【完結】花降る王国の魔法師団長は、新米魔法師の僕を愛でる

金浦桃多

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10.近づく二人の距離

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 フレッド騎士団長とノアが話し合っているあいだ、エルはジュードがどうしてこんな大それたことをしたのか考えていた。しゅをかけたい本命が自分だったとしたら、他の被害者はなぜ巻き添えになったのか。悪事に手を染めてまで、大役をやりたかったのか。エルにはわからなかった。エルが暗い表情をしていたからか、ノアがそっと手を握ってきた。

「エル、思い詰めるな。決してお前のせいではない。ジュードの心の弱さが原因だ」
「そうだぞ、ノアの言う通りだ。そもそも、エルに出会う前にジュードは元呪術師を連れてきている。これから調査するが、エルのせいではないぞ」

 悪い方へ向きかけていたエルの思考に、すぐに気付いて慰めてくれた、ノアとフレッドの心遣いがありがたかった。

「それじゃあ、俺はもうひと仕事してくるか。ノア、エルは病み上がりだからな?」
「わかっている。人をケダモノのように言うな」
「いやぁ、理性が試されるな……おいっ! 氷の刃を出そうとするな!」

 部屋の温度が一気に下がってピキピキと音を立てて、鋭い氷の刃が現れると、ノアの指先がフレッドに向かう。
 
「エルの意にそぐわないことはしない」
「そうか、頑張れよ。エルは大人しく身体を休めるんだぞ。それじゃあな」

 悪戯っぽくニカッと笑ったフレッドは、そう言うとソファから立ち上がった。
 
「え、えっ? あ、お疲れさまでした。フレッド騎士団長」

 ひらりと手を振って、フレッドは部屋から出ていった。ノアが大きくため息をつきながら、エルに言った。

「フレッドにも言ったが、エルの意にそぐわないことはしない。安心して欲しい。エルの体調が良くなるまでは、大人しく待っているよ」
「あ、あの……。えっ! ぼ、僕はっ!」

 エルは二人の会話のやりとりにも混乱していたが、今ノアから言われたことにも戸惑ってしまった。だって、期待してしまう。ノアはもしかして……と。
 焦っているエルに、ノアは苦笑しながら頭を撫でた。

「今すぐ答えを聞きたいわけではない。今はまず以前のように元気になってくれ。この事件が解決してからでも良いんだ。私もその時には、はっきりと伝えるから」
「……はぃ」

 エルの顔は熟れた林檎のように真っ赤に染まっていた。期待するなと自分を律しようとしても、とても難しい。なんとか小声で返事をするのがやっとだった。

「エルは夕食までベッドで横になっていなさい。私はここで執務をしているから、何かあったら呼びなさい」
「お手伝いさせてもらえませんか? 雑用くらいならできます」
「駄目だ。何度も言っているだろう? 大人しく寝ていなさい」
「……わかりました」
「よし、良い子だ」

 エルはベッドに手を引いて連れてこられると、大人しく横になる。それを見届けたノアは、エルの額をあらわにすると、形の良い唇でキスをそっと落とした。

「ゆっくりおやすみ、エル」

 パタンと閉じられた扉を見届けたエルは、額に手を当てて悶えていた。

「眠れないよ……っ。ノア師団長」

 今まで会えなかった分を取り返すように、接触が多い。いや、以前よりずっと親密さが深まっている。しばらく悶えていたエルだったが、寝具からする柑橘系の匂いに包まれて、いつの間にか眠ったのだった。


「エル……。エル?」
「……ん? ノア師団長?」
「すまない、寝かせておいても良かったんだが、夕食の時間だ。どうする?」

 パチパチと目を瞬かせて窓の外を見ると、日が沈み街並みが薄暗くなっていた。

「起きます……すごい。久しぶりにぐっすり眠れた気がします」
「そうか、良かった。食べられそうか?」
「はい。食べます」

 エルがにこやかにそう言うと、ノアも目を細めてうなずいた。夕食のメニューも、消化に良さそうなものだった。鶏肉がほろほろになるまで煮込まれたものは、エルの好みに合った味だった。もしかしたら、ノアが指示してくれたのかもしれない。ペロリと完食したエルを見て、ノアは嬉しそうだった。

「ノア師団長、今日はお飲みにならないのですか?」
「さすがに、入院棟にいる間は遠慮してるんだ」
「……確かにそうですね」

 ふふ、とエルが笑うと、ノアは眩しそうに見つめている。なんだろうと、小首を傾げるエルにポツリと呟いた。

「元気になったら、また一緒に食べに行こう。エルは子羊亭のホワイトシチューが好きだったな」
「ノア師団長は小鹿亭の牛テールのスープがお好きですよね」
「よく知っているな」
「当然です……また、色んなところに行きましょうね」
「楽しみだな」

 食後にハーブティーを飲んで、また少しだけノアが書類にサインをしてから、浴室へ向かった。エルは、枕をひとつと毛布を一枚借りてソファで寝る準備をしていた。

「エル、何をしている?」
「──! ノア師団長」

 お風呂上がりのノアは色っぽかった。ガウンから覗く鍛えられた胸板に目が惹きつけられる。エルは慌てて目を逸らすが、心臓が高鳴って、たどたどしい返事になってしまう。

「あ、客間は無いようでしたので、ソファをお借りしようと思いまして……」
「駄目だ。ベッドで寝なさい」
「でも、ノア師団長の眠るところが……」
「一緒に眠ればいいだろう」
「ふぇっ!? い、一緒?」

 さも、当然のように言われたエルは、目を白黒させてしまう。

「えっ? でも……。え?」
「何度も言った。今のエルは安静にしていないといけない。エルの意にそぐわないことは絶対にしない。安心して欲しい」

 ノアはそう言うと、エルが準備した枕と毛布を持って寝室へ移動した。

「さあ、おいで?」

 先に毛布をめくり腕を枕に横たわったノアは、隣をポンポンと叩く。エルを呼んでいるのだ。ガウンからはだけた胸元が色っぽくてドキマギする。
 どうしていいのかわからなくて、立ち尽くしたエルを、ノアは優しく呼んだ。

「エル、来なさい」
「は、はい」

 なんとかベッドに近づくと、腕を引っぱられて、エルは乗り上げた。

「うわっ!」
「寝かしつけてあげよう。エルおやすみ」

 エルが履いていたスリッパを脱がせると、毛布の中に閉じ込められた。頭を撫でられて、いつもの反射で力が抜けた。緊張して眠れないと思っていたエルだったが、解呪の影響で体調が万全ではなかったからか、眠る時にノアに優しく頭を撫でられていたおかげなのか、ぐっすり眠れた。
 
 目を覚ました時に、ノアの睫毛の長さまでわかる至近距離で拝める状況にしばらく呆けていたが、寝ぼけていた頭がしっかりしてくると、驚いたエルは離れようとした。しかし、ノアにしっかり抱き込まれていて身動きが取れない。

「えっ、えっ? ふぇっ?!」

 すると、喉で笑いながら肩を震わせるノアが、目を開いた。

「おはよう。エルは朝から可愛いな」
「ノア師団長、起きてたんですかっ」

 からかわれたと思ったエルは、膨れてみせた。クスクスと笑ったノアが頬をつつくと、さすがに子どもっぽかったかもとエルは思った。

「おはようございます……あの、腕を外していただけませんか? 起きます」
「せっかくエルから擦り寄ってきてくれたのに、残念だ」
「そ、それは……! 申し訳ございませんでした」
「私は嬉しかった。うん、昨日よりは顔色は良くなっているな」

 たまらず赤面したエルを解放してくれたノアは、カーテンを開けた。
 今日は、よく晴れていて気持ちの良い朝だ。本来なら侯爵家の鍛錬場で朝稽古をしている時間くらいだろうが、しばらくは大人しくしていなければならない。
 ノアと一緒に朝食を食べると、ノアから許可を得たエルは、執務のちょっとした簡単な手伝いをしながら過ごしたのだった。
 
 

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