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第5章・ゴブリン・デスマーチ
前世と今世
しおりを挟む人質に取られた、大切な女性――。
彼女が大切だから、彼女を救うために自分を殺した。
意にそぐわぬことでも、彼女のために従った。
自分に課せられたのは、魔物と戦うこと。
戦って、戦って、魔物の血に塗れる己の体。
自分は何のために生きているのだろう――愛する彼女は、まだこの腕に戻らない。
いつになったら彼女は戻ってくるのだろう?
それとも、もう戻ってくることはないのだろうか?
あいつらは彼女を自分に返さず、自分を一生従わせようとしているのだろうか?
なんということだ。だが、例えそうであったとしても、愛する彼女を人質に取られた自分には、あいつらに――彼女の優しさに付け込んで、彼女を騙した者たちの言いなりになるしかなかった。
自分の望みは、彼女と共に在ることだ。
それが無理なら、彼女と同じ時代に生きていられればいい。
例え会えなくても、彼女がこの世界に存在してくれさえいれば、いつかまた会えるという望みを胸に生きていけると……そう思っていた。
だけど――。
「ごめんなさい……ごめんなさいっ……」
一体、何故、こんなことに。
抱きしめた華奢な体から、赤い血が流れていく。
それは、彼女の体から流れ出る命そのものだった。
そうだ、回復魔法をかけて、彼女を治せばいいのだ。
だが、それは彼女自身から拒まれた。
「何故だ! 早く治療しないと、君がっ!」
理由を問うと、彼女は儚く笑う。
「これであなたは、自由になれる」
「え?」
小さく呟いたあと、彼女は息を引き取った。
彼は耳を疑った。
自由になれる?
そんなもの、彼女を失うくらいなら、要らないというのに――。
「はっ……」
目を覚ましたユリウスは、これが今の己の現実であることを理解した。
先程のは夢――いや、以前の記憶だ。
今の自分は、彼女を失ってはいない。
その証拠に、彼女は自分の隣で気持ち良さそうに眠っていた。
起こさないで良かった――そう思いながら、ユリウスは眠るオリエの黒髪に口づけた。
ユリウスが以前の――つまり前世の記憶を思い出したのは、巨大熊との戦闘後、黒魔結晶に触れた後遺症で、高熱を出したときだった。
高熱でうなされながら、前世の記憶が一気に流れ込んできたユリウスは、その記憶を苦しみながら受け止めることしかできなかった。
前世での記憶は、彼女と出会えたこと以外、あまり良いものとは言えなかった。
今世に生まれ、単純にルリアルーク王に憧れていた幼い自分を愚かだと思うくらい、良いものではなかったのだ。
あんなものに、なりたい奴の気がしれない、と思う。
ルリアルーク王の真実を知らないのだから仕方がないのだろうが、ユリウスは今世で自分がそうであると名乗るつもりはなかった。
代わりに名乗りたい者が居るのなら、名乗ってもらって構わなかった。
前世と同じく、自分の願いはただ一つ。
愛する女性と――オリエと共にあることだけだから、昔の呼び名など興味ない。
「嬉しかった……今の君は、俺と一緒に居ることを望んでくれる……俺と一緒にいるために、怒って戦ってくれたのも、すごく嬉しかった……」
以前の彼女はただ純粋で、優しすぎた。
もちろん以前の彼女も愛しているけれど、今の彼女はもっと愛おしい。
「オリエ……今も昔も、君を愛している……。今度は、髪が真っ白になるまで、一緒に過ごしたい……。あ、でも、俺の髪は銀色だから、今も白髪と変わらないかもしれないね」
オリエを起こさないように小さく呟くと、ユリウスはもう一度眠るオリエに唇を寄せた。
そして意識を集中して鷹の目の魔法を使い、意識を上空へと飛ばす。
ユリウスが確認しようとしたのは、残りのゴブリンたちの動きだった。
「ゴブリン・デスマーチか……」
数は、約三百体といったところだろうか。
普通のゴブリンやホブゴブリンたちはおらず、上位種のゴブリンとゴブリンジェネラル、そしてゴブリンキングの構成だ。
それらは足並みを揃え、ただ真っすぐに王都オブリールを目指していた。
ゴブリンとホブゴブリンが主の一万体のゴブリンの大群と、上位種一万体では、どちらが大変だろうか。
ジュニアス、ルリアルークという名を名乗りたいのなら、せいぜい頑張ることだな。
そんなことを思いながら、ユリウスはオリエの隣で再び目を閉じた。
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