蛮族女王の娘《プリンセス》 第3部【王国編】(完結編)

枕崎 純之助

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第201話 非情な処刑

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 街が燃えている。
 家屋を焼くげたにおいが充満する街中には、人々の無残な遺体がそこかしこに横たわり、死肉を喰らうからすらについばまれていた。

 公国の首都ラフーガ。
 公国の首長である大公が鎮座ちんざするその街は3日前に陥落かんらくした。
 侵略者たちの手によって蹂躙じゅうりんされたその街は、戦に敗れし者の残酷な末路を如実にょじつに表している。
  
 王国軍の攻撃を受けたラフーガの公国軍は意地を見せ、新型兵器である銃火器や大砲を駆使する王国軍の猛攻に5日間ほど耐えた。
 だが兵たちは相次いで傷付き倒れ、城壁は砲弾を受けてもろくもくずれ落ちた。
 そして大公が籠城ろうじょうする城に突入した王国軍によって、ついにラフーガは攻め落とされたのだった。
 
 王国軍に捕らえられた大公であるクライブ・ラフーガ2世は正式に公国の降伏を申し出て、これにより公国は王国の占領下に入ることが決定したのだ。
 同時に大公は自身の家族や重要な家臣たちの助命を王国軍へ願い出た。
 自身の首と引き換えにその者たちを生かして欲しいと。
 しかし……王国軍の指揮官である副将軍のウェズリーは非情で残酷な男だった。

 ウェズリーはそうした大公の申し出をことごとく却下し、大公の妻と息子や娘、弟や妹をまとめて処刑したのだ。
 副官のヤゲンが幾度いくどにも渡りそれを制止したにも関わらず、今後の反乱を防止するという名目でウェズリーは処刑を強行した。
 大公の血を根絶やしにするという目的で。
 だが、これはウェズリーの失策だった。

 現在、大公の家族の中で末の息子であるコリンだけが行方ゆくえが分かっていない。
 その居場所を突き止めるためにウェズリーは大公を拷問ごうもんにかけた。
 だが家族を目の前で失った大公は心を失ってしまい、どれだけ体を痛めつける苛烈な拷問ごうもんにも、まったく口を開くことがなかったのだ。
 ごうやしたウェズリーは大公を処刑台に送ることを決定した。

「言い残すことはないか? 寛大な心で聞いてやるぞ?」

 呆然ぼうぜん自失の状態で処刑台に立つ大公に、ウェズリーは酷薄な笑みを浮かべてそうたずねるが、すでに大公は何かをしゃべれるような状態ではなかった。
 つまらなさそうに舌打ちをするウェズリーは、大公の頭に拳銃を突きつけて容赦ようしゃなく引き金を引いたのだ。
 当初、敗戦国の民である公国の民の前で大公の公開処刑をしようとしていたウェズリーだが、ヤゲンは懲罰ちょうばつを受けることも辞さずに断固反対した。

 そんなことをすれば公国民は怒り狂い、最後の1人なるまで抵抗するだろうと。
 それだけは絶対にしてはならないというヤゲンの鬼気迫る表情に、ウェズリーも仕方なく引き下がったのだ。 
 そして大公クライブ・ラフーガ2世の処刑はひっそりと場内のろうで行われたのだった。

「フンッ。何にせよこれで公国はこの世から消滅した。今日からこの国も王国領の一部になるぞ。公国の民は下級国民として王国のために働かせてやろう。ヤゲン。貴様はコリン公子を探せ。大公の血脈は根絶やしにせねばならない」    

 そう言うウェズリーの目には征服者の傲慢ごうまんさが鋭い光となって宿っていた。
 ヤゲンはおごり高ぶる上官の前にひざを着いてこうべれる。
 その胸中には卑劣ひれつなウェズリーへの嫌悪感が渦巻うずまいていた。

(人心の分からぬこの男に公国の統治を任せていたら、いずれは破綻はたんする。ジャイルズ王がチェルシー将軍をこちらに派遣して下されば……)

 チェルシーはまだ若いが、それでも彼女には女王の気質が備わっている。
 ウェズリーなどよりよほど上手く公国を占領統治できるはずだ。
 だが、今のジャイルズ王のそばにはシャクナゲがいる。
 それがヤゲンにとっての懸念けねんだった。

(王があの女狐めぎつねに骨抜きにされていなければいいのだが……)

 ヤゲンは王国の躍進がココノエの一族の安寧につながると信じてこれまで行動してきた。
 しかし公国を攻め落とした今、自分達があらがうことの出来ない大きな運命の波に飲まれつつあることを感じ、胸中の不安を抑えることが出来ないのだった。

 ☆☆☆☆☆☆

 公国との国境にほど近い共和国領。
 山間に流れる谷川のそばに川での漁を生業なりわいとする川漁師らの小さな集落が存在する。
 そこでは早朝の漁を終えた川漁師らが集落の中心である広場に集まって来ていた。
 この一ヶ月ほど集落に滞在した旅人2人を皆で送り出すためだ。
 1人は黒髪で美しい顔立ちの青年であり、もう1人は赤毛に褐色かっしょく肌の筋骨隆々きんこつりゅうりゅうな肉体を誇る女だった。

「皆さん。本当にお世話になりました。このご恩は一生忘れません」

 そう言って皆に深々と頭を下げるのは、黒髪の青年ジュードだ。
 彼はこの一ヶ月、滞在の礼として毎日欠かさず川漁師らの漁仕事を手伝った。
 人なつこく社交的なジュードはすぐに川漁師らと打ち解けて人気者になったのだ。

 もう1人の赤毛の女は川漁師らやその家族の1人1人と握手を交わしている。
 彼女は瀕死ひんしの重傷を負って谷川を流されているところをこの集落の川漁師らに救われ、以来ここで療養していた。
 この一ヶ月ですっかり体もえ、元の体力を取り戻したため、村をつことにしたのだ。
 その名をジャスティーナという。
 ジャスティーナは最も世話になった川漁師の妻に頭を下げた。

「ありがとうございました。ドナさん」

 ドナと呼ばれた初老の女は目に涙を浮かべてうなづく。

「もっといてくれていいのに。さびしくなるわ」
「ありがたい話ですが、私にはやらねばならぬことがありますので。またいつか必ず立ち寄らせてもらいます。その時までどうかお元気で」

 そう言うとジャスティーナはドナと抱擁ほうようを交わしてジュードと共に村を後にする。
 見送りの川漁師らの姿が見えなくなると、ジャスティーナはジュードに顔を向けた。

「さて、ジュード。まずはどこへ行く?」
「まずはビバルデだな。情報を集めないと、プリシラやエミルが今どこにいるのかも分からない」
「よし。行き先は決まった。やれることを一つずつやっていこう。頼りにしているぞ。相棒」

 そう言うとジャスティーナはジュードの背中をバシッと叩き、叩かれたジュードは痛そうにしながらも、相棒の調子が戻って来たことに安堵あんどの笑みを浮かべるのだった。
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