魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百七十三話 はい、おしまい

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 魔法陣に乗ると輝き始めて、思わず眼を瞑る。そして、次に目を開けた時には王都の魔法陣の部屋ちは別の部屋の中だった。


「無事にワープできたな」
「無事にワープ出来ないことってあるんですか?」
「過去に1度だけ、ワープ中に行方不明になった奴がいたな」
「……へ?」
「詳しい話は後だ。早くスミルの騎士団に合流しよう」


 そう言うとミエルさんは早足で部屋を出ていく。もの凄く気になるけど、終わってから聞いてみよう。
 僕らが部屋の外に出ると、冷たい風が肌を撫でた。
 寒さに体を震わせていると、真っ暗な空の下で先にワープした皆さんが整列しているのに気が付く。
 寒さに耐えながら僕も整列すると、ミエルさんが前に出て来た。


「ヤマタノオロチは東門に出現した。これより駆け足で向かう。なお、防寒はポカポカ薬と酸素玉を支給する」


 ミエルさんが赤い薬が入った小瓶を取り出す。ポカポカ薬は飲むだけで暖かくなる薬だ。かなり高価な薬だけど、防寒着で動きにくくなることも無い。便利な薬だ。
 スミルの街は高い山の上にある。だから空気が少なく、気温が低い。だから、ポカポカ薬と酸素玉が無いと結構戦いづらくなる。


「ポカポカ薬の効果時間は半日、戦闘中は効果が続くはずだ。酸素玉は呼吸が苦しくなった時に使用するように。それぞれ1人に2個ずつ支給する」


 ミエルさんがポカポカ薬と酸素玉が入った箱を取り出して地面に置く。


「2個ずつ取って整列してくれ」


 皆が規則的に素早くポカポカ薬を取って整列する。流石は騎士団、普段の訓練の成果が出ている。
 僕も皆にぶつからない様に気を付けながら、酸素玉とポカポカ薬をとって並びなおす。


「全員取ったな?では、東門に出発する。駆け足!」


 全員で駆け足で騎士団を出発する。そういえば、騎士団の中に人の気配が無かったような?
 建物に光も少なかったし、皆さん出払っているんでしょうか?それだけヤマタノオロチは強力なんだろうか。
 そんな事を考えながら、僕は駆け足で進む。
 街の中は暗く、住人の皆さんもまだ寝ているみたいだ。迷惑を掛けずに済んで一安心だ。
 数十分走ると、東門が見えて来た。門番の人は僕らに気が付くと敬礼で迎えてくれた。


「お疲れ様です!」
「お疲れ様です。状況は?」
「戦闘開始から1時間経過。場所は東門から300mの箇所です」


 門番の人が地図に印をつけてくれる。思ったよりも戦闘をしている場所が近い。早く加勢に行かないと。


「ありがとうございます。それでは、門を開けていただけますか?」
「分かりました。ご武運を」


 門番の人が門の中に入る。すると、大きな扉が重々しく開いた。瞬間、極寒の風が僕らに吹き荒れた。こ、これは寒すぎて戦うどころじゃない。
 震える手でポカポカ薬の瓶を開けて一気に飲み干す。


「ふー」


 体の芯からポカポカとした熱が湧き上がってくる。かじかんでいた手に体温が通っていくのが感じられる。これで、戦うのに支障はないかな。


「では、目標に向かって出発する。何が起こるか分からないから、武器はすぐに取り出せるようにしておくように」
「「「「はい!」」」



 矢筒を背負い、弓に弦を張る。これでいつでも戦える。
 大きく息を吸って、大きく息を吐く。よし!


「行くぞ!」
「「「「おおおお!」」」」


☆   ☆   ☆   ☆


 スミルは高山地帯。だから、斜面での戦いが主だ。しかも、雪で地面が滑りやすくなっているし、転びやすくなっていて戦いにくい。
 僕は遠距離攻撃が主体だから動き回らないけど、接近戦で戦う人たちは大変だろう。
 だから、仕方ないんだ。






「ぬわあああああ!?」


 足を踏みはずして転げ落ちるのは仕方ないんだ。
 自分を正当化しつつ、斜面を物凄い勢いで転げ落ちていく。


「これどうやって止まればいいのおおおお!?」


 矢筒にカバーが付いているから矢は無事、弓は庇っているから無事。問題は僕の体が傷だらけになっていることくらいかな。
 ……うん、大問題だね。


「誰か助けてえええええ!」


 自分の状況を嫌と言う程に理解しながら、坂を転がり落ち続ける。これじゃ、戦いにいくどころじゃない!どうにかして止まらないと!
 止まる方法を必死になって考えていると、何か固い物にぶつかった。


「ぐふっ!?」


 勢いが付き過ぎていて、死ぬほど痛い。けど、なんとか止まったみたいだ。


「痛てて……」


 痛みをこらえながら立ち上がる。そういえば、何にぶつかったんだろ?
 そう思って、僕はぶつかった物を見てみる。鱗っぽいものに覆われた壁?それにしては生き物みたいだ。
 首を傾げていると、頭に何かが垂れて来た。拭ってみると粘液性のある液体だった。
 上を向いてみると、蛇の顔が8本、それぞれが涎を垂らしている。周りを見てみると、武器や杖をもった人達。皆、突然現れた僕に驚いているような?
 僕は心当たりのある単語を口にする。


「……ヤマタノオロチ?」
『シャアア!』
「うわああああ!?」


 ヤマタノオロチの攻撃なんて食らったら一撃で死ぬ!何とかして距離を取らないと!


『シャアアア!』


 僕が離れるよりも早く、ヤマタノオロチの首が僕に向かってくる。回避は無理、だったら!
 僕はアイテムボックスから青く輝く切り札を取り出す。


「トリシューラ!」


 トリシューラを弓に番えてMPを込められるだけ込める。そして、首が僕に届くよりも早くトリシューラを放つ。


「いっけええええええ!」


 青い光となったトリシューラがヤマタノオロチの口の中に吸い込まれる。瞬間、ヤマタノオロチの頭を貫いて、トリシューラが出て来た。そして、貫通したトリシューラの軌道を操作し、胴体にも命中させる。


『シャアアアアア!?』


 トリシューラは胴体を貫通することは無かったが、ヤマタノオロチをひっくり返すことに成功する。そして、ひっくり返ったヤマタノオロチはゴロゴロと斜面を転がっていった。


「た、助かった……」


 今のが効かなかったら本格的に危なかった。事故でヤマタノオロチと接敵して死んだ、なんてなったら恥ずかしすぎて死にきれない。
 体勢を整えて、ヤマタノオロチが転がっていった方を見てみる。姿が見えない。ということは、ひとまずは大丈夫かな。


「あ、あの……」


 状況を探っていると、後ろから声がした。振り返ってみると、ローブを着た長身の女の人が肩で息をしていた。
 僕は反射的に顔に布が付いているか確認する。良かった、布は外れていないみたいだ。


「貴方はどなたですか?」
「僕は王都の騎士団に所属しています、ロワ・タタンといいます」
「そうでしたか!」


 女の人がホッと胸を撫でおろした。


「私達だけではヤマタノオロチを抑えきれなくなっていたんです。助かりました」
「そうでしたか」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私はスミルの騎士団で団長をしています、クラフ・ラニューです」
「騎士団長の方だったんですか」


 僕は自然に背筋が伸びる。直接な上司じゃないけど、立場が上の人だ。失礼が無いようにしないと。
 すると、クラフさんが微笑んだ。


「ふふっ、そこまで畏まらなくてもいいよ」
「そ、そうですか」


 僕は肩の力を抜く。おおらかな人で良かった。
 それにしても、騎士団長って強そうな人だと思ってたけど、普通な見た目の人もいるんだ。
 でも、ミエルさんも強そうな見た目ではないですし、案外そういうものなのかも?


「それで、他の人はどうしたんですか?」


 クラフさんが周りを見渡す。あー、どう説明しようかな?


「その……皆さんがピンチだと聞いたので、僕が先行してやって来たんです」
「本当?それにしては『助けて』って叫んでたような?」
「き、気のせいじゃないですか?」
「私、耳は良いの。早く本当のことを言ってちょうだい?」
「……足を滑らせて、転がり落ちてたら、偶々ここに来ました。他の皆さんはまだ上にいます」
「よろしい」


 俯く僕の頭をクラフさんが撫でてくれる。


「こういう時に嘘を言っちゃダメよ?大した事が無いって思っても、大事になるかもしれないんだから」
「すみませんでした」


 うう……全部見透かされてた。恥ずかしさで顔が熱くなる。


「ロワアアアアアア!」


 頭を下げていると、上から聞き覚えがある声が聞こえた。


「ミエルさん?」


 顔を上げて上を向いてみると、ミエルさんが滑り降りて来るのが見えた。僕とは違い転がっているわけではなく、体勢を崩さずに滑っている。


「ミエルさーん!」


 僕は大きく手を振ってアピールする。すると、ミエルさんも気付いたのか僕らの元に滑り降りてきました。


「ロワ!大丈夫か!?」
「なんとか大丈夫です」
「だが、傷だらけではないか。誰か、回復を……」
「私が回復するよ」


 そう言って、クラフさんが杖を振った。すると、僕の体が緑色の光に包まれて、傷が癒えていった。


「はい、おしまい」
「助かった。ありがとうクラフ」
「別にいいよ。ロワ君に助けられたんだし、これくらいは当然よ」
「あれ?お二人ってお知り合いなんですか?」
「どちらも団長だからな。年に一度の集まりで顔を合わせるんだ」
「そうなんですか」


 言われてみれば、団長どうしで面識があるのは可笑しくないのかな。


「ミエルとは年も近いし、団長の中では一番仲が良いかも?」
「そう言ってくれるのは嬉しいな。だが、雑談は後にしよう。ヤマタノオロチはどこだ?」
「実はね……」


 クラフさんが僕がやってきてからの事を説明する。


「……なるほど、ヤマタノオロチは更に下に行ったのか」
「本当に助かったわ。あのまま戦いが続いていたら、全滅していたかも」
「結果オーライって訳か、よくやったなロワ」
「ありがとうございます」
「だが、腑に落ちないな」


 ミエルさんは何か引っかかっているのか、視線を下げて顎に手を当てる。


「ヤマタノオロチの出現の報告を受けて、まだ1時間くらいだ。そんな短時間でスミルの騎士団が全滅しそうになるのか?」
「それだけヤマタノオロチが強かったのでは?」


 ヤマタノオロチと言えば、魔物の中でも上位に入る戦闘力だ。苦戦しても可笑しくない。


「スミルの騎士団はそこまで弱くない。現に今までヤマタノオロチを撃破した報告は50にのぼる」
「50回も倒してるんですか!?」
「そんなスミルの騎士団が1時間で全滅間近まで追い詰められている。何があった?」
「それがね、良く分からないの」
「良く分からない?」


 クラフさんが不思議そうに首を傾げる。


「なんだか、今回は今までのヤマタノオロチと違かったの。なんとなくやりにくい、って感じだったわ」
「良く分かりませんね?」
「戦った本人たちが良く分かっていないのだ。無理もないだろう」


 今まで以上に強いヤマタノオロチか。いったいどんな相手なんだろう?
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