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第284話 浅き眠り
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王城の敷地内には露天の処刑場がある。
そこは王国にとって重大な犯罪者を処刑する場所だった。
だが最近は趣が異なり、シャクナゲの子飼いである1人の怪人が公国の捕虜たちを虐殺する場になっていた。
その怪人は用のない時は処刑場の罪人を閉じ込めるための牢の中で過ごしている。
今その場所に足を運んでいるのはシャクナゲだった。
「ドロノキ。ほら。今日は先にご褒美をあげるわね」
シャクナゲがそう言って包み紙を手渡すと、ドロノキは嬉しそうに受け取りながら、まるで子供のような動作でふと首を横にかしげた。
「シャクナゲ様ぁ。今日は何で先にご褒美?」
「今日はねぇ。どうやら外からお客様が来ているようなの。もしあなたのお庭に来ることがあれば、思い切り遊んであげてくれる? いつもみたいに相手が死体になるまで。ちゃんと出来たらまたご褒美あげるから」
そう言うシャクナゲにドロノキは喜び勇んでその場でジタバタと足を踏み鳴らした。
「俺、やる! たくさん遊んでたくさん殺す! ご褒美もらう!」
「いい子ね。ドロノキ」
そう言うとシャクナゲはドロノキを牢から解き放つのだった。
そしてドロノキが処刑場に出ていくのを見送ると、シャクナゲは執務室へと戻っていく。
「さて、今頃はオニユリがお楽しみのはずね。それにしても……報告がまだね」
ここのところ王都の外を守る警備兵の中にも内通者がいるという話が出ている。
その者たちが外から王都の中へ敵を引き入れている恐れがあり、実際に内通者を幾人か割り出しているので、その者たちの抹殺をオニユリに任せた。
その見返りにエミルの身を30分だけ好きにしていいとオニユリに言ったのだ。
だが、任務完了の報告をまだ受けていなかった。
オニユリと共に送り出した部下が任務の完了を告げに来る予定になっている。
「手間取っているのかしら……」
シャクナゲが怪訝に思っていたその時だった。
廊下の向こう側から走って来る者の姿がある。
それは白髪の若い男たちだった。
「シャクナゲ様! ご報告が……」
男たちの強張った顔を見てシャクナゲは嫌な予感を覚えた。
「まさか……オニユリのこと?」
「は、はい。内通者狩りに先行して向かったはずのオニユリ様のお姿がどこにもないのです。ですが……城壁のすぐ外でヒバリとキツツキの遺体が発見されました」
その報告にシャクナゲは思わず表情を固くする。
ヒバリとキツツキ。
それはオニユリの側近の名だ。
「あの2人が……遺体で? オニユリは? オニユリは傍にいなかったの?」
「はい。何やら不穏なことが起きた様子で、銃殺された内通者の死体はあったのですがオニユリ様がどこにもいらっしゃらないのです。今、探しているのですが、まずはシャクナゲ様にご一報をと思いまして……」
シャクナゲは胸騒ぎがした。
腹違いの妹を心配してのことではない。
オニユリはココノエでも随一の拳銃使いだ。
そのオニユリが万が一にも敗れたのだとしたら、それは相手が相当に数が多いかあるいは相当な使い手だということだ。
そして……彼女にはすぐにやらねばならないことがあった。
「陛下には私が進言するわ。あなたたちは王都内の防衛を王城に集中するよう各方面に伝えなさい。このシャクナゲの名において命ずると」
部下たちにそう告げるとシャクナゲはすぐに踵を返した。
ジャイルズ王の元へ向かう前に行く場所がある。
天空牢だ。
先ほどオニユリのために開錠してきたばかりの鉄格子を再び施錠しなければならない。
「こんなことになるなんて……イライラするわ!」
シャクナゲは怒りに顔を歪め、足早に天空牢を目指すのだった。
☆☆☆☆☆☆
浅き眠りだ。
エミルにはそれが夢なのか現実なのか分からなかった。
彼を閉じ込めていた鉄格子が開け放たれ、誰かが助けにきてくれたのだ。
「エミル。いつまでこんなところで寝ているの。帰るわよ」
「……姉様?」
姉のプリシラが助けにきてくれた。
エミルは思わずベッドから身を起こして、姉に向かって手を伸ばす。
姉がその手を掴んでくれた。
その瞬間だった。
目の前にいる姉の顔が別の誰かに変わったのだ。
それは美しい金髪の姉・プリシラではなく、同じように美しく白い髪の少女だった。
一瞬、エミルは言葉に詰まり、そしてその少女の名を呟いた。
「……ヤブラン?」
「エミル……良かった。目が覚めたのね。ちゃんと水をたくさん飲んでくれたんだね」
エミルはそこでようやく自分が浅い眠りから目覚めたのだと知った。
今、目の前にいるのはココノエの少女ヤブランだ。
そして自分が彼女の手を握っていることに気付くと、エミルは思わずその手を放す。
「ご、ごめん。ヤブラン」
恥ずかしそうにそう言ってみてエミルはふと我に返った。
この牢は施錠されているはずだった。
だというのにヤブランが牢の中にいる。
そこでエミルは気付いた。
ヤブランの背後で鉄格子の扉が開け放たれていることに。
「え? ヤ、ヤブラン? どうして入って来られたの?」
戸惑ってそう尋ねるエミルの手を今度はヤブランの方から握ってきた。
「エミル。今すぐ逃げよう。このままだとオニユリ様がここに来るわ」
「……えっ?」
オニユリという言葉を聞き、エミルは思わずビクッと肩を震わせた。
彼女の姿を思い出すだけで、腹の底から恐怖が甦ってくる。
「ど、どうして……」
「いいから。早くここから逃げるの。あなたは……あなたの国に帰るのよ。今度こそ」
そう言うとヤブランはエミルの手を取って彼を引き立たせた。
その言葉にエミルは驚きながらベッドから降りる。
「え? 国に……? どうして? ヤブランは王国の人なのに……そんなことしたら君が酷い目にあわされるんじゃ……」
そう言って立ち止まるエミルだが、ヤブランはその手を掴んだまま放さない。
「この前は……あなたを助けるフリをしてここに押し込んでしまった。ごめんなさい。エミル。ずっと後悔していたの……だから今度は、今度こそはあなたを本当に助ける。大丈夫。私には後ろ盾になってくれる人がいるから心配しないで。私を信じてついてきて。エミル」
そう言うとヤブランは笑みを浮かべ、エミルの手を力強く引いてて鉄格子を抜け、天空牢からエミルを連れ出すのだった。
☆☆☆☆☆☆
王城内がにわかに騒がしくなってきた。
ここのところ王都にはずっと不穏な空気が漂っているが、王城までは脅威は及んでいない。
だが王都内に賊が入り込み、王国兵らが幾人も倒されているという報告が上がってきている。
同時に賊は王城を一直線に目指しているという報告もあった。
「どうやら賊は複数いるようですが、いずれも単独あるいはごく少人数での行動のようです。狙いはエミルの奪還でしょう」
王城内の兵舎。
シジマの報告にチェルシーはその目に鋭い光を滲ませた。
「少数で斬り込んでくる敵は普通じゃないと考えるべきね」
そこに新たに伝令の兵が走り込んで来る。
若きその兵士はチェルシーの前に跪いた。
「将軍閣下。王都に入り込んでいる賊のうち1名は若い男です。その男は西の方角から北周りに王城へ到達し、すでに城壁を越えて城内に侵入を果たしています。そしてその他に南周りから入り込んできている2人組がいます。金髪の若い女と黒髪の男です」
その報告にチェルシーの目が大きく見開かれる。
若き兵は報告を続けた。
「金髪の女はまだ随分と若いようですがその戦闘能力はすさまじく、複数名の王国兵でかかっても返り討ちにされています。一方、黒髪の男の方は戦闘には参加していないとのことです」
その報告にシジマは目を剥いてチェルシーを見た。
チェルシーはその目に鋭い光を帯びたまま深く息をつく。
「ふぅ。間違いないわね。プリシラとジュードの2人よ。そう……ここまで来たのね……プリシラ。大した執念だわ」
そう言うとチェルシーはシジマに目を向ける。
「シジマ。あなたは兵を率いて北周りから侵入してきた男を始末しなさい。ワタシは……プリシラと決着をつける」
チェルシーはその顔を殺意に染め上げ、剣を手に立ち上がる。
幾度にも渡ったプリシラとの戦いをここで終わらせるべく、彼女は戦意を燃え上がらせるのだった。
そこは王国にとって重大な犯罪者を処刑する場所だった。
だが最近は趣が異なり、シャクナゲの子飼いである1人の怪人が公国の捕虜たちを虐殺する場になっていた。
その怪人は用のない時は処刑場の罪人を閉じ込めるための牢の中で過ごしている。
今その場所に足を運んでいるのはシャクナゲだった。
「ドロノキ。ほら。今日は先にご褒美をあげるわね」
シャクナゲがそう言って包み紙を手渡すと、ドロノキは嬉しそうに受け取りながら、まるで子供のような動作でふと首を横にかしげた。
「シャクナゲ様ぁ。今日は何で先にご褒美?」
「今日はねぇ。どうやら外からお客様が来ているようなの。もしあなたのお庭に来ることがあれば、思い切り遊んであげてくれる? いつもみたいに相手が死体になるまで。ちゃんと出来たらまたご褒美あげるから」
そう言うシャクナゲにドロノキは喜び勇んでその場でジタバタと足を踏み鳴らした。
「俺、やる! たくさん遊んでたくさん殺す! ご褒美もらう!」
「いい子ね。ドロノキ」
そう言うとシャクナゲはドロノキを牢から解き放つのだった。
そしてドロノキが処刑場に出ていくのを見送ると、シャクナゲは執務室へと戻っていく。
「さて、今頃はオニユリがお楽しみのはずね。それにしても……報告がまだね」
ここのところ王都の外を守る警備兵の中にも内通者がいるという話が出ている。
その者たちが外から王都の中へ敵を引き入れている恐れがあり、実際に内通者を幾人か割り出しているので、その者たちの抹殺をオニユリに任せた。
その見返りにエミルの身を30分だけ好きにしていいとオニユリに言ったのだ。
だが、任務完了の報告をまだ受けていなかった。
オニユリと共に送り出した部下が任務の完了を告げに来る予定になっている。
「手間取っているのかしら……」
シャクナゲが怪訝に思っていたその時だった。
廊下の向こう側から走って来る者の姿がある。
それは白髪の若い男たちだった。
「シャクナゲ様! ご報告が……」
男たちの強張った顔を見てシャクナゲは嫌な予感を覚えた。
「まさか……オニユリのこと?」
「は、はい。内通者狩りに先行して向かったはずのオニユリ様のお姿がどこにもないのです。ですが……城壁のすぐ外でヒバリとキツツキの遺体が発見されました」
その報告にシャクナゲは思わず表情を固くする。
ヒバリとキツツキ。
それはオニユリの側近の名だ。
「あの2人が……遺体で? オニユリは? オニユリは傍にいなかったの?」
「はい。何やら不穏なことが起きた様子で、銃殺された内通者の死体はあったのですがオニユリ様がどこにもいらっしゃらないのです。今、探しているのですが、まずはシャクナゲ様にご一報をと思いまして……」
シャクナゲは胸騒ぎがした。
腹違いの妹を心配してのことではない。
オニユリはココノエでも随一の拳銃使いだ。
そのオニユリが万が一にも敗れたのだとしたら、それは相手が相当に数が多いかあるいは相当な使い手だということだ。
そして……彼女にはすぐにやらねばならないことがあった。
「陛下には私が進言するわ。あなたたちは王都内の防衛を王城に集中するよう各方面に伝えなさい。このシャクナゲの名において命ずると」
部下たちにそう告げるとシャクナゲはすぐに踵を返した。
ジャイルズ王の元へ向かう前に行く場所がある。
天空牢だ。
先ほどオニユリのために開錠してきたばかりの鉄格子を再び施錠しなければならない。
「こんなことになるなんて……イライラするわ!」
シャクナゲは怒りに顔を歪め、足早に天空牢を目指すのだった。
☆☆☆☆☆☆
浅き眠りだ。
エミルにはそれが夢なのか現実なのか分からなかった。
彼を閉じ込めていた鉄格子が開け放たれ、誰かが助けにきてくれたのだ。
「エミル。いつまでこんなところで寝ているの。帰るわよ」
「……姉様?」
姉のプリシラが助けにきてくれた。
エミルは思わずベッドから身を起こして、姉に向かって手を伸ばす。
姉がその手を掴んでくれた。
その瞬間だった。
目の前にいる姉の顔が別の誰かに変わったのだ。
それは美しい金髪の姉・プリシラではなく、同じように美しく白い髪の少女だった。
一瞬、エミルは言葉に詰まり、そしてその少女の名を呟いた。
「……ヤブラン?」
「エミル……良かった。目が覚めたのね。ちゃんと水をたくさん飲んでくれたんだね」
エミルはそこでようやく自分が浅い眠りから目覚めたのだと知った。
今、目の前にいるのはココノエの少女ヤブランだ。
そして自分が彼女の手を握っていることに気付くと、エミルは思わずその手を放す。
「ご、ごめん。ヤブラン」
恥ずかしそうにそう言ってみてエミルはふと我に返った。
この牢は施錠されているはずだった。
だというのにヤブランが牢の中にいる。
そこでエミルは気付いた。
ヤブランの背後で鉄格子の扉が開け放たれていることに。
「え? ヤ、ヤブラン? どうして入って来られたの?」
戸惑ってそう尋ねるエミルの手を今度はヤブランの方から握ってきた。
「エミル。今すぐ逃げよう。このままだとオニユリ様がここに来るわ」
「……えっ?」
オニユリという言葉を聞き、エミルは思わずビクッと肩を震わせた。
彼女の姿を思い出すだけで、腹の底から恐怖が甦ってくる。
「ど、どうして……」
「いいから。早くここから逃げるの。あなたは……あなたの国に帰るのよ。今度こそ」
そう言うとヤブランはエミルの手を取って彼を引き立たせた。
その言葉にエミルは驚きながらベッドから降りる。
「え? 国に……? どうして? ヤブランは王国の人なのに……そんなことしたら君が酷い目にあわされるんじゃ……」
そう言って立ち止まるエミルだが、ヤブランはその手を掴んだまま放さない。
「この前は……あなたを助けるフリをしてここに押し込んでしまった。ごめんなさい。エミル。ずっと後悔していたの……だから今度は、今度こそはあなたを本当に助ける。大丈夫。私には後ろ盾になってくれる人がいるから心配しないで。私を信じてついてきて。エミル」
そう言うとヤブランは笑みを浮かべ、エミルの手を力強く引いてて鉄格子を抜け、天空牢からエミルを連れ出すのだった。
☆☆☆☆☆☆
王城内がにわかに騒がしくなってきた。
ここのところ王都にはずっと不穏な空気が漂っているが、王城までは脅威は及んでいない。
だが王都内に賊が入り込み、王国兵らが幾人も倒されているという報告が上がってきている。
同時に賊は王城を一直線に目指しているという報告もあった。
「どうやら賊は複数いるようですが、いずれも単独あるいはごく少人数での行動のようです。狙いはエミルの奪還でしょう」
王城内の兵舎。
シジマの報告にチェルシーはその目に鋭い光を滲ませた。
「少数で斬り込んでくる敵は普通じゃないと考えるべきね」
そこに新たに伝令の兵が走り込んで来る。
若きその兵士はチェルシーの前に跪いた。
「将軍閣下。王都に入り込んでいる賊のうち1名は若い男です。その男は西の方角から北周りに王城へ到達し、すでに城壁を越えて城内に侵入を果たしています。そしてその他に南周りから入り込んできている2人組がいます。金髪の若い女と黒髪の男です」
その報告にチェルシーの目が大きく見開かれる。
若き兵は報告を続けた。
「金髪の女はまだ随分と若いようですがその戦闘能力はすさまじく、複数名の王国兵でかかっても返り討ちにされています。一方、黒髪の男の方は戦闘には参加していないとのことです」
その報告にシジマは目を剥いてチェルシーを見た。
チェルシーはその目に鋭い光を帯びたまま深く息をつく。
「ふぅ。間違いないわね。プリシラとジュードの2人よ。そう……ここまで来たのね……プリシラ。大した執念だわ」
そう言うとチェルシーはシジマに目を向ける。
「シジマ。あなたは兵を率いて北周りから侵入してきた男を始末しなさい。ワタシは……プリシラと決着をつける」
チェルシーはその顔を殺意に染め上げ、剣を手に立ち上がる。
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