14 / 27
14.人を呪わば穴二つ
しおりを挟む「俺はやっていない! これは冤罪だ!」
立ち上がろうとするジュードを、騎士が二人がかりになって押さえ込む。
「くっ、離せっ! 俺に触るな!」
「こら、大人しくしろ。陛下の御前だぞ」
騎士にそう言われたジュードは、今度は陛下へと向かって、直接訴えかけはじめた。
「俺がやったという、証拠はあるのですか!? そこにいる平民は、東国の呪術師です! きっとコイツが──」
「黙れ」
宰相が、静かながらも威厳のある一声でジュードを黙らせる。往生際の悪いジュードに、宰相は魔法師団長のノアに視線を向ける。それに頷いたノアが手を掲げると、そこには透明な球体の中で不気味に円を描く東国の古代文字があらわれた。
「これが奇病と言われたものの正体だ。東国の古代文字を使った呪というものだ。奇妙なことだ。ジュードは、自分ではないと言いながら、東国の元呪術師のせいにしようとした。奇病の正体を知っていたかのような反応だな」
集められた貴族や高官は、呪の禍々しさに悲鳴をあげるものや険しい顔で呪を睨むものもいた。ジュードの矛盾に誰もが犯人の確信を持つ。
「これは、呪をかけられた被害者から集めたもの。解呪された呪は、かけた人物に還る。今から、ここにいる全員に証人となってもらいたい」
ジュードの顔はみるみる青ざめていく。対照的に元呪術師シャオは禍々しい呪から視線をそらさずに、その時を待っていた。
エルは、これから起こるであろう光景を静かに見守ることしか出来ずにいた。
───パリン
砕け散る音とともに還るべき場所を見つけた呪は、一斉に同じ場所を目指して我先にと向かう。
「ヒィッ! や、やめろ! 来るなっ!」
情けない声をあげるジュードは逃げ腰になるが、拘束されて動けない。騎士達はタイミングを見計らって距離をとった。
「グアァァア"ア"ア"!!」
小さな呪が無効化されたのは、最初だけだった。次々と還る数の多さに、ジュードは黒い渦の中に呑まれていった。
あまりのおぞましい光景に呆然とする者や、顔をそむける者までいる。多くの貴婦人は扇で顔を覆い震えている。
最後に還ったのは、エルから解呪された大きな呪だった。大蛇のようにジュードに巻き付くと、締め上げるように体内に入り込んでいく。
ジュードの口から、耳をつんざく魔獣の咆哮のような声が大広間に響き渡る。すべての呪が還り終わると、ジュードはその場に崩れ落ちた。焦げ茶色だった髪は白髪になり、顔色も悪くなっていた。その姿は老人のようにも見えた。
元呪術師シャオは、悲しげな瞳でジュードの変わり果てた姿を見つめていた。
「東国には『人を呪わば穴二つ』という言葉がある。その姿は自業自得だ。確かにお前は優秀ではあったが、無駄にしたのもお前自身だ」
ノアが、ゼイゼイと苦しみもがいているジュードに冷たい視線を向けてそう言うと、陛下に向かい礼をして、エルの隣に戻ってきた。
エルは、一部始終を瞬きもせずに目に焼き付けた。自分への戒めでもあると思ったからだ。胸に持っていきそうな手を握りしめて、その場に毅然として立っていた。
陛下は、ノアが定位置に戻るのを見届けると、静かに杖で床を打ち鳴らした。今回の事件の首謀者の姿を見て、ざわめいていた大広間が、しん、と静まり返る。
陛下の厳かな声が、ジュードとシャオに今回の沙汰を言い渡した。
「元呪術師シャオは、今回の事件に関わっていたものの、ジュードから逃げる術がなかった。反省もしており事件の解明に協力的でもあった。よって逃走防止の契約魔法の後、生涯を教会にて奉仕とする」
シャオは、思っていた以上に軽い罰に、息を呑んだが、涙に濡れた声で「ありがとうございます」と頭をさげた。
「今回の事件の犯人であるジュードは、最後まで反省の色はなかった。皆も見ての通り、奇病と世間を騒がせ国民を恐怖に陥れた。その実態は自分の気に入らない人物に、禁忌とされる呪をかけるという許しがたい自分勝手なものであった。よって逃走防止の契約魔法の後、重罪人専用の牢獄へと収監する。連れていけ」
陛下の勅裁が下されて、ジュードとシャオは騎士たちによって、引っ立てられた。
重罪人専用の牢獄は生きて出ることは決してないと言われている場所だ。とても過酷な環境であるとも言われている。大広間にいた人々は当然だと納得をした様子だった。
エルはキュッと唇を噛み締めると、ジュードを見つめる。実地試験を受けた時に、切磋琢磨できる人物に出会えたと思って嬉しかった。その後の模擬戦でも何度も手合わせした。魔法師団の同期として、わかり合える日がくると思っていたときもあった。
ずっと握りしめていたこぶしを、隣にいたノアがそっと包み込んだ。流れ込んでくる優しい魔力に涙がこぼれそうになるが、グッと堪えたエルは、連行される二人を目に焼き付けた。
今回の事件の真相は、元呪術師シャオのことは伏せられて、国民に大々的に伝えられた。奇病への不安がなくなった安心感と、禁忌とされる呪へ感じる恐ろしさは、国民の間でしばらく噂になったのであった。
165
あなたにおすすめの小説
翼が生えた王子は辺境伯令息に執心される
尾高志咲/しさ
BL
「ふわふわな翼が!背中に?」
慌てる僕の元にやってきたのは無表情な美形婚約者。どどどうする!?
――ファンタン王国の第五王子ミシューの背中に、ある朝目覚めたら真っ白な翼が生えていた。原因がわからずに慌てふためいていると、婚約者の辺境伯令息エドマンドが会いにやってくる。美形でいつも無表情なエドマンドは王都から離れた領地にいるが、二月に一度は必ずミシューに会いにくるのだ。翼が生えたことを知られたくないミシューは、何とかエドマンドを追い返そうとするのだが…。
◇辺境伯令息×王子
◇美形×美形
◆R18回には※マークが副題に入ります。
◆誰にも言えない秘密BLアンソロジー寄稿作品を改題・改稿しました。本編(寄稿分)を加筆し続編と番外編を追加。ほのぼの溺愛ファンタジーです。
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
【完結】あなたのいない、この異世界で。
Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」
最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。
そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。
亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。
「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」
ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。
彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。
悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。
※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。
ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。
魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!
松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。
15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。
その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。
そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。
だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。
そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。
「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。
前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。
だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!?
「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」
初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!?
銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。
【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!
カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。
魔法と剣、そして魔物がいる世界で
年の差12歳の政略結婚?!
ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。
冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。
人形のような美少女?になったオレの物語。
オレは何のために生まれたのだろうか?
もう一人のとある人物は……。
2022年3月9日の夕方、本編完結
番外編追加完結。
みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される
志麻友紀
BL
帝国の美しい銀獅子と呼ばれる若き帝王×呪いにより醜く生まれた不死の凶王。
帝国の属国であったウラキュアの凶王ラドゥが叛逆の罪によって、帝国に囚われた。帝都を引き回され、その包帯で顔をおおわれた醜い姿に人々は血濡れの不死の凶王と顔をしかめるのだった。
だが、宮殿の奥の地下牢に幽閉されるはずだった身は、帝国に伝わる呪われたドマの鏡によって、なぜか美姫と見まごうばかりの美しい姿にされ、そのうえハレムにて若き帝王アジーズの唯一の寵愛を受けることになる。
なぜアジーズがこんなことをするのかわからず混乱するラドゥだったが、ときおり見る過去の夢に忘れているなにかがあることに気づく。
そして陰謀うずくまくハレムでは前母后サフィエの魔の手がラドゥへと迫り……。
かな~り殺伐としてますが、主人公達は幸せになりますのでご安心ください。絶対ハッピーエンドです。
竜神様の番
田舎
BL
いつかX内で呟いた、
『えーん、えーん…💦
竜人の攻めが長いこと探してた番の人間くんを探して(半強制的)に結婚したのに、ツンデレどころかクーデレが過ぎてたせいで、ある日人間くんが「離縁します」と置き手紙残して失踪…!
後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』
という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。
「番」とは何かも知らされず、
選択肢すら与えられなかった人間リオと、
大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。
ちゃんとハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる