魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百三十六話 絶対裏切りヌルヌル

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 僕は珍しい弓に囲まれていた。弓はフヨフヨと空中に浮いていて、手に取ろうとすると手が届く距離まで近づいてくる。


「これはデルタ社の『デルトロン』!変形のギミックが搭載されていて、近距離も中遠距離も対応できる夢の弓!」


 いつもはお目にかかれない珍しい弓に頬ずりしながら、次の弓に手を伸ばす。


「これは『骨法』!職人が1つずつ手作りしている弓!作るのに5年はかかるから中々流通しないのに!」


 最近の弓は色々と機能が多いけど、骨法は使いやすさと威力、軽量に力を入れた弓だ。下手な機能を付けるよりも弓自体の能力を向上させる。それ答えの1つだろう。


「ああ……この飾りも無く機能性だけに特化した見た目がたまらない……」


 骨法を抱きしめて温もりを感じる。こんなに珍しい弓が見えるだけでも100はある。
 ああ、幸せだ。今まで生きてきて良かったと心から感じる───



☆   ☆   ☆   ☆


「ロワ、ロワ!」
「うーん?」


 ミエルさんの声を聞いて僕は目を開ける。


「あれ?いっぱいの弓はどこですか?」
「まだ寝ぼけているみたいだな。早く戦闘準備をしてくれ」


 辺りを見渡すと宿のベッドの上だった。えーっと、つまりさっきの弓は夢だったってこと?


「どうした?」
「……いえ、なんでもないです。すぐに準備しますね」


 そういえば、戦った後にすぐに寝ちゃったんだった。なんだか一気にテンションが下がった。


「あれ?戦闘準備?僕らは戦わない筈では?」
「状況が変わったらしい。ホウリから詳しい説明をするから、戦闘準備をして置けと言われた」
「なるほど。分かりました」


 それだけ言うと、ミエルさんは足早に去っていった。
 今までは楽に防衛できていたけど、戦局が変わったのだろうか。
 そんなことを考えつつ、僕は戦闘の準備を開始する。弓と矢と防具。あとは非常用のポーションを揃えて準備完了だ。


「よし」


 準備を完了させた僕は宿の食堂まで降りる。すると、ジルとクラフさん、ミエルさんがいた。
 僕はミエルさんの隣に座りつつ、皆さんに頭を下げる。


「すみません、遅れました」
「ホウリ君も来ていないみたいだし、気にしなくても良いんじゃないかしら?」
「それよりも何か食っとけよ。昨日の夜は敵と戦いっぱなしだったんだろ?」
「そうしようかな。ディーヌさーん!」
「はーい」


 空腹感を覚えた僕はディーヌさんにステーキ定食を注文する。


「オッケー。すぐに作るから待っててね」
「よくそんなに食べられるわね?」
「沢山戦った後なのでお腹が空いているんですよ」


 睡眠薬入りコーヒーを飲んだ後、ポーション以外は飲まず食わずで戦っていた。ステーキを食べたくなるのも無理はないと思う。


「ホウリさんはいつ来るんでしょうか?」
「というか、なんで呼ばれたんだ?」
「ホウリ曰く、戦況が変わったから特記戦力を集める必要があるらしい」
「でもロットさんはいませんよね?」
「ロットは他の場所でやる事があるらしい」
「そうでしたか」


 ロットさんは1人で集団を壊滅させるだけの実力がある。なら、どこかで強い魔物の集団でも壊滅させているんだろう。


「そろそろ戦えるのかねぇ?」
「どうだろうね」
「戦うというのであれば、食堂に集めずにすぐに出動させるんじゃないかしら?」
「確かにそうだな」


 そんな事を言い合っていると、ディーヌさんがステーキ定食を持ってきた。


「お待たせいたしました」
「ありがとうございます」


 僕の前にステーキの乗った鉄板、ライス、サラダが置かれる。


「うわぁ。美味しそー」
「起きたばかりで良く食えるな?」
「だってお腹空いているんだもん」


 ステーキを切りながらジルの冷たい視線を受ける。まあ、そういうのは慣れてるし無視して食べよう。


「それで、いつまで待てば良いのだろうか?」
「もう待たなくて良いぞ」


 ミエルさんの愚痴に聞き覚えのある声が答えた。食堂の入口に視線を向けてみると、ホウリさんが僕らに向かって手を上げていた。


「遅いぞ」
「悪かったよ。色々と準備に時間が掛かってしまってな」
「しかし……」
「まあまあ、ホウリさんにも事情があるみたいですし、ここは抑えましょう」
「ありがとな」


 僕の言葉にミエルさんは不満そうにしながらも口を閉じた。


「ディーヌ!いつもの!」
「はーい!」


 ホウリさんは僕らの対面に座りながら、厨房に向かって叫ぶ。すると、厨房からディーヌさんの返事が返って来た。
 もう、『いつもの』で通じるくらいには注文しているんだなぁ。そんな呑気なことを思いつつ、ライスを頬張る。


「それで、なんで俺達を呼んだんだ?」
「魔物の軍の数が急激に増えた。今の戦力じゃ抑えきれない可能性があるから、いつでも戦闘できるように準備しておいて欲しい」
「それだけだったら伝言で良いんじゃない?わざわざ私達を集める必要あった?」
「少し話したいことがあってな」


 中々美味しいステーキ定食だ。けど、熱々で口を軽く火傷しちゃった。
 口を冷やすためにお水を含みながら話の続きを聞く。


「なんだ?」
「この中に裏切者がいる」
「ぶうううううう!」


 思わぬ発言に僕は口に含んでいた水を噴き出す。


「汚ねぇな」
「けほっ、ごめんごめん」


 謝りながら、噴き出してしまった水をおしぼりで拭く。衝撃的すぎてやってしまった。


「だが、今のはホウリも悪いだろう。いきなりそんな事を言われたら、誰だって驚くぞ」
「安心しろ、ロワが吹き出すのは想定していた」
「想定しているんだったら、食べてない時に言ってくれませんか!?」
「ロワ君のことはどうでもいいのよ」
「どうでも良くないですよ!?」


 おしぼりで口を押えながら抗議をする。そんな僕の抗議は無視されつつも、話は進んでいく。


「それで裏切者ってどういうことだ?」


 裏切者っていう言葉で、一気に皆の雰囲気が鋭くなる。


「言葉のままの意味だ。この街の中に裏切者がいる」
「あ、この中って私達の中って訳じゃないのね」
「驚かすな」


 張り詰めていた空気が緩んでいくのを感じる。良かった、ここに裏切者がいるってなると、ご飯が食べにくくなる。この空気ならご飯を食べてても問題無いと思う。ステーキって冷えると美味しくなくなるしね。


「それで、裏切者って誰なんですか?」(もぐもぐ)
「それはまだ分からん」
「ホウリさんでもまだ分からないですか?」(ぱくぱく)
「というか、なんで裏切者がいるって分かったんだ?」
「正規の手続きを踏まずに情報を盗み見た奴がいる。そいつが裏切者だ」
「スパイではないのか?」
「スパイは外から情報を盗むために忍び込んだ奴だ。裏切者は味方から敵に寝返ったやつだ」


 そういえば、スパイは捕まえまくったんだっけ?スパイじゃなくて裏切者がいるっていうのは盲点
だった。


「なんでスパイじゃなくて裏切者だって思ったんだ?」
「情報はギルド本部に厳重に保管してある。盗み見るにしても、外から来た奴は侵入することも難しい」
「なるほどな。だから、ギルド本部に入れる人物が犯人。元からいる奴が裏切ったって訳か」


 ホウリさんが犯人を突き止めるのに時間が掛かっているのも、犯人が痕跡を消すのが上手かったからなのかな?
 あ、このサラダのドレッシング美味しい。


「なんで僕らに裏切者がいるって教えてくれるんですか?」(しゃくしゃく)
「その裏切者を暴くのにお前らに協力してほしくてな」
「素人の私達が協力だと?」
「もう少し適任な奴はいないのか?」
「ですよね」(むぐむぐ)


 最後のライスを口に入れて手を合わせる。


「ごちそうさまでした」
「ロワの食事も終わったみたいだし、詳しく説明するぞ。まず、協力者の条件としてギルド本部に属していない必要がある」
「そうね」
「で、裏切者は物凄い強い可能性がある。だから、協力者もそれなりの戦闘力が必要って訳だ」
「他の冒険者は防衛に駆り出されているから、空いている私達に白羽の矢が立ったわけか」
「そう言う事だ」


 なるほど、ギルド本部に関係なく強い人って訳で僕らが選ばれたんだ。


「具体的にはどうするんですか?」
「それはだな──」


 こうして僕らはホウリさんから作戦の概要を聞いたのだった。
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