忘れられない思い

yoyo

文字の大きさ
24 / 95

影の立役者

しおりを挟む
 今日もまんぷく屋は、賑わっていて泰輔さんも夕花里さんも忙しそうに動いている。ボクは、カウンター席で厨房の泰輔さんの様子をボーッと眺めていた。


「真野くん、1人?注文はどうする?」

 一旦、配膳が落ち着いた夕花里さんが聞いて来た。


「あ、いや。ここで先生と待ち合わせしてるんです。なので、注文は先生が来てからでもいいですか?」

「そっか。了解!」

「はい、ロースカツ定食あがったよ」


 泰輔さんがカウンター横の台に、ロースカツ定食を置くとそれを持って夕花里さんは離れて行く。

「おっ、久しぶりだな」


 ニヤニヤと泰輔さんはボクの方を見てくる。これは……先生からこの間のこと聞いたのだろうか。

「よかったな」

 そう言うと、また奥の厨房へと戻って行く。
 やっぱり、お互いに気持ちを伝えたこと聞いたらしい……


 でもあの後、何もなくて、確かに気持ちを伝えあってはいるけど、そこで盛り上がってなんてことはまるでなかった。コーヒー飲んで、先生が京都で買って来てくれた生八ツ橋食べて……本当にそれだけ。
 次の日から、ボクは急な出張に行かなくちゃいけなくなり、1週間ほど先生に会えていない。



 まんぷく屋のお客が少し落ち着いた頃、先生が姿を現した。

「悪い……遅くなちゃったな」

「いえ、大丈夫です。お疲れ様です」


 先生は笑って、ボクの隣の席に腰を下ろした。注文を頼もとした時、夕花里さんが瓶ビールとコップ2つをテーブルの上に置く。


「これは、2人にお祝いね。ふふっ、うまくいったんでしょ」

 泰輔さんが知ってるなら当然、夕花里さんも知ってるよな……と思う。


「あーほら、早く注文、注文。オレは日替わりのロースカツで、真野は?」

「あ、じゃあボクも同じので……」


 先生は、夕花里さんに一気にまくし立てるように注文して、シッシッと追い払うような仕草をする。
 先生とご飯を食べるようになってから知ったけど、先生は焦ったり、照れたりすると少し乱暴な言葉遣いになる。これは、だいぶ照れているのかもしれない。


 ボクが高校生の時は、先生は何でも余裕でやっていて、すごく大人に見えたけど、素の先生は全然そんなことなくて、そんな先生を知れることはすごく新鮮で、得した気分だ。



 せっかくだからと夕花里さんが置いていったビールを注ぎ、お互い軽くコップを合わせた。

「真野も出張お疲れ様。今日帰って来たんだよな」

「はい。夕方の便で帰って来ました。そのままもう帰宅していいことになってたので、1回家に帰ってから来ました」

「それじゃあ、疲れただろ。今日じゃなくても良かったのに」

「でも……」


 早く先生に会いたかったから……

 面と向かっては言いにくくて、言葉を濁していると、察してくれたのかフッと笑って頭を撫でてきた。そのまま、先生を見つめてしまう。


「はいはいー。ここでイチャイチャするの禁止ねー」

 泰輔さんが、ロースカツ定食を2つ持って厨房からでてきていた。ラストオーダーも終わり、少し手が空いたようだ。


「そっ、そんなことしてないだろ!!」

「そんな顔して言われてもね~」

 ボクは顔が一気に火照ってしまったけど、隣で怒鳴り声を上げている先生の顔も赤くなっていた。


「真野くん、ロールキャベツはうまくできたかい?」

「はい。ありがとうございました」

「ん?何で、泰輔にお礼言ってるの?」

「えー、だって今回の影の立役者は俺だよ。真野くんに春人の誕生日と好物教えたんだから。いい仕事しただろ、俺」


 先生は、納得できないという顔をして少しふて腐れてしまったけど、ボクは泰輔さんに感謝の気持ちでいっぱいだった。
 あの時、話を聞いてもらって背中を軽く押してもらえたから、伝えられたと思っている。

 もう、店にはボクらしかいなくなっていて、夕花里さんも来て、4人で改めて乾杯した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集

あかさたな!
BL
全話独立したお話です。 溺愛前提のラブラブ感と ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。 いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を! 【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】 ------------------ 【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。 同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集] 等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。 ありがとうございました。 引き続き応援いただけると幸いです。】

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜

黒崎サトウ
BL
男子大学生の高梨千秋が引っ越したアパートの隣人は、生涯許さないと決めた男であり、中学の頃少しだけ付き合っていた先輩、柳瀬英司だった。 だが、一度鉢合わせても英司は千秋と気づかない。それを千秋は少し複雑にも思ったが、これ好都合と英司から離れるため引越しを決意する。 しかしそんな時、急に英司が家に訪問してきて──? 年上執着×年下強気  二人の因縁の恋が、再始動する。 *アルファポリス初投稿ですが、よろしくお願いします。

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

処理中です...