【完結】花降る王国の魔法師団長は、新米魔法師の僕を愛でる

金浦桃多

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17.告白

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「ばいばーい! またね!」
「ちゃんと、マザーの言うことを聞くんだよ」
「はーい!」

 エルとノアは、子ども達と中庭で別れると、玄関までマザーとシャオが見送りに出てきてくれた。

「マザー、世話になった」
「ノア殿下なら、いつでも歓迎ですよ。もちろん、エルさんも」

 マザーが優しく笑ってくれる。エルは、シャオに向かって声をかけた。

「シャオが、穏やかに暮らしているのがわかって本当によかった。元気でね」
「はい。罪人なのに穏やかに暮らしていることに後ろめたい気持ちもありました。でも、エル様のおかげで気が楽になりました。どうかお元気で。魔法師団長様も、今日はありがとうございました」

 シャオが、笑顔で深々とお辞儀をする。

「いや、私もエルも気になっていたからな。不便はあると思うが、息災でな」

 エルとノアは、預けていた馬に乗ると、教会を出て帰路についた。

「もう少し近ければ、子どもたちと、もっと遊べたかもしれないですね」
「エルは子どもが好きか」
「うーん、どうでしょうか? 今まであまり子どもと接したことがなかったので……。でも、素直で可愛いと思いました。今日は楽しかったです」
「そうか」

 晴れ晴れとしたエルの笑顔に、ノアのアメジストの瞳が蕩けて優しく微笑む。エルはその表情にドキリとする。
 教会にいるあいだ、ノアはあまり表情を変えなかった。仕事のときの態度を崩していなかったと、エルは感じた。マザーには少し態度を軟化させていたが、仕事の範囲内だった。
 でも、ノアが子どもたちを見つめる目は、とても優しかった。表情を読み取れた人は、マザーくらいかもしれない。視察なのだから当然なのだが、エルは自分にだけ向けてくれる表情がとても嬉しいと思ってしまう。

「エル、あの湖のほとりにある花畑で休憩していこう」
「はい」 
 
 行きと同じ場所で休憩をとったとき、ノアにエルは言われた。

「エル、良かった。だいぶ元気になったようだな」
「ノア師団長……今日は、ありがとうございました。本当に、シャオの様子が知れて良かった」

 一面の花畑と湖が、まるでエルの瞳の色のような青空を映して青く輝いていた。晴れ晴れとした表情をしたエルは、涙が一粒こぼれ落ちる。

「あ、あれ? なんで涙が……」
「エル」

 エルが零れた涙を拭うより先に、ノアの唇がエルの頬を伝う雫を啜った。

「あ……」
「エル、少し話そう」

 ノアにそう言われて、エルは手を取られると、湖のほとりまで連れて来られる。そして、景色の良いそこに寄り添うように二人は腰を下ろした。
 居心地の良いこの場所は、花々の優しい香りと湖から吹く風に心が洗われるようだった。
 しばらくエルとノアはその景色を眺めていた。
 
「エルは、私の容姿をどう思う? この国で黒髪も紫眼もごく稀だ。しかもその両方となると、フローラ王国では現在は私一人だろう」
「ノア師団長……」

  ノアが湖を眺めながら、静かな声音で話しはじめた。エルもこれからの話はノアにとって、心の内を明かしてくれるものだと感じて、同じように湖をみつめた。
 風が花を揺らし、ノアの長い髪をなびかせた。ゆっくりとノアが続きを紡ぐ。

「私が、この国でも稀な闇魔法を使えるのは知ってるな」
「はい。でも、魔法師団ではみんなが知っています。誰もそれに関して不思議には思っていませんよ」
「ああ。良くも悪くも魔法一筋の連中の集まりだ。エルの聖魔法も特に気にしてないだろう」

 ノアが苦笑しながらうなずいた。

「容姿だって気にしている仲間はいませんよ。僕だって、初めて見たときからかっこいいとは思っていました。でも、悪い印象は一度だって持ったことはないです」
「エル……ありがとう。しかし幼い頃は、容姿のことを陰で言われたり、王族なのに花が出せないなんて、おかしいと言ってきた者もいたんだ。そんな時は、両親も兄たちも私を傷つける者から守ってくれた」
「そんなことがあったんですか……でも、氷の花が出せるのはノア師団長だけです」

 エルはなんだか悔しかった。幼かったノアは、家族に守られたとはいえ、心ない言葉で傷ついただろう。ノアが小さく笑う。

「あれは、花が出せないと言われたことが悔しくて特訓したんだよ。私はね、本当は闇魔法が一番得意なんだ。氷はその次なんだよ」
「え!? あんなに凄いのに、闇魔法はさらに凄いのですか!」

 一瞬、ノアの表情が陰る。

「……怖いか?」
「まさか! むしろノア師団長の才能に驚いています! 本気で闘う姿を見てみたいなぁ」

 ノアが、エルの本気の賞賛に安堵したように微笑んだ。

「エルが、そう思ってくれるなら良かった」

 ノアが、ホッとしたように肩の力を抜いて微笑でいる。
 エルは、心に秘めていた気持ちを伝えることに決めた。鼓動が少し速くなる。
 
「僕が初めてノア師団長を見たのは、氷の花が降った復活の日でした。よく晴れた空から、キラキラと舞い落ちるガラスのように繊細な花に見惚れました。手を空に伸ばして受け止めると、冷んやりとした感触がしたんです。でも、あとから、とても温かい魔力を感じて、まだ少年だった僕は、高鳴る胸のときめきが何なのかわからないまま、ノア殿下のいる魔法師団を目指すことを決意しました。どうしても、そばに行きたかったのです」
「最初に私を見つけてくれたのは、エルだったのだな。ありがとう。そばに来てくれて」
「……今ならわかります。あの時の気持ちの名前」

 エルは空色の瞳で、真っ直ぐノアを見つめた。ノアのアメジストの瞳と重なる。
 吸い寄せられるように、吐息が感じられるほどノアが近くなる。エルはゆっくりと瞳を閉じた。

「ん……」

 柔らかな感触が、ふわりとエルの唇に触れる。触れただけなのに想いが伝わるほどに優しく口づけられる。嬉しくて、エルの眦から、涙がポロリと零れた。
 離れていく気配に寂しくてゆっくりと瞳を開ける。熱の籠ったアメジストが、エルの心を真っ直ぐ射抜いていた。

「エルの美しい心が愛しくてたまらない。好きだ。エルの気持ちが知りたい」
 
 ノアはエルの頬をつたう雫に気づいて吸い取ると、額をコツンと合わせる。
 エルは、言われた言葉が心に染み込むと、さらに涙を溢れさせつつ、なんとか言葉にした。

「僕も、ノア師団長が──大好きです。ずっと憧れていたけど、近づくにつれて、優しさに惹かれて──っ」
「私も好きだ。最初は、魔力の相性に驚いて目が離せなかった。そのうち、エルの真っ直ぐで温かい性格が好みだと思った。私にだけ向ける表情が、たまらなく可愛くて愛おしくなった」
「ノア師団長……すごく、嬉しい」
 
 我慢しきれなくなったエルとノアは、何度もキスを交わした。互いの魔力に酔って溺れそうになると、二人は名残惜しそうに離れた。額を合わせて見つめ合う。瞳の奥には、ゆらゆらと情欲が揺らめいていた。
 気を鎮めるためにゆっくりと息を吐いて、ノアが話し出す。

「エルには、話してもいいと父上に許可をもらった。この場所についてだ」
「なにか特別な場所なのですか?」
「ああ、そうだ。フローラ王国にとって、とても大切な場所だ」

 エルは肩を抱かれ、ノアが指さした湖の反対側にある巨木を見つめる。

「あの巨木の近くに、遺跡があるんだ。かつて賢者が家族と過ごしていたとされている。だから、この土地は王家の直轄地なんだ」
「そんな大事な場所なのに、誰でも入っていいのですか?」
「賢者とその伴侶にとって、フローラ王国民はすべて愛し子なんだ。子らが実家に顔を出すのを喜んでいるだろう」

 ノアが、王家に伝わるフローラ王国のはじまりについて話し出した。

「賢者の伴侶は秘匿されているが、王家で語り継がれている。伴侶本人から国民には伝えるなと言われたそうだ……。禁書として、今は王家の者しか触れられない真実だ」
「確かに、王家の始祖は賢者エレネアだと習いますが、伴侶については聞いたことがありません」

 エルの言葉に、ノアはうなずく。
 
「この場所は、賢者が愛する人と心を交わした場所なんだ。そして、この場所を住処として、永く現在のフローラ王国になるまで見守った」

 ノアが語り出した話に、エルは静かに耳を傾けた。



 
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