忘れられない思い

内緒の思い⑵

   あの映画館で偶然の鉢合わせをして、それ以来、佐藤実さとうまことに対する居心地の悪さがある。一担任教師として、そんなことを思うのは間違っていると思うのだが、一番見られたくなかったプライベートな部分を見られてしまい、気まずいのだ。
   あれから、佐藤は何も言って来ないが裏で色々詮索されているのではないかと勝手にビクビクしてしまう。もともと佐藤は、他人のプライベートにズカズカ入ってくるタイプの子ではない。それは、わかっているけど今までの経験上、疑ってしまう自分もいる。

   今までは、何とかうまく誤魔化してまわりの恋愛に関する話からは、うまくすり抜けてきた。というより、すり抜ける術を身につけてきた。そうしないと、周りの悪気ない誹謗中傷に攻撃されるから。悪気がないということが、タチが悪く、オレが反撃しようものならたちまち、被害者ぶって傷ついた顔をされる。

   初めに傷をつけられたのはオレなのに。

   真野にはそんな思いは絶対にさせたくない。だから、真野に同僚の都築さんに話したいと言われた時も、咄嗟に拒否する自分がいた。都築さんが、そんな人ではないとは思ってるし、真野を困らせていることもわかってるけど、怖かった。


「先生、図書室の施錠終わりました」

   図書委員の生徒から鍵を預かる。オレは図書局の顧問として、大抵、図書準備室にいた。半分倉庫になっているような狭い部屋だったが、１人になれるし、最低限の机と椅子があるから、ここで授業のない時間は仕事してることが多く、考え事をするときは最適な場所だった。

   時計を確認すると１８時を回っていて、帰ろうとした時ケータイが震える。  見ると真野からだった。