1 / 27
1.平和な国
しおりを挟む魔法師団の訓練場で、エルは先輩魔法師を相手に訓練をしていた。他の団員も対戦形式で訓練を行っている。訓練場には結界魔法が施されていて、他へ被害が出ないようになっている。
「今日はここまでだ!」
隊長の合図で、訓練場は気が緩んだ団員達のざわめきに包まれた。
「あっぶねー。新米のエルに一本取られてたら、隊長に雷落とされて居残りで特訓だったぞ」
「先輩の炎と僕の水なら、頑張れば一本取れると思ったんですが、できませんでした。悔しいなぁ」
「まだ、越させねぇよ」
コツンとふわふわのプラチナブロンドの頭を小突かれたエルは、先輩にいたずらっ子のように空色の瞳を細めて笑った。
「もっと頑張らないと! あ、僕はまだ残って復活の日の訓練をしていきます」
「復活の日に大抜擢されたもんな。頑張れよ」
「はい! お疲れ様でした」
先輩はエルに手を振って、他の団員と合流すると訓練場を後にした。
「よし、もっともっと訓練しないと」
エルは、数人残って自主練習を始めている中で、集中して魔力を練り始めた。エルには復活の日の大役に強い思い入れがある。魔法師を目指すきっかけとなったあの日の出来事。それを胸に思い浮かべて、繊細な魔力の操作をおこなう。研ぎ澄まされていく感覚に身を委ねた。
◇◇◇
フローラ王国の侯爵家の三男として、エルは生まれた。
フローラ王国は、大国に囲まれた小さな国だ。
現在は不可侵条約によって守られているこの王国は、大昔に一度だけ容易に蹂躙された過去がある。
侵攻してきたのは、肥沃な土地に目を付けた今は亡き大国だった。
手に入れてすぐに、その変化は起こった。土地は枯れ、荒れ狂う天候が大国本土まで襲った。民衆は祟りだと恐れて大国から逃げ出そうとし、隣国へと列をなした。
事態を深刻に受け止めた当時の大王は、フローラ王国から人質として連れ去ってきた姫に話を聞くことにした。
フローラ王国には古くから伝承がある。地下深くに闇の眷属を封じ込めた。その力を鎮めるために、その上にフローラ王国を築いたのだということだった。王族は封じ込めた賢者の末裔であり、大国は姫以外の王族を皆殺しにしてしまったので、当時生き残っていたのは姫ただ一人であった。
話を聞いた大王は、姫をフローラ王国へと帰還させ、奪い取った国土を手放した。
するとどうだろう、たちまち天候は落ち着いて荒れ果てていた大地は、姫が帰還するのと同時に肥沃な大地へと蘇った。
フローラ王国民は姫の帰還を喜ぶとともに、国民が失っていた魔力が戻ると、協力して国土を復活させたのだった。
周辺国ではそれ以来「フローラ王国に手を出す事は自国を滅ぼす事になる」と語り継いでいる。
姫の帰還した日を「復活の日」として、フローラ王国では年に一度の大きなお祭りを開催している。国民は毎年、このお祭り期間を楽しみにしていた。
◇◇◇
エルが居残りをして、大役の練習をしていた時だった。いつの間にかエルだけになっていた訓練場に、近づいてくる人影が見えた。エルの表情が、パッと明るくなる。
「エル、訓練は順調か? わからない事があったら、私に聞きなさい」
「ノア師団長! ありがとうございます。僕のできる限りの事はしたいのです。新米魔法師の僕が復活の日の大役をいただいたことで、指名してくださったノア師団長の顔に泥を塗らないように頑張ります!」
「あまり無理をしすぎるな。エルはいつも一生懸命に頑張っている。今日はもう終わりにしなさい」
そう言ってノアは、エルのふわふわしたプラチナブロンドの髪を撫でると、ほんの少し目を細めてエルを見ている。エルは、ノアに撫でてもらうのが好きだ。何だか撫でられたところから、ほわほわ温かい気持ちになるからだ。
ノア魔法師団長は、フローラ王国の第三王子で、背が高く漆黒のサラサラの黒髪にアメジストの瞳をしたものすごく美形の人だ。あまり表情が変わらないことと、ノア師団長の使う氷魔法から「氷華の魔法師」と呼ばれている。
エルは、男性の平均身長よりちょっと低いのを気にしていた。上の兄二人は男性らしいしっかりした体型なのに、同じように鍛えたはずのエルは引き締まっていて細身だ。
小柄で細身のエルが魔法師のローブを纏うと、童顔で大きな空色の瞳ということもあって、年齢より幼く見られることが多い。「可愛い」とよく言われるのを気にして、侮られないようにと努力してきたエルを、ノアはちゃんと認めてくれる。特に頭を撫でてくれるときに、ほんの少しだけノアの表情が緩むのも嬉しい。
他の人に頭を撫でられそうになるのは嫌なのに、ノアがしてくれると、もっと撫でて欲しいと思う。エルにとって、ノアは魔法師を目指すきっかけとなった憧れの人なのだ。
「はい、ありがとうございます。ノア師団長!」
「私も帰るところだ。エル、良かったら一緒に食事をしないか?」
「もちろん、ご一緒させていただきます」
エルが人懐っこい笑顔でノアに返事をすると、ノアは満足そうに頷いた。二人は何を食べたいのか話しながら、訓練場を後にするのだった。
230
あなたにおすすめの小説
翼が生えた王子は辺境伯令息に執心される
尾高志咲/しさ
BL
「ふわふわな翼が!背中に?」
慌てる僕の元にやってきたのは無表情な美形婚約者。どどどうする!?
――ファンタン王国の第五王子ミシューの背中に、ある朝目覚めたら真っ白な翼が生えていた。原因がわからずに慌てふためいていると、婚約者の辺境伯令息エドマンドが会いにやってくる。美形でいつも無表情なエドマンドは王都から離れた領地にいるが、二月に一度は必ずミシューに会いにくるのだ。翼が生えたことを知られたくないミシューは、何とかエドマンドを追い返そうとするのだが…。
◇辺境伯令息×王子
◇美形×美形
◆R18回には※マークが副題に入ります。
◆誰にも言えない秘密BLアンソロジー寄稿作品を改題・改稿しました。本編(寄稿分)を加筆し続編と番外編を追加。ほのぼの溺愛ファンタジーです。
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
【完結】あなたのいない、この異世界で。
Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」
最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。
そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。
亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。
「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」
ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。
彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。
悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。
※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。
ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。
転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています
柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。
酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。
性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。
そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。
離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。
姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。
冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟
今度こそ、本当の恋をしよう。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!
松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。
15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。
その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。
そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。
だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。
そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。
「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。
前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。
だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!?
「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」
初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!?
銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。
生贄傷物令息は竜人の寵愛で甘く蕩ける
てんつぶ
BL
「僕を食べてもらっても構わない。だからどうか――」
庶子として育ったカラヒは母の死後、引き取られた伯爵家でメイドにすら嗤われる下働き以下の生活を強いられていた。その上義兄からは火傷を負わされるほどの異常な執着を示される。
そんなある日、義母である伯爵夫人はカラヒを神竜の生贄に捧げると言いだして――?
「カラヒ。おれの番いは嫌か」
助けてくれた神竜・エヴィルはカラヒを愛を囁くものの、カラヒは彼の秘密を知ってしまった。
どうして初対面のカラヒを愛する「フリ」をするのか。
どうして竜が言葉を話せるのか。
所詮偽りの番いだとカラヒは分かってしまった。それでも――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる