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27.氷華の魔法師と幸福の魔法師
しおりを挟むエルが目覚めたとき、陽はすでに高くなっていた。明け方に気を失うようにして眠ったのだから、仕方ない。
「おはよう、エル。身体は大丈夫か?」
「おはよう、ノア様。……多分」
昨夜のことを思い出して、エルは頬を染めた。ノアがエルの頬や髪に愛おしげに触れてくる。
「そんな可愛い顔をすると、ベッドから出してやれなくなる」
「ふぇっ! 明るいからだめ」
「夜になったら、いいのか?」
「もうっ、ノア様の意地悪!」
慌ててベッドから起き上がろうとしたエルは、ぺしゃりとその場に崩れ落ちた。
「た、立てない」
「怪我はないか? 軽く摘まめるものを持って来させよう」
ノアに抱き上げられて、膝の上に乗せられた。
二人はそのままベッドの上で軽食を摘まむ。ようやく動けるようになったエルが着替えると、ノアの私室へ向かう。
ソファに寄り添いながら座っている時に、ノアが教えてくれた。
「エル、私たちの結婚で、シャオが恩赦になったよ」
「本当に? 良かった。ノア様ありがとう」
エルは、思わずノアに抱きついた。ノアがこめかみに口づけをしてくる。事前にノアから数人恩赦になる人がいて、その中にシャオがいると聞いていたが、そうなるまで不安だったのだ。
落ち着いたら、二人でまた会いに行こうと約束した。
「約束通りシャオの名を冠した、学びたい子どもたちを支援する団体を創設する手伝いもしたいな」
「少し時間がかかるかもしれないが、人材も集めて支援しよう……でも、今は私だけのことを考えてくれ」
「んん……」
エルは、ノアに深い口づけをされると、翻弄されるがままに酔わされる。結局ベッドに逆戻りすることになったが、エルは幸せな時間を過ごした。
新婚のふたりは一週間の休みを取っていた。その間、甘く濃厚な時間を過ごして終わった。
数日後、シャオから手紙が来て、結婚の祝いと恩赦に対する感謝の言葉が書かれていた。今後は、マザーのところの手伝いをするために残ることにしたようだ。エルとノアはシャオらしいと微笑みあった。
「そうだ、今度の休みに観劇に行くか? 花を降らせるシーンが好評らしいぞ」
「第三王子のプロポーズシーンもロマンチックだと言われているらしいよ……面白そうだね。行きたい」
エルの降らせた花の噂は、絵本になったり、弾き語りや劇にもなった。真面目なところでも公的文書として残っている。花に触れた患者が完治した、特に不治の病を完治させたとして、治癒師の間でも色々話題になっているらしい。面映ゆいが、みんなが笑顔になってくれるなら嬉しいと思う。
「ノア様、久しぶりに子羊亭に行きたいな。明日の仕事終わりに行きませんか?」
「そうだな、特に急ぐ用もないから定時で帰れる。行こうか」
結婚しても、こんな小さな約束に心が踊る。啄むような口づけを交わしながら幸せに浸った。
魔法師団でも仲間たちと相変わらずだ。
「エル! 遅延魔法いつの間に習得したんだよ。うわぁ、悔しい、負けた!」
「今回はうまくいきましたけど、まだ完璧じゃないんですよ。もっと練習しないと」
プロポーズされたときもそうだが、結婚したあとも魔法師団の仲間の態度は変わらなかった。エルはそれが嬉しい。
訓練が終わると、ノアが迎えに来てくれた。なぜかフレッド騎士団長も一緒だ。
「フレッド騎士団長、何かあったのですか? ノア様、もしかして急用ですか?」
「いや、騎士団内でちょっと良いことがあってな、エルにも教えてやろうかと思ったんだ」
「良いこと……ですか?」
「ああ。エルの花のおかげで不治の病が完治した事務担当者がいるんだよ。そいつが長年の恋人の騎士団員にプロポーズしたんだ。もちろん成功」
「ええ! おめでとうございます」
エルが目を潤ませて喜ぶと、フレッドが話を続けた。
「一度、騎士団員から事務の方に闘病中にプロポーズしていたんだけどな、先がないからって断られていたんだよ。だから、エル。ありがとうな」
ノアが悪戯っぽく言ってくる。
「エル、その二人が子羊亭にいるらしい。私達も急ごうか」
「! うん! フレッド騎士団長、教えてくださりありがとうございます」
「俺が勝手に教えたのは内緒だぞ」
フレッドはそう言うと、馬車に乗ったエルとノアに手を上げて見送った。
「ノア様、こっそり見るだけですよね」
「そうだな」
せっかくの二人の記念日に声をかけるのは野暮だろう。せめて、なにかしてあげたいと思っていたエルに、ノアが提案した。
「食事代くらい、匿名で支払うならいいだろう」
「ノア様、そうしよう。でも、どの人かわかるかな?」
「服装でわかるだろう。一応、特徴は聞いてきた」
子羊亭に着くとこっそり死角の席に通された。騎士団員は一組だったのですぐわかった。二人の世界が出来上がっていて、こちらも気づかれなくて済んだ。エルは、実際に自分の降らせた花で幸せになった二人を見て泣きそうだ。ノアに優しく見つめられながら、食事をする。二人は支払いの時に不思議そうにしていたが、お店の主人がうまく言ってくれたおかげで、納得してくれたようだった。
「エルは本当に幸福の魔法師だな」
「大げさに言われて困っていたけど、今日は少し胸を張れそうだよ」
「エルはひとりじゃない。共に魔法師として、夫夫として歩んでいこう」
「ノア様……」
この日、エルはようやく幸福の魔法師と呼ばれることを誇りに思えるようになった。
──三年後
国王陛下が義兄である王太子に譲位した。身体上の問題ではなく、国に新しい風をと言っていた。「気ままに王妃と旅行したいのう」というのが本音らしい。
臣籍降下して公爵になったノアと、公爵夫人になったエルだったが、相変わらず魔法師団で働いていた。領地を持たない法衣貴族になる案もあったが、国の直轄地であった土地を与えられた。王都からも近く、シャオの住む町もそうだ。何より、王家直轄地である湖と遺跡のある巨木を取り囲むようになった領地だった。
エルとノアは、仕事の関係で普段はタウンハウスに住んでいる。
「ごめんなさい……今日もちょっと食欲がなくて」
「エル、顔色も悪い。無理をするな。仕事は休むんだ。医者を呼ぶから、診てもらいなさい」
しかし、今朝はエルの体調が悪かったのを心配したノアが医者を呼んだ。ギリギリまでエルの心配をしながら、仕事に向かったのだった。
「エル様、おめでとうございます。お腹に御子が宿っております」
「……え?」
エルは無意識に腹に手を当てた。
「魔力相性の良い同性夫夫でしたら、何組か診てきましたので、間違いないでしょう」
「……僕たちのところにあかちゃんがきてくれたの? 嬉しい」
医師は、これからのことを話して帰って行った。エルは執事にもみんなに、ノアには帰ってくるまで内緒にしておこうと決めた。エルの口から伝えたかった。
「エル、ただいま。医者はなんて言っていた?」
普段なら、ノアが一人で帰宅すると玄関で待っているエルがいなくて、不安になったのだろう。心配げに話しかけてくる。
いつもより早く帰ってきたノアに、お腹を撫でたエルは、笑みを隠しきれずに伝える。
「実はね、ノア様。お医者さまが、お腹にあかちゃんがいるって」
驚いて目を見開いたノアだったが、ソファに座るエルの隣に来ると、そっとエルのお腹に触れている手の上に手を重ねた。
「そうか!私たちの子がここにいるのか……エル、ありがとう……愛してる」
「僕も愛してるよ、ノア。一緒に育てていこうね」
涙を滲ませるノアに、エルはチュッと口付けした。ノアからも優しい口付けが何度も何度もされた。
氷華の魔術師と幸福の魔術師の名前は、復活の日に幸福の花を王都中に降らせた愛の奇跡として語り継がれていくのだろう。
「お腹の子にも、絵本で読んであげたいな」
「そうだ、必要なものを揃えないと」
「まだ、男の子か女の子かもわからないんだ。ゆっくり揃えていこう」
ノアが普段の冷静さを失っているのが、喜びを爆発させているからだとわかって、嬉しい。
「名前も考えておかないと」
「ノア様、気が早いよ」
氷華の魔術師が子煩悩になるとは、誰が思っただろうか。屋敷に笑い声が溢れる。
公爵家に花が咲いたように、幸せが降り注いだのだった。
◇完◇
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今まで辛かった分、これからは幸せに暮らせます✨きっと大切にしてくれる人に出会えます🥰
エルとノアは、ずっーとイチャイチャしてるでしょう( *´艸`)✨
お読みいただきありがとうございました✨
りん様、感想ありがとうございます🌸
花降る王国に来てくださってありがとうございます。
ノアのエルへの溺愛が止まりませんでした✨
りん様にも幸福の花が降りますように🌸
お読みいただきありがとうございました。