魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百六十話 シカでした

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「う……」


 体力が尽きて地面に倒れ込む。もう、指一本も動かせないや。


「はぁ……はぁ……」


 ノエルが肩で息をしていると、ホウリお兄ちゃんが変身を解きながら顔を覗き込んでくる。


「お疲れさん。魔装の時間も伸びて来たな」
「あ、ありがと……。でも、今日もホウリお兄ちゃんに勝てなかったや……」
「今回の俺は本気が出せたからな。気にするな」


 ホウリお兄ちゃんがお姫様抱っこをしてくれる。そのまま、スイッチを押してリビングへとワープする。


「おかえりなさい」
「ただいまー……」
「ただいま」


 ベッドの上に寝かせられる。すると、リンお姉ちゃんが心配そうに手を握ってくれた。


「大丈夫?」
「うん……ちょっと休んだら回復するから……」
「それにしても、鳳梨君を相手に良く戦ったわね」
「えへへ」


 体が燃えるように熱くっている中で、必死に微笑む。


「そうだ、特訓のご褒美って訳じゃないんだが、何かやりたいことは無いか?」
「やりたい事?」
「ああ。行きたい所でもいいぞ」
「うーん」


 何かやりたいって思ってたんだけど何だっけ?


「あ、そうだ」
「なにか思いついたの?」
「ノエル、飛行機に乗りたい」
「飛行機?」
「テレビで見たんだけどね、空を飛べるんでしょ?」
「良いわね。鳳梨君、どうにかならない?」
「ちょっと待ってろ」


 ホウリお兄ちゃんがスマートフォンを操作する。


「……よし、明日の便が取れたぞ」
「わーい。ありがとー」
「明日ね。目的地は?」
「北海道」
「へぇー、良いわね」
「もしかして、着いてくる気か?」


 ホウリお兄ちゃんの言葉にリンお姉ちゃんが首を傾げる。


「ダメなの?」
「ダメも何も、お前は明日登校日だろ?」
「……あ」


 リンお姉ちゃんが目を丸くする。そして、口を大きく開くと膝を付いた。


「ああああああ!忘れてた!」


 床を叩きながらリンお姉ちゃんが絶叫する。そして、勢いよく立ち上がると、ホウリお兄ちゃんの肩を掴んで、物凄い勢いで前後に揺らす。


「鳳梨君!どうにかして!」
「ダメだ」
「お願い!」
「ダメだ。諦めろ」


 いくら揺らされても、ホウリお兄ちゃんは考えを変えない。


「なんでよ!というか、私が登校日なら同じクラスの鳳梨君も登校しないといけないでしょ!」
「誰が世界の均衡を保っていると思ってんだ。本来であれば、夏休みは世界のあっちこっちに移動しているから、登校日も免除だ」
「今はこっちにいるんでしょ!登校しないで可愛い子と旅行なんて不公平よ!」
「アホなこと言ってないで諦めろ。その代わり、今日と最終日はノエルと過ごしていいから」
「嫌よ!私だってノエルちゃんと過ごしたいわ!」
「……ったく、フランといい凛といい、なんでノエル関連の奴は我儘な奴が多いんだ」


 ホウリお兄ちゃんが頭を抱える。
 結局、渋々リンお姉ちゃんが折れて登校することになった。
 ホウリお兄ちゃんとの2人旅行にワクワクしながら、ノエルは目を閉じた。


☆   ☆   ☆   ☆


(ピンポンパンポーン)
『まもなく、26番口より搭乗手続きを開始いたします。登場される方は───』
「そろそろ行くぞ」
「はーい」


 ホウリお兄ちゃんと空港のベンチで座っていると、飛行機の搭乗アナウンスが聞こえた。


「飛行機♪飛行機♪」
「はしゃぎ過ぎて他のお客さんに迷惑かけるなよ」


 受付のお姉さんにチケットを見せて、飛行機に続く通路を進む。


「えーっと、Eの1はどこかなー。あった」


 チケットに書かれている席を見つける。どうやら、窓側の席みたいだ。
 堰を見つけられたから、通路の上にある荷物台に荷物を載せようと手を伸ばす。


「うーん!」
「無理するな」


 ホウリお兄ちゃんが荷物を奪って、代わりに荷物に載せてくれる。


「わーい!」


 意気揚々と座り、窓の外を眺める。まだ飛んでないから、空港とか飛行機の羽とかしか見えない。


「ねぇねぇ、いつ飛ぶの?」
「あと20分後だな。これでも見て待っててくれ」


 ホウリお兄ちゃんから大きいスマートフォンを受け取る。大きい方はタブレットって言うんだっけ?まあ、どっちでもいいか。
 イヤホンを耳に入れてタブレットを起動すると、動画が1つ入っていた。タイトルは「北海道観光地スポット」って書いてある。
 今から行くところなのかな?そう思って動画を再生する。


≪北海道の魅力をギュギュっとお伝え!まずは北海道の雄大な大地を──》


 動画は観光地とかグルメとかの紹介動画だった。おっきな時計台とか、一面のお花畑、海鮮丼とか、ワクワクするものがいっぱい映る。
 思わず目を見開いて、隣の席のホウリお兄ちゃんに話す。


「ホウリお兄ちゃん!北海道って凄いね!」
「しー、周りに人が居るんだから静かにな」
「あ、ごめんなさい」


 お口をチャックして、動画に視線を向ける。
 へぇ、五稜郭っていう昔の「じょうかく?」って奴もあるんだ。この世界の歴史は良く分からないけど、ホウリお兄ちゃんに聞いてみようかな?
 そんな感じで動画を見ていると、アナウンスが機内に流れた。


≪当機をご利用いただきありがとうございます。安全ビデオを流しますので必ずご確認ください≫


 通路の天井に付いている画面にキャビンアテンダントさんが映る。飛行機での注意事項みたい。文字だけだと分かりにくいし、動画での説明は良いね。
 電波を使う機械はダメとか、事故が起こった時の避難の方法とかが動画で流れる。


≪ご確認したいことがございましたら、係員までお尋ねください。それでは良い旅を≫


 動画を全部見て、一応全部頭の中に入れる。


≪皆さま、まもなく当機は離陸いたします。ランプが点灯している間はシートベルトを付けて、座席をお立ちにならない様に……≫


 ノエルはシートベルトをしてお行儀よく座っておく。何気なしに隣のホウリお兄ちゃんを見てみると、パソコンを使っていた。


「何してるの?」
「北海道のやつと連絡を取ってる。今回の旅の目的だからな」
「そうなんだ。あれ?電波って使っちゃダメなんだよね?」
「電波を使えないなら、電波を使わなないで通信すればいい」
「どうやるの?」
「念話みたいなものだ。あれなら電波を使わないでも連絡が取れる」
「へぇー、この世界でも念話ってあるんだ」
「似たような技術ってだけだ。表には出てないから、他の奴には内緒な」
「うん」


 ホウリお兄ちゃんと話していると、加速する感覚と共に、体が浮き上がっていく感覚を感じた。
 窓の外を見てみると、地面がどんどん遠くなっていくのが見えた。


「わーい!飛んでるよ!」
「喜んでもらえた様で何よりだ」
「ホウリお兄ちゃんも見てみてよ」
「どれどれ」


 ホウリお兄ちゃんと一緒に窓の外の景色を楽しむ。
 こうして、ノエルの北海道旅行が始まったのだった。
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