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外伝 人間には215本も骨があるのよ!
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「ホウリ!いるか!」
家の外で知った声がする。俺はその声に答えずにコーヒーを啜る。
「あの、ホウリさん」
「どうした?」
隣で矢を複製しながらロワが外を気にしている。俺は無視して皿の上のチョコに手を伸ばす。
「外にいるのって兄貴ですよね?出なくて良いんですか?」
「大したことない。どうせ、ホワイトデーのお返しの相談とかだ」
「それって良いんですか?」
「ああ。このままだとナップの奴とコレトの奴と破局するだけだ」
「結構な大事だと思うんですけど!?」
「今は1カ月ぶりの休憩なんだよ。それでも大切か?」
「それは……少しくらいは話を聞いても良いのでは?」
ロワが持っていた矢をテーブルに置く。押しきれなかったか。ロワはナップを慕っているし、無理も無いか。
俺は大きくため息を吐いて立ち上がる。
「話だけ聞いて、適当にアドバイスして帰ってもらうか」
「前から気になってたんですけど、なんで兄貴に対しては辛辣なんですか?」
「この前、一日に5回も相談を受けた。その前は1時間くらいのロケ話を聞かされて、最後に『こんなに幸せでどうすればいい?』だ。辛辣にもなるだろ?」
「あはは……」
ロワは曖昧に笑って目を反らせる。ロワもナップの行動に思う事があったんだろう。
俺は嫌々ながら玄関に向かう。
「おーい!いるのは分かってるんだぞー!大人しく出てこーい!」
「犯人を説得する憲兵かお前は」
玄関を開けると大口を開けているナップがいた。
「何か用か?」
「用も用、急用だ」
「とりあえず中に入れ。ここで騒がれたら近所迷惑だ」
「今日はやけに優しいな?何かあったのか?」
「可愛い弟分の頼みだよ」
俺はリビングにナップを通す。すると、リビングにいたロワが笑顔で手を上げた。
「兄貴、こんにちは」
「よう、久しぶりだな」
「そうですね。2人で夜ご飯を食べたっきりでしたっけ?」
「となると半年以上も前か。時間が経つのは早いな」
ナップが乱暴に椅子に座る。
「お茶はまだか?」
「ロワに頼まれたのは家に上げるまでだ。もてなす事なんてしないからな?」
「水くらい出してもいいだろ……お、良いのがあるじゃねえか」
ナップは皿の上にあるチョコに視線を向ける。
「あ、ダメですよ兄貴!」
「こんなにあるんだから少しくらい良いじゃねぇか」
ロワの静止を無視してナップがチョコに手を伸ばす。俺はその手を取ると……
(ドゴォ!)
無言でテーブル叩きつけた。
「ぐあっ!?」
呻くナップを無視して腕に体重をかける。防御力が低いナップの腕はミシミシと音を立てて軋んでいく。
「な、なにしやがる!?」
額に大粒の汗を浮かべながら、ナップが俺を睨んでくる。だが、俺が視線を向けるとナップの気丈な表情が恐怖へと変わった。どうやら、俺の殺意が伝わったらしい。
「骨って206本あるんだよ。1本くらい折れても問題無いだろ?」
「その理屈は可笑しいだろうが!」
「沢山あるからって、勝手にチョコを食おうとしただろ?それと同じだよ」
「人間の骨とチョコと一緒にするな!」
「そうだな。お前の骨と比べてはチョコに失礼だな」
「俺の骨はチョコ以下か!?」
そんなやりとりをしている間にも、俺は腕に体重をかけるのをやめない。
ナップはというと、腐ってもA級冒険者というべきか、悲鳴ひとつあげずに耐えている。
「どうした?左手で反撃しないのか?」
「この距離で魔法を使おうとしても、木刀が飛んでくるだけだ。無駄な抵抗をして痛い目をみたくない」
ナップの言う通り、俺は右手を残している。ナップが杖で反撃したとしても、それよりも早く新月を叩きこめる。当たり所によっては、骨だけでは済まないだろう。
「冷静な状況分析だな。その判断に命じて1本で勘弁してやる。有難く思えよ?」
「骨を1本折る宣言しといて、どうしてそこまで恩着せがましく出来るんだ?」
「勘違いするなよ?1本以外は全部折るって意味だ」
「遠回しな死刑宣告じゃねえか!?」
「腕の次は首の骨だ」
「即死させにきてやがる!?」
そこまで話して、俺はナップを解放する。脅しはこれくらいで十分だろう。
「次に俺のスイーツに手を出してみろ。さっきの会話を冗談じゃなくしてやる」
「わ、分かったよ。すまなかった」
本気の反省を感じ取って、俺は席に着く。ナップも浮かせていた腰を席に降ろす。
「……あれ?」
ナップが違和感を覚えたのか右手に視線を向ける。
「……なんか、右手が動かないんだが?」
「神経を切ったからな。骨を折らずに神経を切るのは苦労するんだぜ?」
「バカじゃないか!?なんで非人道的行為を誇れるんだ?」
「チョコを勝手に食おうとした罰だ」
「重すぎるだろ!?」
慌てふためくナップの前にHPポーションを置く。
「お茶の代わりだ。感謝してありがたく飲め」
「恩着せがましいな……」
「じゃあいらないんだな?」
「ありがたくいただこう」
ナップは左手で器用に蓋を開けて、ポーションを呷る。
「それで、今日はどんな用なんですか?」
巻き込まれない様に気配を消していたロワが話を期しだす。
「いや、大した用じゃないんだが……」
「玄関では急用だって聞いたが?」
「細かいことは気にするな」
HPポーションの飲み、右腕を開いたり閉じたりする。動くようになったのを確認し、ナップは手を組む。
「実はな、コレトさんにホワイトデーのお返しを送りたいんだが、良い贈り物が思いつかなくてな」
「で、俺に何を送れば良いか相談に来た訳か?」
「そういう事だ。何か無いか?」
笑顔で聞いてくるナップを無視して、隣のロワに顔を向ける。
「ロワ、俺はナップの話を聞いたよな?」
「え?そうですけど?」
「じゃあ、ロワの頼みは聞いたことになるな」
「……僕なんて頼みましたっけ?」
「『少しくらいは話を聞いても良いのでは?』だ」
丁寧にロワの声色まで真似て、言われたことを言う。
「少し話は聞いた。もうこいつと一緒にいる理由は無いな」
「は?どういうことだ?」
「お前と話すことは無いってことだ」
俺は右腕を大きく引く。すると、事前に伸ばしておいたワイヤーがナップの体に巻き付いた。
ナップは思わず立ち上がり、バランスを崩して倒れた。
「ちょっ!?なんだこれ!?」
俺は答えずに身動きできないナップの胸倉を掴んで持ち上げる。
「おい!説明しろよ!」
「あと3分で家を出ないといけない。お前の長話を聞いている暇はない」
「だからって横暴すぎるだろ!?」
「これくらいしないと出て行かないだろ?まさか、閉店する店に居座ったことを忘れてないだろうな?」
「……俺は過去を顧みない」
「過去を見ない者に未来はない」
そんなやり取りをしつつ、俺はナップを持って玄関を出る。
そして、家の門の前にナップを立たせる。そこまできて、ナップも勘弁したのか項垂れた。
「分かったよ。観念して帰るよ。だから、これほどいてくれ」
「了解」
俺は思いっきりワイヤーを引っ張る。すると、ナップがコマのように回り始めた。
「うわあああ!?」
物凄い勢いで回ったナップが尻餅をついて目を回す。
「うううん……」
俺は付箋を取り出してとある場所の住所を書く。そして、焦点が合っていないナップのおでこに貼りつける。
「うーん……なんだこれ?」
ナップはおでこに貼られた付箋を剥がす。
「なんだこの住所?」
「レッドジュエルスパイダーって知ってるか?」
「ああ。腹の部分が真っ赤な宝石になってる蜘蛛だろ?……まさか?」
「そのまさかだ」
食い入るように付箋を凝視するナップに俺は頷く。
「その住所の建物にレッドジュエルスパイダーがいるのか!?」
「ああ。廃墟になってるから出入は自由。宝石を手に入れたら売るなり、誰かにプレゼントするなり好きにしろ」
その言葉の真意に気が付いたのか、ナップが力強く立ち上がる。
「そうと決まれば急がないと!じゃ!ありがとな!」
そう言ってナップは走り去っていった。
「はぁ、世話が焼ける奴だ」
「あれ?兄貴、本当に帰ったんですか?」
ロワが遅れて家から出てくる。さては、ナップを助けるか迷ったな?
「ああ。意気揚々と帰っていったよ」
「あの状態から意気揚々?何かしたんですか?」
「ちょっとしたアドバイスをな」
「へぇー、なんだかんだアドバイスはしてるんですね」
「雑に扱いはするが、きちんとすることはする」
「ちなみに、どんなアドバイスを?」
家に戻りながらナップに話したことを教える。
「レッドジュエルスパイダー?」
「知らないのか」
「聞いたことないですね」
「腹が宝石になっている蜘蛛だ。宝石の大きさは3㎝くらいで、燃えるような赤さが特徴だ」
「珍しいんですか?」
「まあな。目撃情報は10年に1度くらい。宝石の値段はトリシューラ5本分くらいだ」
「トリシューラ5本分!?」
ロワが指を折って計算して、体を震わせる。
「僕の給料では何十年もかかります」
「まともに働いて買えるのも凄いんだけどな」
リビングに戻り、テーブルにアイテムボックスから出したアイテムを並べる。そろそろ準備しないとな。
「そんなに珍しいもの情報なんて良く知ってましたね」
「俺だしな」
「確かに」
俺だから知ってる、便利な言葉だ。
ロワと話しながら、武器やワイヤー発射装置を並べて、メンテナンスをする。ナイフは……問題無いな。ワイヤー発射装置は……ここの部品が消耗しているな。
「その情報は他の人は知らないんでしょうか?」
「知ってる奴もいるぞ」
「そうですか……ん?」
何かを察したのか、ロワが首を傾げる。
「レッドジュエルスパイダーって貴重なんですよね?」
「そうだな」
「それって奪い合いになりませんか?」
「そうだな」
「言い方が軽くないですか!?どういう状況か理解してます!?」
「貴重な蜘蛛の奪い合い。下手したら死人が出るな」
「これ以上にないくらいに理解してますね!?流石はホウリさんです!」
ロワの話を聞きながら、ワイヤー発射装置の部品を入れかえる。試しにワイヤーを発射してみて、動作に問題が無いことを確認する。
「なんでそんなに冷静なんですか!?兄貴が死ぬかもしれないんですよ!?」
「ナップなら問題無いんじゃないか?あれでもA級パーティのメンバーだしな」
「無責任ですよ!」
「冒険者は依頼が危険なことなんて日常茶飯事だ。ナップもそれは理解している筈だ」
「でも!」
「惚れた女のために危険を冒してるんだ。黙って信じてやれ」
その言葉を最後にロワは黙りこくった。納得はしてないようだが、理解はしてくれたみたいだな。
俺も持ち物の点検を済ませ、持ち物をアイテムボックスに仕舞う。
「そういえば、兄貴はホワイトデーのお返しを相談しにきたんですよね。ホウリさんはどういうお返しを考えているんですか?」
「大抵の奴には既製品を渡すことにする。スターダストの面々とか世話になってる奴は、手作りのお菓子を渡すつもりだ」
フランはキシリトールを使った太りにくいお菓子にするか。
「最近は男女に関係なくお礼を渡すのが流行ってるらしいですよ。僕からもホウリさんに何か贈りましょうか?」
「くれるっていうなら貰うぞ」
「何か欲しいものはありますか?」
「欲しい物は自分で揃えるからな。ロワが贈りたいものを贈ってくれ」
「分かりました。おすすめの弓を贈りますね」
「おう」
ロワへの贈り物も考えるか。
そんな感じで色々なことを考えながら、俺は出発の準備を終える。休憩時間も、もう終わりか。
「じゃあ行ってくる。夕飯までには戻ってくる」
「分かりました。いってらっしゃい」
「いってきます」
いつも通り見送ってもらい家を出る。さてと、今日も頑張りますか。
家の外で知った声がする。俺はその声に答えずにコーヒーを啜る。
「あの、ホウリさん」
「どうした?」
隣で矢を複製しながらロワが外を気にしている。俺は無視して皿の上のチョコに手を伸ばす。
「外にいるのって兄貴ですよね?出なくて良いんですか?」
「大したことない。どうせ、ホワイトデーのお返しの相談とかだ」
「それって良いんですか?」
「ああ。このままだとナップの奴とコレトの奴と破局するだけだ」
「結構な大事だと思うんですけど!?」
「今は1カ月ぶりの休憩なんだよ。それでも大切か?」
「それは……少しくらいは話を聞いても良いのでは?」
ロワが持っていた矢をテーブルに置く。押しきれなかったか。ロワはナップを慕っているし、無理も無いか。
俺は大きくため息を吐いて立ち上がる。
「話だけ聞いて、適当にアドバイスして帰ってもらうか」
「前から気になってたんですけど、なんで兄貴に対しては辛辣なんですか?」
「この前、一日に5回も相談を受けた。その前は1時間くらいのロケ話を聞かされて、最後に『こんなに幸せでどうすればいい?』だ。辛辣にもなるだろ?」
「あはは……」
ロワは曖昧に笑って目を反らせる。ロワもナップの行動に思う事があったんだろう。
俺は嫌々ながら玄関に向かう。
「おーい!いるのは分かってるんだぞー!大人しく出てこーい!」
「犯人を説得する憲兵かお前は」
玄関を開けると大口を開けているナップがいた。
「何か用か?」
「用も用、急用だ」
「とりあえず中に入れ。ここで騒がれたら近所迷惑だ」
「今日はやけに優しいな?何かあったのか?」
「可愛い弟分の頼みだよ」
俺はリビングにナップを通す。すると、リビングにいたロワが笑顔で手を上げた。
「兄貴、こんにちは」
「よう、久しぶりだな」
「そうですね。2人で夜ご飯を食べたっきりでしたっけ?」
「となると半年以上も前か。時間が経つのは早いな」
ナップが乱暴に椅子に座る。
「お茶はまだか?」
「ロワに頼まれたのは家に上げるまでだ。もてなす事なんてしないからな?」
「水くらい出してもいいだろ……お、良いのがあるじゃねえか」
ナップは皿の上にあるチョコに視線を向ける。
「あ、ダメですよ兄貴!」
「こんなにあるんだから少しくらい良いじゃねぇか」
ロワの静止を無視してナップがチョコに手を伸ばす。俺はその手を取ると……
(ドゴォ!)
無言でテーブル叩きつけた。
「ぐあっ!?」
呻くナップを無視して腕に体重をかける。防御力が低いナップの腕はミシミシと音を立てて軋んでいく。
「な、なにしやがる!?」
額に大粒の汗を浮かべながら、ナップが俺を睨んでくる。だが、俺が視線を向けるとナップの気丈な表情が恐怖へと変わった。どうやら、俺の殺意が伝わったらしい。
「骨って206本あるんだよ。1本くらい折れても問題無いだろ?」
「その理屈は可笑しいだろうが!」
「沢山あるからって、勝手にチョコを食おうとしただろ?それと同じだよ」
「人間の骨とチョコと一緒にするな!」
「そうだな。お前の骨と比べてはチョコに失礼だな」
「俺の骨はチョコ以下か!?」
そんなやりとりをしている間にも、俺は腕に体重をかけるのをやめない。
ナップはというと、腐ってもA級冒険者というべきか、悲鳴ひとつあげずに耐えている。
「どうした?左手で反撃しないのか?」
「この距離で魔法を使おうとしても、木刀が飛んでくるだけだ。無駄な抵抗をして痛い目をみたくない」
ナップの言う通り、俺は右手を残している。ナップが杖で反撃したとしても、それよりも早く新月を叩きこめる。当たり所によっては、骨だけでは済まないだろう。
「冷静な状況分析だな。その判断に命じて1本で勘弁してやる。有難く思えよ?」
「骨を1本折る宣言しといて、どうしてそこまで恩着せがましく出来るんだ?」
「勘違いするなよ?1本以外は全部折るって意味だ」
「遠回しな死刑宣告じゃねえか!?」
「腕の次は首の骨だ」
「即死させにきてやがる!?」
そこまで話して、俺はナップを解放する。脅しはこれくらいで十分だろう。
「次に俺のスイーツに手を出してみろ。さっきの会話を冗談じゃなくしてやる」
「わ、分かったよ。すまなかった」
本気の反省を感じ取って、俺は席に着く。ナップも浮かせていた腰を席に降ろす。
「……あれ?」
ナップが違和感を覚えたのか右手に視線を向ける。
「……なんか、右手が動かないんだが?」
「神経を切ったからな。骨を折らずに神経を切るのは苦労するんだぜ?」
「バカじゃないか!?なんで非人道的行為を誇れるんだ?」
「チョコを勝手に食おうとした罰だ」
「重すぎるだろ!?」
慌てふためくナップの前にHPポーションを置く。
「お茶の代わりだ。感謝してありがたく飲め」
「恩着せがましいな……」
「じゃあいらないんだな?」
「ありがたくいただこう」
ナップは左手で器用に蓋を開けて、ポーションを呷る。
「それで、今日はどんな用なんですか?」
巻き込まれない様に気配を消していたロワが話を期しだす。
「いや、大した用じゃないんだが……」
「玄関では急用だって聞いたが?」
「細かいことは気にするな」
HPポーションの飲み、右腕を開いたり閉じたりする。動くようになったのを確認し、ナップは手を組む。
「実はな、コレトさんにホワイトデーのお返しを送りたいんだが、良い贈り物が思いつかなくてな」
「で、俺に何を送れば良いか相談に来た訳か?」
「そういう事だ。何か無いか?」
笑顔で聞いてくるナップを無視して、隣のロワに顔を向ける。
「ロワ、俺はナップの話を聞いたよな?」
「え?そうですけど?」
「じゃあ、ロワの頼みは聞いたことになるな」
「……僕なんて頼みましたっけ?」
「『少しくらいは話を聞いても良いのでは?』だ」
丁寧にロワの声色まで真似て、言われたことを言う。
「少し話は聞いた。もうこいつと一緒にいる理由は無いな」
「は?どういうことだ?」
「お前と話すことは無いってことだ」
俺は右腕を大きく引く。すると、事前に伸ばしておいたワイヤーがナップの体に巻き付いた。
ナップは思わず立ち上がり、バランスを崩して倒れた。
「ちょっ!?なんだこれ!?」
俺は答えずに身動きできないナップの胸倉を掴んで持ち上げる。
「おい!説明しろよ!」
「あと3分で家を出ないといけない。お前の長話を聞いている暇はない」
「だからって横暴すぎるだろ!?」
「これくらいしないと出て行かないだろ?まさか、閉店する店に居座ったことを忘れてないだろうな?」
「……俺は過去を顧みない」
「過去を見ない者に未来はない」
そんなやり取りをしつつ、俺はナップを持って玄関を出る。
そして、家の門の前にナップを立たせる。そこまできて、ナップも勘弁したのか項垂れた。
「分かったよ。観念して帰るよ。だから、これほどいてくれ」
「了解」
俺は思いっきりワイヤーを引っ張る。すると、ナップがコマのように回り始めた。
「うわあああ!?」
物凄い勢いで回ったナップが尻餅をついて目を回す。
「うううん……」
俺は付箋を取り出してとある場所の住所を書く。そして、焦点が合っていないナップのおでこに貼りつける。
「うーん……なんだこれ?」
ナップはおでこに貼られた付箋を剥がす。
「なんだこの住所?」
「レッドジュエルスパイダーって知ってるか?」
「ああ。腹の部分が真っ赤な宝石になってる蜘蛛だろ?……まさか?」
「そのまさかだ」
食い入るように付箋を凝視するナップに俺は頷く。
「その住所の建物にレッドジュエルスパイダーがいるのか!?」
「ああ。廃墟になってるから出入は自由。宝石を手に入れたら売るなり、誰かにプレゼントするなり好きにしろ」
その言葉の真意に気が付いたのか、ナップが力強く立ち上がる。
「そうと決まれば急がないと!じゃ!ありがとな!」
そう言ってナップは走り去っていった。
「はぁ、世話が焼ける奴だ」
「あれ?兄貴、本当に帰ったんですか?」
ロワが遅れて家から出てくる。さては、ナップを助けるか迷ったな?
「ああ。意気揚々と帰っていったよ」
「あの状態から意気揚々?何かしたんですか?」
「ちょっとしたアドバイスをな」
「へぇー、なんだかんだアドバイスはしてるんですね」
「雑に扱いはするが、きちんとすることはする」
「ちなみに、どんなアドバイスを?」
家に戻りながらナップに話したことを教える。
「レッドジュエルスパイダー?」
「知らないのか」
「聞いたことないですね」
「腹が宝石になっている蜘蛛だ。宝石の大きさは3㎝くらいで、燃えるような赤さが特徴だ」
「珍しいんですか?」
「まあな。目撃情報は10年に1度くらい。宝石の値段はトリシューラ5本分くらいだ」
「トリシューラ5本分!?」
ロワが指を折って計算して、体を震わせる。
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リビングに戻り、テーブルにアイテムボックスから出したアイテムを並べる。そろそろ準備しないとな。
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「俺だしな」
「確かに」
俺だから知ってる、便利な言葉だ。
ロワと話しながら、武器やワイヤー発射装置を並べて、メンテナンスをする。ナイフは……問題無いな。ワイヤー発射装置は……ここの部品が消耗しているな。
「その情報は他の人は知らないんでしょうか?」
「知ってる奴もいるぞ」
「そうですか……ん?」
何かを察したのか、ロワが首を傾げる。
「レッドジュエルスパイダーって貴重なんですよね?」
「そうだな」
「それって奪い合いになりませんか?」
「そうだな」
「言い方が軽くないですか!?どういう状況か理解してます!?」
「貴重な蜘蛛の奪い合い。下手したら死人が出るな」
「これ以上にないくらいに理解してますね!?流石はホウリさんです!」
ロワの話を聞きながら、ワイヤー発射装置の部品を入れかえる。試しにワイヤーを発射してみて、動作に問題が無いことを確認する。
「なんでそんなに冷静なんですか!?兄貴が死ぬかもしれないんですよ!?」
「ナップなら問題無いんじゃないか?あれでもA級パーティのメンバーだしな」
「無責任ですよ!」
「冒険者は依頼が危険なことなんて日常茶飯事だ。ナップもそれは理解している筈だ」
「でも!」
「惚れた女のために危険を冒してるんだ。黙って信じてやれ」
その言葉を最後にロワは黙りこくった。納得はしてないようだが、理解はしてくれたみたいだな。
俺も持ち物の点検を済ませ、持ち物をアイテムボックスに仕舞う。
「そういえば、兄貴はホワイトデーのお返しを相談しにきたんですよね。ホウリさんはどういうお返しを考えているんですか?」
「大抵の奴には既製品を渡すことにする。スターダストの面々とか世話になってる奴は、手作りのお菓子を渡すつもりだ」
フランはキシリトールを使った太りにくいお菓子にするか。
「最近は男女に関係なくお礼を渡すのが流行ってるらしいですよ。僕からもホウリさんに何か贈りましょうか?」
「くれるっていうなら貰うぞ」
「何か欲しいものはありますか?」
「欲しい物は自分で揃えるからな。ロワが贈りたいものを贈ってくれ」
「分かりました。おすすめの弓を贈りますね」
「おう」
ロワへの贈り物も考えるか。
そんな感じで色々なことを考えながら、俺は出発の準備を終える。休憩時間も、もう終わりか。
「じゃあ行ってくる。夕飯までには戻ってくる」
「分かりました。いってらっしゃい」
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