魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百三十九話 タカキも頑張ってたし

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 フランさんに連れられてやってきたのは、憲兵所にほど近い酒場「ルート」だった。
 憲兵所から近いという事もあり、仕事終わりにはここで飲む事も多い。割と安くて美味しいのだが、始めて行った時に私を未成年扱いした事はいまだに許していない。
 いつも通り酒場の扉を開き、騒がしい店の中へと入る。


「いらっしゃいませー。いつもありがとうございます。今日は3名ですか?」
「いや、今日は客として来ている訳じゃないんだ」


 スイトさんが憲兵手帳を店員さんに見せる。店員さんは少し驚いたような表情をしたが、店の奥へと案内してくれた。
 厨房を通りスタッフルームへと通される。


「店長はいるかのう?」
「呼んでくるので待っていて下さい」
「頼んだ」


 店員さんがスタッフルームを出ていく。
 そう言えば、私たちは証人が誰なのか聞いていない。呼び出した店長だろうか?
 待つ事数分、扉を開けて中年の男が入って来た。


「お待たせしました。店長のリーゼです」
「俺は憲兵のスイトだ」
「憲兵のラビです」
「フランじゃ」


 正確にはフランさんは憲兵じゃないけど、今は訂正しなくていいか。
 店長さんはフランさんの正面の席に座る。


「それで、私に要件があると聞きましたが?」
「以前、この店で毒物の混入事件があったじゃろ?」
「そうですね。結局は外部犯で犯人はまだ捕まっていないとか?」


 リーゼの言葉にフランさんは頷く。
 私もその事件については知っている。このお店のお酒に毒物が入っており、お客さんの一人が被害にあったのだ。
 憲兵の調査で内部での犯行ではないと結論付けられたが、未だに犯人は見つかっていない。
 フランさんが急に事件の話をしたのを疑問に思ったのか、リーゼさんが眉を顰める。


「その件は解決したのでは?」
「解決はしておらん。犯人が見つかっておらんからな」
「……もしかして、私を疑っているんですか?」


 リーゼさんがフランさんを睨みつけてくる。容疑が晴れた事件を蒸し返されているのだ。不審に思うのは当然だろう。
 リーゼさんの言葉にフランさんは焦ったように両手を振る。


「違う違う、わしはお主を疑っておる訳ではない」
「そうでしたか」


 フランさんの言葉にリーゼさんが胸を撫でおろす。そんなリーゼさんにフランさんは変わらぬ口調で話を続ける。


「わしはお主を疑っておらぬ。
「……へ?」


 フランさんの言葉にリーゼさんの表情が固まる。
 私達も衝撃の真実に思わずフランさんを見てしまう。


「ななななな何を言ってるんですか!?あれは外部の者の犯行なんでしょう!?」
「捜査を進めていく内に間違いだと分かってのう。お主が実行犯なんじゃろ?」
「い、いきなりやってきて犯人扱いとは失礼じゃないか!もうあなた達とは話す事はない!」


 怒ったリーゼさんは立ち上がってスタッフルームを出て行こうとする。だが、


「な!?なんだこれは!?」


 扉に伸ばした手が硬い壁によって阻まれる。よく見てみると、透明で薄い壁で扉の前は覆われている。これでは部屋を出ることは出来ないだろう。
 目を丸くしているリーゼさんにフランさんが変わらぬ調子で話す。


「お主何か勘違いしておらぬか?」
「な、何……?」
「わしはお主と話をしに来たのではない。お主を捕らえに来たんじゃ」


 瞬間、周りから無数の鎖が現れてリーゼさんに巻き付いて行く。不意を付かれたリーゼさんは体勢を崩して倒れ込む。
 フランさんは席を立つと、倒れたリーゼさんを見下ろすように立つ。


「お、俺は何もやっていない!無実だ!」


 リーゼさんが焦ったように大声を張り上げる。とはいえ、私達も初めて聞いた事実だ。どうすればいいのか全く分からない。
 リーゼさんの言葉を聞いたフランさんは座り込んでリーゼさんの顔を覗き込む。


「面倒じゃから簡単に説明するぞ?お主は毒を混入した後、仲間であるリンゴウに容器を渡した」
「で、でもそんな人物の目撃証言は無かったですよ?」
「透明化しとるんじゃから当たり前じゃ」
「透明化?」
「ああ。受け取り人の名前はチエリ。普段はカフェのウエイトレスをやっておる」


 フランさんが説明をしていくと、あれだけ喚いていたリーゼさんが大人しくなった。それどころか額に脂汗を流しながらブルブルと震えている。


「で、そやつが凶器の証拠である容器を店外に持っていた訳じゃが、なぜ他の客は気付かなかったのか」
「確かに透明化は完璧に消える訳じゃない。見えにくくなるだけだから他の客や店員が気付かないとは考えにくいな」
「答えは簡単、被害者以外は犯罪に加担していたからじゃ」
「あー、なるほどな」
「でも、それだったら透明化はいらなくないですか?」
「店に出るときに見つかる訳にはいかないじゃろ。まあ、そこはどうでもよい。なぜわしらがこんなに詳しい事情を知っていると思う?」


 フランさんがリーゼさんにニヤリと笑いかける。
 すると、リーゼさんの顔が青くなっていった。


「ま、まさか仲間の誰かが情報を?」
「酒屋を営んでいて毒を入れるなど、それだけの罪になるのう?どういう罪になるのか楽しみじゃな?」
「た、頼む……許してくれ……。俺は命令されてやっただけなんだ」
「減刑してほしいのか?」
「そ、そうだ」
「ならば知っている事を全部吐くんじゃな。例えば……誰がお主に依頼したのかとかのう?」
「それは……」
「言わぬか?お主は覚悟が出来ておるという事じゃな?」
「わ、分かった言う」


 こうしてリーゼさんは事の顛末を話し始めた。
 店の売り上げが落ちてお金に困った事。そんなときに領主であるリューレがお金と引き換えに店に毒を入れるように指示した事。断ったり憲兵に言ったら命は無いと脅された事。


「……これが俺が知っている事じゃ」
「よく分かりました。細かいことは署で聞きます」


 同情の余地はあるが、犯した罪はあまりにも大きい。心を鬼にして連行していこう。


「こいつは俺が連れていく。お前らは例の場所に行ってこい」
「分かりました」
「そうと決まれば行くぞ」


 パチンとフランさんが指を鳴らすと出口を覆っていた壁が消え去った。


「行くぞラビ。時間が無い」
「はい!」


 これでリューレを連行する証拠が出来た。後はリューレを連行して、大規模テロの情報を吐かせるだけだ。
 私とフランさんは酒場を出て馬車を止める。


「今、リューレはどこにおる?」
「出発までは自分の家にいるでしょう」


 馬車の運転手さんに住所を伝えて、急いで向かってもらう。
 その間に私は深呼吸して心を落ち着かせる。今から憲兵にとって長年の悲願だったリューレの逮捕が出来る。その事実が私の気を高ぶらせる。何度か深呼吸して心を落ち着けると、とある事を思い出した
 思い返せば、このテロを解決すればリューレが逮捕出来るのではないかと思ってた。けど、実際は逆でこのテロを解決するためにリューレを逮捕しなくてはいけない。これもホウリさんの情報があったから出来た事だ。


「フランさん、一つ聞いていいですか?」
「なんじゃ?」
「なんで最初に証人がいる場所を教えてくれなかったんですか?」
「ホウリの指示書に緊急時以外には教えるなと書いてあったんじゃよ」


 フランさんの言葉に私は首を傾げる。なんでホウリさんはそんな指示をしたのだろうか?


「ホウリが王都に来てから犯罪率は半数以下まで下がった。しかし、ホウリがいなくなれば犯罪率は元の2倍近くにまで跳ね上がるじゃろう」
「……ホウリさんが抑止力になっているからですか?」
「そう言う事じゃ。ホウリは自分がいなくなってもお主らだけで何とか出来るように鍛えるつもりみたいじゃ。今回もそれの一環みたいじゃぞ?」
「……そうでしたか」


 ホウリさんはホウリさんの考えがあるんだ。本当に尊敬する。


「私もホウリさんの期待に応えられるように頑張らないといけませんね」
「お主は出来ることを一つずつやればよい。今はリューレの確保じゃな」
「はい、頑張ります」


 私が拳を握って気合を入れているとフランさんが何かを思い出したように手を打った。


「そうじゃ、忘れておったな」
「何か忘れ物ですか?」
「お主にバフを掛けておこうと思っておったんじゃが、完全に忘れておってのう」
「私にバフ?」


 フランさんは私に手のひらを向ける。すると、私の体が七色のオーラに包まれた。
 力が体の奥から溢れてくるみたいだ。今ならフランさん以外には負けない、そう直感出来る。


「な、何をしたんですか?」
「お主のステータスを一時的に+1000し、異常状態の耐性を付与した。今のお主は闘技大会で優勝出来るだけの力を持っておる」
「そ、それって下手したら死人が出るんじゃ?」
「峰打ちのスキルもお主の体に付与したから心配ない。殴られた者はすっごく痛いと思うが死ぬことはないじゃろう」
「なるほど。今から敵地ですし備えは必要ですね」
「うーむ、その言い方は正しくないのう?」
「?、どういう事ですか?」
「外を見てみい」


 フランさんに言われるがまま外を見てみる。別に変わった景色は写って……


「あれ?目的地と反対方向じゃないですか?なんで?」
「そんなの決まっておるじゃろ」


 フランさんが前を、正確には運転している馭者を指さす。


「こやつがリューレの間者だからじゃ」


 瞬間、馬が暴れだして馬車がそのままひっくり返った。


「キャアアアア!」


 馬車が縦型の洗濯機のように周り、私は洗濯物のように馬車の中に叩きつけられる。
 フランさんのバフのおかげでダメージは無いけど、思いっきり目を回してしまう。


「うえ……気持ち悪い」


 横転している馬車の扉をなんとか開けて外に這い出る。肩で息をしながら外を見ると、いつの間にかフランさんが脱出していた。ここは、どこかの郊外かな?
 馬車の周りを黒い服を着て武器を構えた人達が取り囲んでいる。


「……ここで消えてもらう」
「はっ!ただの暗殺者がわしを殺せるか」


 暗殺者の言葉をフランさんが一笑する。そんな中で私も何とか馬車の外へと出て立ち上がった。


「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」


 フラフラと立ちあがっている私を見てフランさんが心配そうにする。目が回っているだけだし、しばらくすれば治るだろう。


「お主が大丈夫ならば一つ頼みがあるんじゃがいいか?」
「なんですか?」
「こやつらの相手をお主に任せたい」
「……へ?フランさんがやった方が早いんじゃないですか?」
「そうなんじゃが、リューレがもの凄い勢いでとある場所に向かって追ってな」
「とある場所?」
「ギルド本部じゃ」
「ギルド本部……魔方陣での移動?」
「そうじゃな。恐らく、わしらが情報を得た事がバレて早めに逃亡することにしたんじゃろう」


 となれば、フランさんには一刻も早くリューレを追ってもらった方がいい。


「い、いくらフランさんのバフがあったとしても私には荷が重いんじゃ……」
「そういう訳じゃから頼んだぞ」
「え、ちょっ!」


 私が止める間もなくフランさんの姿が薄くなっていった。
 私は恐る恐る周り見てみると、目をギラギラしている暗殺者たちが私を取り囲んでいた。
 寒気で寒かったけど、今の状況でかなり体が寒くなって来た。芯から冷えてくる感覚だ。
 

「うう、こんなの無理だよぉ……」


 私が弱音を吐いている間にも暗殺者たちはジリジリと私に近付いてくる。こうなったら見様見真似でもやるしかない!
 暗殺者が私に向かって走りながらナイフを突き出してくる。
 私はスイトさんのようにファイティングポーズを取って迎え撃とうとする。大丈夫、フランさんのバフがあれば絶対に勝て───


「…………ふっ!」


 あ、ダメだこれ。強くなってもナイフはめっちゃ怖い。


「嫌ぁ!」


 私は思わず顔を手で覆い、ダメージを覚悟する。しかし、いつまで経っても何の衝撃が来る事は無かった。
 少しずつ目を開けて確認してみると衝撃的な光景が広がっていた。ナイフは私の手の平に突き立てられていた。しかし、ナイフは手の平の皮すら切れていない。
 衝撃的だったのは暗殺者にとっても同じだった見たいで、フードの奥の目が丸くなっている。
 だけど、そこはプロの暗殺者と言った所か。すぐに再びナイフを振り上げた。


「キャア!!」


 私は思わず暗殺者の頬にビンタをする。瞬間、暗殺者は頭から数mは吹き飛んで地面へと倒れ込んだ。
 恐る恐る近付いてみると、暗殺者は白目を剥いて気絶していた。


「こ、これがフランさんの力……」


 これを見ると闘技大会で優勝出来るというフランさんの言葉も頷ける。
 周りを見てみると他の暗殺者も動揺したように武器を触っている。その中の一人が私に向かって走って来る。


「…………はっ!」


 私の首筋に向かってナイフを突き出してくる。ここは防御せずに攻撃を当てる事だけ考えよう。


「え、えいや!」


 自分でも弱そうと思う程にヘロヘロなパンチ。いつもなら木の板すら割れないだろう拳が暗殺者のお腹に吸い込まれる。
 拳は暗殺者を捕らえると、さっきの倍の距離吹き飛ばした。


「これなら何とかなるかも……」


 自分の右こぶしを左手で包み込む。フランさん曰く、峰打ちのスキルがあるからやり過ぎる事はない筈だ。


「よし!頑張ろう!」


 声に出してやる気を出していると、視野の右端から何かが飛んでくるのが見えた。なんだろうと拳を構えて右を向くと、何かが私の胸に当たって地面に落ちた。何かと思って拾ってみると、それは矢だった。
 自分の胸を見てみると、スーツに小さく穴が開いている。ここでようやく矢で射られたという事が分かった。
 矢が飛んできた方を見てみると、弓を構えている暗殺者がいた。


「暗殺者ってナイフ以外の武器も使うんだ」


 呑気にそう思いながら、弓を持っている暗殺者を見据える。余裕が出て来た証拠だ。
 とりあえず、走ってお腹にパンチして気絶させよう。万が一、流れ矢が一般の人に当たったら大変だしね。
 私は全力疾走っていつぶりだっけ?と思いながら走り出す。そう、私は忘れていたフランさんは+1000


「ちょ!ええ!」


 私が駆け出した瞬間、とんでもないスピードで暗殺者に突っ込んだ。結果、当初のパンチで気絶させるという計画はどこへやら、猛スピードで暗殺者にタックルすることになった。


「止まってぇぇぇぇ!」


 なんとかブレーキを掛けて止まろうと頑張る。その結果、派手に転んで顔から地面に倒れ込んだ。


「痛……くはないけど、びっくりしたー」


 起き上がって暗殺者の行方を見てみると、1人目よりも数倍は吹き飛んでいた。ぐったりとしているけど、あれ本当に生きてるの?心配になって駆け寄って脈を診てみる。
 よかった、少し弱いけど脈はある。死んではいないみたいだ。


「さて、後は何人いるかな?」


 私が暗殺者たちに視線を向けると、少し動きが鈍いけど闘志は失っていないみたいだ。
 丁度いい、この人達は全員私が捕まえる。人を簡単に殺す人達が野放しになってい筈はないんだ!そう強く思った私は暗殺者たちに向かって駆け出す。
 結局、この戦いで私が負った被害は来ていたスーツへのダメージだけだった。
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