魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

文字の大きさ
426 / 472

第三百六十四話 おお、こわいこわい

しおりを挟む
「どこまで耐えられるかな?」


 ロワがノエルに向かって複製トリシューラを放つ。ノエルは魔装したナイフの側面で矢を受け止めて、後ろに受け流す。ノエルの背後の壁に受け流した複製トリシューラで穴があけられた。その威力からまともに受けたらただでは済まなかったことが分かる。


「ロワお兄ちゃん本気だよ!」
「後先を考えずに全力を出して来たか!」
「君たちを仕留められば温存する意味なんて無いしね。全力を出すしかないでしょ?」


 男は飄々と答える。わしは腕で大剣を受け止めながら後ろに下がる。


「悔しいがここは───」
「君たちが撤退したら、街の真ん中で大暴れしちゃおうかなー」


 男が楽しそうにコントローラーを操作しながら、わしが言おうとしたことを先回りする。
 ロワとミエルが本気で暴れたらどのくらい被害が出るのか分かったものではない。これでは撤退することも出来んでは無いか。


「これで撤退も封じられた訳か」
「その通り。諦めて死んじゃえば?」
「調子に乗るでないぞ?必ずやその顔に拳を叩きこむからな?」
「やれるものならやってみれば?」


 舌を出して挑発してくる男を横目に、わしはミエルに向き直る。


「ノエル!なんとか耐えて勝機を見出すぞ!」
「うん!」
「僕がこの2人を操っている限り、君たちに勝機なんて無いよ」
「じゃが、お主にも決定打は無いじゃろ」


 わしは言うまでも無く、ノエルも魔装を使えば早々にやられることはない。勝てんまでも負けることもない。ここは出来るだけ勝負を引き延ばして隙を見つけるしかない。


「確かに魔王を倒すことはできない。それは僕も分かっている。けどね」


 男はコントローラーをノエルの方に向ける。
 すると、ロワが持っていた矢を自身の胸に突き刺した。


「な!?」


 ロワの胸元から血液が溢れてくる。不味い!心臓まで矢が届いておる!このままではロワの命が危ない!


「ロワお兄ちゃん!セイントヒール!」


 ノエルが目を見開いて、咄嗟にセイントヒールをロワに使う。
 待て、なんで奴はロワを自爆させた?近くにはノエルがいるから傷がすぐに癒えるのは分かっておる筈じゃ。セイントヒールを掛けづつければ死ぬことは……まさか!


「ノエル!セイントヒールを使うな!」
「え?」


 ロワがセイントヒールを使ったノエルに向かって襲い掛かった。


「おっと!」


 ノエルは間一髪でロワの手から逃れ、ナイフを構えなおす。


「神の使いはセイントヒールを使っている間は魔装が使えないんだよね?これで戦闘能力は半分以下だね?」
「くっ!やはりそれが狙いか!」


 男の言う通り、ノエルはセイントヒールを使っている間は魔装が使えん。魔装が使えんとノエルのステータスは普通の子供より少し高いくらいじゃ。戦闘能力は格段に下がる。


「下種が!」
「誉め言葉として受け取っておこうかな」


 わしは歯噛みしながらミエルと対峙する。このままじゃとノエルが危ない。じゃが、ミエルから目を離すと何をされるか分かったものではない。


「おっとっと!」


 ロワの攻撃をなんとか避けておる。じゃが、それもどこまで持つか分からん。
 ノエルは魔装が無くてもある程度は戦える。じゃが、ロワは操られており攻撃をすることもできん。このままじゃとやられるのも時間の問題じゃ。
 そう思っていると、ロワがノエルに向かって矢を放った。


「まだまだ当たらないよ!」


 ノエルは右に跳んで矢を回避しようとした。瞬間、


「え!?」


 足元に現れた白銀の盾に矢が当たり、ノエルの足へと軌道を変えた。
 空中にいたノエルは矢を避けきれずに、矢を足で受けてしまった。あれはシン・プロフェクションガード!?神級スキルの真の力まで使えるのか!


「ノエル!」
「貰った!」


 ロワがノエルの首を両手で掴み、床に押し倒した。


「うぐぐ……」
「セイントヒールは窒息には効かないんだよね?このまま死ね!」
「させるか!」


 わしがロワに向かって突撃しようとした瞬間、白銀の盾が部屋を二分するように出現した。
 見るとミエルが右手をかざしてシン・プロフェクションガードを使用していた。しまった、これでは様子を伺うことも出来ん。


「ちぃっ!敵にすると厄介じゃな!」


 このままじゃとノエルがロワに殺されてしまう。先にミエルを倒そうにも大技を使えば跳ね返される可能性もある。シン・プロフェクションガードが無いにしても、ミエルの防御力は脅威的じゃ。倒す前にノエルがやられかねん。


「はっはっは!自分が強いと思っている相手を圧倒するのは、本当に楽しいね!」


 罪悪感すら出さず、楽しそうに男は笑う。それを見て、腹の底から沸々と怒りが湧いてきた。


「下種が!楽に死ねると思うなよ!」
「おお、怖い怖い。何かされる前に魔王も殺さなくちゃ」


 微塵も恐怖を感じておらん様子で男は笑う。まるで、ゲームで自分が思ったように殺人が出来たような、ある意味で無邪気な笑顔。それがわしの怒りを最高潮にさせた。


「決めた、お主には死すらも生温い。生まれてきたことを後悔させてやる」
「そういうのは勝ってから言えば?」


 男がコントローラーを操作すると、ミエルが右手で大剣を振り上げる。


「ま、勝てる訳ないけどね!」


 男がスイッチを押し込み、ミエルが大剣を振り下ろす。


「これで終わりだ!」


 ミエルの大剣がわしの眼前に迫る。あと数ミリでわしの額に大剣が命中する、そう思った瞬間。


「……あれ?」


 大剣があらぬ方向へ飛んでいき、壁に突き刺さった。


「な、何が起こった?」


 男は何が起こったのか分からずに、壁に刺さっている大剣を見る。そこには大剣とそれを握るミエルから切断された腕があった。


「な!?」


 男が切れた右腕から血が湧きだしているのを見て目を丸くする。


「仲間の腕を切り落したのか!?いつの間に!?」
「お主、自分の体のことも分からんのか?」
「ど、どういう意味だ」
「自信の右手を見てみい」


 男が額に脂汗を浮かべながら自身の右腕に視線を向ける。


「あ、ああああああああああああ!?み、右腕がああああああああああ!?」


 そこには切断されて地面に落ちた自身の右腕があった。男の右腕が切断されたから、ミエルの右腕も切断された。見る事が出来んがロワも右腕が切断されておるじゃろう。
 男は膝を付いて右腕を凝視する。


「一体いつの間に……俺を攻撃するようなそぶりは無かった筈じゃ」
「お前を攻撃したのは俺だ」
「え?」



 男が声をした方を向くと、そこには全身に青あざを作ったホウリがいた。男は言葉を失っている隙に、ホウリに髪の毛を掴まれて勢いよく床に叩きつけられた。


「ぐあっ!」


 それと同時にミエルの頭にも衝撃が走り、部屋を区切っていたシン・プロフェクションガードも消えた。その隙を突いてミエルをチェーンロックでグルグル巻きにして拘束する。


「ノエル!」


 わしはノエルの方を向くと、そこにはロワをロープで縛り上げていたノエルがあった。


「無事だったか!」
「うん!ロワお兄ちゃんが近づいてくれたから、刺さっていた矢を抜けたんだ。矢を抜いたら、セイントヒールを解除して魔装でロワお兄ちゃんを制圧したの」
「そうじゃったか。成長したのう」
「ああああああああああああああああああああ!?」


 ノエルを撫でようと近づこうとした瞬間、背後から男の絶叫が聞こえた。
 振り向くと、男がホウリに残った左足を踏まれていた。


「は、離せ!」


 藻掻く男だったが、ホウリから逃れる事はできない。


「なんでお前が動けるんだよ!あれだけボコボコにされて骨折までしてただろうが!」
「HPポーションで骨折を回復しただけだ」
「くっ……だが、お前は木刀しか使えない筈!なんで腕の切断なんて出来た!?」
「魔装で刃を作れば新月でも腕の切断が可能だ。こんな風にな」


 ホウリが男の左手に向かって新月を振るう。すると、中指以外の指が切断された。


「あああああああああああああ!?」
「さてと」


 絶叫が部屋に響く中、ホウリが男の腕を無理矢理に動かす。
 中指がコントローラーの中心にあるボタンに触れるようにして、新月の先端で手の甲を押さえつける。


「お前の操作を見ていたが、このボタンだけには触れてなかったな?これが洗脳解除のボタンなんだろ?」
「だったらなんだ!」
「押せ」
「誰がお前の言う事なんか───」


 その言葉を聞いたホウリは、新月を男の手の甲に押し込む。
 魔装で刃物のように鋭くなった新月は、男の肉にめり込み血液を噴出させる。


「っぐうううううう!?」
「立場が分かっていないようだな?これがお願いじゃなくて命令だ」


 ホウリが更に新月を男の手の甲にめり込ませる。


「があああああ!?」
「あと数秒で手の神経を切る。その後は足、目、耳だ。全部済んだら、針とペンチの好きな方を選ばせてやる」


 ホウリが新月をグリグリと動かしながら、感情無く言い放つ。その言葉を聞いた男には、さっきの余裕は無く恐怖だけが浮んでいた。


「不穏な動きを見せたら即座に神経を切断する。お前が助かるチャンスは今だけだと思え」


 神経が切断されると、手が使えんくなる。それはロワとミエルの洗脳が解除されないと同時に、男の悲惨な未来も決まってしまう。つまり、ホウリは『今解除しないと死ぬよりも悲惨な目に合わせる』と言っておる訳じゃ。
 男もそれが分かったのか、中指が細かく震えだす。


「5」


 ホウリが唐突にカウントダウンを始めた。それと同時に新月が男の手の甲に徐々にめり込んでいく。


「4」
「ひいっ!」


 男はプレッシャーに耐え切れなくなったのか、震える手で解除のボタンを押した。


「……あれ?ここは?」
「……私は一体何を?」


 ロワとミエルの視線に光が戻り、きょろきょろと辺りを見渡し始めた。どうやら、洗脳は解除されたようじゃ。


「それでいい」


 ホウリは新月を男の手の甲から離す。それを見て男は安堵の表情を浮かべ───手首から上を切断された。


「な、なあああああ!?言う事を聞いたのにいいいいいい!?」


 男の絶叫が再び部屋に轟く。ホウリはそんな男の口に自身の靴の先をねじ込んだ。


「ふがっ!」
「うるせえ。少し黙ってろ」


 男を一睨みしたホウリはわしの方を向く。


「フラン、魔法陣を頼む」
「う、うむ……」
「どうした?」


 わしは魔法陣を準備しながらホウリの質問に答える。


「色々と言いたい事はあるが、これだけは言っておく」
「なんだよ」
「こやつも大概じゃが、お主の方が外道じゃ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

不死身のバンパイアになった俺は、廃墟と化したこの世界で好きに生きようと思います

珈琲党
ファンタジー
人類が滅亡した後の世界に、俺はバンパイアとして蘇った。 常識外れの怪力と不死身の肉体を持った俺だが、戦闘にはあまり興味がない。 俺は狼の魔物たちを従えて、安全圏を拡大していく。 好奇心旺盛なホビットたち、技術屋のドワーフたち、脳筋女騎士に魔術師の少女も仲間に加わった。 迷惑なエルフに悩まされつつも、俺たちは便利で快適な生活を目指して奮闘するのだった。

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。 唯一の武器は、腰につけた工具袋—— …って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!? 戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。 土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!? 「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」 今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY! 建築×育児×チート×ギャル “腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる! 腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

処理中です...