【完結】花降る王国の魔法師団長は、新米魔法師の僕を愛でる

金浦桃多

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24.結婚式

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 復活の日から半年後、ついにエルとノアの結婚式当日になった。
 
「あぁ、どうしよう……緊張する」
「エル様、お綺麗ですわ。自信を持ってくださいませ」
「ありがとう」
 
 エルは婚礼衣装を身につけて、控え室で待っていた。魔法師団の正装を特注で大幅に変えてある。
 同じ白と金だけど、フリルや柔らかい布地だ。背中から膝裏まで、ふわっと流れる装飾がされている。可憐さや祝福される花のイメージらしい。刺繍は金糸で王族のみが使用できる紋様が刺繍されていた。
 エルの母親と王妃様が、率先して決めていった。エルは途中で音を上げ、二人の満足するものになった。
 ノアの衣装とも合わせてあるらしい。試着の時に「当日の楽しみにしていなさい」と、王妃様が、エルの様子を見に来たノアを追い出していた。
 一週間前から王宮に泊まり込みで、全身マッサージなど美容の手入れを念入りにされていた。
 ちなみに、ノアとの性的な接触も止められていた。恥ずかしい。
 さきほど侍女たちに薄化粧までされて、ノアに会うのが少し怖い。笑われないだろうか、と思うエルだった。

「ノア様が迎えに来てくれるんだよね?」
「ええ、きっと声も出ないくらい見惚れますわ!」
 
 侍女たちの気分は高揚しているようだ。彼女たちのおかげで髪も美しく飾りあげられた。エルが緊張しすぎないのも、彼女たちの雰囲気のおかげでもある。

 ──コンコン

 扉をノックする音に、侍女たちも嬉しそうだ。

「はい、どうぞ」
「エル、準備……は……」

 ノアの言葉が途切れる。エルも、ノアの婚礼衣装の姿に見惚れた。黒髪はハーフアップにされて金の装飾がされている。
 衣装は、白と金を基調にマントを纏っていた。勲章は魔法師団の正装の時に見たが、サッシュは、第三王子であることを示している。マントにはエルの衣装にもある王族の紋様が刺繍されていた。エルの衣装と対になるのがわかる。

「殿下、口づけは、まだお預けです」

 咳払いとともに、忠告される。ハッと、ノアとエルは我に返った。いつの間にか言葉もなく触れ合おうとしていた。

「……そうだな。とても綺麗だ、エル。吸い寄せられた」
「僕もです……。ノア様、もの凄く素敵です」

 いつまでも見つめ合っているエルとノアに、二度目の咳払いが聞こえた。

「そろそろ時間だと呼びに来たのだった。エル、行こう」
「はい『誓いの間』ですね」
「陛下が先に行って待っている」

 王宮の地下に向かう扉は、普段は厳重に警備されている。王家にとって、この国にとって重要な場所なのだ。
 エルとノアが前に進むと、近衛兵が両開きの重い扉を開けた。赤い絨毯の敷かれた下っていく廊下の両脇には魔導灯が灯されている。
 ここから先は、王族と、ごく一部の人しか入れない『誓いの間』。
 しばらく一歩道を進むと、大きな空洞に泉が湧いていた。

「……凄い」
「ここは、あの巨木のあった湖と繋がっていると言われている」

 囁くように話すエルとノア。独特の雰囲気を持っている。
 泉の前には、国民に親しまれている等身大の賢者エレネアと、初めて見るその伴侶ノワールの像が、仲睦まじく寄り添っていた。

「凄い魔力を感じる……本当に今も守られているんですね」
「ああ。闇の眷属ノワールは、今もこの国を見守ってくれている。フローラ王国を巡るエレネアの魂とともに」

 穏やかな表情の像を見ているとエル自身も緊張が解け、穏やかな気持ちになった。
 
「やはり、似ているな。賢者エレネアとエルは」
「それを言ったらノワール様に瓜二つですよ、ノア様は」

 先に来ていた陛下が、祈りを捧げるのを終えると、一歩後ろへ下がり、エルとノアの方を向いた。

「ここは、賢者エレネアが最愛の伴侶ノワールとこの国を見守る地下深くへと繋がる泉。ノア、エル。前に出て、誓いの言葉を」

「賢者エレネアと伴侶ノワールが、嵐を退け、大地に花を咲かせたように、私たちも困難に立ち向かい愛の花を育みます」

 ノアが堂々と誓いを立てた。
 
「僕たちは、賢者エレネアと伴侶ノワールの愛と叡智に倣い、互いに心を重ね、魔力を分かち合い、未来を共に歩むことを誓います」

 エルも心から誓った。
 すると、ふわふわと光の花が誓いの間に降り注いだ。幻想的な光景にエルもノアもしばらく見惚れたのだった。

 ノアが不意にエルに顔を寄せる。エルはそっと瞼を閉じた。ふわりと触れるだけの口付けを受けながら、先ほど口にした言葉を固く誓う。
 厳かに陛下の声が響く。
 
「フローラ王国の始まりの魂に見守られ、この誓いは結ばれた。
 始祖の了解を得て、王家はここに、新たな伴侶の絆を認め、永遠の祝福を授けられた」

「これが……祝福」
「私も初めて見た。美しいな」
「はい、とても幻想的です」

 エルは、生涯忘れないだろうと、誓いの間で感じた全てを心に焼き付けた。

 夢現のような気分で控え室に戻ると、エルの家族が待ち構えていた。

「エル……綺麗だな。幸せになるんだよ」
「はい、父様」
「ノア殿下、エルのことを、よろしくお願いします」
「もちろん、エルは最愛の人です。必ず幸福にします」

 エルはノアと父親のやり取りに胸を熱くした。本当にノアと二人で生きていくのだと。既に互いの色のイヤーカフはつけているし、誓いの間でのやり取りもあったが、家族とのやり取りもまた違う思いがある。

「この後は要人を集めた結婚式と披露宴だな。エル、頑張れ」
「兄様、ありがとう」

 エルの家族は一足先に会場へと向かった。

「化粧直しをいたしましょう。ノア殿下もこちらへ」
「ああ」

 目ざとい侍女たちに、口づけしたのがバレてしまった。エルは恥ずかしかったが、ノアは堂々としている。軽く直してもらった。
 これから、国で一番の教会に移動する。賢者エレネアを信仰する国教だ。馬車は民衆からもよく見えるようにガラス張りになっている。
 沿道を埋め尽くす民衆に、笑顔で手を振りながらそれほど離れていない道のりを進んだ。

 式場の教会では、国中から集まった要人や貴族からエルとノアは祝福された。
 誓いのキスが少々長くなったのは、ノアが離してくれなかったからだ。恥ずかしくてエルがちょっと怒ってみたが、
 珍しい満面の笑みのノアにつられて一緒に笑ってしまった。その微笑ましいやり取りを、みんな温かく見守っていてくれたのだった。
 
 民衆の歓声と祝福の花びらに包まれて、王宮に戻る。披露宴では貴族や要人たちだけではなく、仲間や家族の温かな言葉を受け取る。一日がかりの忙しさだったが、心地よい疲労だ。
 全てが夢のように過ぎていき、気がつけば、夜が訪れていた。

「エル様、そろそろ」
「あ、はい」
「エル、またあとで」

 ノアが意味深に耳もとで囁いた。エルは頬を染めうなずいてから、席を立った。

 ──いよいよ、今夜、ノア様と
 


 
 
 

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