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13.大広間にて
しおりを挟む話が終わると、ノアが早速、陛下のもとへと向かう。フレッドも一緒に部屋を出て行った。部屋にひとり残されたエルは、先ほど聞いた元呪術師についての話を思い返していた。
「元呪術師は加害者であると同時に、被害者でもあったんだ。もう、東国で既に厳しい処罰は受けているのに……」
フローラ王国に来てからは、ジュードに逆らえなかった。それなのに断罪されるのかと、思うと同時に、仲間が苦しんでいた姿も思い出す。なにより、解呪の時の想像を絶する激痛は、今もまざまざと思い出される。エルは無意識に胸に手を当てて、考えてしまう。自分ごときが口を挟める事件ではない。そう、心に言い聞かせた。
どれくらいそうしていたのだろう。ノアが部屋へと戻ってきた。
「エル……? どうした?」
エルの様子がおかしいことにすぐに気付いたノアが、両手でエルの頬を挟み覗き込む。その表情は、先ほどまでの「氷華の魔術師」でも魔法師団長、ましてや王族の一員としての厳しく冷たいものではなかった。ただ、エルを甘やかし、心を砕いてくれるノアに甘えてしまいたくなる。でも、これはダメだ。エルは儚い微笑を浮かべて何も言わずに首を横に振った。
「なんでもありません。ただ、聞かされた事実に衝撃を受けただけです」
「エルにとっては、辛い話だったな。しかし、紛れもない事実でもある」
「はい。わかっています……」
ノアにそっと抱き寄せられて、甘えるように胸に顔を寄せる。ノアだって、最初からこんな断罪を望んでいたわけではないはずだ。エルも事実を受け止める覚悟を決めたのだった。
「エル、準備はいいか?」
「はい、ノア師団長」
二人とも魔法師団の正装に着替えている。ノアの姿にエルは思わず見惚れた。ノアの正装は、魔法師を目指すきっかけとなった、氷の花が舞い散る復活の日を思い出す。
今は魔法師団長となり、さらに煌やかになったノアの正装姿は絵姿にして欲しいくらいだ。
「エル、魔法師の正装がとても似合っているよ」
「あ、ありがとうございます。ノア師団長もとても素敵です」
これから行われるジュードの断罪の前にも関わらず、エルは離れがたい気持ちになっていた。今日で、入院棟の特別室とはお別れしなければならない。
非常事態だったとはいえ、ノアと過ごした濃密な日々は、エルにとって、かけがえのないものとなった。
「ノア師団長、入院中は大変お世話になりました。非常時とはいえ、一緒に過ごせた日々は大切な思い出です」
「……エルは思い出にするつもりか? 私はそんなつもりはない。エルも気付いているだろう、私達の魔力の相性を。もちろん魔力だけではなく、エル自身を好ましいと思っている。特に、ここで過ごした日々は、私にとっても幸福だった」
ノアにそう言われて、エルは頬を撫でられると、ノアの魔力を感じた。反射的にエルも魔力をノアに流し返してしまう。
「ノア師団長、僕は──」
「待って。返事は改めて場を作るから、その時にエルの気持ちを聞かせてくれないか。その時はココに口付けさせてくれ」
エルは、形の良い人差し指でそっと口をふさがれて、真っ赤になりながら頷くのだった。
特別室の扉をノックされると、フレッド騎士団長がやって来た。
「お? 準備は出来てるな? 大広間の方も、あとはジュードと元呪術師を連れてくるだけだ。他の入院患者も集まっている。俺たちが入場したら、陛下をはじめ王族の方々に入っていただく」
「そうか。エル、行こうか」
「はい」
大広間に入ると多くの高官や貴族が椅子に座り、ざわめいていた。今回の奇病については噂になっていたのだから、原因を突き止められたということで、話題は持ちきりになっている。
しかし、なぜこのようにみんなが集められているのか知らされていなかった。好奇心だけが膨れ上がっているのだろう。
その中には、うつむいたまま動かない顔色の悪いジュードの父親である伯爵と、嫡男であるジュードの兄がいた。母親はひどく取り乱して倒れてしまい、参加は不可能とのことだった。
ノア師団長とエルが所定の場所に着くと、間もなく王族が席に着いた。
広間が静まると、騎士団長のフレッドを先頭に、二人の罪人が騎士に両脇を抱えられ連れて来られた。腕には魔力を生命維持程度まで制限する手錠がかけられている。
大広間にいる人々の突き刺すような視線を一身に浴びながら、中ほどまで来ると、ジュードと元呪術師はひざまずくように押さえつけられた。元呪術師は、震えながらも大人しく前を見て従っているのに対し、ジュードは扱いに納得がいっていないのか反抗的だ。
フローラ王国の宰相が、厳しい表情で大広間に集められた全ての人に向かい、本日この場に集められた理由を伝えた。
「これより奇病の正体である、禁術の呪をかけたジュードと元呪術師シャオを断罪する。」
途端に、大広間はざわめきで埋め尽くされる。それを切り裂くように、ジュードは声を張り上げて反論する。
「俺はやっていない! そもそも伯爵子息である俺を平民と同列に扱うなんて、どういうことだ!」
「はて、伯爵。私は貴殿からジュードと絶縁したと報告を受けたが、本人は知らないようだぞ」
「宰相閣下、その通りでございます。かつての息子であるジュードは優秀ではありましたが、性格に難がありほとほと困っておりました」
伯爵は、宰相から目を逸らさずに静かな覚悟を決めた声音で話を続けた。
「東国に留学させる時に、ジュードと契約魔法の書類を取り交わしておりました。『次に問題を起こした時は、親子の縁を切る』と。留学先で苦労をすれば変わるかと期待しておりました。帰国して魔法師となってから、変わったのだと思っておりましたが、結果はご覧の通りです。
……私は、愚息の凶行の責任を取り、嫡男に家督を譲りたいと思います」
すでに話はついていたのだろう、嫡男は厳しい表情で伯爵とともに礼をとった。
「父上! なんでですか!」
伯爵は、ジュードの言葉に見向きもしなかった。
ジュードは、信じられないとでもいうように、首を振った。契約魔法で書類を交わしたというのに、危機感を持たなかったのは、見捨てられるはずがないという驕りからだろう。
その間、元呪術師のシャオは静かに目を閉じて、全てを受け入れる覚悟をしているような様子だった。
エルは大広間でのやり取りを、ノアの隣でジッと見つめていた。
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