魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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エイプリルフール 魔法少女ノエル

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 真っ暗な闇が町を進む。街の明かりが瞬く星々と共に闇を引き裂く。
 人間は何を犠牲にしても闇を排除しようとする。それは人間の本能として当たり前かもしれない。しかし、排除された闇は形を変えて襲い掛かってくるのだ。
 ある時は影から、ある時は街の裏路地から、ある時は人の心から、闇はやってくる。闇は少しずつ確実に光を侵食してくる。
 一見、光で溢れているような街。しかし、闇はどこからでもやってくる。明日、この町は闇に染まるかもしれないのだ。
 そんな街を一つの光が見下ろしている。


「早く次の魔法少女を見つけないと」


 そう言うと、光は街の中へと溶けていった。



☆   ☆   ☆   ☆



「遅くなっちゃったなぁ」


 ノエルはすっかり暗くなった道を進む。街灯の灯りだけしかないから暗くて怖いけど、急いで帰らないと。
 教科書で重くなったランドセルを背負いながら家に急ぐ。


「早くしないと晩御飯に遅れちゃう。今日はエビフライなんだよね」


 お兄ちゃんのエビフライ、サクサクで美味しいんだよね。揚げたてて食べないと損だ。
 泳いでいるエビフライを思い浮かべながら、ノエルは足を速める。


「……お~い、そこの可愛いお嬢ちゃ~ん」


 やっぱり中濃ソースだろうか?それともタルタルソース?どちらも捨てがたい。


「ちょっと~、聞こえてないの~?」


 そこでノエルの頭に中濃ソースのように黒い悪魔と、タルタルソースのように白い天使が現れる。


『はっ!そんなのガツンとした旨味と甘みの中濃ソースに決まってるだろ!』
『そんなのダメよ!マヨネーズの酸味と卵の旨味が合わさったタルタルソースこそ至高よ!』
「そんなの選べないよ……」
「もしもーし、聞こえてるー?」
「うん?」


 なんか隣から声が聞こえる?
 声がする方に視線を向けると、羽根で羽ばたいている小さな生き物がいた。青くて鼻の短い象さんみたい。うーん?


「あなたはどのソースの妖精なの?」
「何を言ってるのか分からないかな?とりあえず、止まって話を聞いてくれない?」


 どうやらノエルが生み出したソースの妖精じゃないみたい。
 全力ダッシュから歩きにスピードを落として妖精さんと話す。


「こんばんは。ノエルはノエルって言います。あなたのお名前は?」
「順応早くない?普通はもっとビックリするものじゃないの?」
「?、普通じゃない?」
「そうなんだ。聞いてた話と違うなぁ?」


 首をかしげる妖精さん。ちょっと考えていた妖精さんだったけど、まあ良いかといった様子で首を元に戻す。


「僕の名前はロール、魔法の国から来た妖精なんだ」
「やっぱり妖精さんなんだ!すごいね!」
「そうそう、そういう反応を待ってたんだよ。ビックリしたでしょ?」
「じゃ、ノエル急ぐから」
「やっぱりビックリしてないね!?」


 ノエルが走ると隣をロール君が飛んでついてくる。


「ちょ、ちょっと待ってよ!そんなに急いでどこに行くの!?」
「ノエルのお家!ロール君も来る?」
「行くけどさ!ちょっと止まって話を聞いてくれないかな!?まだ肝心な事を伝えてないんだけど!?」
「肝心なこと?」


 気になったノエルは思わず立ち止まって妖精さんの方を向く。すると、ロール君は嬉しそうにノエルの周りを飛びまわる。


「そう!ノエルちゃん……」


 ロール君が笑顔でノエルに手を差し伸べてくる。


「魔法少女にならない?」
「分かった!」


 ノエルは笑顔でロール君の手を取ると、妖精さんを抱き寄せて再び走り始める。


「そうと決まればお兄ちゃんたちに妖精さんを紹介しないとね」
「ちょちょちょちょ!?展開早すぎない!?普通は衝撃の展開に言葉を失う所でしょ!?」
「そんな事でノエルのエビフライが止められる訳が無いでしょ!」
「魔法少女よりも食欲優先!?」


 ロール君を連れながら、ノエルは更にスピードを上げる。


「ああもういいや。走りながらでいいから話を聞いて」
「え?魔法少女って悪い魔物を倒すだけでしょ?」
「確かにそうなんだけど、魔法少女は3人いないといけないんだ」
「3人?」
「お友達とかで心当たりはない?」
「うーん……」


 ノエルがいるから残りは2人。コアコちゃんとかサルミちゃんに頼む?でも、戦うのって危険だから2人を巻き込みたくないし。あ、そうだ。


「ピッタリな人たちがいるよ!」
「本当?」
「うん!きっと力になってくれる筈だよ!」
「よかったー。ひとまずは安心したよ」


 ロール君がノエルの腕の中でホッと胸を撫でおろす。そうこうしている内に家の明かりが見えてきた。


「やっと着いた。あれがノエルのお家だよ」
「そういえば、分かってると思うけどお父さんやお母さんには内緒だよ?」
「なんで?」
「僕の素材がバレると、厄介なことになるんだ。最悪の場合、僕が追い出されるかもしれないんだ」
「大丈夫じゃない?お父さんとお母さんいないし。代わりにお兄ちゃんとお姉ちゃんはいるけど」
「同じだよ。とにかく、僕はバレないように鞄の中にでも……」
「ただいまー!」
「話聞いてた!?」


 ノエルはロール君を抱えながら勢いよく玄関を開けて、リビングまで疾走する。
 すると、料理の配膳をしているホウリお兄ちゃんとフランお姉ちゃんがいた。


「エビフライ!」
「おかえり。晩御飯は出来てるから手を洗ってこい」
「はーい」
「おかえりじゃ。取り皿は4枚で良いか?」
「うん!」
「そっちの青いのはテーブルの上にでも乗せておけ。平気ならウエットティッシュで手を拭かせておけ」
「あ、え……はい」


 ロール君はテーブルの上に座って言われた通りに手を拭く。
 ノエルは洗面台で手を洗ってくると、テーブルの上には山盛りのエビフライとサラダ、ご飯が置いてあった。
 ロール君をお皿の前において、ノエルも椅子に座る。
 ホウリお兄ちゃんとフランお姉ちゃんも席に着き、ご飯の準備が整う。


「それじゃ」


 ノエル達は手を合わせる


「「「いただきまーす」」」
「ちょっと待って!?」
ほうひたほ?どうしたの??」


 ノエルはエビフライを頬張りながら首をかしげる。


「もしかして、人間の食べ物は食えないのか?」
「何か食べたい物があれば用意するぞ?」
「そうじゃなくて!なんで僕を見てそんなに平然としているの!?」
「ホウリお兄ちゃん、ソース取って」
「タルタルと中濃どっちがいい?」
「どっちも!」
「話を聞いてくれないかなぁ!?」


 ロール君の叫びにノエル達は首をかしげる。


「どうしたんじゃ?」
「そのセリフは僕が言いたいんだけどね!」
「俺たちがなんで妖精を見ても呑気に飯を食っているか聞きたいのか?」


 興奮しているロール君にホウリお兄ちゃんが冷静に聞く。こういうお話はノエルは苦手なんだよね。
 ホウリお兄ちゃんが本題に入って安心したのか、ロール君が少し落ち着く。


「そうだよ。今までの子はビックリしたり追い出そうとしたりしてたからさ」
「お前みたいな奴は初めてじゃないからだ」
「どういう事?」
「言葉通りの意味じゃ。お主みたいな奴が押しかけて来るのは初めてではない」
「え?嘘でしょ?」
「ほんとだよ?」


 エビフライに中濃ソースとタルタルソースを一緒につけて口に入れる。……美味しくない。やっぱり別々で食べたほうが良いや。
 ノエルがエビフライを食べている間にホウリお兄ちゃんが説明を続ける。


「俺達の家系はお前みたいな不思議な存在を寄せやすいみたいでな。今までも色々とあったんだよ」
「妖怪になったり、超能力者になったり、異世界に行ったり、思い返すと色々とあったのう?」
「いろんな力が使えるようになったよね」
「そ、そっかー……」


 ロール君が苦笑いをする。そういえば、こういうのって普通じゃないんだっけ。いっぱい来るから忘れちゃいそう。


「で、お前は俺たちに何してほしいんだ?」
「……あ、そうだった。それを説明しないとね」
「ロール君も食べながら話したら?美味しいよ?」
「そうしようかな。この世界の食べ物は美味しいって妖精の国じゃ有名なんだよね」


 そういってロール君がエビフライを両手で持ち上げる。


「これはエビフライって言うの?」
「そうだよ。美味しいから食べてみて」


 ロール君はエビフライをマジマジと見てかぶりつく。
 瞬間、ロール君は目を見開いて無言でエビフライを食べ始めた。どうやら気に入ったみたい。


「あれ?食べながら話すんじゃないの?」
「そんな事を気にしていいのか?早く食わないと無くなるぞ?」


 ホウリお兄ちゃんの言葉でお皿の上を見る。よく見るとロール君の食べる速度が早い。もう最初の半分までエビフライが減っている。


「ノエルのエビフライ!」


 ノエルも負けじとエビフライを頬張る。
 10分後、テーブルの上には尻尾すら残っていないお皿が残されていた。


「ふー、お腹いっぱい」
「いっぱい食べたー。ごちそうさまー」
「お粗末様」
「食ったなら話してもらおうかのう」
「……話?」


 ロール君がお腹をさすりながら首をかしげる。そして、しばらく考えた後小さなおててを打ち鳴らす。


「そういえばそうだった。お腹いっぱいで忘れてたよ」
「お主、結構適当じゃな?」


 重そうに体を起こしたロール君は座りなおして口を開いた。


「実はノエルちゃんには魔法少女になって欲しいんだ」
「悪い奴と戦うのか?」
「そう、悪の化身である【ブラックミント】と戦ってほしいんだ」
「それが敵さんの名前なんだ」
「そういえば、なぜノエルなんじゃ?」
「それはね……」


 ロール君がスマートフォンみたいな装置を取り出す。


「ノエルちゃん、手を出して」
「うん」


 手を差し出すとロール君が装置をかざす。
 すると、画面にノエルの手が映し出されて白い何かが流れているのが見える。


「これは?」
「ピュアという力を見られる装置だよ」
「察するにピュアが強いのがノエルってわけか?」
「その通り」
「でもさ、魔法少女は3人必要なんでしょ?」
「わしらも手伝うか」
「そうだな」
「待って」


 ホウリお兄ちゃんとフランお姉ちゃんがやる気をロール君が制する。


「どうしたの?」
「フランという子は良い。けど、ホウリはダメ」
「なんでだ?」
「聞いてなかったの?魔法!ホウリは男でしょ?」
「別にいいだろ?」
「良くないよ!長い魔法少女の歴史でも、男の魔法少女はいないんだよ!?」
「なら俺が最初の例になるか」
「そういう問題じゃない!」
「どういう問題なんだ?」
「君は魔法少女になるための条件に合致してないの!」


 ロール君が機械を操作してホウリお兄ちゃんに見せる。


「魔法少女の条件その1、ピュアが多いこと」
「俺は多くないのか?」
「そこは問題ない。条件その2、一途な愛」
「ホウリは意外と愛情深いんじゃぞ?」
「そこも問題ない。問題はその3」


 ロール君は機械を操作して次の条件を出す。ホウリお兄ちゃんがダメな条件ってなんだろう?
 ロール君はたっぷり時間をおいて装置をホウリお兄ちゃんに突き出す。


「条件その3、可愛いこと」
「……はい?」
「可愛いこと、それが魔法少女の条件だよ」
「何じゃそれ。そんなのが条件なのか?」
「とっても大切な条件じゃないか。これが君が魔法少女になれない理由だ!」


 ロール君がホウリお兄ちゃんに向かって得意げに機械を突き付ける。
 ホウリお兄ちゃんは機械を見つめると、いつもの調子で話し始める。


「なんだ、そんな事か」
「はい?」
「条件は3つだけか?」
「そうだけど……」
「じゃあ問題ないな。ちょっと待ってろ」


 そう言うと、ホウリお兄ちゃんがリビングから出ていった。


「わしは食器でも洗っておくか」
「ノエルも手伝うー!」
「ノエルはロールと話しておれ。まだ話しておらんことがあるじゃろうしな」
「はーい」


 食べ終わったお皿を持ってフランお姉ちゃんが台所へ行き、リビングにはノエルとロール君が残される。


「ロール君、ノエルとお話しよ?」
「じゃあ、僕から質問いい?」
「なあに?」
「君のお兄さんは何をしようとしているの?」
「さあ?いつも問題が起こると意外な方法で解決しちゃうし、今回もなんだか分からないよ」
「なんだか嫌な予感がするんだけど?」
「ホウリお兄ちゃんに任せていれば大丈夫だよ」
「本当かな?」


 ロール君が疑わし気な表情になる。ホウリお兄ちゃんの説明をすると、いつもこういう顔になるんだけど、なんでだろうね?


「そういえば、さっき残り2人に心当たりがあるって言っていた───」


 ロール君が何かを言おうとした瞬間、リビングの扉が開かれた。
 ノエルとロール君が扉に目を向けると、そこには黒髪で赤のワンピースに身を包んだ綺麗なお姉さんがいた。雰囲気が大人っぽくて、街を歩けば誰もが振り向くだろう。
 ノエルとロール君が目を離せずにいると、お姉さんがロール君の前に立って優しく微笑む。
 

「初めましてロール君」
「は、はい」


 お姉さんがロール君の頬に触れると、ロール君の頬が赤くなる。


「私じゃ、魔法少女に不足かしら?」


 ルビーのように真っ赤な唇から優し気な声があふれる。その声を聞いたロール君の顔がさらに赤くなる。


「い、いえ、不足は無いと思います。ちょっと確認しますね」


 ロール君が顔が赤くなっているのを誤魔化すように機械を操作して電話をかけ始める。


「もしもし、ロールです。今、魔法少女候補の前にいるんですけど、適正があるか見てもらえますか?」


 ロール君は何もない所にペコペコお辞儀すると電話を切った。


「すみません、ピュアの適正を調べるので写真を撮ってもいいですか?」
「もちろんよ」
「ついでにノエルちゃんも撮るよ」
「ぶー、ノエルはついでなの?」
「まあまあ良いじゃないのノエル。一緒に写真を撮りましょ」
「はーい」


 ノエルはお姉さんに抱き着く。お姉ちゃんもノエルを抱きしめてカメラに視線を向ける。


「いきますよー、ハイチーズ」


 フラッシュと共にノエルとお姉さんの姿が機械に収められる。ロール君が写真を送信すると、フーッと息を吐く。


「これで一安心だね。そういえば、お姉さんのお名前は?」
「私のお名前ですか?」


 お姉さんは可愛らしく首をかしげると首を開いた。


「木村鳳梨です」
「……は?」


 ロール君の手から機会が零れ落ちる。目と口はいっぱいに開かれて驚いているみたい。


「え?同姓同名?」
「違うよ?ホウリお姉ちゃんはホウリお兄ちゃんだよ?可愛いくて綺麗だよね」
「騙したの!?」
「騙しただなんてとんでもない。ちょっと着替えてお化粧して口調を変えただけですよ?」
「それって騙す気満々だよね!?絶対に認めないからね!?」
「あなたが言ったんですよ?可愛い事が魔法少女の条件だって。貴方から見て私は不足ないんでしょ?」
「いや、でも……」


 ホウリお姉ちゃんの言葉にロール君がしどろもどろになる。それにしても、ホウリお姉ちゃんはいつ見ても綺麗だ。いつもその格好でいてほしいってノエルとフランお姉ちゃんは言ってるんだけど、ホウリお兄ちゃんは嫌みたい。


「では、私はこれで……」


 ホウリお姉ちゃんはニコリと微笑むとリビングから出ていった。むう、もうちょっとそのままでいても良かったのに。
 ロール君が唖然としていると、いつもの格好に戻ったホウリお兄ちゃんが戻ってきた。


「ただいま」
「おかえりなさい?」
「なんで疑問形なんだよ」
「だってさっきもいたじゃん」
「そうだけどよ」
「……さっきの別人じゃないの?」


 認めたくないのか、ロール君が呟く。すると、ホウリお兄ちゃんがさっきと同じように優しく微笑みながら口を開く。


「あら?まだ認めたくないのかしら?」


 さっきと同じ声でホウリお兄ちゃんが笑う。ロール君は諦めたようにテーブルに座り込む。


「さっきの人がホウリなのは分かった。けど、僕は認めないよ」
「認めるかはお前が決める事じゃない。お前の上司が決める事、だろ?」
「う……、そうだ、ノエルちゃん」


 ロール君がノエルの服を引っ張る。


「さっき、心当たりがある子が2人いるって言ってたよね?」
「え?ホウリお兄ちゃんとフランお姉ちゃんだよ?」
「お友達とかじゃないの!?」
「いつも一緒に戦っているから、いいかなって。お友達を危険な目に合わせたくないしね」
「魔法!この世界は男でも少女って呼ばれてたりするの!?」
「そんな訳ないだろ。バカなのか?」
「君に言われたくない!」


 ロール君が顔を真っ赤にして怒る。ロール君は表情がいっぱい変わって面白いなぁ。


「き、きっと魔法の国も認めるはずが……」


 瞬間、機械からアラームのような音が響いた。その音を聞いたロール君は急いで機会を確認する。
 その様子を見たホウリお兄ちゃんがテストの点数を聞くくらいの気軽さで聞く。


「返事はどうだった?」
「…………」


 ホウリお兄ちゃんの問いかけに、ロール君は無言で機械を見せてくる。


「『写真の2人を魔法少女として認める』か。で、お前はどうするんだ?」
「……ちょっと電話してくる」


 元気がなくなったロール君がリビングから出ていく。
 すると、洗い物をしていたフランお姉ちゃんが手を拭きながら戻ってきた。


「騒がしかったが、どうしたんじゃ?」
「俺を魔法少女にしたくないってロールが言ってな」
「なるほどのう。それでどうやって説得したんじゃ?」
「ホウリお兄ちゃんがホウリお姉ちゃんになったんだよ!」
「女装したのか。もう少し早ければホウリの女装姿をみれたのに、惜しいのう」
「どうせ嫌になるくらいに見るんだ。1回くらい誤差だろ」
「え?それってどういう……」


 質問しようとした瞬間、リビングの扉が開いてロール君んが姿を現した。手には機械が握られているけど、その手は力なく垂れている。


「上は何て言ってたんだ?」
「……『可愛ければ大丈夫』だって」
「真理じゃな」
「ノエルもそう思う」
「これで俺たちは晴れて魔法少女だな」
「そういえば、フランお姉ちゃんの写真はいいの?」
「ああ忘れてたよ。フランちゃん、写真撮っていい?」
「良いぞ。存分に取るがいい」


 フランお姉ちゃんが元気よくピースサインをする。ロール君がフランお姉ちゃんを撮って送る。そこにやる気はみじんも感じられない。


「はい、これで君たちは魔法少女だよ。最後に名前だけ確認するんだけど、木村ホウリ、木村フラン、木村ノエルでいい?」
「わしは木村じゃないぞ?」
「え?ノエルちゃんのお姉ちゃんじゃないの?」
「勝手に言ってるだけだ」
「そんなことはない!血縁関係が無くてもわしはノエルのお姉ちゃんじゃ!」
「じゃあ、フランちゃんの本名は?」
海風 蘭かいふう らんじゃ。皆からはフランと呼ばれておる」
「了解」


 ロール君が機械をポチポチと操作すると天に掲げた。すると、空間に穴が開き機械が吸い込まれていった。


「空間収納か。やるのう?」
「その表情を見るに君たちも使えるの?」
「使えるよ!」


 ノエルは空間に穴をあけて飴玉を取り出す。


「はい、どーぞ」
「君たちは本当に何者なんだい?」


 飴玉を受け取りながらロール君がため息を吐く。
 すると、何かに気が付いたのかロール君が辺りを見渡す。


「そういえば、君たちのお父さんとかお母さんはどこにいるの?」
「お父さんとお母さんは旅行に行ってるよ」
「16回目の新婚旅行だっけか?」
「行き過ぎじゃ。結婚16年目で新婚とはどういう事じゃい」
「毎年行ってるからねー。お土産楽しみー」
「そういう訳で、親にバレる心配はしなくていいぞ」
「僕としては楽なんだけどね」


 ロール君が大きく伸びをして、家の中を飛びまわる。


「両親はいつ帰ってくるの?」
「半年後だな」
「……長くない?」
「仕事も兼ねてるみたいでのう。『ホウリがいるから大丈夫でしょ』らしいぞ?」
「君はかなり信頼されてるね」
「まあな。とりあえず夜も遅いし今日は休め。詳しいことは明日にしよう」
「だったらこれだけ渡しておこうかな」


 そう言ってロール君がお母さんが使うみたいなコンパクトをノエル達に渡してきた。
 開くと鏡と真っ白い宝石が埋め込まれている。


「このコンパクトはマジカルコメット。これで魔法少女に変身するんだ」
「使い方は?」
「明日説明するね」
「えー、今日やろうよ?」
「もう寝ろ。明日は休みだから時間いっぱいあるだろ」
「はーい……」
「良い子だ。俺は明日の準備をしてくるから風呂入ってこい」
「分かった。フランお姉ちゃん行こう?」
「うむ」


 いつもと同じようにノエルはフランお姉ちゃんと一緒にお風呂に向かう。


「あ、そうだ」


 リビングの扉に手を掛けた段階でとある閃きが頭によぎる。


「ロール君、一緒に入ろ?」
「え?いいの?」
「人用の風呂じゃから誰かと一緒でないといけんしな。わしらと入るかホウリと入るかじゃぞ」
「ノエルちゃんと一緒に入ろうかな」
「そういう事じゃ」
「じゃ、一緒に行こうか」


 飛んできたロール君を胸で抱きかかえる。
 その後、3人でお風呂に入って歯磨きして一緒のお布団に入る。これからはどんな楽しいことが起こるのか、ワクワクしながら眠りに付いたのだった。



☆   ☆   ☆   ☆



 次の日のお昼、ノエル達は荒野のど真ん中に立っていた。ノエルはロール君を抱きかかえながら、はやる気持ちを抑える。
 女装したホウリお姉ちゃんが腕を組んで仁王立ちしている。なんでも、魔法少女は戦っているときも可愛くないといけないから、変身するときはお姉ちゃんにならないといけないんだって。


「じゃ、力の使い方を説明してもらおうか?」
「……その前に一ついい?」
「なんだ?」
「ここどこ?」


 ロール君は飛び立って周りを見渡す。そこには彼方まで岩の地面が広がっていた。


「ここは俺が作った空間だ。力を試すにはピッタリだろ?」
「ピッタリだからって空間って簡単に作れるものだっけ?」
「一晩かかったから簡単じゃねえよ」
「そういう問題では無いんじゃないかな?」
「細かいことはおいといて、今日はいよいよ魔法少女になる日だね!」
「……そうだね。じゃあ、マジカルコメットを出してみようか」


 諦めの表情でロール君が説明を始める。何か言いたいことがあるのかな?言いたいことが言えないと嫌だろうから、あとで聞いてみようかな?


「まずはコメットを開いてみて」
「開いたぞ」
「その中にある宝石の色を教えてくれるかな?」
「ノエルは白だよ」
「わしは赤じゃ」
「俺は黒だ」
「なるほどなるほど……」


 そう言ってロール君は機械を操作する。


「ピュアの強さには10段階あって宝石の色で分かるようになっているんだ」
「へー便利じゃな」
「この表によると、白は10、赤は9だね」
「黒は?」
「1、最低値だね。ギリギリ変身できるくらいの力はあるけど弱っちいよ。今からでも他の人に変わった方がいいんじゃない?」
「いつも通りだ、問題無い」


 ホウリお姉ちゃんは何でもないように笑い飛ばす。その表情を見たロール君は面白くなさそうに口をとがらせる。


「言っておくけど、黒の子が戦いで活躍したことはないよ?それどころか、他の子たちとの差を目の当たりにして気にしちゃう子だっているし」
「いつもの事だ。さっさと次に行こう」
「……分かったよ。次にコメットの使い方を説明するね。まずはコンパクトを開く」


 言われた通りにコンパクトを開く。


「次に鏡に自分を映す」


 自分が鏡に映るように調整する。


「そして、宝石を撫でながら決め台詞!」
「……決め台詞?」
「何か決まったセリフがあるのか?」
「こっちでは決めてないから自由に決めていいよ」


 うーん、そう言われてもすぐには思いつかないかな?


「だったら、各々でセリフを言ってみて良さそうなものを採用するのはどうじゃ?」
「それいいね!」
「そうするか。一番手は誰にする?」
「言いだしっぺのわしからいくぞ。お主らは下がっておれ」


 ノエル達はフランお姉ちゃんから距離を取る。
 

「いくぞ」


 フランお姉ちゃんが目を閉じてコンパクトを開く。そして、目を見開くと宝石を撫でて高らかに叫んだ。


「キューティーチェンジ!」
「おお!」


 パチパチと拍手をするとフランお姉ちゃんは照れくさそうに戻ってきた。


「どうじゃ?」
「かっこよかったよ!」
「ずいぶんと様になってたな」
「ふっふっふ、そうじゃろ?」
「まるで、寝る前に必死に考えたみたいだぞ」
「ふっふっふ……ふ?」


 ホウリお姉ちゃんの言葉にフランお姉ちゃんの顔が見る見るうちに真っ赤になっていく。
 その様子を見てホウリお姉ちゃんが楽しそうにコンパクトを手に取る。


「次は俺がいくぜ」
「ケッ!勝手にせい!」


 フランお姉ちゃん睨まれながらホウリお姉ちゃんが距離を取る。


「いくぜ!」


 ホウリお姉ちゃんはコンパクトを開けると宝石を撫でながら叫ぶ。


「ピュアハートフルチャージ!」


 キレよくコンパクトを掲げると、ホウリお姉ちゃんはやりきった表情で戻ってきた。


「どうだ?」
「すっごーい!動きがキレッキレだったよ!」
「動きじゃなくてセリフの事を聞きたかったんだがな」
「あ、うん。良かったと思うよ?」
「熱量の差がものすごいな?」
「最後はノエルじゃぞ」
「はーい!」


 ノエルは張り切ってコンパクトをとりだす。……あ、何を言うか考えてなかったや。どうしよう?
 何を言うか考えていると不審に思ったホウリお姉ちゃんが声を掛けてきた。


「どうした?」
「なんでもないよ」


 とりあえず、頭に浮かんだ言葉を適当に言っておこう。
 ホウリお姉ちゃんを真似てコンパクトを開いて宝石を撫でる。


「メイクアップ!ピュアチェンジ!」


 頭に浮かんだ文言をそのまま叫ぶ。うん、なんだかしっくりと来る。


「中々良いな」
「わしとホウリのセリフも組み込まれておる。これなら3人のセリフとして相応しいのう」
「わーい!やったー!」
「決まったかい?」


 決まったと見るやロール君が飛んできた。


「うん!決まったよ!」
「じゃあ、実際にやってみようか。みんな構えて」
「分かった。いくぞ」


 3人でコンパクトを持って並ぶ。やっとお姉ちゃん達と変身ができる。
 ロール君が飛びながら腕を組んでノエル達を見下ろす。


「じゃあ行くよ。まずはコンパクトを開く」


 言われた通りにコンパクトを開く。


「次に鏡に自分を映す」


 自分が鏡に映るように調整する。


「そして、宝石を撫でながら決め台詞!」
「「「メイクアップ!ピュアチェンジ!」」」


 考えたセリフを叫びながら宝石を撫でる。
 瞬間、来ていた洋服が消え体が光に包まれる。そして、真っ白い靴と手袋、フリフリで可愛いお洋服が自動で身に着けられた。


「おおー、これが魔法少女なんだ」


 スカートもフリルがたくさんついてるし、髪にはダイヤモンドの形をした髪飾りが付いている。動きやすいし可愛いし良い感じだ。


「おお!可愛いぞノエル!」


 ノエルの姿を見たフランお姉ちゃんはカメラでノエルの姿を撮りまくっている。
 そんなフランお姉ちゃんはノエルのを赤くしたような恰好をしていた。髪飾りはダイヤモンドじゃなくてルビーになっている。


「フランはいつも通りだな。なんならツーショットを撮ってやろうか?」
「良いのか!?」
「別にいいぞ。カメラ貸せ」


 ホウリお姉ちゃんがカメラを受け取り、フランお姉ちゃんがノエルをギューってする。


「撮るぞー、ハイチーズ」
「「チーズ!」」


 フランお姉ちゃんと満面の笑みでピースサインを作る。


「撮れたぞ」
「うむ、感謝する」


 フランお姉ちゃんは満面の笑みで撮った写真を眺めている。


「写真は後で確認しろ。今はこの力を試すのが先だ」


 そう言ってホウリお姉ちゃんがカメラを取り上げる。そんなホウリお姉ちゃんは真っ黒いお洋服に黒い真珠の髪飾りを付けている。
 カメラを取られたフランお姉ちゃんは取り返そうとホウリお姉ちゃんに飛び掛かる。


「ああー!何をする!」
「うるせえ、そのままだと5時間は撮影するだろうが」


 ホウリお姉ちゃんがフランお姉ちゃんを回避してカメラを異次元に仕舞う。フランお姉ちゃんだったらありえそう。
 その様子を見ていたロール君が下りてきた。


「もう次に行っていいかい?」
「良いぞ」
「次は戦うとの武器を出してみようか」
「どんな武器なんじゃ?」
「それもイメージだよ。自分が使いたいと思った武器を作るんだ。君たちなら戦いなれてそうだし、今まで使った武器でも作れば?」


 ロール君の言う通りノエル達は結構戦っている。だから、武器についても色々と知っている。


「よーし、そういう事なら任せて!」
「魔法少女らしい可愛らしい武器にしてね。ステッキとか弓とか」
「うん!いっくよー!」


 ノエルは手を広げて前に向ける。


「俺たちは離れるか」
「そうじゃな。ロール、危険じゃからこっち来るんじゃ」
「え?」


 フランお姉ちゃんがロール君を抱えてノエルから離れる。
 ホウリお姉ちゃんがお札を使って結界を張ったのを確認して、武器をイメージする。


「こんな壁まで作って一体何が始まるの?」
「核爆弾って知ってるか?」
「人間界での凄い兵器だろう?」
「その衝撃が来るぞ。舌を噛むんじゃないぞ」
「……へ?」


 よし!イメージ完了!早速武器を使おう!


「殲滅式ガトリング砲!」


 ノエルが念じると、両腕がガトリング砲に変わった。見た目はとても重そうだけど、綿みたいにとっても軽い。これなら振り回しても大丈夫そう。
 弾の出し方は……うん、なりそう。ノエルは荒野の彼方に狙いを付ける。


「発射!」


 2つのガトリング砲がうなりを上げて、無数の弾を発射する。弾は地面にぶつかると爆発して岩肌をえぐっていく。
 爆発の衝撃がこっちにも来ているけど、気にせずに弾をぶっ放す。


「ぬおおおおおお!?大丈夫なの!?これ結界割れない!?」
「ホウリが作り、わしが強化しておる結界じゃ。ノエルでも割れんから安心せい」
「そう言われてもおおおおお!?」


 後ろからロール君の叫び声が聞こえて来た。怖いのかな?もっと撃てるけど、もう止めておいた方がいいかな。
 ガトリング砲の発射をやめて、武装を解除する。岩肌が抉れていくつかクレーターが出来てる。後で、ホウリお姉ちゃんに直してもらおう。
 結界の所まで行くと、ロール君がフランお姉ちゃんに必死に抱き着いていた。


「大丈夫、ロール君?」
「大丈夫じゃないよ!?何あの威力!?仮にも魔法少女が出していい威力じゃないよ!?」
「敵さんはいっぱいいるんでしょ?だったら、これくらいの威力くらいは必要なんじゃない?」
「過剰戦力だよ!?というか、名前も物騒すぎない!?魔法少女っぽくないよ!?」
「そっか、じゃあマジカル殲滅式ガトリング砲にする」
「物騒なワードがそのまま残ってるんだけど!?」


 ロール君がフランお姉ちゃんの腕から這い出る。


「君達、どんな教育しているの?」
「わしは暴力は全てを解決すると教えておるぞ」
「俺は強硬手段が必要な時は迷わず使えと教えてる」
「……色々と納得だよ」
「とはいえ、ロールの言いたいことも分かる。あの威力を街中で発射するのは危険だ」
「1万分の1くらいの威力にした方が良いな」
「その辺りの常識はあるんだね」


 ロール君が胸を撫でおろす。確かにこのままだと他の人とか傷つけちゃう。手加減の練習しないと。


「近距離の攻撃手段も欲しいな。ガトリングだと近づかれたときに対処できない」
「拳銃とナイフで良いじゃろ」
「そうするー」


 拳銃を出して適当に撃ってみる。いつも使ってる奴と同じ感じだ。ナイフの重さも良い感じだ。


「基本はそれ使って、強い敵が出たときはガトリングで良いだろ」
「でもさ、無骨じゃない?もっと魔法少女っぽく可愛くしようよ」
「こんな感じ?」


 ノエルは拳銃を白くしてハートやリボンでデコレーションしてみる。ナイフも同じようにビーズを付けて可愛くしてみる。


「おー!これなら魔法少女っぽいよ!」
「わーい!」
「なるほど、あまり大掛かりな武器はダメなんじゃな」
「フランちゃんはどういう武器を使うの?」
「わしはこれじゃ」


 フランお姉ちゃんは笑顔で拳を握りこむ。そこには鈍く輝く金属が付いていた。


「……なにこれ?」
「メリケンサックじゃ」
「魔法少女の対局にあるような武器!」
「これで敵を殴り飛ばすんじゃ。分かり易くていいじゃろ?」
「魔法少女だとは分かりくいけどね」
「ちなみに、フランが一番戦闘力が高い。俺たちが戦ったら最後に立っているのはフランだ」
「国家レベルの戦力であれば数分で制圧できるぞ」
「言い方は悪いと思うけど、化け物だね?」
「褒めるでない」
「褒めてないよ」


 照れているフランお姉ちゃんにジットリした視線を向ける。
 けど、今までもフランお姉ちゃんの戦闘力には助けられたし、フランお姉ちゃんは凄いと思う。


「はあ……まあ、徒手空拳で戦う子もいない訳じゃないし、もうそれで良いや。なるべく可愛くお願いね」
「うむ、任せよ」
「それで、最後はホウリだけど……」
「俺の武器はこれだな」


 ホウリお姉ちゃんは青色の分厚い本を取り出した。ロール君は訝し気にその本に視線を向ける。


「まさかその本で殴るとか言わないよね?」
「それは最終手段。本来の用途はこれだ。フラン、ちょっと的になってくれ」
「良いぞ」


 ホウリお姉ちゃんは本を開くとフランお姉ちゃんに指を向ける。


「ファイア!」


 瞬間、ホウリお姉ちゃんの指から火の玉が飛んで行った。火の玉はフランお姉ちゃんに命中するけど、フランお姉ちゃんは全く動じていない。


「まだまだ!サンダー!ウィンド!スプラッシュ!」


 雷や風の刃、水の弾が次々とフランスに飛んでいく。けど、やっぱりダメージは受けていないみたい。
 ホウリお姉ちゃんは更に目を光らせると叫ぶ。


「チェーン!ミスト!タイム!」


 フランお姉ちゃんに鎖が巻き付き、黒い霧が包み込む。そして、黒い霧には時計のマークが何個も浮かんでいる。
 しばらくその様子が続いた後、パキンという何かが割れる音と共に、霧が吹き飛ばされた。霧の中からは拳を振り切ったフランお姉ちゃんが現れる。
 それを見たホウリお兄ちゃんは満足したように本を閉じた。


「こんな所だな」
「おお!今までで一番魔法少女っぽいよ!でも、ミストとかタイムとかは何なの?」
「ミストは動きを鈍くして、タイムは時間の流れを遅くする。ミストの時間を遅くすればそれだけ動きにくくなるって訳だ」
「妨害用の技って訳じゃな。わしにとっては約に立たんがな」
「フランに聞く技があれば世界征服も夢じゃないだろうよ」
「でも、威力は物足りないよね」


 確かにノエルやフランお姉ちゃんに比べたらホウリお姉ちゃんは威力は出ない。けど、ホウリお姉ちゃんの強みはそこじゃない。


「確かに威力は2人の足元にも及ばないな」
「だったら足手まといだね。帰ってお昼寝でもしてれば?」
「俺が男だからって当たりが強くないか?」
「態度を改めて欲しいなら、女の子にでもなることだね」
「性別ごと変えると後が面倒なんだよ。わがまま言うな」
「出来はするんだね……」


 ロール君が頭を抱えた瞬間、コンパクトからうるさい位に音が鳴り響いた。前に聞いた地震の警報みたいにうるさい。


「ロール君!?」
「ブラックミントが現れたみたい!街の人が襲われている!早く行くよ!」
「お、いいのう。初陣ってやつじゃ」
「早く行こうよ!」
「油断するなよ」
「分かってるって。行くよ、ロール君!」
「了解!異次元ゲート、起動!」


 ロール君が機械を操作すると、黒くて丸い穴が現れた。大きさはホウリお姉ちゃんがやっと通れるくらい。奥に通じているみたいだけど、どこに繋がっているかは全く分かんないや。


「この中に飛び込めばブラックミントがいる所まで行けるよ」
「ホウリ」
「ちょっと待ってろ」
「どうしたの?」


 不思議にオッ持っているロール君をよそに、ホウリお姉ちゃんが片眼鏡みたいな機械を取り出して右目に付ける。機械ごしに穴をしばらく監察していたホウリお姉ちゃんだったけど、機械を外して頷く。


「近所の公園につながってる。入っても問題無さそうだ」
「僕を疑ってるの?」
「本人にその気が無くても事故は起こるものだ。もう死にかけるのは嫌だからな」
「早く行こうよ!街の人が襲われてるんでしょ!?」
「そうだな。皆で飛び込むぞ」
「いくよ、せーの!」


 皆で一斉に黒い穴の中に飛び込む。すると、浮遊や落下する感じが入り乱れる中、突然視界が開けて空中に放り出された。


「うわぁ!」


 スカートを押えながら何とか着地する。顔を上げて周りを見てみるといつも遊んでいる近所の公園だった。いつもと違うのは黒い何かが街の人を襲っている所だった。黒い何かは人の形をかたどっているいるけど、全身や武器が真っ黒で目だけが赤く光っている。


「あれがブラックミント?」
「そうだよ!早く襲われている人達を助けないと!」


 ブラックミントが持っている剣で親子に襲い掛かる。


「危ない!」


 ノエルは持っていたマジカル拳銃でブラックミントを打ち抜く。


「ごべあ!?」


 打ち抜かれたブラックミントが霧のように消え去る。だけど、まだまだブラックミントは沢山残っている。
 別のブラックミントがさっきの親子を襲おうとしている。


「まだまだ!」


 続けざまに弾丸を放ち、ブラックミントを消滅させつつ、親子の前にかばうように出る。


「助けに来たよ!」
「あなたは?」
「魔法少女ピュアホワイト!悪い人から皆を守るんだ!」
「ピュアホワイト?」
「ここは任せて早く逃げて!」
「分かりました!」
「ありがとうピュアホワイト!」


 親子が公園の出口に向かって駆けていく。その後ろをブラックミントが追うが、ノエルが弾丸で消滅させていく。


「こっちじゃ!早く逃げい!」
「転ばないように気を付けてくださーい」


 ホウリお姉ちゃんもフランお姉ちゃんも皆を必死に逃がしている。これなら何とかなりそう。


「全員逃げたな。あとは結界で……」


 ホウリお姉ちゃんがお札を取り出す。すると、公園が透明な結界の箱で覆われて誰も出入りできないようになった。


「これで奴らは追いかけられないな」
「そうじゃな。ゆっくりと始末出来るわい」


 そう言ってフランお姉ちゃんは残りのブラックミントに向かって指を向ける。


「1、2、3……残りは6匹か」
「何秒かかる?」
「目標は1秒切りじゃな」
「そうか。けど、1匹は俺に任せてくれ。仕様を知っておきたい」
「了解じゃ。一番右端の奴は好きにせい」


 ブラックミントは威嚇するように武器を地面にたたきつける。瞬間、フランお姉ちゃんはブラックミントと距離を詰め、次々と拳を繰り出した。


「はぁ!」


 目で追う事も出来ない程に早い拳がブラックミントに突き刺さる。すると、ブラックミントは声も上げずに消滅していった。
 そして次の瞬間には既にホウリお姉ちゃんの傍まで移動していた。


「……1.1秒。少し遅れたか」
「慣れていない力なら上々だ。後は俺がやる」


 悔しそうなフランお姉ちゃんの頭を撫でて、ホウリお姉ちゃんが前に出る。


「序盤の敵が弱いうちに色々と試しておかないとな」


 そう言ってホウリお姉ちゃんは魔導書……じゃなくて、お札を取り出した。


「まずはピュア以外の攻撃が効くか」


 ホウリお姉ちゃんが残っているブラックミントに向かってお札を投げる。
 お札は真っすぐとブラックミントに飛んでいく。けど、早くはないから普通に避けられそうだ。


「ごぎゃ?」


 やっぱりブラックミントも回避のために横にステップを踏む。その脇をお札は通り過ぎ……


「ぶべら!?」


 通り過ぎた瞬間に曲がってブラックミントの脇に突き刺さった。
 お札が当たったブラックミントは公園の端まで吹き飛ばされると痛そうに藻掻いた。
 そんな様子をホウリお姉ちゃんは表情を変えずに見ている。


「吹き飛ばされ痛みもあるがダメージは無し。ピュア以外は効かないのか?片っ端から試してみるか」


 ホウリお姉ちゃんが空間に穴をあけて色々と物を出してくる。
 眼鏡、お香、剣、飴玉、銃、お薬、ガントレット、その他にもいっぱい、ホウリお姉ちゃんは取り出す。


「悪いが死ぬほど痛いぞ。死ねないけどな」


 無表情でいろんな攻撃を繰り出すホウリお姉ちゃん。
 光線、剣戟、酸、カッター、呪い、打撃といった色々な攻撃がブラックミントに飛んでいく。


「ゴヴェアアア!」


 攻撃は全部当たったけど、ブラックミントは消滅せずに叫ぶだけだった。
 その様子を見ていたロール君は顔を引きつらせる。


「……魔法少女の姿じゃないね?」
「ホウリお姉ちゃんはいつもあんなだよ?」
「いつもあんな事してるの?ドン引きなんだけど?」
「あれがホウリお姉ちゃんの強みだしね」


 ホウリお姉ちゃんは不思議な力はあまり強くないけど、いっぱい考えて作戦を練ることが得意だ。今までも色んな作戦で助けられた。
 普通に生活している時もお勉強を教えてくれるし、ホウリお姉ちゃんがいない生活は考えられない。
 

「ふーん、ホウリってそんなに凄いんだ」
「凄いよ!今だっていろんな力をいっぱい使ってるけど、あんな事ホウリお姉ちゃん以外に出来ないよ!」
「そうなの?」
「例えると、綱渡りしながらリフティングして、ジグソーパズルを解くくらいに難しいの」
「良く分からないけど、凄そうなのは分かったよ」


 ロール君と話している中、ホウリお姉ちゃんは様々な攻撃を繰り出している。


「やっぱり攻撃は効かないか」
「ご、ごあ……」


 大の字でピクピクしているブラックミントをホウリお姉ちゃんが無表情で見下す。


「ならば、ピュアで消し飛ばすしか方法が無いのか」
「それはこれから確かめる」
「どうする気じゃ?」
「捕まえて研究所で分析する」
「そこまでするんかい」
「勿論だ。相手の事を知るのは基本だぞ?」
「恋愛の話みたいじゃな」
「相手の心臓を射止めるのは同じだな」
「上手くないぞ」


 ホウリお姉ちゃんが指を鳴らした瞬間、ブラックミントが立っていた地面に大きな穴が開いた。


「ボッシュートになります」


 ブラックミントは抵抗することもなく無言で穴に落ちていった。


「これでこいつらの研究をすれば、ピュア以外の攻撃方法も見つかるだろうよ」
「今まで色んな魔法少女を見て来たけど、初戦で敵を捕まえる子はいなかったよ」


 ロール君が呆れているとホウリお姉ちゃんは端末を操作しながら答える。


「俺たちの力があっての事だしな。他の奴には真似できないだろうよ」
「ここまで来ると君たちがどういう力を持っているか気になるよ」
「そうね、私も気になるわ」


 瞬間、ノエル達は声のした方に向かって武器を向ける。


「誰だ!?」


 そこには空中に浮いている角を生やした黒い肌のお姉さんがいた。だけど、見た目や空中に浮いていることはどうでもいい。問題なのはお姉さんから漂っている強烈な殺気だ。
 ノエル達は油断なく武器をお姉さんに向ける。
 すると、横を飛んでいたロール君がガタガタと震え始めた。


「ロール君?」
「あ、あれは幹部!?なんでこんな序盤に……」
「詳しいことは後で聞く。どういう奴か簡潔に教えろ」
「色んな力が使えて強い」
「理解した。恐らく、あいつの能力はワープだ」
「雑な説明で良く分かったね!?」
「なぜワープなんじゃ?」
「結界が割れていないのに公園に侵入しているからだよ」
「あら?もしかしたら別の能力かもよ?」


 お姉さんの言葉をホウリお姉ちゃんは無視して睨みつける。


「で、敵の幹部さんが何のようだ?」
「これまでは、あなたたちが力を付けるまで待ってあげてたでしょ?今回は本気で潰そうかなって思ってね」


 お姉さんが優し気に微笑む。だけど、体からは刺すような殺気が漏れだしている。一瞬も気を抜くとやられちゃいそう。
 ノエル達が油断なく構えていると、ロール君が震えながらも前に出た。


「けけけけど、今回の子達はこれまでとは一味ちがうよ!過去最強なんだからね!」
「それは面白そうね?試してみる?」
「望む所だよ!じゃ、ホウリ!後は任せた!」
「結局、人任せかよ」


 そう言いながらもホウリお姉ちゃんは一歩前に出る。
 やる気満々のホウリお姉ちゃんを見たお姉さんはため息を吐いた。


「黒の子って一番弱いんでしょ?そんな子が相手なの?」
「そうじゃ。お主に相手出来るのか?」
「問題無い。むしろ、俺の方が適任だろう」


 ホウリお姉ちゃんが魔導書を取り出して構える。


「いいの?あなた死んじゃうよ?そっちの白い子に変わった方が良いんじゃない?」
「いいから構えろよ。それとも……」


 ホウリお姉ちゃんが挑発するようにニヤリと笑う。


「白い子じゃないといけない理由でもあるのか?」
「……良いわ、あなたから殺してあげる」


 お姉さんが爪を長くして真っ赤な舌で舐める。
 ホウリお姉ちゃんも魔導書を開いてお姉さんに向く。


「行くぞ!」


 ホウリお姉ちゃんが手を向けると地面から無数の鎖が出現する。鎖はお姉さんに巻き付くと、その動きを封じた。


「くっ……」


 お姉さんは鎖を引きちぎろうと力を籠めるが、鎖はびくともしない。


「なによ、この力……」
「どうした?さっきの威勢がないぞ?」


 ホウリお姉ちゃんは結界で足場を作ってお姉さんに近づく。ゆっくりと階段を使っているように上がっているけど、お姉さんは冷や汗を浮かべるだけで何も出来ない。
 その様子を見ていたロール君がノエルの肩に乗っかって目を見開く。


「凄い、幹部を封殺してるよ!なんなのあの鎖!?」
「あれは呪術じゃ。呪いの力を使う事で相手を縛り付ける。ホウリは呪術のエキスパートじゃからな。いくら奴が強くとも抜け出せんじゃろう」
「本当に、君達って多彩だよね。呪術くらいでは驚かなくなってきたよ」
「えへへ、照れるよ……」
「褒めては……いや、結果的に幹部を圧倒してるんだし、褒めてるのかな?」


 ロール君は首をかしげる。
 ホウリお姉ちゃんはというと、鎖に縛られたお姉さんの前に立つ。目の前のホウリお姉ちゃんをお姉さんは睨みつける。


「あたしをどうするつもりよ?」
「ここで幹部を倒せればこちらが有利になる。つまりは?」
「……殺すって訳ね」
「そういう事だ」


 ホウリお姉ちゃんの右手にピュアが集まっていく。一点集中で貫くつもりだ。


「覚悟は良いか?」
「…………」


 無言のお姉さんの胸に向かってホウリお姉ちゃんの抜き手が突き刺さる。


「おらあああああ!」
「ぐああああああ!」


 ピュアがお姉さんの胸を光の粒に変えていく。お姉さんは苦しそうに顔をゆがめる。


「くっ!こうなれば!」


 お姉さんは意を決した表情になると、目を強く瞑る。
 瞬間、お姉さんの体が足から少しずつ黒い霧となって空気中に溶けていく。それを見たホウリお姉ちゃんはなぜか攻撃を止めた。


「それがお前の能力か」
「……なんで攻撃をやめたの?」

「……あんたは私が殺すわ」
「やってみろ。返り討ちにしてやるぜ」
「あんた、名前は?」
「ホウリ。お前は?」
「エンティよ。じゃあね、ホウリちゃん」


 恨めしそうな声を残しながらエンティさんは消えていった。
 ロール君は辺りを見渡して、エンティさんがいない事を確認して胸を撫でおろす。


「よかった~、助かった~」
「ホウリに掛かればあの程度は余裕じゃろ」
「君たちは分かってるかもしれないけど、僕は生きた心地がしなかったよ。幹部がいきなり現れるのは心に悪いね」
「確かにあいつは他の雑魚と比べて強さが段違いだったな」
「そういえば、なんか会話が可笑しくなかった?」


 言われてみると、エンティさんとホウリお姉ちゃんの会話は可笑しかったような?攻撃を受けに来たってどういう事だろ?


「あれはどういう意味じゃ?」
「俺も詳しくは分かってない。が、相手があからさまに俺達と戦おうとしてたからな。何か企んでることは分かったから鎌をかけた訳だ」
「敵の目的は分からんって事か?」
「なんでホウリお姉ちゃんが戦ったの?」
「俺は使える手段が多いからな。何かあったときに対処しやすいし、後ろにフランとノエルが控えていれば、相手が強くても討伐出来るだろ?」
「そうなんだ。でも、目的が分からないのは不気味だね」
「これから目的は調べていく。今は相手の情報が少なすぎてどうなるか分からないけどな。そんな訳で……」


 ホウリお姉ちゃんはロール君の頭をガッチリと掴み、ワープゲートを出す。


「ロールの知っている情報を全部出してもらおうか」
「え?ちょっと?今すぐ?」
「敵がいつもと違う以上、手を打つなら早い方が良い。分かったら行くぞ」
「いやだ!なんとなくだけど、嫌な予感がする!」
「安心しろ、その予感は当たっている」
「なおさら嫌だよ!?」


 じたばたと暴れるロール君の頭を鷲掴みにして、ホウリお姉ちゃんはワープゲートへと消えていった。
 周りに敵がいない事を確認して、ノエル達は魔法少女から戻る。


「これからどうする?」
「せっかく出かけておるんじゃし、夕飯の買い物でもしていくか。何か食いたい物はあるか?」
「ハンバァァァァグ!」
「ノエルはいつもそれじゃな」
「だって美味しいんだもーん」


 フランお姉ちゃんと手を繋ぎながら公園を出ていく。こうしてノエル達の魔法少女としての戦いが始まったのだった。
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