【完結】花降る王国の魔法師団長は、新米魔法師の僕を愛でる

金浦桃多

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1.平和な国

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 魔法師団の訓練場で、エルは先輩魔法師を相手に訓練をしていた。他の団員も対戦形式で訓練を行っている。訓練場には結界魔法が施されていて、他へ被害が出ないようになっている。
 
「今日はここまでだ!」

 隊長の合図で、訓練場は気が緩んだ団員達のざわめきに包まれた。

「あっぶねー。新米のエルに一本取られてたら、隊長に雷落とされて居残りで特訓だったぞ」
「先輩の炎と僕の水なら、頑張れば一本取れると思ったんですが、できませんでした。悔しいなぁ」
「まだ、越させねぇよ」

 コツンとふわふわのプラチナブロンドの頭を小突かれたエルは、先輩にいたずらっ子のように空色の瞳を細めて笑った。
 
「もっと頑張らないと! あ、僕はまだ残って復活の日の訓練をしていきます」
「復活の日に大抜擢されたもんな。頑張れよ」
「はい! お疲れ様でした」

 先輩はエルに手を振って、他の団員と合流すると訓練場を後にした。

「よし、もっともっと訓練しないと」

 エルは、数人残って自主練習を始めている中で、集中して魔力を練り始めた。エルには復活の日の大役に強い思い入れがある。魔法師を目指すきっかけとなったあの日の出来事。それを胸に思い浮かべて、繊細な魔力の操作をおこなう。研ぎ澄まされていく感覚に身を委ねた。

 ◇◇◇

 フローラ王国の侯爵家の三男として、エルは生まれた。
 フローラ王国は、大国に囲まれた小さな国だ。
 現在は不可侵条約によって守られているこの王国は、大昔に一度だけ容易に蹂躙された過去がある。

 侵攻してきたのは、肥沃な土地に目を付けた今は亡き大国だった。
 手に入れてすぐに、その変化は起こった。土地は枯れ、荒れ狂う天候が大国本土まで襲った。民衆は祟りだと恐れて大国から逃げ出そうとし、隣国へと列をなした。
 事態を深刻に受け止めた当時の大王は、フローラ王国から人質として連れ去ってきた姫に話を聞くことにした。
 フローラ王国には古くから伝承がある。地下深くに闇の眷属を封じ込めた。その力を鎮めるために、その上にフローラ王国を築いたのだということだった。王族は封じ込めた賢者の末裔であり、大国は姫以外の王族を皆殺しにしてしまったので、当時生き残っていたのは姫ただ一人であった。
 話を聞いた大王は、姫をフローラ王国へと帰還させ、奪い取った国土を手放した。
 するとどうだろう、たちまち天候は落ち着いて荒れ果てていた大地は、姫が帰還するのと同時に肥沃な大地へと蘇った。
 フローラ王国民は姫の帰還を喜ぶとともに、国民が失っていた魔力が戻ると、協力して国土を復活させたのだった。
 周辺国ではそれ以来「フローラ王国に手を出す事は自国を滅ぼす事になる」と語り継いでいる。
 
 姫の帰還した日を「復活の日」として、フローラ王国では年に一度の大きなお祭りを開催している。国民は毎年、このお祭り期間を楽しみにしていた。

 ◇◇◇

 エルが居残りをして、大役の練習をしていた時だった。いつの間にかエルだけになっていた訓練場に、近づいてくる人影が見えた。エルの表情が、パッと明るくなる。
 
「エル、訓練は順調か? わからない事があったら、私に聞きなさい」
「ノア師団長! ありがとうございます。僕のできる限りの事はしたいのです。新米魔法師の僕が復活の日の大役をいただいたことで、指名してくださったノア師団長の顔に泥を塗らないように頑張ります!」
「あまり無理をしすぎるな。エルはいつも一生懸命に頑張っている。今日はもう終わりにしなさい」

 そう言ってノアは、エルのふわふわしたプラチナブロンドの髪を撫でると、ほんの少し目を細めてエルを見ている。エルは、ノアに撫でてもらうのが好きだ。何だか撫でられたところから、ほわほわ温かい気持ちになるからだ。
 ノア魔法師団長は、フローラ王国の第三王子で、背が高く漆黒のサラサラの黒髪にアメジストの瞳をしたものすごく美形の人だ。あまり表情が変わらないことと、ノア師団長の使う氷魔法から「氷華の魔法師」と呼ばれている。
 エルは、男性の平均身長よりちょっと低いのを気にしていた。上の兄二人は男性らしいしっかりした体型なのに、同じように鍛えたはずのエルは引き締まっていて細身だ。
 小柄で細身のエルが魔法師のローブを纏うと、童顔で大きな空色の瞳ということもあって、年齢より幼く見られることが多い。「可愛い」とよく言われるのを気にして、侮られないようにと努力してきたエルを、ノアはちゃんと認めてくれる。特に頭を撫でてくれるときに、ほんの少しだけノアの表情が緩むのも嬉しい。
 他の人に頭を撫でられそうになるのは嫌なのに、ノアがしてくれると、もっと撫でて欲しいと思う。エルにとって、ノアは魔法師を目指すきっかけとなった憧れの人なのだ。

「はい、ありがとうございます。ノア師団長!」
「私も帰るところだ。エル、良かったら一緒に食事をしないか?」
「もちろん、ご一緒させていただきます」
 
 エルが人懐っこい笑顔でノアに返事をすると、ノアは満足そうに頷いた。二人は何を食べたいのか話しながら、訓練場を後にするのだった。


 

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