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本編
神子と聖王は結婚する
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「はーい! みんなー! イリアを祝福したいのも加護を与えたいのもわかるけど、彼はぼくたちの加護がなくても強いからねー! それでもっていうなら、順番に並んでねー!」
どうしてこんなことに。
万神殿で、数多の神に囲まれて途方に暮れる。
ヴィルフレードの称号について尋ねるのと、エヴァルドとの結婚を受け入れた報告をしたかっただけなのに。
称号はヴィルフレードが予想した通りで、悪い意味じゃないことに安堵したのまでは良かった。
結婚の話を出したら、これだ。
クレアーレ神だけじゃなく、全ての神が顕現した。
相変わらずペンギン姿のアクア神を見て、精神の平静をはかる。
「ごめんね、みんな喜んじゃって」
「いえ、喜んでくださるのは嬉しいんですが……」
いかんせん数が多く、視界が神々で埋め尽くされていた。
「加護を与えた順に消えてもらうから、終わるまで付き合ってくれる?」
「えっと、全員ですか?」
「うん、みんなイリアに名前を覚えて欲しいみたい」
「加護を名刺代わりにしないでください」
有り難みがなくなる。
神から与えられる加護には力が付随するというのに。
ファンタジアの住人にしろ、ソトビトにしろ、みんな何かしらの試練を乗り越えて加護を得るのだ。
「わかりました……お付き合いしますから、名前と姿が一致するよう、自己紹介はまつられている像の姿でお願いします。あ、アクア神はもう覚えているので大丈夫ですよ」
既に覚えられているのが誇らしかったのか、アクア神は黄色いトサカを振り、胸を張る。
むしろアクア神にはペンギンのままでいて欲しかった。癒やしのために。
クレアーレ神の引率で、神々が待機列を作っていく。
世界を創造しただけあって、他の神も従うようだ。
しかし、人気アトラクションの待機列を彷彿とさせる並び具合だった。
「気力が尽きたら、続きは明日にしてもいいですか?」
「うん、大丈夫だよ」
現実世界の時間は止まっているものの、最後尾が見えない状態だ。
精神的に力尽きる自分が予想できた。
「じゃあ順番に呼んでいくね!」
クレアーレ神が、初対面となる神の名を呼ぶ。
自己紹介がはじまると、聞き役に徹した。
それでも。
イリアは全ての神から加護を受けるのに、七日を要した。
◆◆◆◆◆◆
「どんどん規格外になっている気がするのは余だけか?」
「私も、加護については想定外です」
もう自分のステータスを見たくない。
加護の欄だけで、文字列の多さに目が疲れた。
「これでも、天界では地味な社会人だったんですよ」
生き方が定まってからは、より自分のことを知ってもらいたくて、ファンタジアへ来る前のこともエヴァルドに話していた。
理解しやすいよう、用語などは改変している。
ゲーム製作会社は「天界」という風に。
「容姿が違ったのには驚いたな」
「声も何もかも違いました。だからまだ慣れないことも多くて」
「ふむ、無自覚なところがあると思っていたが、それが理由だったのか」
エヴァルドからすると、隙があるように見えて仕方なかったらしい。
「これからは気を付けます」
「そうしてくれ。余の前では、いくらでも無防備でいてくれて構わないが」
「私が構います」
体力はもっても、精神がもたない。
羞恥を覚えるたびに、ゴリゴリと精神力が削られる気がした。
「それより約束は守ってくださいね?」
「わかっている。次に何かあるときは、必ずイリアを同伴する」
エヴァルドに危険が迫っている間、自分だけ安全な場所にいたことをイリアは根に持っていた。
だから結婚するならばと、条件を出した。
苦楽を共にすること。
どんなに酷い現場であっても、その時間を、気持ちを共有すること。
「私のためを思ってくださっているのはわかりますが、一人だけ蚊帳の外に置かれるのは辛いですし、寂しいんです」
「うむ、余も独善的だったな。これからは必ずイリアの意見を聞く」
エヴァルドがイリアを守るように、イリアもエヴァルドを守りたい。
切実に願えば、エヴァルドは聞き入れてくれた。
月明かりの元、頭に着けたベールを持ち上げられる。
「今宵のそなたは一段と美しい」
「ありがとうございます……エヴァルドも素敵ですよ」
夜の万神殿。
天窓から降り注ぐ月光を浴びる二人は、揃って純白のローブに身を包んでいた。
特にイリアのものはネットレースが編まれ、形はローブであるものの、見た目はドレスに近い。
今夜二人は、神々の前で結婚を誓う。
エヴァルドの親族を含め、列席者はいない。
オラトリオでは、当事者だけで誓いをおこなった。神が実在する世界なので、間に神官を入れる必要がないのだ。
神がまつられている場所であれば、誓いは認められる。
祝賀会は別で催されるが、世界情勢を鑑み、内々で済ませることが決まっていた。
二人向き合って、額と両手を合わせる。
空気を読んでくれたのか、神が現れて時間が止まることもない。
「余、エヴァルド・レ・オラトリオは、良き伴侶として、未来永劫イリアだけを愛すると誓う」
「私、イリアは、良き伴侶として、未来永劫エヴァルドだけを愛すると誓います」
静寂の中、少しだけ緊張を孕んだ声が響く。
特別なのは、お互いを繋ぐ絆だけだった。
(私は、エヴァルドと生きていく)
この世界、ファンタジアを。
二人なら乗り越えられないものなんてない。
どちらともなく鼻先を重ね、口付ける。
今は夜空から降り注ぐ淡い光だけが、二人を祝福していた。
そして二人は、初夜を迎える。
どうしてこんなことに。
万神殿で、数多の神に囲まれて途方に暮れる。
ヴィルフレードの称号について尋ねるのと、エヴァルドとの結婚を受け入れた報告をしたかっただけなのに。
称号はヴィルフレードが予想した通りで、悪い意味じゃないことに安堵したのまでは良かった。
結婚の話を出したら、これだ。
クレアーレ神だけじゃなく、全ての神が顕現した。
相変わらずペンギン姿のアクア神を見て、精神の平静をはかる。
「ごめんね、みんな喜んじゃって」
「いえ、喜んでくださるのは嬉しいんですが……」
いかんせん数が多く、視界が神々で埋め尽くされていた。
「加護を与えた順に消えてもらうから、終わるまで付き合ってくれる?」
「えっと、全員ですか?」
「うん、みんなイリアに名前を覚えて欲しいみたい」
「加護を名刺代わりにしないでください」
有り難みがなくなる。
神から与えられる加護には力が付随するというのに。
ファンタジアの住人にしろ、ソトビトにしろ、みんな何かしらの試練を乗り越えて加護を得るのだ。
「わかりました……お付き合いしますから、名前と姿が一致するよう、自己紹介はまつられている像の姿でお願いします。あ、アクア神はもう覚えているので大丈夫ですよ」
既に覚えられているのが誇らしかったのか、アクア神は黄色いトサカを振り、胸を張る。
むしろアクア神にはペンギンのままでいて欲しかった。癒やしのために。
クレアーレ神の引率で、神々が待機列を作っていく。
世界を創造しただけあって、他の神も従うようだ。
しかし、人気アトラクションの待機列を彷彿とさせる並び具合だった。
「気力が尽きたら、続きは明日にしてもいいですか?」
「うん、大丈夫だよ」
現実世界の時間は止まっているものの、最後尾が見えない状態だ。
精神的に力尽きる自分が予想できた。
「じゃあ順番に呼んでいくね!」
クレアーレ神が、初対面となる神の名を呼ぶ。
自己紹介がはじまると、聞き役に徹した。
それでも。
イリアは全ての神から加護を受けるのに、七日を要した。
◆◆◆◆◆◆
「どんどん規格外になっている気がするのは余だけか?」
「私も、加護については想定外です」
もう自分のステータスを見たくない。
加護の欄だけで、文字列の多さに目が疲れた。
「これでも、天界では地味な社会人だったんですよ」
生き方が定まってからは、より自分のことを知ってもらいたくて、ファンタジアへ来る前のこともエヴァルドに話していた。
理解しやすいよう、用語などは改変している。
ゲーム製作会社は「天界」という風に。
「容姿が違ったのには驚いたな」
「声も何もかも違いました。だからまだ慣れないことも多くて」
「ふむ、無自覚なところがあると思っていたが、それが理由だったのか」
エヴァルドからすると、隙があるように見えて仕方なかったらしい。
「これからは気を付けます」
「そうしてくれ。余の前では、いくらでも無防備でいてくれて構わないが」
「私が構います」
体力はもっても、精神がもたない。
羞恥を覚えるたびに、ゴリゴリと精神力が削られる気がした。
「それより約束は守ってくださいね?」
「わかっている。次に何かあるときは、必ずイリアを同伴する」
エヴァルドに危険が迫っている間、自分だけ安全な場所にいたことをイリアは根に持っていた。
だから結婚するならばと、条件を出した。
苦楽を共にすること。
どんなに酷い現場であっても、その時間を、気持ちを共有すること。
「私のためを思ってくださっているのはわかりますが、一人だけ蚊帳の外に置かれるのは辛いですし、寂しいんです」
「うむ、余も独善的だったな。これからは必ずイリアの意見を聞く」
エヴァルドがイリアを守るように、イリアもエヴァルドを守りたい。
切実に願えば、エヴァルドは聞き入れてくれた。
月明かりの元、頭に着けたベールを持ち上げられる。
「今宵のそなたは一段と美しい」
「ありがとうございます……エヴァルドも素敵ですよ」
夜の万神殿。
天窓から降り注ぐ月光を浴びる二人は、揃って純白のローブに身を包んでいた。
特にイリアのものはネットレースが編まれ、形はローブであるものの、見た目はドレスに近い。
今夜二人は、神々の前で結婚を誓う。
エヴァルドの親族を含め、列席者はいない。
オラトリオでは、当事者だけで誓いをおこなった。神が実在する世界なので、間に神官を入れる必要がないのだ。
神がまつられている場所であれば、誓いは認められる。
祝賀会は別で催されるが、世界情勢を鑑み、内々で済ませることが決まっていた。
二人向き合って、額と両手を合わせる。
空気を読んでくれたのか、神が現れて時間が止まることもない。
「余、エヴァルド・レ・オラトリオは、良き伴侶として、未来永劫イリアだけを愛すると誓う」
「私、イリアは、良き伴侶として、未来永劫エヴァルドだけを愛すると誓います」
静寂の中、少しだけ緊張を孕んだ声が響く。
特別なのは、お互いを繋ぐ絆だけだった。
(私は、エヴァルドと生きていく)
この世界、ファンタジアを。
二人なら乗り越えられないものなんてない。
どちらともなく鼻先を重ね、口付ける。
今は夜空から降り注ぐ淡い光だけが、二人を祝福していた。
そして二人は、初夜を迎える。
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