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12.元呪術師の真実
しおりを挟むエルはあの夜以来、昂ぶるようになって困ったので、なるべく自分で処理するようになった。それでもノアと同じベッドにいるとムズムズしてしまい、慰め合う行為は何度もあった。
ノアが口づけはこの事件の決着がついてからだと言って、唇以外にキスの雨を降らせる。肌の触れ合いも、最低限だ。我慢できなくなるからといって、寝衣を全て脱がせることはない。
それでも、一番わかりやすい器官を触れ合わせる行為は、エルは濃厚だと思う。先があることは知っているが、エルにとっては未知の世界だ。
エルは、ノアにさらに溺れていく。ふわふわと雲の上を歩いているような心地になる。そんな日々も終わりに近づいていた。
エルが入院してから、体調もすっかり回復した日のこと、フレッド騎士団長が少し難しい顔をしながら、ジュードと元呪術師から聞いた話をノアに報告にやって来た。エルも一緒に聞かせてもらう。
「元呪術師の話なんだが、呪をかけた理由が判明した。名前はシャオ。どうやら、ジュードの留学していた学校で同級生だった。長い間、一部の生徒から悪質ないじめを受けていたらしい。思い詰めての犯行だったとのことだ。ただ、呪をかけた相手が上位貴族ばかりだったことから、いじめは隠ぺいされて、減刑もなかったようだな。そいつらが、いじめの首謀者だったんだ。
この件は東国へも通達した。まあ、呪が禁忌なのは変わりないけどな」
「ジュードとの関係は?」
そう言って、ノアが話の先を促す。
「罪人となって、家族から絶縁された元呪術師のシャオは、当然だが学校も退学処分となった。行く宛てもなく呆然としていたそうだ。そんな時に、ジュードから声を掛けられたらしい。最初はシャオも、手を差し伸べてくれたジュードに感謝していたが、ジュードは癇癪持ちだった。伯爵家で持て余して東国へと留学させた経緯があったんだ。早々に本性をあらわしたジュード相手に、元呪術師は、いじめられていた頃のように息を殺してそばにいたようだ」
フレッドは頭をガシガシ掻いて、ため息を吐いた。
「東国に居場所のなかった元呪術師のシャオは、ジュードがフローラ王国に帰国する時に、着いてくるしかなかったんだ。半ば強引に連れられて来たともいえる」
「知らない国までついてきて心細かったでしょうに、その人はそんな辛い思いをしていたのですね」
エルは元呪術師に同情してしまった。
「さらに元呪術師を追い詰めたのは、ジュードが魔法師団員になってからだ。ある日、突然に呪を教えろと言われたらしい。教えるのを断ると、酷く痛めつけられたようだ。身体にいくつもの傷が残っていた」
「そんな!」
「あまりの辛さに耐えきれずに、つい教えてしまったとひどく後悔していた。ジュードは優秀なのは確かだ。被害がなるべく大きくならないように、シャオは、あえて小さな呪を教えていたらしい。なのに、ジュードはいつの間にか、中程度のものを自力で作りあげてしまったと言っている」
エルは、無意識に自分の胸元を押さえた。ノアが慰めるように肩に触れる。
「ジュードの方はなんと言っているんだ?」
「ただひたすら、自分を認めない周囲への怨嗟。エルへの妬みと自意識過剰なことを言っている。復活の日の大役は自分にこそ相応しい、だとさ」
フレッドは、気遣わしげにエルを見た。エルは眉を下げて困ってしまう。
「ジュードの優秀さは、訓練中にみんなが実感していましたよ。話にもでてきていました。ただ、ジュードは馴れ合いを好まないと言っていて、いつもひとりで行動していました。復活の日の大役のことはよく言われていましたが、向上心が高いなと感心していました。僕も負けていられないって、思っていました」
その向上心が、間違った方向へ向かってしまったのかと、エルはやるせなさに悲しくなった。
「優秀なのか愚か者なのか判断に困る奴だな。呪は自分じゃないと言い張っている。すぐバレる嘘なのにな」
「この期に及んで、まだ、そんなことを言っているのか。初日に面会したときに、正直にすべてを話せと言い含めておいたのだが……」
ノアは呆れたような、少し怒りも含んでいるような声でそう言った。
「元呪術師のシャオは、呪詛返しを無効化させる方法も聞き出されたらしいが、ジュードの創りあげた呪は強すぎて、無効化しきれないだろうと言っていた」
ジュードの反省するどころか無駄な抵抗に、ノアは冷たい表情で決断を下した。
「王宮で陛下の御前での断罪をしよう。私が陛下に進言しておく。伯爵家には、一族もろとも罰を受けるか、ジュードを切り捨てるかの選択をさせてやろう。まあ、結果は目に見えているがな。他の高官や貴族たちも集めよう。ジュードにとっては、まさしく晴れの舞台だ。喜ぶだろうさ」
「ノアは優しいな。ジュードにそんな大役を務めさせてやるなんて。今回の事件は、復活の日の前に全て片付けてしまうか。安心して国民も祭りを楽しめるようにしないとな」
ノアとフレッドの会話を、エルは大人しく聞いていた。ジュードは、自分の優秀さに首を絞められることになりそうだ。なんとも言えない複雑さを胸に、エルは俯いていた。
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