【完結】花降る王国の魔法師団長は、新米魔法師の僕を愛でる

金浦桃多

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14.人を呪わば穴二つ

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「俺はやっていない! これは冤罪だ!」

 立ち上がろうとするジュードを、騎士が二人がかりになって押さえ込む。

「くっ、離せっ! 俺に触るな!」
「こら、大人しくしろ。陛下の御前だぞ」

 騎士にそう言われたジュードは、今度は陛下へと向かって、直接訴えかけはじめた。
 
「俺がやったという、証拠はあるのですか!? そこにいる平民は、東国の呪術師です! きっとコイツが──」
「黙れ」 
 
 宰相が、静かながらも威厳のある一声でジュードを黙らせる。往生際の悪いジュードに、宰相は魔法師団長のノアに視線を向ける。それに頷いたノアが手を掲げると、そこには透明な球体の中で不気味に円を描く東国の古代文字があらわれた。

「これが奇病と言われたものの正体だ。東国の古代文字を使ったしゅというものだ。奇妙なことだ。ジュードは、自分ではないと言いながら、東国の元呪術師のせいにしようとした。奇病の正体を知っていたかのような反応だな」

 集められた貴族や高官は、呪の禍々しさに悲鳴をあげるものや険しい顔で呪を睨むものもいた。ジュードの矛盾に誰もが犯人の確信を持つ。

「これは、呪をかけられた被害者から集めたもの。解呪された呪は、かけた人物に還る。今から、ここにいる全員に証人となってもらいたい」

 ジュードの顔はみるみる青ざめていく。対照的に元呪術師シャオは禍々しい呪から視線をそらさずに、その時を待っていた。
 エルは、これから起こるであろう光景を静かに見守ることしか出来ずにいた。

 ───パリン

 砕け散る音とともに還るべき場所を見つけた呪は、一斉に同じ場所を目指して我先にと向かう。

「ヒィッ! や、やめろ! 来るなっ!」

 情けない声をあげるジュードは逃げ腰になるが、拘束されて動けない。騎士達はタイミングを見計らって距離をとった。

「グアァァア"ア"ア"!!」

 小さな呪が無効化されたのは、最初だけだった。次々と還る数の多さに、ジュードは黒い渦の中に呑まれていった。
 あまりのおぞましい光景に呆然とする者や、顔をそむける者までいる。多くの貴婦人は扇で顔を覆い震えている。
 最後に還ったのは、エルから解呪された大きな呪だった。大蛇のようにジュードに巻き付くと、締め上げるように体内に入り込んでいく。
 ジュードの口から、耳をつんざく魔獣の咆哮のような声が大広間に響き渡る。すべての呪が還り終わると、ジュードはその場に崩れ落ちた。焦げ茶色だった髪は白髪になり、顔色も悪くなっていた。その姿は老人のようにも見えた。
 元呪術師シャオは、悲しげな瞳でジュードの変わり果てた姿を見つめていた。

「東国には『人を呪わば穴二つ』という言葉がある。その姿は自業自得だ。確かにお前は優秀ではあったが、無駄にしたのもお前自身だ」
 
 ノアが、ゼイゼイと苦しみもがいているジュードに冷たい視線を向けてそう言うと、陛下に向かい礼をして、エルの隣に戻ってきた。
 エルは、一部始終を瞬きもせずに目に焼き付けた。自分への戒めでもあると思ったからだ。胸に持っていきそうな手を握りしめて、その場に毅然として立っていた。
  
 陛下は、ノアが定位置に戻るのを見届けると、静かに杖で床を打ち鳴らした。今回の事件の首謀者の姿を見て、ざわめいていた大広間が、しん、と静まり返る。
 陛下の厳かな声が、ジュードとシャオに今回の沙汰を言い渡した。

「元呪術師シャオは、今回の事件に関わっていたものの、ジュードから逃げる術がなかった。反省もしており事件の解明に協力的でもあった。よって逃走防止の契約魔法の後、生涯を教会にて奉仕とする」

 シャオは、思っていた以上に軽い罰に、息を呑んだが、涙に濡れた声で「ありがとうございます」と頭をさげた。
 
「今回の事件の犯人であるジュードは、最後まで反省の色はなかった。皆も見ての通り、奇病と世間を騒がせ国民を恐怖に陥れた。その実態は自分の気に入らない人物に、禁忌とされる呪をかけるという許しがたい自分勝手なものであった。よって逃走防止の契約魔法の後、重罪人専用の牢獄へと収監する。連れていけ」

 陛下の勅裁ちょくさいが下されて、ジュードとシャオは騎士たちによって、引っ立てられた。 
 重罪人専用の牢獄は生きて出ることは決してないと言われている場所だ。とても過酷な環境であるとも言われている。大広間にいた人々は当然だと納得をした様子だった。
 
 エルはキュッと唇を噛み締めると、ジュードを見つめる。実地試験を受けた時に、切磋琢磨できる人物に出会えたと思って嬉しかった。その後の模擬戦でも何度も手合わせした。魔法師団の同期として、わかり合える日がくると思っていたときもあった。
 ずっと握りしめていたこぶしを、隣にいたノアがそっと包み込んだ。流れ込んでくる優しい魔力に涙がこぼれそうになるが、グッと堪えたエルは、連行される二人を目に焼き付けた。

 今回の事件の真相は、元呪術師シャオのことは伏せられて、国民に大々的に伝えられた。奇病への不安がなくなった安心感と、禁忌とされる呪へ感じる恐ろしさは、国民の間でしばらく噂になったのであった。

 
 


 
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