魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百六十五話 長く苦しい戦いだった

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 わしはホウリにドン引きしながら、地面を軽くつま先で蹴る。すると、床に魔法陣が出現して部屋いっぱいに広がった。
 魔法陣にMPを込めると、いつも通りコール音が鳴り響いた。


(ザザザッ───ザザッ──ザッ─プルルルルルルル、プルルルルルルル、プルルルルルル、ガチャ)
『はいはーい。みんな大好き神様ですよー』
「おいカス。邪神の手先を捕まえたから能力を消去してくれ」
『はいはい。ちょっと待っててね』


 カチャカチャという何かを操作する音と共に、男の体が光り輝く。


『これでオッケー』
「他に邪神の力は感じるか?」
『感じないね。これでおしまい』
「そうか。なら、これで終わりだな」
『神々のいざこざに巻き込んでゴメンね』
「悪いと思ってるんなら、お前だけでどうにかしろ」
『あははは……面目ない……』
「じゃあ切るぞ。何かあれば連絡する」
『はいはーい』


 あっさりとみっちゃんとの会話を終わらせ、魔法陣から光が消える。


「フラン、こいつを治してやってくれ」


 ホウリが足元の男を足で軽く小突く。わしは何も言わずにセイントヒールで男の腕を生やす。


「あ、ああ……」


 切れた腕が生えた後も、男は放心状態じゃ。そんな男をホウリは気にせずに担ぎ上げる。


「こいつは俺が憲兵所に連れていく。皆はオダリムで帰り支度をしてくれ」
「分かりました」


 ホウリは家から出ていこうと歩みを進める。すると、わしにしか聞こえんほどの小さいで話しかけて来た。


「ノエルを気にかけておいてくれ。操られていたとはいえ、ロワが本気で殺しに来てたんだ。精神に負担が掛かっている筈だ」


 さっきまで容赦なく敵をボコボコにしていた者とは思えん気遣いじゃ。というか、ロワに襲われた事よりも、ホウリが敵を脅しておる方が心に来ておる気がするがのう。
 まあ、どっちにせよ精神面のケアが大事ではあるか・


「分かった。思いっきり甘やかしてやろう」
「任せたぞ」


 それだけ言うとホウリは家から出ていった。


「決着が着いても忙しない奴じゃな」
「そんな事よりもチェーンロックを解除してくれないか?いつまでに簀巻きの状態ではかなわない」
「僕も助けていただけないでしょうか?」
「そうであったのう」


 ミエルがチェーンロックで縛られたままジタバタと動く。
 わしは指を鳴らしてチェーンロックを消滅させる。ロワもミエルにロープを切って貰って自由になる。


「これで終わりなんですよね?」
「うむ。そうじゃな」
「良かったー。これであんな大変な任務はこりごりですよ」
「騎士団で働くなら、この程度の任務で音を上げて貰っては困るな」
「え?こんな任務が続くんですか?」
「何度もある訳はないがな。だからこそ、普段から訓練を欠かしてはいけないのだ」
「はーい、分かりました」
「でもさ、今は街を守り切れたことを喜ぼうよ!」


 ノエルの言葉にミエルとロワが顔を見合わせる。そして、目が合うと一緒に笑い始めた。


「ははは、確かにそうだね」
「ふふふ、皆の力で成し遂げたことだ。素直に喜ぶとしよう」
「ならばお祝いじゃな。本格的なものはホウリが帰ってからにするとして、今は軽くお祝いするか」
「さんせー!」


 ノエルが満面の笑みで両手を上げる。見た感じ、精神的な負担があるようには見えん。じゃが、無理してるだけかもしれんし、気にかけてみるか。


「そうと決まればオダリムに行くぞ。帰り支度もせんといかんしな」
「ディーヌさんにも挨拶しないといけませんしね」


 そんな話をしていると、小屋の扉がガチャリと開かれた。


「すみませーん、誰かいますかー」
「あれ?ラビお姉ちゃん?」


 小屋に入って来たのはラビじゃった。


「なんじゃ?もう全部終わったぞ?」
「ホウリさんが出て来たので問題無いとは思ってましたが、憲兵が最後まで確認する決まりなんですよ」
「ラビは検察じゃないのか?」
「それなりの戦闘力があれば検察でも問題無いんです」
「なら、ラビさんが適任ですね」
「今回は戦闘力はいらないと思いますけどね」


 ラビが小屋の中を見渡し、何も無い事を確認する。


「他の犯人も怪しい物も無し。捜査は終了ですね。お疲れ様でした」
「ラビさんもお疲れ様です」
「ありがとうございます。それで、終わったのならどういうことだったのか説明してくれますか?」
「説明?」
「憲兵を使って、ここら一帯を人払いしたんですよ?何があったのか教えてくれても良いじゃないですか。報告書も纏めないといけませんし」
「それもそうじゃな」


 ラビにであれば教えられる範囲で教えても良いか。


「分かった。ならば簡単に説明しよう」


 こうしてわしはラビに今までのやり取りを伝える。わしの話をラビは必死にメモした。


「──こういう感じじゃな」
「なるほど。かなり強敵でしたね」
「ですね。ホウリさんがいなかったらと考えるとゾッとしますよ」
「あの、いくつか疑問に思ったので聞いても良いですか?」
「なんじゃ?」
「憲兵に人払いをさせた理由はなんですか?」
「奴の能力が近距離限定だからじゃ」


 奴の能力が遠距離にも及ぶのであれば、オダリムにいる冒険者を操ればよい。ロットを操れば、それだけで壊滅的な被害を与えることが出来る。じゃが、それをしなかったのであれば、それが出来ぬほどに能力の範囲が狭い。ホウリはそう判断した。


「具体的な範囲は分からんかったから、大事をとって人々を避難させた訳じゃ」
「なるほど。ホウリさんが一番危ないっていうのは、最初に洗脳されるからですか?」
「そうじゃ。ホウリが一番先に気を引いて、どのような方法で洗脳されるかを知りたかったらしい」
「ですが、自害でもされたらホウリさんが死んでましたよね?その辺りは対策してたんですか?」
「わしが居れば死のうとしても治せるからのう」
「それもそうですね」


 ラビがメモを取りながら頷く。


「あれ?腕を切って無力化できるのであれば、フランさんで十分ですよね?」
「そうじゃな」
「フランさんがいるなら、先手必勝で攻撃すれば勝てたんじゃないんですか?わざわざホウリさんが不意打ちをする必要は無いですよね?」
「そうじゃな」
「その様子だと気付いてましたよね?まさか、わざと戦闘を長引かせてたんですか?」
「鋭いのう」


 確かにわしが居れば早々に決着をつけることは可能じゃった。つまり、ラビの言う通り、わしは手を抜いておった。


「なんで長引かせてたんですか?」
「奴の能力について調べるためじゃよ」


 ホウリは自爆などの機能が無いかや、コントローラー以外でも操れないかを懸念していた。自爆があれば、わしが抑えようとも意味は無い。コントローラー以外で操れるなら、腕を切っても洗脳を解くことが難しくなる。


「そういうことが無いかを確認するために、わしらは戦闘を長引かせていた訳じゃ」
「ロワさんとミエルさんが洗脳されることは想定していたんですか?」
「うむ。わしとノエルは洗脳されんことが分かっていたからのう。敵が複数の相手を洗脳できるのであれば、ロワとミエルが洗脳される可能性は考慮しておった」


 じゃから、今回はホウリとロワ、ミエルの危険がかなり高かった。最悪の場合、死人が出ても可笑しくはなかったじゃろう。


「じゃから、今回の戦いは見た目よりも切迫しておったのじゃよ」
「そうでしたか」


 そこまで聞いたラビはメモ帳を閉じて、わしらに頭を下げた。


「人国を代表して私がお礼します。本当にありがとうございました」
「いえいえ、僕たちの国なんですし当たり前ことをしたまでですよ」
「騎士団の仕事でもあるしな」
「そうだよ!ノエル達は当たり前のことをしただけだよ!」
「そういう事じゃ。別に礼を言われることはしておらんよ」
「あ、でも、特別報酬とかあれば欲しいかもです」
「調子にのるでないぞ」
「あいたっ!」


 調子にのっていたロワの額に軽くチョップを繰り出す。
 こうして長く苦しいオダリムの防衛戦は幕を閉じたのだった。
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