忘れられない思い

映画⑴

   就業時間５分前にギリギリ、自分のデスクに座る。何とかギリギリ間に合ったことにホッと息を吐くと、隣の都築さんが声をかけてくる。


「真野がギリギリなの、珍しいな。いつもは俺より早いのに」

「ちょっと寝坊しちゃって、間に合わないかと思いました」


   昨日から自分の家に戻っていた。
   先生には「ずっといればいいのに」と引き止められたけど、一人暮らしはまだ半年しかたってないし、ボク自身ちゃんと一人で生活できるようになりたかった。もし仮にいずれ、先生と一緒に暮らす日が来るなら、それに向けても一人で自立しておきたい。そう言うと「わかったよ」優しく笑ってボクの頭に手を乗せた。

   そんな訳で、昨日は久しぶりに１人の夜を過ごすことになった訳だが、２人で寝ることに慣れてしまったのか、全く眠れず先生のことを考えてたら余計に眠れなくなった。明け方、やっと眠りにつき、盛大に寝坊したと言う訳だ。

   一息つき、都築さんの方を見ると見覚えのある本を読んでいた。


「都築さんがファンタジー読んでいるの珍しいですね。そのシリーズ、ボクもすごく好きですよ」

「あぁ、まあな。今まではあんまり興味なくて読んでなかったな。でも、このシリーズはけっこう人気があるんだろ？」

「そうですね。映画も今、公開されているんですよ」

「あぁ、そうみたいだな...…」


   少し歯切れ悪く答える都築に違和感があったけど、もう朝のミーティングが始まり話が途切れた。都築さんは、朝一で打ち合わせが入ってるとそのまま、外に出て行く。