魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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外伝 500人の異世界開拓記録 その4

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 俺達はエルフの子を連れて村まで戻って来た。戻る間のエルフの子はというと、ずっと飛鳥にべったりだった。
 無言で腰にしがみ付いているエルフの子に飛鳥は動きにくそうにしながらも、顔を赤くして照れている。


「ぐぬぬぬ……妬ましい……」


 その隣では剛がハンカチを噛みながらキーッってしてる。エルフの子は気付いていないのか無表情で飛鳥にしがみ付いている。なつかれたんだろうか?


「ちゃんと警戒しておきなさい。魔物はそこら中にいるのよ」
「す、すまぬでござる真美殿」


 真美の言う通り、ここは異世界で魔物がそこら中にいる。一つの油断で全滅することだってある。警戒するに越した事は無いだろう。
 魔物を倒したりやり過ごしたりしながら、俺達は村に戻って来る事が出来た。


「ここが俺達の村だ。って言っても分からないか」


 そもそも、言葉を使っているかも分からない。どういう言葉か分かればコミュニケーションを取れるんだがな。


「私は捕れた獲物を燻製にして食糧庫に仕舞ってくるわ」
「分かった。俺達はこの子を執務室に連れていくか」
「そうでござるな」


 俺達は枯れ葉を踏みしめつつ、執務室まで移動する。
 執務室の扉を開けると、俺は椅子に座り込む。


「やっと帰ってこれた~」
「そうでござるな~」
「死ぬかと思ったですぞ~」
「今お水持ってきますね」


 背もたれにもたれて深く息を吐く俺達を見て幸が部屋を出ていく。
 いかにも何かを達成した腑に木が出ているがが、まだ終わったわけではない。むしろやる事が多くなってしまった。
 狩りの成果は芳しくなかったし、むしろ人員が増えてしまった。これでは食糧事情が厳しくなる一方だ。どうにかしないと死人が出るだろう。


「それにこの子をどうするか」


 俺は飛鳥にべったりのエルフの子に目を向ける。この子が一人とは考えにくい。他にも仲間がいる筈だ。その人達を見つければこの子を引き取って貰えるんだ。
 しかし、食料が不足している今探し回るのは現実的ではない。どうしたものかな。


「さて、この子は他の奴らに公表するべきか、隠すべきか」
「こんなに可愛いのに隠すのでござるか?」
「食料が足りない状況で人が増えるとなると、反発してくる奴が必ず出てくる。素直に公表すると、追い出せという奴が出て来ても可笑しくない」
「皆優しいし考え過ぎでは無いですかな?」
「皆の生死が賭かってるんだ。楽観は出来ない」


 本格的な冬はまだとはいえ、このままだと厳しそうだ。また真美に狩りに連れ出される可能性もあるな。今の状況を考えるとそれも仕方ないかな。


「そう言う事だから食料がどうにかなるまではこの子の存在は隠したい」
「この子を狭い部屋の中に隠すという事でござるか?拙者は納得できないでござるよ」
「飛鳥の言う事は分かる。だが、現実的に隠した方がこの子の為にもなると思うんだよ」
「私も飛鳥の意見に賛成ですな。こんな子を閉じ込めるなんてあんまりですぞ」
「うーん……」


 2人の言う事も分かる。確かにこんな小さな子を部屋の中に閉じ込めっぱなしなのは気が進まない。だが、他の奴らに知られるのもいただけない。何かいい方法は無いものか。


「この子を隠さず、かつ食料を解決しないといけない。厳しいな」
「この子の事を抜きにしても食料事情が厳しいでござるしな」
「どうしたものですかな」


 俺達の間に重苦しい雰囲気が流れる。そんな様子をエルフの子は目をパチクリさせながら見ている。言葉は分からなくても、俺達が参っているのが分かったのだろうか。
 すると、俺達のお腹が盛大に鳴り響いた。思い返せば昼飯も食ってなかったな。


「何か食うか」
「今日のご飯はなんでござるか?」
「干した果物3つ」
「それじゃお腹は膨れないですぞ……」
「皆同じなんだから我慢しろ」


 そういう俺も本当は油たっぷりの肉とか茶碗一杯の米とかが腹いっぱい食いたい。だが、そんな余裕も食材もない。本当に気が滅入る。


「みんなー、お水持ってきたよー」


 そうこうしていると、幸が水を乗せた盆を持って部屋に入って来た。
 瞬間、エルフの子が幸の脇を抜けて扉の外に向かって走り始めた。


「うわあ!」


 幸は上手く回避して何とか水を落とさずに済んだ。


「急にどうした!?」
「とりあえず追いかけるでござる!」
「え?ちょっと?」


 幸に説明する暇もなく、俺達はエルフの子を追いかける。
 これはマズい、走ってる姿を他の奴らに見られたらエルフの子の存在が村中に知れ渡ってしまう。現にさっきから村の皆がエルフの子が走っているのを目が丸くしている。


「くそっ……」


 隠し通すのは無理になった。どうする、このままだとエルフの子が村にいられなくなる可能性が出てくる。どうする……。
 俺が頭を抱えながらエルフの子を追っていると、エルフの子が森の中に入っていった。
 俺達も枯れ葉を踏みしめながら、茶色に染まった森の中を駆け抜ける。


「なんであの子はいきなり走り出したんでござるか?」
「そんなの知るか。今はあの子に付いて行くしかないだろう」
「ぜえぜえ……、いつまで走るんですかな……」
「それも分からん。今は黙ってあの子に付いて行くしかない」


 そうこうしていると、エルフの子がとある木の前で立ち止まった。


「や……やっと、止まった……」
「お前はもう少し運動しろ」


 肩で息をしている剛を無視して、エルフの子は木に手を当てて目を閉じる。瞬間、


「な!?」


 触れていた木の葉が見る見るうちに青く染まっていき、真っ赤な木の実が次々と実っていく。しかも、その木だけではなく周りの木も同じように実を付けていった。これが、エルフの力なのか?
 まるで、そこだけ春が切り取られたような幻想的な光景。こんなの地球で見る事は出来ないだろう。
 俺達が言葉もなく目を丸くしていると、エルフの子が飛鳥の服を摘まみながら飛鳥の顔を見上げる。無表情だがまるで何かを求めているようだ。


「飛鳥、エルフの子が何か物欲しそうだぞ?」
「……え?」


 俺の言葉で飛鳥がエルフの子に気が付いた。飛鳥と目があったエルフの子はしばらく見つめると、そのまま目を閉じた。
 それを見た飛鳥が困ったようにこちらを見てくる。


「これどうしたらいいでござるか?」
「さあな」


 俺はニヤリと笑って答える。困っている飛鳥が面白いから、ちょっと見守ってみよう。
 飛鳥は困ったようにしていたが、エルフの子の頭に手を置いた。そして、恐る恐るといった様子でエルフの子の頭を撫で始めた。
 エルフの子は目を開けて少し不服そうに眉をひそめたが、再び目を閉じた。
 周りの光景も合わせて幻想的な光景になっている。


「……妬ましい」
「涙拭けよ」


 ボロボロになりそうな程の力でハンカチを噛む剛。少し不憫に思うが、俺にはどうしようもない。
 剛を直視できず、目の前の光景に視線を移す。……待てよ?


「この果物があれば飢えをしのげるんじゃないか?」
「そう言われてみればそうですな」
「この子は俺達の食糧不足を知っていたのか?」
「そうかもしれないですな。だとしたら、この子は相当に聡いのでは?」
「確かにそうだな」


 この子がどういう意図なのかは分からないが、これさえあれば何とかなりそうだ。


「剛、採集するから人を呼んで来い。飛鳥、イチャつくのはその辺にして果物を採集するぞ」
「い、イチャついては無いでござるよ!?」
「……キィィィィィ!」


 ハンカチを噛みながら、剛が村に戻って行く。飛鳥はエルフの子の頭から手を放す。エルフの子は寂しそうに目を伏せたが、素直に飛鳥から離れた。


「それにしても、どれだけの果物があるのでござろうか?」
「軽く見ただけ300本の木に生っているな」


 この辺りの果物は全て取り尽くしたと思っていたから、これはかなり嬉しい。


「とりあえず片っ端から採集して村に持っていこう」
「木登りは苦手何でござるがな」


 俺は木に手を掛けて登ろうとする。すると、木の向こうからこちらへと向かってくる足音が聞こえて来た。


「飛鳥!その子を庇え!」
「分かってるでござるよ!」


 飛鳥がエルフの子を後ろに庇いながら剣を取り出す。俺も剣を取り出して、何が来ても良いように構える。


「俺達で倒せそうに無い場合はその子を連れて村まで逃げろ。俺が時間を稼ぐ」
「そんな!それでは田中殿が……」
「悪いが問答している時間はない。これはリーダーからの命令だと思え」


 俺の言葉に飛鳥は何も言わなくなった。エルフの子が飛鳥がなついている以上、最初に逃げるのは飛鳥の方が良いだろう。剛が人を呼んでいるし、俺が残るのも分が悪い事はない。
 俺達は警戒しながら足音が聞こえる方に注視する。すると、木の陰から現れたのは以外にも人間だった。
 いや、人間にしては耳が尖っている。この人達もエルフなのか?


「剣を仕舞え。敵意があると判断されたくない」
「分かったでござる」


 俺達は剣を鞘に納める。武器を持っているし、こちらを攻撃してこないとも限らない。少しだけ警戒しておくか。
 エルフ達は俺達を見つけると、目を見開いてこちらに走って来た。


≪ご無事ですか姫!?≫
「姫?」


 俺はエルフの子へ視線を向ける。


「田中殿?あの人たちの言っている事が分かるのでござるか?」
「翻訳スキルがあるからな」


 役立たずのスキルと思っていたが、役に立つ時が来るとはな。
 俺は武器を持ったエルフ達に話しかける。


≪どうかしましたか?≫
≪貴様!姫を放せ!≫
≪この子の事ですか?≫


 槍を向けてくるエルフに飛鳥の後ろにいる子を示す。
 武器を向けられているのは怖い。だが、ここで狼狽えてしまっては怪しまれる可能性がある。ここは落ち着いて対応しよう。


≪良かった。魔物に襲われていたので保護したのですが、喋ってくれなくて困っていたんですよ。あなた方か来てくれて良かった。ほら、お迎えが来たよ≫


 俺は笑顔でエルフの子を飛鳥の前に出す。
 すると、向こうもこちらに敵意がいない事が分かったのか槍を収める。


≪武器を向けて済まなかった≫
≪いえいえ、大丈夫ですよ≫
≪保護感謝する。行きますよ姫様≫


 姫様と呼ばれた子は頷いてエルフの人達の元へと向かう。────飛鳥の手を握ったまま。


「ちょ!?え!?何が起こっているのでござるか!?」


 飛鳥が姫様に引きずられながら、困惑したように叫ぶ。
 エルフ達も驚いたように目を見開く。


≪姫様!?その男は何なのですか!?≫
≪私の夫≫
「夫ぉ!?」
「田中殿!?夫ってなんでござるか!?」


 俺が叫ぶと飛鳥も叫ぶ。そうか、飛鳥は翻訳スキルが無いから何が起きているのか分からないのか。


≪すみません、夫ってどういう事ですか?≫
≪私の事を命がけで助けてくれた。だから、私の人生を掛けてこの人を支えようと思う≫
≪そんな事勝手に決められては困ります!≫
≪ダメ、結婚相手は私が決める≫


 会話が平行線になり、困ったエルフの人がこちらに視線を向けてくる。


≪そちらの方、あなたも仲間を連れていかれたら困りますよね?≫
≪全然いいですよ?≫
「田中殿!?なんでサムズアップしてるでござるか!?まさか拙者を売ったでござるな!?」


 言葉が分からない筈なのに察しやがった。


「何を言ってるんだ。まるで俺がエルフとの繋がりを作るためにお前を嫁がせるみたいな事言いやがって」
「そんな邪悪な事考えているのでござるか!?」
≪ほら、この人も良いって言ってる≫
≪姫様!?本当にやめてください!≫
 

 その後、俺達の話し合いは混沌を極めた。
 結局、俺達とエルフで交流を続け、姫様と飛鳥が結婚するかは保留になった。エルフの人達は不服気な姫様を連れて村に戻って行った。俺としてはエルフとの繋がりを持てれば良いし、最上の結果だ。
 こうして、俺達の食糧事情が改善し、エルフ達とのつながりを持てたのだった。
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