は間違いないくこいつだ」
「何を根拠にそんな事!」
「設計図を渡した時に依頼人の写真を撮っていたからだ」
「は?」
「証人、その写真は今ありますか?」
「ある。絶対に忘れるなってラミスに念を押されたからな」
そう言うと、ミンティさんはアイテムボックスから写真を取り出す。そこにはミンティと話すザリオの姿が写っていた。
「国王、検察側はこの写真を証拠として提出します」
「受理する」
国王がミンティさんの写真とザリオの写真を見比べる。
「確かに同一人物だ」
「異議あり!都合よく写真を撮っていたのは不自然です!弁護側から写真を撮った理由を求めます!」
「異議を認めます。わざわざ依頼人の写真を撮るのは不自然です。証人は理由を述べなさい」
国王の言葉にミンティが欠伸を噛み殺しながら答える。
「3年位前に王都の憲兵から認識阻害スキルを無効化して撮れるカメラの作成依頼があった。作成は1年で終わったが認識阻害スキルを持っている奴が見つからずに動作テストが出来なかった。そこに認識阻害スキルを使って以来をしてきた奴がいたからこっそりテストをさせて貰ったという訳だ」
「確かに憲兵から3年前に証人へカメラの作成依頼をしており、2年前からカメラを捜査に導入しています。ザリオ。サンドは認識阻害スキルを持っていることは確認できていますし、証言の信憑性は高いでしょう」
「ふむ、それならば説明はつく」
裁判長が納得したように頷く。
それを見て不味いと思ったのか、パンケが立ち上がって叫ぶ。
「い、異議あり!この男はザリオ・サンドと似ていますが、別人である可能性があるのではないのでしょうか!」
「異議あり。それを言い始めたら証拠は意味を持ちません。認識障害スキルみたいなレアなスキルを持った顔が似ている奴がいるならば探し出してください」
「弁護側の異議を却下します。可能性を示すのであればその人物を探し出すがよい」
「くっ……。ミントぉ、貴様こんなことしてどうなるか分かっているのか?」
「は?どういうことだ?」
恨みの視線を向けるパンケをよく分かっていない目で見るミンティさん。
「ミンティさん、設計図を受け渡した時に何か言われませんでしたか?」
見かねたホウリさんが尋問という形で助け舟を出す。
ホウリさんの質問にミンティさんは顎に手を当てて考え始める。
「そういえば、『この事は誰にも言うな』って言われたな。『言ったらどうなるか分かってんだろうな?』とも言われた」
「お前、それどういう意味か分かってるのか?」
「さあ?興味ないからすぐに忘れた」
「お前なぁ……」
思わず素で話してしまうホウリさんに対し、マイページを貫くミンティさん。なるほど、口を封じているからどうにでもなると思っていたけど、ミンティさんがよく分かってなかったから意味が無かったのか。なんというか……敵ながら不憫に思ってきた。
ホウリさんは咳ばらいをすると尋問に戻る。
「とにかく、証人に対して明らかな脅しも行っていることから、設計図を犯罪に使おうとしていた事は明白です」
「明らかか?」
「……訂正します。証人には分からなかったですが、明らかに脅していました。犯罪に使われていたのは明白です!」
「検察側の言い分は理解した。弁護側からの反論はあるか」
流石にさっきみたいな子供みたいな言い訳は通じないし、似ている人を探してくるのも無理だろう。打つ手は無いんじゃなかろうか。
そう思っていると、パンケは目を閉じて息を短く吐いた。そして、目を開くとはっきりとした口調で宣言する。
「弁護側の主張は変わりません。この写真の人物はザリオ・サンドとは別人であると主張します」
「では心当たりがある人物がいるという訳か?」
「はい!」
「分かった。3日だけ時間を与える。3日後の裁判までにその人物を証人として召喚するように」
「分かりました」
パンケが国王に向かって深々と頭を下げる。
3日という短い時間でそっくりさんを探してくるなんて無茶だ。パンケは何を考えているのだろうか。
「ホウリさん、どういうつもりなんでしょうか?」
「相手もそんな人物が見つかるとは思っていない筈だ。無意味に時間を稼いでるとは思えないし、何か企みがあると考えるのが普通だろう」
「企みってなんです?」
「俺の予想が正しければ、相手はまともに勝つつもりは全くない筈だ。この3日間は気が抜けないな」
ホウリさんはそう言うと黙りこくってしまった。恐らく、分かってはいるんだろうけど、それを話して相手に分かっていることを悟れると行動が変わる可能性があるのだろう。だったら、ホウリさんに全面的に任せた方がいいわね。
「そういえば、ホウリさん一ついいですか?」
「なんだ?」
「巨大なMP発射装置で王都を攻撃するというのは分かったんですけど、そんな膨大なMPってどこから持ってくるんですか?」
今の議論の論点は設計図を頼んだのがサンドか別の人物かだ。だが、装置がサンドの街にある事が認められたとしてもエネルギーであるMPが足りなければ意味が無い。魔石で賄おうにサンドにとっては値段が高すぎて買えないはずだ。仮に無理やり買ったとしても、1発で終わりだろう。
「それは弁護側も知ってますよね?わざわざ設計図の事で時間を稼がなくても、そこを突けば簡単に勝てるんじゃないですか?こちらもMPの調達方法までは分かってませんし」
「お、良いところに気が付いたな」
そう言うと、ホウリさんは私の頭をグシャグシャに撫でまわす。
「やめてください!せっかくセットした髪型が!」
「確かにそこを突けば勝てると普通は思うが、相手は触れてすらこない。その疑問の答えは相手にとっては弱点だからだ。話題に出ただけで負けが決まるほどにな」
私の抗議を無視して頭を撫でまわす手を止めないホウリさん。というか、相手にとっても弱点ってどういうことなんだろう?
「どういうことですか?」
「俺には切り札があり、相手の目的は裁判で勝つことじゃないって事だ。これは相手の時間稼ぎの理由でもある」
「意味が分からないんですけど?」
「俺からの宿題とでも思ってくれ。答え合わせは今後の裁判でな」
そう言うとホウリさんは私の頭から手を離した。私は乱れた髪型を整えながらホウリさんが言ったことの意味を考える。
つまり、相手はMPを大量に手に入れる手段があるけど、今は無いのかもしれない。そして、ホウリさんはそれの行方を知っていて、サンドから隠している。相手の目的は裁判に勝つことでないとしたら……
「あー!わかんない!」
「はっはっは、頑張って考えてみてくれよ」
結局、その日の裁判はそれ以上の進展がないまま終了したのだった。
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すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
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