僕の太客が義兄弟になるとか聞いてない

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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忙しい日々

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 「アゼットさん、お先に失礼します。」

 裏口から出て行く気の良いアッシュにねぎらいの声を掛けながら、ノアはアッシュが済ませた窓の施錠をもう一度確認しつつ店の中を歩き回った。

 三ヶ月前にこの街の貸本屋ギルドの年会に顔を出してからと言うもの、人生は更に忙しくなった。自分がこの街で貸本屋を始めたのが運命だったのかと思わせる様な不思議な巡り合わせのせいだ。


 父亡き後、共同事業を一緒に立ち上げていた男ケドナーの詐欺に近い横領によって、僕ら家族から父の功績は奪われてしまった。そのケドナーは似た様な事をあちこちでやらかしていた様で、ギルド長は僕の生い立ちを聞くと目を光らせて言った。

「…そうか。驚くべき偶然だが、そのケドナーは私の知人の事業にも手を出そうとしたのだよ。マクラインさんの話を聞く限り、一度でも旨みを知ってしまうと実直に働くより楽して稼ごうとしてしまうのかもしれぬな。

 だが今回は簡単じゃ無かった。奴は訴えられて逃げる様にしてこの街から出て行った。そう聞いたらマクラインさんの胸は少し軽くなるかい?

 貴方はお父上の志を受け継いで、その若さで立派に貸本業を成功させている。大成功と言ってもおかしくない。ひとつ願いがあるとしたら、この街の貸本屋ギルドを盛り上げるために我らに力を貸してはくれまいか。」


 自分の祖父と言ってもおかしくないギルド長の鶴の一声で、僕はこの街の貸本屋ギルドの一員として受け入れられることになった。

 僕は感謝を込めて、この貸本屋業界を盛り立てるために手元にあるお互いの本の期間限定の本屋間の流用を提案したり、貸し本の返却に関する対策を考えたりした。

 そうこうしているうちに、引退を考えていた高齢の貸本屋の主人が僕に店を任せたいと提案して来たのだ。その店は繁華街に近く店内も広かったので、僕は以前より考えていたティールームのある貸本屋をそこで開くことにした。


 売り上げの一部を引退する主人に毎月支払うことで、僕は二号店を手に入れることになった。そうして開店準備をしながら自分の店を切り盛りするには勿論一人では限界が来て、アッシュを雇い、更には新規店の人材を選んでいる最中だった。

 明日は最終面接だけれど、どうしても若い僕一人では軽んじられて足元を見られるかもしれない。ギルド長に顔を出してもらった方が良いかと考えながら裏口を出ると、少し先にこちらに向かってくるひと回り体格の良い男が目に入って、僕の胸はドクリと騒がしくなった。


 「ああ、ノア。すれ違わなくて良かった。」

「…まったく、いつもいきなりですね、ケレイブ様。」

 ケレイブ様は僕をじっと見つめると嬉しげに口を開いた。

「そうか?まぁ、時間の許す限りノアに会いたいせいで、連絡する暇が無いんだ。…どうしてた。随分疲れた顔をして。新しい貸本屋の話は上手く行っているんだろう?」


 僕はケレイブ様と並んで歩きながらボヤいた。

「ええ、ありがたい事に上手く行ってます。でもやる事が多くて僕が三人ぐらい必要なんですよ。明日も…。ああ、そうだ。もしケレイブ様さえ良かったら、明日の従業員の面談に立ち会ってくれませんか?

 流石に僕一人だと足元を見られて今後の運営に良くない気がして。」

 ケレイブ様は僕の肩に手を回して優しく撫でると、少し面白がる口調で呟いた。

「なるほど。では私は彼らを睨みつけていれば良いって事かな?」


 僕はクスクス笑いながら、まるでいつもしているかの様にケレイブ様とあの家へと向かった。頑丈な門に手を掛けながら、僕はケレイブ様に言った。

「新しい店が軌道に乗れば、この家の家賃も全額僕が支払える様になりますね。」

「おいおい、慌てるな。私がノアに漬け込む言い訳を奪ってくれるなよ。」

 玄関の扉を開けて、僕はケレイブ様の手を掴んで囁いた。


 「…言い訳が必要?確かに僕はケレイブ様の庇護下から巣立つかもしれないけど…。」

 ケレイブ様は顔を顰めて呻いた。

「私はノアが成功して行くのが眩しくも誇らしい。だが一方でいつまでも私の手を離れて欲しくないと願ってしまうんだ。それは両立出来るのだろうか。」

 僕はクスッと笑うとケレイブ様の少しひんやりした頬を手のひらで覆って顔を寄せて囁いた。


 「…どうしたら両立出来るか考えてみたら?」

 それ以上考えるのを放棄したケレイブ様は、僕の誘惑に抗えずに唇を重ねた。一ヶ月ぶりの欲望はあっという間に膨れ上がって、僕も我慢など出来なかった。

 もつれる様な足取りで家の奥へと向かうと、テーブルの上に重なるプレゼントのひとつに腕が当たって落ちてしまった。気怠い眼差しを上げたケレイブ様が足元に落ちたそれを見咎めて、それから僕に視線で尋ねてくる。


 「ああ、これ?開店のお祝いがあちこちから届いたんだ。ケレイブ様のお父上のハデット卿、義兄上のブランド様からも頂いたよ。驚く事にローズやマダムからも届いて、一度落ち着いたら王都に御礼に行こうかと考えてるんだ。」

「…なんだ、皆して情報が早いのだな。それとも私が出遅れていると言う事なのか?ノアに欲しいものを聞いてから贈ろうと思っていたのだが…。」

 顔を顰めるケレイブ様の手を引っ張って、僕は湯浴み場へと向かいながら口を開いた。


 「ケレイブ様には十分にして貰っているから、特段必要ないけどね。それより疲れた僕をたっぷり癒して欲しいな。」

「…最近のノアは私の身体目当てなのではないかと勘繰っていたが、真実かもしれないな。」

「あはは、今更気がついたの?僕は最初からケレイブ様の身体には注目してたでしょう?」

 そんなじゃれあいの様なやり取りはいつもの事だったけれど、言葉の端々に探り合いを感じるのは、お互いの立場が変化し始めているからなのだろうか。


 僕はケレイブ様の緑がかった明るい茶色の瞳の中を覗き込みながら、もう一度囁いた。

「僕にケレイブ様を頂戴。」

 日に焼けた頬を僅かに赤らめて、瞳を細めたケレイブ様は言葉も無く僕を抱きしめて、熱い口づけを落とした。お互いに貪る様なその口づけに僕の真実は隠されているのに、一体いつになったら気づくのだろうかと僕は喉の奥で密かに笑った。

 でも今は膨れ上がった、チリチリする焼かれるような欲望をケレイブ様に受け止めて欲しかった。



















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