忘れられない思い

yoyo

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特別な休日⑵

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 とあるマンションのオートロックのインターホンの前に立っている。息を整えても、緊張して部屋番号を押す指が震えてしまう。
〝ピンポーン〟と鳴ってから、ややしばらく間がある。泰輔さんは、寝てるかもしれないから、反応がなかったら何度かインターホンを鳴らしてみてと言っていた。再度、鳴らそうかと手を伸ばした時「え?!まっ……真野?」とビックリした奥田先生の声が聞こえてきた。


 泰輔さんの頼みごとは、風邪をひいて寝込んでいる先生にご飯を届けることだった。先生は、風邪をひいて熱を出すことがよくあるらしく、その都度泰輔さんに、買い出しやご飯SOSが入って、お店の合間や終わった後に届けているようだ。
 今日は泰輔さんも定休日で休みなのに......もしかしたら、お茶に誘われたのも、この為だったんじゃないかと思ってしまう。だけど、先生のことが心配で、泰輔さんお手製の野菜スープとかポカリとかアイスとかを持って、先生のマンションまで来たのだ。

 玄関を開けてくれた先生は、パジャマ姿にメガネといつものピシッとしている姿とは違い、ちょっと素の先生に触れられたようでドキドキしてしまう。


「悪かったな……」

 先生は玄関先で、物だけ受け取ろうと手を伸ばしたけど、その手を遮るようにボクは話した。


「あ......あの。泰輔さんから、スープを預かって来たんですけど......お粥も作ろうと思ってて......その......お邪魔してもいいですか?」

「えっっ......じゃあ、ちょっと片付けるから......」

「あっ、熱あるのにいいです。嫌だったらここで帰りますから。気を遣わないで下さい」

「......じゃあ、あんまりキレイじゃないけど......どうぞ」


 先生はそう言っていたけど、すっきり完璧に片付いている訳ではなかったけど、それなりにキレイだった。


「キッチンはここだから、好きに使っていいよ」

 リビングに入ってすぐに左側に、キッチンがあり、リビングへと繋がっている。その他に部屋が1つあって、多分、先生の寝室だ。

「ありがとうございます。先生は、寝ていてください」


 先生が寝室に入っていくのを見届けて、持ってきたものを冷蔵庫にしまう。冷蔵庫には、お水とビールと調味料くらいしか入っていなくて、ボクからしたら、どうやって生活しているのか不思議なくらいだ。それでも、調理道具は一通り揃っていて、驚いてしまう。


 寝室のドアをノックするが、何も返事がなく「せんせい……?」と小声で呼びながら、そっとドアを開けてみる。部屋の中は、ベットと机と本棚があって、机の上には山積みの本とノートパソコンが置いてあった。机の上の物を少し避けて、お粥とスープを置く。
 先生は、眠っていて、ボクが入ってきたことにも気づいていないようだ。せっかく寝ているのに起こすのもな......と思って寝顔を見つめてしまう。

    熱......まだあるのかな......と先生の額に手を伸ばしてみる。

   ドキドキドキドキ......

   寝てるから、大丈夫だよね.....


 額に少し触れると、熱が指を伝ってくる。ゆっくり手を乗せてみたとき、先生が目を覚まして目が合う。

「あっ......ごめんなさい」

 慌てて手をどけると、手首を掴まれてまた、額まで引き戻されてしまった。

「真野の手、冷たくて気持ちいい......もうちょっと、こうしてて」

   ドクドクドクドク......

 時間が止まったみたいだったけど、掴まれている手首と額に置いてある手から、どんどん先生の熱が吸収されていくみたいで、熱くなっていく。手だけでなくて、体全体が先生の熱を奪ってるかの様に熱くなっていった。


「せ......先生。お粥できましたけど......食べれますか?」

 やっとそう言いえて、先生が体を起こすと、手首も解放された。

「ちょっと、冷めちゃったかもしれないけど......」

「構わないよ。ありがとう。真野の料理が食べれるなんて、風邪もひくもんだね」

「こんなの、料理のうちに入らないです......今度、もっとちゃんとしたの作ります......」

「おっ。これは言質取っちゃったよ。楽しみだなぁ」



 洗いものを終えて、あまり長居するのも良くないと思って、帰ろうと再度寝室を覗いて先生の側までいく。

「先生。じゃあ、ボクはそろそろ帰りますね」

「帰っちゃうの......?」

   さっきよりも熱が上がっているのか、やや虚ろな目で、ボクの服の裾をつかんできた。


「えっっ......」

   だけど、ボクの驚いた顔を見てハッとして「うそうそ。もう大丈夫だから、ホントありがとう」と一気にいつもの先生の顔に戻る。
 一瞬垣間見れた、心細そうに甘える先生を残して帰るのは忍びなくて、何か理由を探す。


「あ、先生、この本持ってるんですね。ボクすごく読みたかったんですよ。静かにしてますから、ちょっとだけ読んでいってもいいですか」

 とっさにそう言うと、本棚から1冊の本を抜き取り、先生の返事を待たず椅子に座って読み始める。


「ありがとう......」

 そう聞こえた気がしたけど、どんな顔して先生の方を向いたらいいのかわからなくて、聞こえなかったフリをして本に集中することにした。
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