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外伝 もういくつ寝ると
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「あけましておめでとうございま~す!」
「あけましておめでとう」
新年最初の朝、リビングにノエルが飛び込んできた。
「朝から元気だな」
「勿論!新年って凄いんでしょ?だったら元気にもなるよ!」
「そうか」
「ホウリお兄ちゃんは嬉しくないの?」
「嬉しくない訳じゃないが、ノエルみたいにワクワクは出来なくなったな。今は餅に何を付けるかを考えるのが一番楽しい」
「お餅!お餅つきするの!?」
「予定してなかったが、したいなら準備するぞ?」
「したい!」
「了解」
確か、広場で餅つき大会があった筈だ。エントリーしておくか。
「ねーねー、今日の朝ごはんな何?」
「お雑煮だな。お汁粉もあるぞ?どっちにする?」
「どっちも!」
2人で楽しく餅の話をしていると、ロワとミエルもリビングに入ってきた。
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう」
「おめでと~」
「おめでとさん。朝食はお雑煮とお汁粉どっちがいい?」
「僕はお雑煮で」
「私もロワと同じだ」
「へいへい」
俺は準備するためにキッチンに入る。ちなみに、フランは劇のゴタゴタで昨日の夜から帰ってこない。恐らく朝食に間に合わないはずだし、先に食べておこうという訳だ。
お雑煮を3杯、お汁粉を6杯作ってリビングに持っていく。
「ほら、出来たぞ」
「わーい」
配膳を終えて、全員で手を合わせる。
「「「「いただきます」」」」
ノエルはお雑煮の中から餅を取り出すと旨そうに頬張った。
「むぐむぐ」
「ちゃんと噛まないと喉に詰まるからな」
「ふぁーい」
ノエルに注意しつつ俺はお汁粉を平らげる。
その様子を見ていたロワはニンジンを箸でつまみながら苦笑いする。
「ホウリさんって本当に甘い物が好きなんですね」
「今更なんだ?」
「いえ、朝からお汁粉を5杯平らげている姿を見てそう思っただけです」
「これぐらい普通じゃないか?」
「そんな訳ないだろう?普通は胸やけする」
そんな物なのだろうか?皆、正月には一心不乱にお汁粉を頬張っているものだと思ったんだがな。
「そういえば、お前らは今日の予定はあるか?」
「僕は朝の特訓が終わったので予定はないですね」
「私も同じだ」
「だったら餅つき大会に行かないか?」
「餅つき大会?」
「ああ。ノエルと行く予定なんだ」
「良いですね、餅つきなんて久しくしてないですよ」
「私も問題ないぞ」
「決まりだな。食ったら行くか」
「あ、そうです!」
ロワは何かを思いついたのか、手を大きく打ち鳴らす。
「皆で振袖に着替えませんか?」
「振袖?」
「はい!皆で振袖を着て餅つき!楽しいと思いませんか?」
「面白そう!」
「良い考えだな」
「しかし、振袖など持っていないぞ」
ミエルが困ったように俺を見て来る。
「確かに、僕も持ってませんね」
「えー?振袖着れないの?」
ロワとノエルも困ったように俺を見て来る。
はぁ、困ったら俺が何とかすると思ってやがる。
「まあ、何とかなるんだけどな」
俺は全員分の振袖をアイテムボックスから取り出す。
「言っておいてなんだが、なぜ用意してある?」
「色んな状況に対応できるように準備してるからな。ちなみに、フランのも用意してある」
「用意周到ですね」
「わーい!振袖ー!」
「じゃ、全員で着替えて餅つき大会に出発。異論はないな?」
「ありません」
「ないぞ」
「ないでーす!」
こうして、俺たちは餅つき大会に向かうのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
餅つき大会の会場に着くと、多くの人でごった返していた。振袖を着た人や親子、老年の人など、老若男女が餅つき大会には来ている。
入口の近くではつきたての餅が振舞われている。
「へー、かなり賑わってますね」
「今回は餅つき大会に景品が用意されているからな」
「餅つき大会に景品?どういう事だ?」
「餅をつく美しさと、出来上がった餅の味で評価するらしい」
「何が貰えるの?」
「最優秀賞は高級あんこ3㎏だ。お汁粉がいっぱい食べられるぞ」
「そうか。どうでもいいな」
「何てこと言うんだ!?ミエルには人の心が無いのか!?」
「そこまで重要なことか!?」
そうやらミエルのやる気を出させるには不十分な商品だったみたいだ。変わってるな。
「商品を抜きにしても餅つきは楽しいと思うぞ?」
「それはそうですね」
「ねーねー、餅つきは何処でやるの?」
「この会場の奥でやっているみたいだぞ」
「へー、この会場って結構大きい……あれ?」
ロワが何かを見つけたのか向こうを指さす。
「あれって銀の閃光の皆さんじゃないですか?」
ロワの言う通り、向こうから銀の閃光のメンバーがやってくるのが見えた。
「おーい、銀の閃光の皆さーん!」
ロワが叫びながら手を振ると銀の閃光も気が付いたのか、こちらにやってきた。
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとさん。奇遇だな」
「そうですね」
銀の閃光はミルとシースが振袖を着ており、あとの3人はいつも通りの格好をしている。
全員で一通り挨拶を済ませて、会話を始める。
「皆さんも餅つき大会に?」
「私たちは教会にお参りした帰りに寄ったのよ」
「そうだったんですか」
「だったら、一緒に餅つきはどうだ?商品に高級あんこが貰えるぞ?」
「お、良いな」
「面白そうね」
「俺たちは遠慮しておこう!」
「家族を待たせているからな!」
「分かりました」
ボローネとパンクと別れ、俺たちは餅つき大会の実施場所にやってきた。
俺は受付の親父に声を掛ける。
「すみませーん、まだ受け付けてますかー?」
「おうホウリじゃねえか。お前も餅つき大会に出るのか?」
「ああ、参加して大丈夫か?」
「問題無いよ。どうせ参加人数が少ないんだからな」
「そうなのか?」
俺はチラリと参加者名簿を見る。参加人数5組、俺たちを入れても8組か。確かに少ないか?
「なあホウリ、もっと人数を増やせないか?」
「流石に時間が少ないな」
「だよな。無理言って悪いな」
「別にいいよ」
そんな訳で、俺とノエル、ミエルとロワ、ミルとナップの組み合わせでエントリーする。
「シースさんは出ないのか?」
「疲れるだけだから、私はやらないわ。見てるだけでも楽しそうだしね。ミエルちゃんはロワ君と出場?」
「そうだな」
「ふーん、だったらかっこいい所を見せないとね」
「そ……そんな事考えては……」
「はいはい。頑張ってね」
ミエルの事をからかい、シースは観客席に向かう。
俺たちは臼と杵がある所の端で待機する。ここなら他の参加者の餅つきも見えるな。
親父は拡声器を手に持ってギャラリーに話す。
「ただいまより、餅つき大会を始めます!」
あまりいない観客に向かって挨拶や参加者の紹介をし、いよいよ餅つき大会が始まる。
と言っても、素人の餅つきなんて特筆することは無い。普通にやって普通の餅が出来るだけだ。皆も代り映えがしないと思っているから集まらないんだろうな。
5組の餅つきが終わり、次にミルとナップの番になる。
杵をナップが持ち、臼の横にミルが座る。
「行くぞ、俺達でホウリの奴を負かすんだ」
「そんなに気張ってちゃ、勝てるものも勝てないよ?」
鼻息が荒いナップをミルがたしなめる。ナップの奴はまだ俺をライバル視してるらしいな。懲りない奴だ。
熱々の湯気が出ているもち米が臼の中に移される。
「行くぞ!」
ナップが杵を振り下ろして勢いよく餅をついていく。
「オラオラオラァ!」
「ちょ、ちょっとナップ!?早すぎるよ!?」
猛烈な速度で餅をつくナップに抗議しながらも、器用に餅をひっくり返すミル。文句は言いながらも何とかナップの速度に合わせている。
「おお!お二人の息はピッタリですね」
「十年以上の付き合いみたいだからな。息も合うだろうよ」
「へぇ、そうなんですね。僕もジルとは十年くらいの付き合いですけど、あんなに息が合うとは思えないです」
「お前らはすれ違いがひどかったからな」
ユミリンピックの件でなんとか和解(?)に持ち込むことは出来たが、すぐにグランガンを出発した。ジルとは満足に話すことも出来てないだろう。
「王都とグランガンは遠いし簡単に話せないのは厳しいな」
「そうですね。何とかジルと話したいんですが、中々難しいんですよ」
「そういえば、あいつは領主になるために頑張っているんだったな。猶更難しいだろうな」
「そうですよね。連絡も付きずらいですし、どうしたものですかね」
2人で仲良く話していると、横からジットリとした視線を感じる。横を見てみると、ミエルが面白くなさそうに俺たちを見ていた。
自分が知らない話を好きな奴がしているのが面白くないんだろう。ここは会話に加えてやるか。
「ミエルはジルに会ったことないんだよな?」
「あ、ああ……」
「そうでしたっけ?」
「グランガン出た後にミエルと出会っただろ?」
「そういえばそうですね。ミエルさんにも合わせてたいですね」
「その……一つ聞きたいんだが」
「なんですか?」
「ジルって女か?」
ミエルが心配そうにロワを見つめる。当のロワはというと不思議そうに首をかしげていた。
「え?ジルって男……ですよね?」
「そこは自信持てよ」
「僕が知らないだけで女だった可能性も?」
「無い。仮に女だったら素顔を見た時点でお前に惚れるだろ?」
「それもそうですね」
ロワが手を打ち鳴らしているのを見て、ミエルが胸を撫でおろす。
「ラストォ!」
ズンという音と共にナップが最後のひとつきを終える。ミルが形を整えて銀の閃光の餅つきは終わった。
ナップは杵を戻し、得意げに帰ってきた。
「ふふん、俺の餅つきはどうだ?謝るなら今だぞ?」
「いつ謝ることになったんだよ。あれだけ乱暴にやって美味しくなるわけないだろ。見ろ、つけてない所があるだろうが」
「なんだと!?」
「速さだけじゃダメ。それが分からないようじゃダメだな」
「くっ……」
ナップが悔しそうに視線を逸らせる。俺に勝ちたいと焦りすぎたな。
「次は僕たちですね。頑張りましょうノエルさん」
「そうだな」
ロワが杵を握ってミエルが臼の傍に座る。仮にロワが誤ってミエルの手をついてもミエルならダメージを負う事は無いだろう。良い配置だ。
ロワが重そうに杵を持ち上げる中で熱々のもち米が臼に移される。
「行きますよ、ミエルさん」
「よし来い!」
ロワが杵を振り下ろしミエルが餅をこねる。
「よいしょ!」
「はい!」
「よいしょ!」
「はい!」
2人はリズミカルに餅をついていく。速さは無いが丁寧に餅をついていく2人。
「あいつらも息ピッタリじゃないか」
「あの2人は付き合い自体は1年と短いが、性格的に馬が合うんだよ」
「結構いい雰囲気だね?もしかして付き合ってるの?」
「ロワですよ?進展があると思ってるんですか?」
「あ、ごめんね」
「悪いのはロワなのでミルさんは悪くないですよ」
申し訳なさそうに謝ってくるミルさんに手を振る。むしろ、ロワに謝らせてやろうか?
そうこうしている内に、ロワとミエルも餅つきを終えて戻ってきた。
「お疲れさん」
「ありがとうございます。いやー、難しいですね」
「あのもち米は手早く丁寧につかないと上手くならないからな。正直、餅つき大会で出す物じゃないと思うな」
「それを終わってから言うんじゃない」
「言ったところで出来るかは別だろ?」
「お前らは出来るのか?」
「むしろ、俺とノエルじゃないと出来ないと言っていいな。行くぞ、ノエル」
「うん!レッツゴー!」
ノリノリなノエルに杵を持たせて俺は臼の傍で構える。
熱々のもち米が目の前で用意される中、俺はノエルに指示を出す。
「ノエル、魔装して疾風迅雷だ」
「……?」
ノエルは俺の言葉の意味が分からなかったのか小首をかしげる。しかし、言葉の意味を把握すると満面の笑みで大きく頷いた。
「了解であります!」
「分かったら構えてくれ。素早くムラなくつけよ」
「はーい!」
瞬間、ノエルの体から途方も無い量のMPがあふれ出し、ノエルの体にまとわりつく。そして、俺の体からも同様にMPがあふれ出してくる。ノエルとMPを共有するスキル、コネクトだ。
俺はあふれ出すMPを雷に変えて体に纏う。
「準備完了、来い!」
「いっくよー!」
ノエルが目にも止まらぬ速さで杵を振り下ろしていく。俺はノエルがつき切れていない所を中央に誘導しつつ、餅をひっくり返す。
10回ついた後に俺が餅の位置を調整する。この間、0.5秒。
(おお……)
目にも止まらぬ速さで繰り広げられる餅つきに観客から声が漏れる。
餅をつくこと30秒、湯気の勢いが強いままの餅が見事につきあがった。
(パチパチパチパチ)
「ありがとうございましたー!」
ノエルが礼儀正しく頭を下げて、俺は軽く手を振って退場する。
目を丸くしているナップの目の前に来ると、俺はニヤリと笑う。
「これが速さってやつだ。覚えておけ」
「くぅぅぅぅぅ……」
ナップが苦虫を嚙みつぶしたような顔になって俺から目をそらせる。
こうして、少しだけ盛り上がった餅つき大会は幕を閉じた。結果は勿論、俺とノエルの優勝だった。
「あけましておめでとう」
新年最初の朝、リビングにノエルが飛び込んできた。
「朝から元気だな」
「勿論!新年って凄いんでしょ?だったら元気にもなるよ!」
「そうか」
「ホウリお兄ちゃんは嬉しくないの?」
「嬉しくない訳じゃないが、ノエルみたいにワクワクは出来なくなったな。今は餅に何を付けるかを考えるのが一番楽しい」
「お餅!お餅つきするの!?」
「予定してなかったが、したいなら準備するぞ?」
「したい!」
「了解」
確か、広場で餅つき大会があった筈だ。エントリーしておくか。
「ねーねー、今日の朝ごはんな何?」
「お雑煮だな。お汁粉もあるぞ?どっちにする?」
「どっちも!」
2人で楽しく餅の話をしていると、ロワとミエルもリビングに入ってきた。
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう」
「おめでと~」
「おめでとさん。朝食はお雑煮とお汁粉どっちがいい?」
「僕はお雑煮で」
「私もロワと同じだ」
「へいへい」
俺は準備するためにキッチンに入る。ちなみに、フランは劇のゴタゴタで昨日の夜から帰ってこない。恐らく朝食に間に合わないはずだし、先に食べておこうという訳だ。
お雑煮を3杯、お汁粉を6杯作ってリビングに持っていく。
「ほら、出来たぞ」
「わーい」
配膳を終えて、全員で手を合わせる。
「「「「いただきます」」」」
ノエルはお雑煮の中から餅を取り出すと旨そうに頬張った。
「むぐむぐ」
「ちゃんと噛まないと喉に詰まるからな」
「ふぁーい」
ノエルに注意しつつ俺はお汁粉を平らげる。
その様子を見ていたロワはニンジンを箸でつまみながら苦笑いする。
「ホウリさんって本当に甘い物が好きなんですね」
「今更なんだ?」
「いえ、朝からお汁粉を5杯平らげている姿を見てそう思っただけです」
「これぐらい普通じゃないか?」
「そんな訳ないだろう?普通は胸やけする」
そんな物なのだろうか?皆、正月には一心不乱にお汁粉を頬張っているものだと思ったんだがな。
「そういえば、お前らは今日の予定はあるか?」
「僕は朝の特訓が終わったので予定はないですね」
「私も同じだ」
「だったら餅つき大会に行かないか?」
「餅つき大会?」
「ああ。ノエルと行く予定なんだ」
「良いですね、餅つきなんて久しくしてないですよ」
「私も問題ないぞ」
「決まりだな。食ったら行くか」
「あ、そうです!」
ロワは何かを思いついたのか、手を大きく打ち鳴らす。
「皆で振袖に着替えませんか?」
「振袖?」
「はい!皆で振袖を着て餅つき!楽しいと思いませんか?」
「面白そう!」
「良い考えだな」
「しかし、振袖など持っていないぞ」
ミエルが困ったように俺を見て来る。
「確かに、僕も持ってませんね」
「えー?振袖着れないの?」
ロワとノエルも困ったように俺を見て来る。
はぁ、困ったら俺が何とかすると思ってやがる。
「まあ、何とかなるんだけどな」
俺は全員分の振袖をアイテムボックスから取り出す。
「言っておいてなんだが、なぜ用意してある?」
「色んな状況に対応できるように準備してるからな。ちなみに、フランのも用意してある」
「用意周到ですね」
「わーい!振袖ー!」
「じゃ、全員で着替えて餅つき大会に出発。異論はないな?」
「ありません」
「ないぞ」
「ないでーす!」
こうして、俺たちは餅つき大会に向かうのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
餅つき大会の会場に着くと、多くの人でごった返していた。振袖を着た人や親子、老年の人など、老若男女が餅つき大会には来ている。
入口の近くではつきたての餅が振舞われている。
「へー、かなり賑わってますね」
「今回は餅つき大会に景品が用意されているからな」
「餅つき大会に景品?どういう事だ?」
「餅をつく美しさと、出来上がった餅の味で評価するらしい」
「何が貰えるの?」
「最優秀賞は高級あんこ3㎏だ。お汁粉がいっぱい食べられるぞ」
「そうか。どうでもいいな」
「何てこと言うんだ!?ミエルには人の心が無いのか!?」
「そこまで重要なことか!?」
そうやらミエルのやる気を出させるには不十分な商品だったみたいだ。変わってるな。
「商品を抜きにしても餅つきは楽しいと思うぞ?」
「それはそうですね」
「ねーねー、餅つきは何処でやるの?」
「この会場の奥でやっているみたいだぞ」
「へー、この会場って結構大きい……あれ?」
ロワが何かを見つけたのか向こうを指さす。
「あれって銀の閃光の皆さんじゃないですか?」
ロワの言う通り、向こうから銀の閃光のメンバーがやってくるのが見えた。
「おーい、銀の閃光の皆さーん!」
ロワが叫びながら手を振ると銀の閃光も気が付いたのか、こちらにやってきた。
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとさん。奇遇だな」
「そうですね」
銀の閃光はミルとシースが振袖を着ており、あとの3人はいつも通りの格好をしている。
全員で一通り挨拶を済ませて、会話を始める。
「皆さんも餅つき大会に?」
「私たちは教会にお参りした帰りに寄ったのよ」
「そうだったんですか」
「だったら、一緒に餅つきはどうだ?商品に高級あんこが貰えるぞ?」
「お、良いな」
「面白そうね」
「俺たちは遠慮しておこう!」
「家族を待たせているからな!」
「分かりました」
ボローネとパンクと別れ、俺たちは餅つき大会の実施場所にやってきた。
俺は受付の親父に声を掛ける。
「すみませーん、まだ受け付けてますかー?」
「おうホウリじゃねえか。お前も餅つき大会に出るのか?」
「ああ、参加して大丈夫か?」
「問題無いよ。どうせ参加人数が少ないんだからな」
「そうなのか?」
俺はチラリと参加者名簿を見る。参加人数5組、俺たちを入れても8組か。確かに少ないか?
「なあホウリ、もっと人数を増やせないか?」
「流石に時間が少ないな」
「だよな。無理言って悪いな」
「別にいいよ」
そんな訳で、俺とノエル、ミエルとロワ、ミルとナップの組み合わせでエントリーする。
「シースさんは出ないのか?」
「疲れるだけだから、私はやらないわ。見てるだけでも楽しそうだしね。ミエルちゃんはロワ君と出場?」
「そうだな」
「ふーん、だったらかっこいい所を見せないとね」
「そ……そんな事考えては……」
「はいはい。頑張ってね」
ミエルの事をからかい、シースは観客席に向かう。
俺たちは臼と杵がある所の端で待機する。ここなら他の参加者の餅つきも見えるな。
親父は拡声器を手に持ってギャラリーに話す。
「ただいまより、餅つき大会を始めます!」
あまりいない観客に向かって挨拶や参加者の紹介をし、いよいよ餅つき大会が始まる。
と言っても、素人の餅つきなんて特筆することは無い。普通にやって普通の餅が出来るだけだ。皆も代り映えがしないと思っているから集まらないんだろうな。
5組の餅つきが終わり、次にミルとナップの番になる。
杵をナップが持ち、臼の横にミルが座る。
「行くぞ、俺達でホウリの奴を負かすんだ」
「そんなに気張ってちゃ、勝てるものも勝てないよ?」
鼻息が荒いナップをミルがたしなめる。ナップの奴はまだ俺をライバル視してるらしいな。懲りない奴だ。
熱々の湯気が出ているもち米が臼の中に移される。
「行くぞ!」
ナップが杵を振り下ろして勢いよく餅をついていく。
「オラオラオラァ!」
「ちょ、ちょっとナップ!?早すぎるよ!?」
猛烈な速度で餅をつくナップに抗議しながらも、器用に餅をひっくり返すミル。文句は言いながらも何とかナップの速度に合わせている。
「おお!お二人の息はピッタリですね」
「十年以上の付き合いみたいだからな。息も合うだろうよ」
「へぇ、そうなんですね。僕もジルとは十年くらいの付き合いですけど、あんなに息が合うとは思えないです」
「お前らはすれ違いがひどかったからな」
ユミリンピックの件でなんとか和解(?)に持ち込むことは出来たが、すぐにグランガンを出発した。ジルとは満足に話すことも出来てないだろう。
「王都とグランガンは遠いし簡単に話せないのは厳しいな」
「そうですね。何とかジルと話したいんですが、中々難しいんですよ」
「そういえば、あいつは領主になるために頑張っているんだったな。猶更難しいだろうな」
「そうですよね。連絡も付きずらいですし、どうしたものですかね」
2人で仲良く話していると、横からジットリとした視線を感じる。横を見てみると、ミエルが面白くなさそうに俺たちを見ていた。
自分が知らない話を好きな奴がしているのが面白くないんだろう。ここは会話に加えてやるか。
「ミエルはジルに会ったことないんだよな?」
「あ、ああ……」
「そうでしたっけ?」
「グランガン出た後にミエルと出会っただろ?」
「そういえばそうですね。ミエルさんにも合わせてたいですね」
「その……一つ聞きたいんだが」
「なんですか?」
「ジルって女か?」
ミエルが心配そうにロワを見つめる。当のロワはというと不思議そうに首をかしげていた。
「え?ジルって男……ですよね?」
「そこは自信持てよ」
「僕が知らないだけで女だった可能性も?」
「無い。仮に女だったら素顔を見た時点でお前に惚れるだろ?」
「それもそうですね」
ロワが手を打ち鳴らしているのを見て、ミエルが胸を撫でおろす。
「ラストォ!」
ズンという音と共にナップが最後のひとつきを終える。ミルが形を整えて銀の閃光の餅つきは終わった。
ナップは杵を戻し、得意げに帰ってきた。
「ふふん、俺の餅つきはどうだ?謝るなら今だぞ?」
「いつ謝ることになったんだよ。あれだけ乱暴にやって美味しくなるわけないだろ。見ろ、つけてない所があるだろうが」
「なんだと!?」
「速さだけじゃダメ。それが分からないようじゃダメだな」
「くっ……」
ナップが悔しそうに視線を逸らせる。俺に勝ちたいと焦りすぎたな。
「次は僕たちですね。頑張りましょうノエルさん」
「そうだな」
ロワが杵を握ってミエルが臼の傍に座る。仮にロワが誤ってミエルの手をついてもミエルならダメージを負う事は無いだろう。良い配置だ。
ロワが重そうに杵を持ち上げる中で熱々のもち米が臼に移される。
「行きますよ、ミエルさん」
「よし来い!」
ロワが杵を振り下ろしミエルが餅をこねる。
「よいしょ!」
「はい!」
「よいしょ!」
「はい!」
2人はリズミカルに餅をついていく。速さは無いが丁寧に餅をついていく2人。
「あいつらも息ピッタリじゃないか」
「あの2人は付き合い自体は1年と短いが、性格的に馬が合うんだよ」
「結構いい雰囲気だね?もしかして付き合ってるの?」
「ロワですよ?進展があると思ってるんですか?」
「あ、ごめんね」
「悪いのはロワなのでミルさんは悪くないですよ」
申し訳なさそうに謝ってくるミルさんに手を振る。むしろ、ロワに謝らせてやろうか?
そうこうしている内に、ロワとミエルも餅つきを終えて戻ってきた。
「お疲れさん」
「ありがとうございます。いやー、難しいですね」
「あのもち米は手早く丁寧につかないと上手くならないからな。正直、餅つき大会で出す物じゃないと思うな」
「それを終わってから言うんじゃない」
「言ったところで出来るかは別だろ?」
「お前らは出来るのか?」
「むしろ、俺とノエルじゃないと出来ないと言っていいな。行くぞ、ノエル」
「うん!レッツゴー!」
ノリノリなノエルに杵を持たせて俺は臼の傍で構える。
熱々のもち米が目の前で用意される中、俺はノエルに指示を出す。
「ノエル、魔装して疾風迅雷だ」
「……?」
ノエルは俺の言葉の意味が分からなかったのか小首をかしげる。しかし、言葉の意味を把握すると満面の笑みで大きく頷いた。
「了解であります!」
「分かったら構えてくれ。素早くムラなくつけよ」
「はーい!」
瞬間、ノエルの体から途方も無い量のMPがあふれ出し、ノエルの体にまとわりつく。そして、俺の体からも同様にMPがあふれ出してくる。ノエルとMPを共有するスキル、コネクトだ。
俺はあふれ出すMPを雷に変えて体に纏う。
「準備完了、来い!」
「いっくよー!」
ノエルが目にも止まらぬ速さで杵を振り下ろしていく。俺はノエルがつき切れていない所を中央に誘導しつつ、餅をひっくり返す。
10回ついた後に俺が餅の位置を調整する。この間、0.5秒。
(おお……)
目にも止まらぬ速さで繰り広げられる餅つきに観客から声が漏れる。
餅をつくこと30秒、湯気の勢いが強いままの餅が見事につきあがった。
(パチパチパチパチ)
「ありがとうございましたー!」
ノエルが礼儀正しく頭を下げて、俺は軽く手を振って退場する。
目を丸くしているナップの目の前に来ると、俺はニヤリと笑う。
「これが速さってやつだ。覚えておけ」
「くぅぅぅぅぅ……」
ナップが苦虫を嚙みつぶしたような顔になって俺から目をそらせる。
こうして、少しだけ盛り上がった餅つき大会は幕を閉じた。結果は勿論、俺とノエルの優勝だった。
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同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
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