【完結】花降る王国の魔法師団長は、新米魔法師の僕を愛でる

金浦桃多

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15.ノアはエルを連れて行く

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 ノアは執務室からよく晴れた空を眺めていた。訓練場からは、魔法師団員の活気のある声が聞こえてくる。
 大広間での断罪が終わると、入院していた団員たちは、元の生活へと戻っていった。エルも同様で、心配をかけた家族の待っている侯爵家へ帰ってしまった。
 断罪の翌日には、ノアも忙しい合間を縫って訓練場へ顔を出した。久しぶりの訓練に入院中に魔法を使えなかった団員たちは、水を得た魚のように訓練に参加していた。
 
 ノアは、滞っていた王族としての執務と魔法師団長としての今回の残務処理に追われながらも、あのエルと過ごした日々を毎日思い出す。ふと顔を上げると、すぐそばにエルがいた。今まで生きてきた中で一番心が満たされる日々だった。当然ながら周囲を見渡しても、ふわふわのプラチナブロンドに空色の瞳は見つかるはずもなかった。ノアはそのことに寂しさをおぼえた。

「……仕事に戻るか」

 誰に聞かせるでもなく、ノアはそう呟くと書類の山ができている机を見て、ため息を吐くのであった。
 
 ノアはどんなに忙しくても、エルとの夕食の時間は確保していた。

「エル、今日の訓練はどうだった?」
「やはり体力が落ちていて、ついていくのに必死でグッタリしていました。でも、僕もですけどみんな魔法を使うのが嬉しくて、訓練をしっかりやっていましたよ」
「復活の日の魔法は勘を取り戻したのかな?」
「はい。呪をかけられていた時の不調が嘘のようです。しっかり間に合わせます」

 エルはニッコリ笑ってノアにそう言った。

「あまり、焦らずに頑張るんだよ。もし、心配事があったら、私になんでも言いなさい」
「……僕は大丈夫ですよ。ノア師団長」
 
 エルの瞳が一瞬翳り、視線が揺れる。それから、取り繕うように小さく微笑んで、そうノアに静かに言った。
 食事中に何気ない会話をしていても、あの断罪の日からエルの元気がない。誰が気付かなくても、ノアにはわかっていた。そして、エルもノアに気付かれていると知っている。お互いそこには触れずに、この大切な二人の時間を過ごすのだった。

「エル、侯爵家まで送る。馬車に乗って」
「いつもありがとうございます」

 夕食を一緒に摂ったあとは、エルを侯爵家まで送るのが、いつものパターンだ。ほんのわずかな時間でも長く一緒にいたいとノアは思うのだ。
 馬車の中で二人きりになると、遠慮がちに甘えてくるエルが愛しい。指を絡めて手を握り合い、ノアの肩に甘えるように、ふわふわのプラチナブロンドの頭を寄せてくる。
 ノアは頭のてっぺんに口づけて、自分も頬を寄せた。触れ合うところからエルの魔力が流れてきて、満たされた気持ちになる。
 ノアはエルの憂いを晴らすために、動くことを決意した。エルを送り届けて一人になった馬車の中で、今後の算段をつけることにした。

「まずは父上に、あのことを言っていいか相談してみるか……」

 ノアは、ある覚悟をして馬車の窓を開けた。指先に魔法を込めると白い鳩の形になる。国王である父へと、面会を求める内容を託すと、王宮へと青白い軌跡を描いて鳩は飛び立った。

 
 数日後、訓練が終わったあと、ある事を伝えるために、わざわざエルを師団長室に呼び出した。ノックの音に返事をすると、エルが入ってくる。
 なぜ呼び出されたのかエルはわからないようで、少し緊張しているようだ。

「エル、明日は私と一緒に視察に行ってもらいたいところがある」
「視察……ですか? わかりました。僕でよければ、お供します」
「ちょっとした視察だから、緊張する必要はないよ。そうだな、遠出するデートだと思えばいい。」
「デ、デート……ですか?」

 エルの顔が赤くなるのを見て、ノアは満足気にうなずいた。

「早朝に馬で出発する。南門で待ち合わせだ。エルは乗馬が好きだったな」
「はい、覚えていてくださったのですね」
「エルの言ったことを、私が忘れるわけがない……今回の視察で、エルが元気になってくれるのを願うよ」

 エルはハッとした表情でノアを見つめると、滲むように微笑んだ。ノアが元気づけるために、今回の視察を提案したことに気付いたのだろう。

「明日の視察を楽しみにしています」
「ああ。エル、早く帰って明日に備えなさい。気を付けて」
「はい、ノア師団長。失礼します……おやすみなさい」
「おやすみ、エル」

 エルが出ていくと、ノアは少し元気になったエルに安心した。エルの入院中に、ベッドの中で、よく交わしていた挨拶をされて頬が緩む。ノアは手早く執務を終わらせると帰宅するのだった。


 夜明け前の薄明かりの中、ノアは近づいてくる馬の蹄の音に気が付いて振り返った。

「おはようございます。お待たせしました、ノア師団長」
「おはよう、エル。私が楽しみで早く来てしまっただけだ。さあ行こう」
「はい」

 門番に合図を送ると、開門されてノアとエルは王都から出発した。徐々に明るくなっていく空と、一面に広がる花が咲いている景色に、エルは久しぶりに目をキラキラとさせて、楽しそうにしている。

「いい景色だな」
「はい、心が洗われるようです。空気がおいしい」
「エルの気晴らしになったのなら良かった」

 ノアは、笑みを浮かべてそう言った。

「ところで、どこを視察するのですか?」
「それは、行ってからのお楽しみだよ」

 不思議そうな表情を浮かべるエルに、ノアは着いた時に驚くエルの姿を思い浮かべて、心が浮き立つのだった。

 一度だけ休憩をはさんで、たどり着いたのは中規模の町だった。活気もあり、住んでいる人々の表情も明るい。

「良い町ですね」
「ここを中心とした一帯は、国の直轄地なんだ。将来、私が臣籍降下した時に治めることになる。まぁ、魔法師団を辞める気はないから、代官を置くつもりだが、今もたまに視察に来ている」
「そうだったのですね」
 
 中心街を見ながら町中を進む。建物がまばらになってきた小高い丘を進むと、その教会は建っていた。遠くまで子どもたちの楽しそうな声が響いている。

「エル、ここが視察する場所だ」
「ここは、教会と孤児院が併設されているのですね」

 厩舎番にノアたちの馬を預けていると、教会の入口から人の良さそうな初老の女性と中年の男性が出てきた。

「ようこそいらっしゃいました。ノア殿下、お久しぶりです」
「マザー、そなたも元気そうだな。エル、こちらの女性はこの教会と孤児院を運営している。彼はその補佐だ」

 ノアがそう紹介すると、エルも自己紹介した。

「本日は、ノア師団長の付き添いで来ました。魔法師のエルです。よろしくお願いします」
「あらあら、こちらの方が? ノア殿下もようやく……うふふ、失礼しました。エル様、私のことはマザーとお呼びください。お二人とも中へどうぞ。ご案内します」

 ノアは魔法師団に入る前に、公務でここの孤児院によく視察に来ていた。ここの内情を知っていたので、をここに託すことに決めていた。

「最近、困ったことはないか?」
「いいえ、おかげさまで特にございません。むしろ助かっておりますよ。子どもたちは、自分に危害を加えるものに敏感です。ですが、とはすぐに打ち解けました。とても良い子です」
「そうか。ここなら安心して、彼を任せられると思ったんだ」

 エルが不思議そうに、ノアにたずねた。

「ノア師団長のお知り合いの方ですか?」

 ノアは悪戯っぽく笑みをつくってみせる。

「すぐにわかるよ、エル」

 ノアの意味ありげな言葉に、エルは少し不思議そうにしながらも、大人しく着いてくる。

 教会の奥の扉を開くと、そこは中庭になっていた。
 子どもたちが楽しそうに遊んでいる。エルはその中心にいる人物を見て、驚いたように思わず声をあげた。

「あっ! あそこにいるのは──」


 
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