魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百四十話 俺の答えはこれや!

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 暗殺者との戦いを終えた私は苦労しながら憲兵所に戻って来た。敏捷性が上がり過ぎて速さの制御が難しかったのだ。
 急ごうと走ると壁に激突するし、歩くと遅いしかなり気を使って移動することになった。
 憲兵所に来た私はフランさんが来ていないか聞く事にした。


「すみません、さっき小柄で赤髪でツインテールの女の子が誰か連行してきませんでしたか?」
「さっきリューレを連れて来た子の事かい?取り調べ室に連行していったけど……」
「ありがとうございます」


 私は走りたい気持ちをグッと堪えて歩いて取調室に向かう。
 取り調べ室の前に立った私は大きな声で中に呼びかける。


「すみませーん!開けてくださーい!」


 待つ事数秒、取り調べ室からスイトさんが出て来た。


「おお、ラビュじゃねえか」
「あれ?スイトさん戻ってたんですか?あと、私はラビです」
「さっきリーゼの奴を連行したんだが、それと同じタイミングでフランがリューレを連行してきてな」
「なるほど」


 フランさんはとんでも無い速さでリューレを確保したみたいだ。流石という他ない。
 私が納得していると、スイトさんが私を見て首を傾げているのに気が付く。


「どうかしました?」
「お前、すっごいボロボロな格好だな」
「あー、これには色々な事情がありまして……」


 私の来ていたスーツは所々穴が開いていたり破けている。持っていた布やテープで応急処置はしてあるが、所々から肌や下着が見えているから正直恥ずかしい。


「先に着替えてきたらどうだ?」
「いえ、まずはフランさんに合わせてください」
「分かった。奥にいるぞ」
「失礼します」


 取り調べ室は取り調べを行う部屋と、それを他の憲兵が見られる部屋に分かれている。フランさんはマジックミラー越しに取り調べを眺めていた。


「フランさん」
「ラビか。どうじゃった?」
「フランさんのおかけでケガ無く勝てました」
「それは良かったのう」
「それが勝つには勝てたんですが……」
「何かあったのか?」


 私はコインを取り出して軽く力を込めてみる。すると、コインが飴細工のように容易く曲がった。
 それを見たスイトさんが感嘆の声を上げる。


「おおー、ラビュって結構力持ちなんだな」
「そんな訳ないですよね?あと、私はラビです」


 こんな力があったらサンドに乗り込んだ時にあんなに苦労していない。
 フランさんは曲がったコインを見てやってしまったというように頭を掻く。


「そう言えばバフがかかっておったな。忘れておったわい」
「忘れないでくださいよ。これのせいで服を縫おうにも針が折れるんですよ。走ろうにもスピード出すぎて困りますし」


 馬車に乗ろうにも壊してしまう可能性があって乗れなかったし、走る事も出来なかった。焦った私は建物の屋根の上を飛び移っていく事で移動してきた訳だ。
 多分、何人かに目撃されて騒がれているだろうけど、背に腹は代えられない。


「このバフってどのくらい続くんですか?」
「2時間くらいじゃな」
「後1時間くらいですか。長いですね」
「わしが解除しよう。手を貸せ」


 言われるがままフランさんに手を差し出す。
 私の手をニギニギしたりジッと見つめたりして得意気に微笑んだ。


「どうですか?」
「なぜか分からんがバフが解けん」
「は?」


 自信満々の表情とは裏腹にフランさんの口から失敗を告げられる。
 私は動揺しながらも思考を働かせる。


「えーっと、つまりはどういうことですか?」
「本来であればバフは時間経過か付与者が操作すれば解くことが出来る」
「だが、今は解くことが出来ないと?」


 スイトさんの質問にフランさんが頷く。……え?私ずっとこのままなの?


「ちょ、ちょっと!なんとかならないんですか!?」
「今は無理じゃな。ホウリに知恵を借りれば何とかなるかもしれんが、それも望みは薄いじゃろうな」
「そんな……」


 バフが永続的に続くなんて聞いた事が無い。なんでこんな事になったんだろう……。


「……どうにもならないんですか?」
「無い事も無い」
「本当ですか!?」


 焦っている私の目の前にフランさんが腕輪を2つ差し出してくる。
 腕輪を手に取って見てみると、透き通った黄色を帯びた腕輪だった。特に変わった所は見られない。


「これは何ですか?」
「攻撃力と敏捷性を半分にする腕輪じゃ。2つ付ければ何とかなるじゃろう」
「ありがとうございます」


 早速、受け取った腕輪を付けてみる。すると、溢れていた力が急激に萎んでいくのを感じた。
 試しにコインを持って力を入れてみるが、さっきよりは曲げにくい。これなら捜査に支障はなさそうだ。


「どうじゃ?」
「なんとかなりそうです」
「ならばよい。おまけで服も直しておいてやろう」


 フランさんが私のスーツを一撫ですると、破れていた箇所が瞬く間に塞がった。着替えたり縫ったりする時間が惜しかったからかなり助かった。


「それで、リューレは何か喋りましたか?」
「何も喋っていない。当たり前と言えば当たり前だがな」


 気になった私は取調室を見てみる。


「さっさと吐け!どこに爆薬を仕掛けた!」
「………………」


 そこには必死に喋っている検察とそっぽを向いて喋ろうとしないリューレがいた。


「これは厄介ですね」
「こちらが焦っているのが丸分かりじゃからな」


 このまま黙ったままだと被害が大きくなる。なんとか情報を引き出さないと……。
 私が何も出来ずに焦っていると、取り調べ室の扉が開いて誰かが入って来た。


「おーい、状況はどうだ?」
「ビタルさん。どうかしたんですか?」
「リューレが確保されたと聞いてな。様子を見に来たんだが……苦戦しているようだな」


 ビタルさんが取り調べを見て渋い顔をする。


「さっきからあの調子だ。何を聞いても答えやしねえ」
「状況は分かった。俺の出番だな」


 ビタルさんがメガネをクイッと上げると取調室への扉に手を掛ける。しかし、その手をフランさんが抑える。
 フランさんに遮られたビタルさんは怪訝そうな顔をした。


「何か用か?」
「わしが念話を使える。何か聞きたい事があればそれで伝えよう」
「分かった。他には何かあるか?」
「無い。あれば念話で伝える」


 一通りフランさんの話を聞いたビタルさんは取調室に入っていった。
 先に取調室にいた検察はビタルさんに気が付くと、ビックリしたように立ち上がった。


「お、お疲れ様です!」
「取り調べは俺がやる。お前は捜査に戻れ」
「分かりました!」


 検察は取調室を出て私たちに会釈すると、そのまま廊下へと出ていった。
 取調室には目つきが鋭いビタルさんとやる気がなさそうに空を見つめているリューレが残った。
 その光景を見た私の中に一つの疑問が沸き出て来た。


「そういえば、ビタルさんが取り調べするんですね。なんだか意外です」
「ビタルは心理学に長けているんだぞ?」
「え?そうなんですか?」
「ああ。心理学だけで言えば俺以上の知識があるからな。一目見れば嘘を吐いているかくらいは分かるだろうよ」
「もしかして、ホウリさんに勝てたりします?」
「いい勝負はするかもな」


 真顔でスイトさんが言いきる。冗談で聞いたつもりだったのに意外な答えだ。
 私は勉強するつもりで、ビタルさんの取り調べを見守る。
 重苦しい沈黙の中、先に口を開いたのはスイトさんだった。


「……趣味はなんだ?」
「は?」


 ビタルさんの言葉にリューレがポカンと口を開ける。というか、私もポカンと口を開けている。
 今って取り調べの最中だよね?なんで話すことが無いお見合いみたいな話題の振り方をしているの?
 思わずスイトさんの方を見ると、特に驚いた様子もなく取り調べを眺めていた。これがビタルさんの普通なのかな?
 リューレは少し警戒した様子だったが、不愛想に話し始めた。


「演劇を少々」
「何の演目が好きだ?」
「…………『……じょっこ……ゃん』とかだ」
「すまない、聞こえなかった。もう一度言ってくれるか?」


 しかし、リューレはそれっきり口を閉ざした。ビタルさんが首を捻っているがリューレは話そうとしない。
 しかし、フランさんだけはニヤニヤと笑っている。どうやら聞こえてみたいだ。


「リューレはなんて言ってたんですか?」
「『魔女っ子ぷりにゃん』じゃよ。漫画も人気じゃが、劇も漫画の再現度が高く人気なんじゃ」
「詳しいな?」
「漫画も劇もどっちも好きじゃからな。劇は全公演を網羅しておるぞ」


 フランさんがまたニヤニヤと笑う。これ見たことある、自分が好きな物を語れる時の笑顔だ。
 

「さて、ここからはわしの出番じゃな」


 フランさんは右耳に手を当てて念話を使う。手を当てなくても使えるみたいだけど、気分の問題らしい。


『ビタルや。聞こえておるか?』
『聞こえている。何かあったか?』
『奴の呟きが聞こえた。奴は魔女っ娘ぷりにゃんが好きらしい』
『魔女っ娘ぷりにゃん?』
『お主、魔女っ娘ぷりにゃんを知らぬのか!?』


 どうやらビタルさんは魔女っ娘ぷりにゃんを知らないらしい。そう言う私も名前しか知らないけど。


『人国が出来た時からある作品じゃぞ!?お主らはどうやって生きて来たんじゃ!?』
『私は勉強を頑張ってました』
『俺も勉強してた』
『俺はスイトの面倒を見ていた』
『それは勿体ないのう。……分かった。今度漫画を全巻持って来てやろう』
『いえ、結構です』
『遠慮するでない。全ての魔女っ娘ぷりにゃんを履修したわしに任せておけ』
『遠慮している訳じゃないんですが……』


 ダメだ、フランさんが語りたくてウズウズしている。こうなると止まらないだろう。


『のう、わしも取調室に入っていいか?』
『良い訳ないですよね?ここに入っているのだってギリギリですよ?』


 取り調べは憲兵しか行ってはいけない。こんなの常識だ。ここで許可なんて出る訳が……


『良いぞ』
『ビタルさん!?』


 フランさんは驚いている私には目もくれず、一目散に取調室に入っていく。


「誰だ?」
「話は聞かせて貰った!お主もぷりにゃんのファンなのじゃな!」


 一瞬警戒した様子のリューレだったが、フランさんの口からぷりにゃんの言葉が出ると、途端に笑顔になった。


「貴様もぷりにゃんを?」
「漫画から演劇まで履修しておる」
「……本当か?」


 楽しそうなリューレだったが、取り調べ中である事を思い出すと表情を引き締めた。多分、フランさんが無理に話を合わせようとしていると思っているんだろう。


「本当じゃよ」
「ならば質問だ。お前の好きなキャラクターは誰だ?」


 質問したリューレは目を鋭くして答えを待つ。ここで答えを間違えたらリューレは再び黙りこくるだろう。そうなれば二度と口を開いてくれないかもしれない。
 私は固唾を飲んでフランさんを見守る。


「わしが好きなキャラクター?ぷりにゃん(アルティメットフォーム)じゃな」
「……同志よ!」


 リューレとフランさんがガッチリと硬い握手を交わす。よく分からないけど認められたみたいだ。


「ここでぷりにゃんでも仲間や敵でもなくアルティメットフォームを出してくるとは、貴様やるな?」
「当たり前じゃ。それまでの集大成ともいえるキャラじゃぞ?嫌いな奴を見つける方が難しいわ」
「ちなみに、漫画版と演劇版のどちらが良かった?」
「あー、難しいのう。どちらもそれぞれの良さがあるからのう」


 いつの間にかビタルさんが席を立っており、空いた席にフランさんが座る。
 そのままフランさんとリューレは熱いぷりにゃん談議を交わす。正直、何を言っているのか私にはよく分からない。
 2人が語り合っている中、ビタルさんが音を立てないように取調室をから出て来た。


「よう、お疲れさん」
「まだ終わってない。気を抜くなバカ」


 ビタルさんが油断なく取調室に視線を向ける。
 取調室では変わらずフランさんとリューレがぷりにゃん談議に花を咲かせている。
 油断なくリューレの言動を見ているビタルさんに、私は一つの疑問を投げかける。


「なんでフランさんに取り調べを許可したんですか?」
「趣味が合う奴の方がリューレも話しやすいだろう。話をしていけば何かボロを出すかもしれない」
「そんなに簡単にいきます?」
「まあ見てろ」


 ビタルさんの言葉だから信用したいけど、フランさんに任せるのは不安な所がある。


「スイトさん、大丈夫でしょうか?」
「ビタルがそう判断したんだったら大丈夫じゃねえか?」


 先輩2人がそう言うのならば私も信じよう。けど、嫌な予感が止まらないんだけど、なんでだろう?


「ならば、あの公演はみたか?第6期、願いの奇跡」
「おお、あの公演はいつにも増して凄かったのう。演出もそうじゃが役者の演技も白熱しておった。何より脚本の作り込みが半端なかったわい」


 話はいつの間にか演劇の話になっている。どちらもかなり楽しそうで、まるで友人と話をしているみたいだ。


「お主は第6期が好きなんじゃな」
「そうだな。古い作品だがリメイクを見てファンになった。しかも、アレは他の公演とは決定的に違う所がある」
「なんじゃ?」
「ぷりにゃんが本物なんだ」


 リューレの言葉に私は首を捻る。本物ってどういう事だろうか?
 フランさんなら分かるかと思ったが、フランさんも首を捻っている。どうやらファンの間での共通認識ではないみたいだ。


「どういう事じゃ?」
「他の公演はぷりにゃん役の女優がやっている。しかし、その公演だけはぷりにゃん本人だったんだよ」
「……ああ。確かにあの公演だけは漫画から出て来たかと思うほどに嵌り役だったのう」
「だろ?だから俺は思ったんだよ。あれは現実世界に出て来たぷりにゃん本人じゃないかってな」
「あー、なるほどのう」


 真剣な表情のリューレにフランさんの顔が初めて引きつる。
 だけど、咳払いを一つするとすぐに元の調子に戻って話し始めた。


「そう思うのも無理はない程じゃったな」
「だから、公演が終わった後に思い切ってぷりにゃんに告白したんだ」
「……ん?」


 リューレの言葉が一瞬理解できなかった。
 それはフランさんも同じみたいで再び顔をひきつらせている。


「えーっと、ぷりにゃんに告白?」
「そうだ。公演が終わった後に花束を持って会いにいったんだ」
「それで花束を渡しながら告白を?」
「ああ。僕と結婚してくださいってな」


 まって、それって女優さんにキャラクターに似ているから結婚してくれって言ったって事?それってどうなの?


「結果は?」
「……断られた」


 リューレが唇を噛みながら忌々し気に顔を伏せる。
 失礼かもしれないけど、知らない人から突然プロポーズされて断るのは当たり前だと思う。
 ここにいる全員がドン引きしている中、リューレが怒りを込めた様子で話し始める。


「人の心を込めたプロポーズを『無理です』の一言だけだったんだぞ?信じられるか?」
「それはひどいのう」


 フランさんはリューレの話を聞きながら、話を合わせていく。それを見たビタルさんが耳に手を当てる。
 フランさんがこちらをちらりと見ると、頭の中にフランさんの声が響いてきた。


『なんじゃ?』
『リューレにとある事を聞いてくれ』


 フランさんはビタルさんの指示を受けて、リューレさんにとある質問をする。


「それがお主が邪教に入った理由か?」
「ああそうだ」


 フランさんの質問にリューレが頷く。


「俺はぷりにゃんの為に出来ることをしてきた。それなのに俺の気持ちは踏みにじられた」
「ぷりにゃんに復讐するために邪教に入ったのか?」
「違う、ぷりにゃんは悪くない」
「そうなのか?」


 フラれたのが邪教に入った理由じゃない?


「ぷりにゃんにフラれたら怒りで邪教に入って復讐しようとしても可笑しくないがのう?そうではないのか?」
「ああ、とある人から教えを受けたんだ。あなたがフラれたのはぷりにゃんのせいじゃない、世の中が悪いのだと」
「ああ、なるほどのう。だから邪教に入って同時多発テロを起こした訳じゃな」
「そうだ。この世界を壊して新たな世界を作る。そうすればぷりにゃんは俺に振り向いてくれるんだ」


 リューレが目を血走らせながら熱弁する。
 それを見たフランさんが顎に手をおいて何かを考える。


「……なるほど、お主のぷりにゃん熱は相当じゃな」
「お前も相当のぷりにゃんファンだな」
「そんなお主に会わせたい者がおる」
「会わせたい者?」
「ちょっと待っとれ」


 そう言うとフランさんは取調室から出てくる。
 フランさんはテーブルに座るとコップを出してジュースを注ぐ。


「ふー、少々話し過ぎたわい」
「いやいや、仕事終わったみたいな感じ出さないで下さいよ。ただ、ぷりにゃんの話をしてただけじゃないですか」
「動機は分かったが、今はあまり役に立たないな」
「会わせたい者がいると言っていたが誰の事だ?」
「ちょっと待たんかい。一度に話しかけるでない」


 フランさんはジュースを呷ると、フーッと息を吐く。


「で、会わせたい者じゃったか?」
「ああ、誰なんだよ」
「ぷりにゃんに決まっておるじゃろ」
「ぷりにゃんって実在しないんだろ?」
「これを見てもそれが言えるかのう?」


 フランさんはジュースを飲みつつ、一冊の本を取り出す。
 そこには杖を持ったキラキラした衣装を着ている女の子のイラストがあった。タイトルには魔女っ娘ぷりにゃんと書かれている。


「これが魔女っ娘ぷりにゃんですか。ですが、これが何なんですか?」


 私が不思議そうに顔を傾げると、周りの皆が驚いたように私の顔を見ていた。


「な、なんですか?」
「いや、これってどう見てもラビュだろ?」
「俺もそう思う」
「いやいや、そんな訳ある訳ないじゃないですか。後、私はラビです」


 いつものやり取りをしつつ、改めてイラストを見てみるが私に似ているとは思えない。
 いまだに首を捻っている私にフランさんが1枚の紙を渡される。それは私の写真だった。箒を握っている写真でフランさんに1枚撮らせてくれと言われたが、その時の写真だと思う。イラストの女の子と似たようなポーズだ。


「これが何か?」
「ぷりにゃんと見比べてみい」


 言われた通りぷりにゃんと私の写真を見比べてみる。


「特に似てないじゃないですか。顔と背格好とポーズと雰囲気が似ているだけじゃないですか」
「逆にどこが似てないんだ」
「初めてあった時に動揺で頭が真っ白になったわ。話に出て来ていた女優より似ておる」
「え?そうなんですか?」


 まったく気が付かなかった。まあ、あの時はホウリさんが大変だったししょうがないかもしれない。
 とはいえ、私がぷりにゃんに似ている(らしい)事が分かった。


「で、それがなんですか?」
「…………」(ニッコリ)


 私の質問にフランさんが優しく笑った。


☆   ☆   ☆   ☆


「これ絶対におかしいですよね!」


 来ている服を抑えながら私は絶叫する。
 ぷりにゃんと私を見比べてスイトさんが大笑いする。


「あっはっは!本当に似てるな!」
「……大丈夫だ……似合っているぞ……ぷっ」
「何笑ってるんですか!」


 堪えきれずに噴き出したビタルさんに思わず怒鳴る。仮にも部署内での最高責任者に怒鳴ってしまったけどそんな事関係ない。


「なんで私がぷりにゃんの格好をしてるんですか!」
「ぷりにゃんの言葉ならばリューレも聞くじゃろう。お主も納得しておったじゃろ?」
「そうですけど、実際にやるとかなり恥ずかしいですよ!」
「これしか手段が無いから仕方ない。それとも何か他に案があるのか?」
「それは無いですけど……」


 これが一番の方法だと分かっているから強く反対が出来ないのだ。
 

「ならばやるしかないだろう?」
「他人事と思って……」
「恨み事を言う前にやる事があるじゃろ」
「やる事?」
「ぷりにゃんの設定を軽くで良いから覚えよ。わしが念話で指示するとはいえ、知識が0では話にならんじゃろ」
「……そうですね」


 フランさんから基本的なぷりにゃんの設定を聞く。
 ぷりにゃんは悪の組織から人々を守る魔法少女だ。ちなみに、長く続いているシリーズという事もあり、ぷりにゃんは襲名性になっているらしい。今のぷりにゃんは20代目だとか。
 私がやるのは12代目のぷりにゃん。穏やかだけど熱い正義感を帯びているキャラクターだ。
 あとは口調とかの細かい所を教えてもらう。


「…………こんな所じゃな」
「なんとなく分かりました」
「本当であれば漫画は全巻見て欲しいんじゃがな」
「時間が無いのでそれは勘弁してください」


 冗談とも本気ともとらえられる言葉に私は曖昧に笑う。


「基本的に言動はわしが指示するが、油断はするでないぞ?」
「わ、わかりました」


 私はペチペチと頬を叩いて気合を入れる。
 

「よし、行ってこい」
「行ってきます」


 意を決して私は取調室の扉を開ける。
 すると、つまらなそうに待っていたリューレが私を見て目を見開いた。


「ぷぷぷぷぷりにゃん!?」


 私はフランさんに指導された決めセリフを思い出しながらステッキを構える。


「リューレ君、初めまして!私はぷりにゃん!あなたのハートは私が守る!」
「ほほほほ本物だ!公演で見た時よりも本物だ!」


 ポーズを決めるとリューレがパチパチと拍手をする。
 拍手が終わるとリューレはキラキラした視線を私に向けてくる。


「ぷりにゃん、なんでここに?」
「えっと、フランさ……フランちゃんに呼ばれてきたの」
「そんな……だったら俺が告白したのは?」
「私の代わりにお芝居してくれる人だね。ごめんね、私が勘違いさせちゃったみたいで……」
「ううん!俺が早とちりしただけだ!ぷりにゃんは悪くない!」
「ありがと。優しいんだね」


 私はリューレの手を握る。すると、リューレの頬が赤く染まった。


「あ、あの……俺とその……」


 リューレは何かを伝えようと口をもごもごとさせてる。恐らく、また告白しようとしているんだろう。
 そんなリューレの唇を私の人差し指で押さえる。


「リューレ君の気持ちは分かってるよ。でも、私は皆のぷりにゃんだから……」
「ぷりにゃん……」


 リューレは悲しそうに眼を伏せる。悪人だけど騙している訳だし心が痛む。けど、やらないと王都の皆が被害にあう。
 私は心を鬼にしながら言葉を続ける。


「でも、もしも来世っていう物があるなら……その時は……」


 私はリューレに手を差し出す。


「私と生きてくれる?」
「それは、宿敵で幼馴染のマカラと決戦後のセリフ……」


 リューレは私の手を見つめていると突然泣き始めた。
 そして、涙で顔をぬらしながら私の手を取る。


「私の罪が無くなったら……その時はぜひ」
「……待ってるね」


 私は泣いているリューレを優しく抱きしめる。


「私は行かなくちゃいけないけど大丈夫?」
「大丈夫。一人で前に進めるよ。でも、挫けそうになった時は……」
「私が駆け付けてあげる」
「……ありがとう」


 リューレが泣き止むのを待って、私はリューレから離れる。


「またね」


 軽く手を振って持っていたステッキを高く掲げる。すると、杖から光があふれ出し思わず目を瞑ってしまう。
 次に目を開けた瞬間、私は取調室の外にいた。


「お疲れじゃ。中々良かったぞ?ぷりにゃん専属女優でも十分やっていけるのではないか?」
「謹んで辞退します」
「というか、なんだあれ?」
「ぷりにゃんのラストシーンじゃ。マカラは今までの罪を償い、来世でぷりにゃんと仲良く暮らす事を誓うんじゃよ。今の奴ならば何を聞いても答えるじゃろうよ」
「だったら早速取り調べを再開しないとですね」


 これでテロの情報が手に入るだろう。ここまで長かった。
 私は着ている服を摘まんでフランさんに質問する。


「これ着替えていいですか?暑くて仕方ないんですよ」
「何終わった気でいるんじゃ?」
「え?まだ何かあるんですか?」


 忘れているだけでまだ何かあっただろうか?
 私が首を傾げていると、フランさんがカメラを取り出して真剣な表情になる。


「わしとのツーショットがまだじゃろ」
「は?」
「本物とのぷりにゃんとのツーショット、逃す手はあるまい」
「お、いいな。俺とも撮ってくれよぷりにゃん」
「せっかくだから俺とも撮って欲しいな、ぷりにゃん?」
「……わかりましたよ!こうなればヤケです!」


 こうして、急遽ぷりにゃんとの写真撮影会が始まったのだった。
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