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第二百六十八話 そいつをこっちに渡せ!
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無事に帰って来たノエルは、いつも通り登校していた。
「うーん、気持ちのいい朝だー」
大きく伸びをしながら、太陽の光を浴びる。あっちの世界も刺激的で良かったけど、やっりこの世界が一番だね。
そう思いながら角を曲がると、向こうに見なれた4人が見えた。オカルト研究クラブの皆だ。
けど、なんだか深刻そうに顔を突き合わせている。何かあったのかな?
「おーい!みんなー!」
「ノエル!?」
ノエルに気が付いたサルミちゃんが素っ頓狂は声を上げる。思わず周りの皆がサルミちゃんに視線を向けるくらいだ。
サルミちゃんは周りの視線を受けて顔を赤らめると、ノエルに早歩きで近づいて来た。
「ノエル!あんた何処に行ってたの!?」
「えっとね……ノエルからは言えない」
「は?どういう事よ?」
「詳しくは皆にも説明するね」
ノエルとサルミちゃんは皆の元に向かう。
「ノエルちゃん!大丈夫!?」
『あの扉は何だったんだ!?』
「扉から見えたのはなんだったの!?」
皆からの質問をノエルは手で制する。
「皆が聞きたい事は分かるよ。けどね、ノエルは何も説明出来ないの」
「何で?」
「説明できる事と、できない事があるの」
『けどよ、何も説明が無しじゃ納得出来ないぜ?』
「代わりにね、ホウリお兄ちゃんが放課後に説明しに来るんだって」
「ホウリさんが?」
パンプ君の言葉にノエルは頷く。
「今回の出来事は話せないことが多いみたいで、ノエルは説明を禁止されているんだ」
「確かにあんたは何もかもぶちまけそうね」
『それなら仕方ないな』
「納得の理由だね」
「ははは……」
コアコちゃんは苦笑いして、それ以外の3人が頷く。
納得してくれた事は嬉しいけど、今度はノエルは納得できなくなった。そこは、「少しくらいは話して欲しい」みたいに食い下がる所じゃないのかな?
「じゃあさ、ノエルちゃんは異世界に行ったんだけど、詳しくはホウリさんが放課後に説明する、ってこと?」
「そういうこと」
「ならこの話はお終いだね」
『ノエルの無事も確認できたしな』
「じゃ、学校いきましょ」
皆で一緒に学校に向かう。あれ?
「そういえばさ、ノエルが扉から落っこちた時、皆はどうしてたの?やっぱり大さわぎだった?」
「騒ぎにはなってないわよ」
「ホウリさんがナマク先生に手紙を渡してたんだって。そこにホウリさんがノエルちゃんを連れて帰るって書いてあったみたい」
「だから、騒ぎになってなかったんだ」
ホウリお兄ちゃんが何もしてなかったら、行方不明で大さわぎだっただろう。問題を起こしたとして、オカルト研究クラブも無くなってたかもしれない。
「あの後、帰るように言われたんだ。けど、皆で例の本を見ながら、どうにか出来ないか考えてたんだ」
「おかげで寝不足よ」
コアコちゃんが大口を開けて欠伸をする。
「例の本ってコアコちゃんが持ってたやつ?」
「うん、これだよ」
コアコちゃんが昨日持ってきてた本を取り出す。
やっぱりこれが原因だったのかな?けど、校長室以外には何も無かったし、偶然の可能性も?
首を捻りながら、ノエルは学校への道を歩むのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
そんな訳でその日の放課後、ノエル達はオカルト研究クラブの部室に集まった。
『ホウリさんっていつ来るんだ?』
「さあね。けど、なんかいい感じの時間でくるんじゃない?」
「適当ね」
「ホウリお兄ちゃんは、何も言わなくても適切なタイミングが分かるからね」
「良く分かんないわね。深く考えるのは止めておくわ」
「あ、そうだ」
ノエルは持って来たものを思い出す。
「あっちの世界のものは持ってこれなかったけど、ホウリお兄ちゃんが良いの用意してくれたんだ」
「良いのって何?」
「これ」
ノエルは持って来た画用紙を机の上に並べる。画用紙にはあっちの世界の街の様子や、写真で撮った風景が書かれていた。
「なにこれ?」
「写真?それにしてはちょっと変な気が?」
「あっちで撮った写真をホウリお兄ちゃんが画用紙に書いたんだ。写真みたいに正確でしょ?」
写真は持って帰れないからって、昨晩ホウリお兄ちゃんが用意してくれたものだ。
何もお土産が持って帰れなかったから、皆に見せられるものが出来て良かった。
皆が画用紙を我先にと取っていく。
「ノエルちゃん、これなあに?」
コアコちゃんがホウリお兄ちゃんの部屋に写ってるテレビを指す。これくらいなら話しても良いかな?
「これはテレビって言って、動く絵が映って音も鳴るんだよ!」
「そうなの!?どういう原理なの!?」
「絵はパラパラ漫画と同じなんだって。音は分かんないや」
「成程、パラパラ漫画なんだね」
『ノエル、これはなんだ?』
今度はマカダ君が街を走っている車を指す。
「これは車だよ」
『それにしては多くないか?軽く10台以上はあるぞ?』
「10台どころじゃないよ!何百台も走ってるんだ!」
『何百台も!?どんな世界だよ!?』
そんな感じで皆でワイワイと話していると、部室の扉が開いてナマク先生が入って来た。後に続いてホウリお兄ちゃんも入って来た。
「皆さん、静かにしてください。これから今日のクラブ活動を始めます」
「せんせー、今日はホウリさんに昨日のことを説明してんですよね?」
「その通りです。ホウリさん、お願いします」
ホウリお兄ちゃんが一歩前に出て咳払いをする。
「まずは改めて自己紹介からだな。俺はキムラ・ホウリ。ノエルの保護者だ」
「ノエルの保護者が、なんで夜の学校にいたのかしら?」
「それも後で説明する。まずは、昨夜の校長室の扉から説明する」
「異世界への扉って聞きましたけど?」
パンプ君の言葉にホウリお兄ちゃんが頷く。
「あの扉は異世界への扉だ。具体的には『始まりの人』が来た世界だ」
「『始まりの人』って、この世界を発展させた人達?」
「その認識で問題無い」
「そんな凄い人の世界にノエルちゃんは行ったんだ!」
コアコちゃんから熱を帯びた視線を受ける。確かに伝説みたいになっている『始まりの人』がいた世界だし、興奮するのも無理ないね。
「そこで何をしたかは省く。後でノエルにでも聞いてくれ」
「ノエルが知ってることは全部話していいの?」
「あっちでの出来事は問題無い。それ以外は絶対に話すなよ?」
あっちの出来事以外?ああ、天界とかの事とかね。
確かに天界とかの事は大っぴらに話す訳にはいかない。話さないように気を付けないと。
「次に何故この世界と異世界が繋がったのかを説明する」
「異世界ってそんなに簡単に行き来できるものなの?」
「普通は無理だ。今回は特殊な道具と状況が揃ったことによる、偶然だと思ってくれ」
「偶然って、何がどうなったら異世界に繋がるのよ」
「必要なのは特殊な素材」
ホウリお兄ちゃんが見覚えのある本を取り出す。
あれって、図書館で見つけた蛍光塗料がついてた本?
「この本の紙に光るインクを塗る事で特殊な力が発生する」
『特殊な力?』
「空間を不安定にする力だ」
『良く分からないんですけど?』
「詳しくは説明しないぞ。無いとは思うが、再現されても困る」
「でもさ、紙にインクを塗るだけで良いんだったら、なんで本の形になってるの?」
コアコちゃんが最もな質問を投げかける。紙とインクだけが必要なら本にする必要は無いはずだ。
「恐らく、図書館に紛れ込ませるためには、本にした方が都合が良かったんだろう」
『図書館に紛れ込ませる理由は?』
「さあな。まだ誰が作ったかすら分かってないし、推測もできない」
『昨日の今日だし、仕方ないか』
ホウリお兄ちゃんが肩をすくめる。何も分からないって意味だろうけど、本当かな?ホウリお兄ちゃんなら調べが付いてても可笑しくない。嘘ついてるかも?
そんな事を思っていると、ホウリお兄ちゃんが説明を続ける。
「次に必要なのは魔法陣」
ホウリお兄ちゃんがニワトリ小屋で拾ったコインを取り出す。
帰って来てから渡してたんだっけ。
「このコインには特殊な魔法陣が刻まれている。これにMPを大量に込めれば、弱くなった空間をこじ開けることが出来る」
「大量のMPってどのくらい?」
「王都で1日に使われるくらいだな」
「途方もない量な気がするんですけど?あの時はそんなに大量のMPは無かった筈ですよ?」
「既にMPが込められてたんだろう。このコインの材質も特殊だったしな」
「そうでしたか」
パンプ君が納得したように頷く。けど、ノエルはこれが嘘だってはっきり分かる。
多分、MPはノエルのやつが使われたんだと思う。アイテムボックスに仕舞ってたはずだけど、天界関係のアイテムなら、それくらいは何とかなりそう。
マカダ君も感付いたのか、さっきから視線がノエルに向いている。
どんな顔したらいいのか分からないから、平常心を保ちつつ大人しくしておく。
「最後は場所だ」
「流れから察するに校長室がその場所って訳ね?」
「その通り。校長室は空間が一番不安定だから、異世界と繋げるのに都合が良い」
「まとめると、その本とMPが込められたコインを持って、校長室の扉を開けるのが異世界に行く条件ね?」
サルミちゃんの言葉にホウリお兄ちゃんが頷く。
「つまり、異世界に繋がったのは事故だったって訳だね」
『ノエルも運が悪かったな』
「本当にそう思ってるのか?」
「え?」
「コアコ、その本はどうやって手に入れた?」
ホウリお兄ちゃんがコアコちゃんが持っているオカルト本に視線を向ける。
「景品としてポストの中に入ってました」
「何かに応募した記憶は?」
「無いですけど?」
『待ってください、もしかして?』
「ああ。誰かが意図的に異世界に繋げようとして、本をコアコの家のポストに入れた可能性が高い」
そう言われた瞬間、ノエルの背中に寒気が走った。
異世界へ繋げられる方法を知っているなんて、神様関係の人に違いない。けど、神様は何も知らないみたいだった。
ということは、神様と敵対している邪神の関係者の可能性が高い。
ノエル達の敵、そんな人がコアコちゃんを知っている。つまり、いつかはコアコちゃんが、皆が危ない目に合うかもしれない。
そう思うと一気に恐怖心が湧き上がって来た。皆を失う、それが今はとても恐ろしい。
「ノエルちゃん?どうしたの?」
「あ、えっと……なんでもない」
笑顔を作ってコアコちゃんに返事をする。けど、不自然だったのか、コアコちゃんが悲しそうな表情になる。
それを見たホウリお兄ちゃんはノエルに視線を向けて来る。
「安心しろ、本を入れた奴は俺が速攻で見つけてやる。ここにいる誰にも危害は加えさせない」
表情は変わってないけど、いつも通り真っすぐな力強い視線。そんな目に見つめられると、心の中の怖さが薄らいでいった。
ノエルは言葉で返事する代わりに、笑顔で頷いた。
「それでだ、ここからが今回の本題なんだが……」
ホウリお兄ちゃんはコアコちゃんに視線を向けて、手を差し出した。
「その本をこっちに渡して欲しい」
「……え?」
「その本に書かれていることは危険だ。今回は俺がいたから何とかなったが、この中の誰かが落ちたら命は無かったんだぞ?」
「確かにね。むしろ、あの高さから落ちて無事な理由を聞いてみたいわ」
「それは秘密だ」
ノエルのMPとホウリお兄ちゃんの魔装、それがあって初めて無傷だったんだ。他の人なら即死だろう。
「残念だけど妥当だね」
『だな』
「そういうことだ。済まないが渡してくれ」
ホウリお兄ちゃんが手を突き出したまま、コアコちゃんを見つめる。
コアコちゃんは迷ったように目を泳がせると、本を抱きしめた。
「あの、この本に書かれてることって本当なんですよね?」
「デマも混ざっているが本当の事も書いてある」
「……渡したくない」
本を抱きしめながらコアコちゃんがポツリと呟く。
そんなコアコちゃんにホウリお兄ちゃんが優しく質問する。
「理由を聞いて良いか?」
「……今まで、オカルトが好きって言っても誰にも理解されなかった。けど、今は皆で大好きなオカルトを研究できる。だから、本物のオカルトを皆で楽しみたい」
「皆を危険に晒してもか?」
「それは……」
ホウリお兄ちゃんの言葉にコアコちゃんが俯く。
そういえば、昨日の探検の時に、本が嘘だったらって気にしてたっけ。皆で大丈夫って励ましたけど、まだ気にしているみたい。
皆の為に本物を用意したい。けど、危険な目にも合わせたくない。そんな気持ちで板挟みになっているのかな。
「えっと……その……」
「分かった。もう十分だ」
ホウリお兄ちゃんが手を引っ込める。諦めた?違う、あの目は次の手を打とうとしている目だ。
ホウリお兄ちゃんが両手をテーブルに置いて、部員の皆を視線に収める。
「確かに自分が欲しかったものが手に入ったんだ。手放したくない気持ちは分かる。だが、その本は世間に知られちゃいけないことも多く書かれている。回収は絶対条件だ」
「…………」
「だから交換条件として、本を渡してもらう代わりに俺が外部顧問になろう」
「……へ?」
思ってもいなかった条件に、コアコちゃんが思わず固まる。
「えっと?どういう事ですか?」
「俺はその本よりも多くのオカルトを知っている。だから、その本を渡してくれたら、俺がそれ以上のオカルトを教えよう。どうだ?悪くない条件だろ?」
確かに、ホウリお兄ちゃんならいっぱいオカルトを知っているだろう。そういえば、悪魔さんも召喚してたっけ?
「えっと……」
コアコちゃんがズレた眼鏡を直しながら、ノエル達を見て来る。ノエル達は笑顔で頷いて答えた。
「……よろしくお願いします」
コアコちゃんは持っていた本をホウリお兄ちゃんに差し出す。
「ありがとな」
ホウリお兄ちゃんは本を受け取ると、アイテムボックスに仕舞った。
「これで俺からの説明は終わりだ。何か質問はあるか?」
『顧問になるって具体的に何するんですか?』
「定期的に部室に来て、オカルトの授業をする。ものによっては実践もする」
「はい!今から授業してもらえませんか!」
「済まないが、今から用事がある。部室に来るときはノエルに伝言するから、それまで待っててくれ」
「……はーい」
コアコちゃんが残念そうに俯く。
こうして、1夜の大冒険は幕を閉じた。ホウリお兄ちゃんが外部顧問か。これからのクラブ活動は楽しくなりそう。
「うーん、気持ちのいい朝だー」
大きく伸びをしながら、太陽の光を浴びる。あっちの世界も刺激的で良かったけど、やっりこの世界が一番だね。
そう思いながら角を曲がると、向こうに見なれた4人が見えた。オカルト研究クラブの皆だ。
けど、なんだか深刻そうに顔を突き合わせている。何かあったのかな?
「おーい!みんなー!」
「ノエル!?」
ノエルに気が付いたサルミちゃんが素っ頓狂は声を上げる。思わず周りの皆がサルミちゃんに視線を向けるくらいだ。
サルミちゃんは周りの視線を受けて顔を赤らめると、ノエルに早歩きで近づいて来た。
「ノエル!あんた何処に行ってたの!?」
「えっとね……ノエルからは言えない」
「は?どういう事よ?」
「詳しくは皆にも説明するね」
ノエルとサルミちゃんは皆の元に向かう。
「ノエルちゃん!大丈夫!?」
『あの扉は何だったんだ!?』
「扉から見えたのはなんだったの!?」
皆からの質問をノエルは手で制する。
「皆が聞きたい事は分かるよ。けどね、ノエルは何も説明出来ないの」
「何で?」
「説明できる事と、できない事があるの」
『けどよ、何も説明が無しじゃ納得出来ないぜ?』
「代わりにね、ホウリお兄ちゃんが放課後に説明しに来るんだって」
「ホウリさんが?」
パンプ君の言葉にノエルは頷く。
「今回の出来事は話せないことが多いみたいで、ノエルは説明を禁止されているんだ」
「確かにあんたは何もかもぶちまけそうね」
『それなら仕方ないな』
「納得の理由だね」
「ははは……」
コアコちゃんは苦笑いして、それ以外の3人が頷く。
納得してくれた事は嬉しいけど、今度はノエルは納得できなくなった。そこは、「少しくらいは話して欲しい」みたいに食い下がる所じゃないのかな?
「じゃあさ、ノエルちゃんは異世界に行ったんだけど、詳しくはホウリさんが放課後に説明する、ってこと?」
「そういうこと」
「ならこの話はお終いだね」
『ノエルの無事も確認できたしな』
「じゃ、学校いきましょ」
皆で一緒に学校に向かう。あれ?
「そういえばさ、ノエルが扉から落っこちた時、皆はどうしてたの?やっぱり大さわぎだった?」
「騒ぎにはなってないわよ」
「ホウリさんがナマク先生に手紙を渡してたんだって。そこにホウリさんがノエルちゃんを連れて帰るって書いてあったみたい」
「だから、騒ぎになってなかったんだ」
ホウリお兄ちゃんが何もしてなかったら、行方不明で大さわぎだっただろう。問題を起こしたとして、オカルト研究クラブも無くなってたかもしれない。
「あの後、帰るように言われたんだ。けど、皆で例の本を見ながら、どうにか出来ないか考えてたんだ」
「おかげで寝不足よ」
コアコちゃんが大口を開けて欠伸をする。
「例の本ってコアコちゃんが持ってたやつ?」
「うん、これだよ」
コアコちゃんが昨日持ってきてた本を取り出す。
やっぱりこれが原因だったのかな?けど、校長室以外には何も無かったし、偶然の可能性も?
首を捻りながら、ノエルは学校への道を歩むのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
そんな訳でその日の放課後、ノエル達はオカルト研究クラブの部室に集まった。
『ホウリさんっていつ来るんだ?』
「さあね。けど、なんかいい感じの時間でくるんじゃない?」
「適当ね」
「ホウリお兄ちゃんは、何も言わなくても適切なタイミングが分かるからね」
「良く分かんないわね。深く考えるのは止めておくわ」
「あ、そうだ」
ノエルは持って来たものを思い出す。
「あっちの世界のものは持ってこれなかったけど、ホウリお兄ちゃんが良いの用意してくれたんだ」
「良いのって何?」
「これ」
ノエルは持って来た画用紙を机の上に並べる。画用紙にはあっちの世界の街の様子や、写真で撮った風景が書かれていた。
「なにこれ?」
「写真?それにしてはちょっと変な気が?」
「あっちで撮った写真をホウリお兄ちゃんが画用紙に書いたんだ。写真みたいに正確でしょ?」
写真は持って帰れないからって、昨晩ホウリお兄ちゃんが用意してくれたものだ。
何もお土産が持って帰れなかったから、皆に見せられるものが出来て良かった。
皆が画用紙を我先にと取っていく。
「ノエルちゃん、これなあに?」
コアコちゃんがホウリお兄ちゃんの部屋に写ってるテレビを指す。これくらいなら話しても良いかな?
「これはテレビって言って、動く絵が映って音も鳴るんだよ!」
「そうなの!?どういう原理なの!?」
「絵はパラパラ漫画と同じなんだって。音は分かんないや」
「成程、パラパラ漫画なんだね」
『ノエル、これはなんだ?』
今度はマカダ君が街を走っている車を指す。
「これは車だよ」
『それにしては多くないか?軽く10台以上はあるぞ?』
「10台どころじゃないよ!何百台も走ってるんだ!」
『何百台も!?どんな世界だよ!?』
そんな感じで皆でワイワイと話していると、部室の扉が開いてナマク先生が入って来た。後に続いてホウリお兄ちゃんも入って来た。
「皆さん、静かにしてください。これから今日のクラブ活動を始めます」
「せんせー、今日はホウリさんに昨日のことを説明してんですよね?」
「その通りです。ホウリさん、お願いします」
ホウリお兄ちゃんが一歩前に出て咳払いをする。
「まずは改めて自己紹介からだな。俺はキムラ・ホウリ。ノエルの保護者だ」
「ノエルの保護者が、なんで夜の学校にいたのかしら?」
「それも後で説明する。まずは、昨夜の校長室の扉から説明する」
「異世界への扉って聞きましたけど?」
パンプ君の言葉にホウリお兄ちゃんが頷く。
「あの扉は異世界への扉だ。具体的には『始まりの人』が来た世界だ」
「『始まりの人』って、この世界を発展させた人達?」
「その認識で問題無い」
「そんな凄い人の世界にノエルちゃんは行ったんだ!」
コアコちゃんから熱を帯びた視線を受ける。確かに伝説みたいになっている『始まりの人』がいた世界だし、興奮するのも無理ないね。
「そこで何をしたかは省く。後でノエルにでも聞いてくれ」
「ノエルが知ってることは全部話していいの?」
「あっちでの出来事は問題無い。それ以外は絶対に話すなよ?」
あっちの出来事以外?ああ、天界とかの事とかね。
確かに天界とかの事は大っぴらに話す訳にはいかない。話さないように気を付けないと。
「次に何故この世界と異世界が繋がったのかを説明する」
「異世界ってそんなに簡単に行き来できるものなの?」
「普通は無理だ。今回は特殊な道具と状況が揃ったことによる、偶然だと思ってくれ」
「偶然って、何がどうなったら異世界に繋がるのよ」
「必要なのは特殊な素材」
ホウリお兄ちゃんが見覚えのある本を取り出す。
あれって、図書館で見つけた蛍光塗料がついてた本?
「この本の紙に光るインクを塗る事で特殊な力が発生する」
『特殊な力?』
「空間を不安定にする力だ」
『良く分からないんですけど?』
「詳しくは説明しないぞ。無いとは思うが、再現されても困る」
「でもさ、紙にインクを塗るだけで良いんだったら、なんで本の形になってるの?」
コアコちゃんが最もな質問を投げかける。紙とインクだけが必要なら本にする必要は無いはずだ。
「恐らく、図書館に紛れ込ませるためには、本にした方が都合が良かったんだろう」
『図書館に紛れ込ませる理由は?』
「さあな。まだ誰が作ったかすら分かってないし、推測もできない」
『昨日の今日だし、仕方ないか』
ホウリお兄ちゃんが肩をすくめる。何も分からないって意味だろうけど、本当かな?ホウリお兄ちゃんなら調べが付いてても可笑しくない。嘘ついてるかも?
そんな事を思っていると、ホウリお兄ちゃんが説明を続ける。
「次に必要なのは魔法陣」
ホウリお兄ちゃんがニワトリ小屋で拾ったコインを取り出す。
帰って来てから渡してたんだっけ。
「このコインには特殊な魔法陣が刻まれている。これにMPを大量に込めれば、弱くなった空間をこじ開けることが出来る」
「大量のMPってどのくらい?」
「王都で1日に使われるくらいだな」
「途方もない量な気がするんですけど?あの時はそんなに大量のMPは無かった筈ですよ?」
「既にMPが込められてたんだろう。このコインの材質も特殊だったしな」
「そうでしたか」
パンプ君が納得したように頷く。けど、ノエルはこれが嘘だってはっきり分かる。
多分、MPはノエルのやつが使われたんだと思う。アイテムボックスに仕舞ってたはずだけど、天界関係のアイテムなら、それくらいは何とかなりそう。
マカダ君も感付いたのか、さっきから視線がノエルに向いている。
どんな顔したらいいのか分からないから、平常心を保ちつつ大人しくしておく。
「最後は場所だ」
「流れから察するに校長室がその場所って訳ね?」
「その通り。校長室は空間が一番不安定だから、異世界と繋げるのに都合が良い」
「まとめると、その本とMPが込められたコインを持って、校長室の扉を開けるのが異世界に行く条件ね?」
サルミちゃんの言葉にホウリお兄ちゃんが頷く。
「つまり、異世界に繋がったのは事故だったって訳だね」
『ノエルも運が悪かったな』
「本当にそう思ってるのか?」
「え?」
「コアコ、その本はどうやって手に入れた?」
ホウリお兄ちゃんがコアコちゃんが持っているオカルト本に視線を向ける。
「景品としてポストの中に入ってました」
「何かに応募した記憶は?」
「無いですけど?」
『待ってください、もしかして?』
「ああ。誰かが意図的に異世界に繋げようとして、本をコアコの家のポストに入れた可能性が高い」
そう言われた瞬間、ノエルの背中に寒気が走った。
異世界へ繋げられる方法を知っているなんて、神様関係の人に違いない。けど、神様は何も知らないみたいだった。
ということは、神様と敵対している邪神の関係者の可能性が高い。
ノエル達の敵、そんな人がコアコちゃんを知っている。つまり、いつかはコアコちゃんが、皆が危ない目に合うかもしれない。
そう思うと一気に恐怖心が湧き上がって来た。皆を失う、それが今はとても恐ろしい。
「ノエルちゃん?どうしたの?」
「あ、えっと……なんでもない」
笑顔を作ってコアコちゃんに返事をする。けど、不自然だったのか、コアコちゃんが悲しそうな表情になる。
それを見たホウリお兄ちゃんはノエルに視線を向けて来る。
「安心しろ、本を入れた奴は俺が速攻で見つけてやる。ここにいる誰にも危害は加えさせない」
表情は変わってないけど、いつも通り真っすぐな力強い視線。そんな目に見つめられると、心の中の怖さが薄らいでいった。
ノエルは言葉で返事する代わりに、笑顔で頷いた。
「それでだ、ここからが今回の本題なんだが……」
ホウリお兄ちゃんはコアコちゃんに視線を向けて、手を差し出した。
「その本をこっちに渡して欲しい」
「……え?」
「その本に書かれていることは危険だ。今回は俺がいたから何とかなったが、この中の誰かが落ちたら命は無かったんだぞ?」
「確かにね。むしろ、あの高さから落ちて無事な理由を聞いてみたいわ」
「それは秘密だ」
ノエルのMPとホウリお兄ちゃんの魔装、それがあって初めて無傷だったんだ。他の人なら即死だろう。
「残念だけど妥当だね」
『だな』
「そういうことだ。済まないが渡してくれ」
ホウリお兄ちゃんが手を突き出したまま、コアコちゃんを見つめる。
コアコちゃんは迷ったように目を泳がせると、本を抱きしめた。
「あの、この本に書かれてることって本当なんですよね?」
「デマも混ざっているが本当の事も書いてある」
「……渡したくない」
本を抱きしめながらコアコちゃんがポツリと呟く。
そんなコアコちゃんにホウリお兄ちゃんが優しく質問する。
「理由を聞いて良いか?」
「……今まで、オカルトが好きって言っても誰にも理解されなかった。けど、今は皆で大好きなオカルトを研究できる。だから、本物のオカルトを皆で楽しみたい」
「皆を危険に晒してもか?」
「それは……」
ホウリお兄ちゃんの言葉にコアコちゃんが俯く。
そういえば、昨日の探検の時に、本が嘘だったらって気にしてたっけ。皆で大丈夫って励ましたけど、まだ気にしているみたい。
皆の為に本物を用意したい。けど、危険な目にも合わせたくない。そんな気持ちで板挟みになっているのかな。
「えっと……その……」
「分かった。もう十分だ」
ホウリお兄ちゃんが手を引っ込める。諦めた?違う、あの目は次の手を打とうとしている目だ。
ホウリお兄ちゃんが両手をテーブルに置いて、部員の皆を視線に収める。
「確かに自分が欲しかったものが手に入ったんだ。手放したくない気持ちは分かる。だが、その本は世間に知られちゃいけないことも多く書かれている。回収は絶対条件だ」
「…………」
「だから交換条件として、本を渡してもらう代わりに俺が外部顧問になろう」
「……へ?」
思ってもいなかった条件に、コアコちゃんが思わず固まる。
「えっと?どういう事ですか?」
「俺はその本よりも多くのオカルトを知っている。だから、その本を渡してくれたら、俺がそれ以上のオカルトを教えよう。どうだ?悪くない条件だろ?」
確かに、ホウリお兄ちゃんならいっぱいオカルトを知っているだろう。そういえば、悪魔さんも召喚してたっけ?
「えっと……」
コアコちゃんがズレた眼鏡を直しながら、ノエル達を見て来る。ノエル達は笑顔で頷いて答えた。
「……よろしくお願いします」
コアコちゃんは持っていた本をホウリお兄ちゃんに差し出す。
「ありがとな」
ホウリお兄ちゃんは本を受け取ると、アイテムボックスに仕舞った。
「これで俺からの説明は終わりだ。何か質問はあるか?」
『顧問になるって具体的に何するんですか?』
「定期的に部室に来て、オカルトの授業をする。ものによっては実践もする」
「はい!今から授業してもらえませんか!」
「済まないが、今から用事がある。部室に来るときはノエルに伝言するから、それまで待っててくれ」
「……はーい」
コアコちゃんが残念そうに俯く。
こうして、1夜の大冒険は幕を閉じた。ホウリお兄ちゃんが外部顧問か。これからのクラブ活動は楽しくなりそう。
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死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
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貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
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同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。
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高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
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