婚約破棄された公爵令嬢は、ただ冤罪を晴らしたいだけなのです

明衣令央

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第1話:突然の婚約破棄

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 この国――ローレン王国は、古くから魔法と伝統を重んじる国だ。
 その王家に連なる者たちは、代々『ローレン』の名を冠してきた。
 ローレン王国には、古くから王侯貴族の子弟が学ぶための学び舎――王立学園がある。
 その歴史は三百年を超え、王国の未来を担う者たちが必ず通る、由緒正しき名門校として知られていた。

 その王立学園の大広間は、祝賀の空気に満ちていた。
 今日は年に一度の表彰式で、わたくしは成績優秀者として壇上に呼ばれる予定だった。
 胸の奥に緊張はあったけれど、誇らしさもあった。
 家のために努力してきたことが、ようやく形になるのだと――。
 だけどわたくしは、壇上に上がることはなかった。
 わたくしの名前が呼ばれると同時に、

「少し待つのだ!」

 と叫び、わたくしの代わりに、このローレン王国の第一王子であるアレクシス殿下と、一人の令嬢が壇上へと姿を現し、わたくしを指さして見下ろしたのだ。

「エレノア・クロノ公爵令嬢、そなたのような女が、栄誉あるこの場に上がることを、俺は許さない!」

 アレクシス殿下が、大広間に響き渡る声で言った。

「エレノア・クロノ公爵令嬢。お前との婚約を、ここで破棄する!」

「え?」

 祝賀の空気が一瞬で凍りつき、ざわめきが広がる。
 アレクシス殿下はさらに、壇上でわたくしに渡されるはずだった表彰状を学園長の手から奪うと、乱暴に引き裂き、わたくしへ向かって投げ捨てた。

「……婚約、破棄……ですか?」

「あぁ、そうだ!」

 わたくしを指さすアレクシス殿下の隣には、男爵令嬢であるリリアナ嬢がいた。
 涙を浮かべてアレクシス殿下の腕にしがみつく彼女の姿は、とてもか弱い姿に見える。
 けれど、彼女が浮かべるその涙が、わたくしにはどうしても作り物に思えた。

「そうだ! そなたはこのリリアナをいじめ、階段から突き落とそうとした! 他にも、そなたがリリアナに対して行った悪事の報告を、いくつも受けているぞ! 俺はこの国を継ぐ者として、そなたのような冷酷な女を王妃にするわけにはいかないのだ!」

 アレクシス殿下の声が、怒りというより焦りに近いように感じたのは、わたくしの気のせいではないだろう。
 わたくしは静かに息を吸い、思う。
 やはり、こうなった――。
 ずっと胸の奥で覚悟していた未来が、ついに目の前に現れたのだ。
 それでも、わたくしは取り乱したりしないと、ずっと心に決めていた。
 アレクシス殿下の気持ちがわたくしに向いていないことなど、とうに気づいていた。
 だから、アレクシス殿下の方から婚約を解消してくれればいいのにと、願っていたほどだ。

「承知いたしました、殿下。婚約破棄は、王家のご判断であれば従います。ただ……」

 言葉を続けようとしたそのとき、大広間の扉が勢いよく開いた。

「アレクシス……今のは、どういうことだ?」

 このローレン王国の国王陛下と王妃殿下、そしてアレクシス殿下の弟である第二王子のウイリアム殿下が姿を現した。
 今日の表彰式の後は、懇親会を兼ねたパーティーが開かれることになっていた。
 だから今日の表彰式にはすでに王立学園に通う生徒の保護者も出席しており、お忙しい王家の方々は今到着されたのだ。

「アレクシス、もう一度聞く……。先ほどのお前の発言はどういうことだ? 今日は王立学園の成績優秀者の表彰式だろう? 一体、何が起きているのだ? お前は、何をしているのだ?」

「ち、父上……それはっ……」

 アレクシス殿下は顔色を失い、リリアナは怯えたように身を縮めた。
 わたくしは陛下へご説明するために、一歩前に出て、深く頭を下げる。

「国王陛下、王妃殿下。エレノア・クロノよりご説明申し上げます。わたくしは今、アレクシス殿下より、婚約破棄を言い渡されました。それは、今この場に居られる全ての方々がご覧になっております」

「な、なんと……」

 陛下も王妃殿下も、とても驚いておられるようだった。
 ということは、この婚約破棄はアレクシス殿下が独断で行ったものなのだろう。

「アレクシス殿下がお望みなら、わたくしは婚約破棄を受け入れます。ただ……」

 わたくしは顔を上げ、アレクシス殿下とリリアナをまっすぐに見つめた。

「ただ一つ、全く身に覚えのない冤罪だけは、晴らさせていただきたく存じます」

 大広間が静まり返る。
 表彰式は、もはや祝賀の場ではなくなっていた。
 婚約破棄の件は、アレクシス殿下の心がわたくしにはないことはわかっていたので、受け入れることはできる。

 だけど、わたくしとわたくしの家族の名誉のためにも、身に覚えのない冤罪だけはどうしても晴らしたかった。


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