異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央

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第5章・ゴブリン・デスマーチ

画策

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 ノートンの通信魔法により、世界中にジュニアスの勝利が伝えられ、世界中が歓喜に沸き立ち、ジュニアスを褒め称えていた。
 オブルリヒト王国の王宮でも、現オブルリヒト王から栄誉ある言葉が息子であるジュニアスへと送られ、ジュニアスの祝勝会が開かれていた。

 王宮の誰もが、ジュニアスがゴブリンキングを倒したと信じて疑っていなかった。
 戦場に居た兵士や冒険者の中には、ゴブリンキングを倒したのはジュニアスではなく別の者だと言っている者も居るようだったが、あの時の仮面の男が再び現れない限り、騙し通すことができるはずだ。
 それに、真実を口にしようとする者が居るなら、その口を封じてしまえばいいだけだし、あの仮面の男は自分だったと押し通すこともできるだろう。

 だが、仮面の女の件は、ジュンであるとは言えないとジュニアスは思う。
 あの戦場にはルリアルーク王のような恰好をした仮面の男の他、聖女のような仮面の女も現れたという報告があった。
 仮面の女は癒しの雨を降らし、兵士や冒険者の傷を癒したのだという……。
 ジュンは回復魔法を使うことができないから、仮面の女をジュンだと言うのは無理があった。
 何より、ジュンは誰よりも早くあの戦場から逃げ出しており、多くの者たちに目撃されているのだ。

 癒しの雨を降らし、兵士や冒険者の傷を癒した仮面の女は、黒く長い髪をしていたらしい。
 仮面の女の正体は、ジュンと共にこの世界に来たオリエだろうか?
 オリエはユリアナやアルバトスと共に、あの外界と遮断されたシルヴィーク村に居るのではないのか?
 あの結界から自由に出入りすることができるのか?

 当初ジュニアスは、ジュンが聖女だと思っていたが、それは違っているはずだ。
 回復魔法の使えないジュンは、恐らく聖女ではないだろう。
 ジュン本人は、自分は矛の聖女なのだから回復魔法が使えず、盾の聖女であるオリエにしか使えないと言っていたが、ジュニアスは矛の聖女ですらないのではないかと考えていた。
 では、本当の聖女は誰なのか――本当の聖女は、オリエの方なのだろう。
 オリエという存在を、いつか手に入れなければならないと、ジュニアスは思う。

「ねぇ、本当にあなたがゴブリンキングを倒したの?」

 バルコニーで一人物思いにふけっていたジュニアスに、ジュンが近づいてきた。

「あぁ、もちろんだ。当たり前だろう」

 ジュニアスが頷くと、それ以上の追求はしてこなかったが、ジュンは怪しんでいるようだった。
 彼女はゴブリンキングを前に一番に逃げ出したから、真偽はわからないだろう。

「私はね、あなたには次期オブルリヒト王であり、ルリアルーク王でいてもらいたいの。そして私は、そんなあなたの隣に居たいのよ。矛の聖女として……そして、妻として、ね」

 そう言ったジュンを見て、ジュニアスは笑った。

「おいおい、兵士や冒険者を置いて我先に逃げた女が、聖女と踏ん反り返るには少し無理があるんじゃないか?」

 ジュンはジュニアスの言葉に少し考えこみ、「そうね」と頷いた。
 どうやら自覚はあるらしい。

「じゃあ、上手くごまかすか、もみ消してよ。そういうの得意でしょう? 私はあなたの隣で生きていきたいのよ」

 ジュニアスの隣で生きていきたいと言いながらも、ジュンはジュニアスを愛しているわけではないだろう。
 ジュンが愛しているものは、ジュニアスのそばに居ることで得られる権力なのだ。
 ジュンのそんなところをジュニアスは気に入っているが、面倒だとも思う。

「仕方ないな……逃げた振りをして、遠方から攻撃する作戦だったとでも言っておいてやろう」

 仮面の男はゴブリンキングとの戦いで、強力な魔法を何度も放っていた。
 だから、あの攻撃魔法は、ジュンが行ったものだということにすればいい。

「ありがとう、それじゃあ、よろしくね」

 ジュンは満足げに頷くと立ち去った。

「あの……ジュニアス様……」

 ジュンが立ち去って数分後、次にジュニアスに声をかけ、バルコニーに現れたのはナディアだった。

「あ、あの、ジュニアス様っ……」

「なんだ?」

「ご無事で、良かったです……」

 ナディアは瞳を潤ませながら、そう言った。

「ジュニアス様がご出陣されてから、わたくしはずっとジュニアス様の無事を祈っておりました……」

 ジュニアスは最初、そんな彼女を鼻で笑おうとしたが、真顔で彼女を見つめた。
 ジュンはジュニアスを見捨てて逃げたくせに、逃げた事実を誤魔化せと言っている。
 それに対しナディアはジュニアスの無事を、涙を流して喜んでいる。
 ジュニアスは柄にもなく思った。
 もしかすると自分が死なずにすんだのは、ナディアが祈ってくれていたからではないか、と。

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