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出会い⑴
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昨日やっと、右手の包帯が完全に取れて、不便だった生活から解放された。
「おっ、包帯やっととれたんだな」
出社すると、都築さんが声をかけてくる。
「はい。昨日取れました」
「これで、今日からバリバリ仕事ができるな」
「は……はい……がんばります……」
怪我をしてから、社内でできる資料整理を主にやっていて、どうしても外に出なきゃいけない時だけ外勤に出ていた。
「今日は、昼から外回りだろ。今日からは完全に独り立ちだから、頑張って行ってこい」
今まで外勤に出る時は必ず、都築さんと一緒に回っていて、一人で回るのは初めてだ。
「今日は、3軒回ったらいい時間になるから、そのまま上がってもいいぞ」
「いいんですか」
「あぁ。早く終わったとしても30分くらいだと思うし、問題ないだろ」
最後の書店を出ると、終業時刻の30分前で都築さんの読みはバッチリだった。ボクは小さな出版社で営業をしてるので、外勤と言ったら本屋である。もともと、本好き、読書好きなので、営業職は苦手ではあったけど、この仕事はそれほど苦ではなかった。
少し早く終わったことと、近くにあるカフェの店員さんと以前、とある約束をしていたことを思い出してそこに足を向けることにする。
ボクは珈琲が好きで、学生の頃から通っているお気に入りのカフェがいくつかある。最近はめっきり減ってしまったが、休みの日には本を持って、珈琲を飲みながらマッタリ過ごすことも多かった。今から行くお店は、この間の骨折で有給休暇を取った際、久しぶりに出かけたお店だった。
「おまたせしました。こちら水出しコーヒーとケーキのセットになります」
若い女性の店員が注文した珈琲とケーキをテーブルに置いたとき、隣の席に座っていた4~5人の奥様方が一気に立ち上がって帰り始めた。それを避けた拍子に、店員さんはボクのテーブルに置いた珈琲のグラスに手を当ててしまい倒してしまった。
ガシャ……
「えっ、あ……」
「あっ……すいません。すいません。どうしよう。すいません」
店員さんは、布巾を持ってきて大慌てでテーブルを拭いていく。
「あ、大丈夫です。大丈夫です」
「新しいのお持ちしますね……あ……」
テーブルに置いていた文庫の本が珈琲びたしになっているのに気づいて、その店員さんはさらに顔色が強張る。そんな様子に気づいて、さらに居たたまれなくなる。
「あー、気にしないでください。拭いて乾いたら読めますから」
「でも……」
「大丈夫ですよ」
それでも、その店員さんの顔は優れず、どうしたものかと思っていると、その店員さんは意を決したように話しかけてきた。
「あ、あの……これ精霊シリーズの最新巻ですよね。私も好きで読んでいて、でもまだこの最新巻買ってないので、私が買ったのと交換してもらうではどうですか?」
「え、でも……」
「いいんです。いいんです。それに、このシリーズ本当に好きで、同じの好きな人に会えるのは嬉しいと言うか……」
「あ、このシリーズいいですよね。今度、映画化もされますよね」
「私も気になってました。公開されたら見に行こうと思ってました」
そんな話をして、次に近くに来たら寄ることを約束したのだ。
「おっ、包帯やっととれたんだな」
出社すると、都築さんが声をかけてくる。
「はい。昨日取れました」
「これで、今日からバリバリ仕事ができるな」
「は……はい……がんばります……」
怪我をしてから、社内でできる資料整理を主にやっていて、どうしても外に出なきゃいけない時だけ外勤に出ていた。
「今日は、昼から外回りだろ。今日からは完全に独り立ちだから、頑張って行ってこい」
今まで外勤に出る時は必ず、都築さんと一緒に回っていて、一人で回るのは初めてだ。
「今日は、3軒回ったらいい時間になるから、そのまま上がってもいいぞ」
「いいんですか」
「あぁ。早く終わったとしても30分くらいだと思うし、問題ないだろ」
最後の書店を出ると、終業時刻の30分前で都築さんの読みはバッチリだった。ボクは小さな出版社で営業をしてるので、外勤と言ったら本屋である。もともと、本好き、読書好きなので、営業職は苦手ではあったけど、この仕事はそれほど苦ではなかった。
少し早く終わったことと、近くにあるカフェの店員さんと以前、とある約束をしていたことを思い出してそこに足を向けることにする。
ボクは珈琲が好きで、学生の頃から通っているお気に入りのカフェがいくつかある。最近はめっきり減ってしまったが、休みの日には本を持って、珈琲を飲みながらマッタリ過ごすことも多かった。今から行くお店は、この間の骨折で有給休暇を取った際、久しぶりに出かけたお店だった。
「おまたせしました。こちら水出しコーヒーとケーキのセットになります」
若い女性の店員が注文した珈琲とケーキをテーブルに置いたとき、隣の席に座っていた4~5人の奥様方が一気に立ち上がって帰り始めた。それを避けた拍子に、店員さんはボクのテーブルに置いた珈琲のグラスに手を当ててしまい倒してしまった。
ガシャ……
「えっ、あ……」
「あっ……すいません。すいません。どうしよう。すいません」
店員さんは、布巾を持ってきて大慌てでテーブルを拭いていく。
「あ、大丈夫です。大丈夫です」
「新しいのお持ちしますね……あ……」
テーブルに置いていた文庫の本が珈琲びたしになっているのに気づいて、その店員さんはさらに顔色が強張る。そんな様子に気づいて、さらに居たたまれなくなる。
「あー、気にしないでください。拭いて乾いたら読めますから」
「でも……」
「大丈夫ですよ」
それでも、その店員さんの顔は優れず、どうしたものかと思っていると、その店員さんは意を決したように話しかけてきた。
「あ、あの……これ精霊シリーズの最新巻ですよね。私も好きで読んでいて、でもまだこの最新巻買ってないので、私が買ったのと交換してもらうではどうですか?」
「え、でも……」
「いいんです。いいんです。それに、このシリーズ本当に好きで、同じの好きな人に会えるのは嬉しいと言うか……」
「あ、このシリーズいいですよね。今度、映画化もされますよね」
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そんな話をして、次に近くに来たら寄ることを約束したのだ。
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