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295 覚悟と信念と裏切⑤(殲滅)
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「……あれ? なんか広場以外の場所が慌ただしいけど、なんかあった?」
上空を無心で旋回し続けていた地竜が、ふと地上の様子の変化に首をかしげる。
耳を傾けて見れば、「あの噂は本当だった」、「まだ死にたくねぇ!」「ここも汚染されているのか」……などと不穏な言葉と共に、慌ただしく荷物をまとめる人の集団が街中にチラホラと現れたのだ。
「あれは、ゼニー様のバラン商会が用意したサクラでございましょう。これを機にアルベリオン国内から全員撤退する予定でして、幾つか作っていた店舗も、エミリー様の演説に合わせて早速店じまいを始めたのでしょう」
「あらあら、フットワークが軽いですわね。流石はゼニー様の子飼いですわ。確か、集団心理でしたかしら? 誰かが逃げれば、他もそれに釣られ逃げ出すと?」
「えぇえぇ、人気を博した店舗が軒並み撤退を始めれば、嫌でも危機感が出ましょう? 商人の情報収集能力は侮れませんから、店舗が無くなり不便になる利用者は言わずもがな周辺の商人も、夜逃げさながらの勢いで逃げ出す姿を目撃すれば、気が気では無いでしょう! メルルルル!」
「不穏なセリフも合わさり、最強ですわね! クワァ~クワァクワァ!」
真っ白な光沢を放つ真っ黒な竜と、腹の中真っ黒の獣顔が、クワァクワァ、メルメルと邪悪なオーラを放つ。
ルナとゴトー……そんな幹部クラス二体を背に乗せた地竜には、そろそろ胃薬の準備が必要かもしれない。
「あ」
そんな折、地竜が小さく声を漏らす。地竜の視線の先、街の様子へ視点を向ければ、エミリーが天を仰いでいた。
「ぇえ演説終わったぽいから、むぅ迎えに行ってくるぅ!」
「あらそうですの、いってらっしゃいませ」
「はぃ~~~」
ルナは空中に結界の足場を設置すると、地竜の背から降りる。それを確認した地竜は、逃げ出す様にエミリーの元へ駆け下りた。
「……で、何故貴方がここに居るのかしら、ゴトー様?」
「メルル、アルベリオンでやる事が有りまして、それが終わったのでこちらにお邪魔させていただいた次第でございます」
「はぁ……何をしているかは知りませんが、お勤めご苦労様ですわ。恐らく私には一生できない事なのでしょうね」
「楽しいですよ? 人が面白いように踊りますからね」
「悪趣味ですわ~」
街の様子を眺めながら、ルナとゴトーは他愛ない話で時間を潰す。
「しかし、お父様もお母様も甘いですわ。人なんて幾らでも居ますでしょう。中には優秀な個体も居るでしょうが、それをこんなチマチマと選別しながらだなんて、時間が掛かって仕方がありませんわ」
「それは今後の平穏の為でございましょう。まぁ、それもエマ様の事情を最優先した上での序ででございましょうが」
「分かっていますわ。けど、回りくどいのは性に合わないのですわ! あ~~~、一掃したいですわ! 吹き飛ばしたいですわ! チマチマしないで纏めてバーンといきたいですわ! クワァ!」
物騒な事を口走るルナであるが、本気では無いので、ゴトーはやれやれと首を振っていると、エミリーを回収した地竜が戻ってくる。
「地竜殿、回収感謝する」
「あいあい~、魔道具操作しているのは僕じゃないけどね~」
エミリーの言葉に対して、地竜は何かから解放されたかの様な清々しい表情で受け答えをする。隣で結界を動かし並走するルナと、それに便乗するゴトーを視界に収めないのは、きっとたまたまだろう。
因みに地竜が纏った雲の中では、囚われていた人々の治療がせっせと行われている最中である。
「言いたいことは言い終わりましたか?」
「あぁ、時間を取らせてすまない。すぐに次へ行くのか、それとも一度帰還するのか?」
「……何のことですの?」
ここでの用事は済んだとエミリーは頷き、ルナに今後の予定を尋ねる。だがルナは、その問いに対しコテンと首をかしげる。
「何とは……この地竜殿の様に、情報が空を飛ぶ訳でもあるまいし、情報が回るのに時間がかかる。私の用事を考慮していただきこの街を最初にして貰ったが……辺境は効率的に難しいとしても、せめて他の街を回らなければ、避難など延々と進まないだろう?」
「あ~~~これは……お父様、説明を端折りましたわね~。えっとですね、先ほどのエミリー様の演説は、アルベリオン国内全域で放映されておりましたのよ?」
「ほう、えい?」
聞きなれない言葉に、首をかしげるエミリー。それに対してルナは、あぁそこからかと頭を捻る。
「う~ん、そうですわね……魔伝は分かります? それの映像付きを想像すればよろしいかと」
「なんと……それを国内全域にか!?」
「エミリー様が気にしていた辺境の開拓村なども含めて、全域ですわ。ほら、そこに小さな球体が浮いてますでしょ? それがカメラですわ」
そんなものまで有ったのかとエミリーは驚き、続けてその設置規模に驚愕の声を上げる。ルナが指し示すそこには、確かに羽虫程度の小さな球体が浮いていた。
未だに迷宮の力と規模を計り切れていなかったこと、さらに既にアルベリオン国の奥深くにまで入り込んでいたことに改めて恐怖を覚えるエミリーであるが、そんな心情に気付いているのかいないのか、ルナは話を続ける。
「まぁその為、エミリー様が他で演説する必要はありません。後は私の役目ですわ」
「なにをする心算だ?」
「あら? 私が、エミリー様の護衛の為だけに同行したとでも? さぁ、この……この私! お父様とお母様の娘である私の力と美しさを、初めて! 公式に! 文明を持った種の公の場に姿を晒すのです。さぁさぁさぁさぁ、カメラの準備は宜しくて? 失敗は許しませんわよ? ばっちり決めて下さいまし!」
「メルル、その事ですがルナ嬢……」
ルナは結界の足場を消して翼を広げると、その場に滞空する。自分の出番だと、テンション高めのルナであるが、それに対しゴトーが待ったを掛ける。
「も~う、なんですのゴトー様? これから私の一世一代の―――」
「もうすでに、カメラは回っております。エミリー様を映していたカメラが回りっぱなしとも言いますが」
「……何ですと!?」
出鼻をくじかれたルナが不満そうに、半目をゴトーへ向けるも、続けて放たれた言葉に対し、ルナは予想外と言わんばかりに、反射的に小さなカメラへ振り返る。
そこにきてルナは、初めてカメラが撮影中である事を認識する。先ほどまでの会話も、結界の上でゴロゴロしていた姿も、ばっちり放映済みである。
「も~~~う! ファーストインパクトが台無しですわ! 何故、こう毎度毎度、締まらないですわ!」
「それは、皆がノリと勢いでやっているからでは? 事前計画や台本など、あってない様なものでございますし」
「……演出家、とか、あった方が良いのかしら?」
「メル、応募でもかけて見ましょうか」
「お願いしますわ~、はぁ……くよくよしていても仕方が無いですわね……もう回っているんですわね!? では始めますわ!」
ルナががっくり肩を落とすが、過去は如何することもできないと、すぐさま気を取り直すと顔を上げる。切り替えの早さと思いきりのよさが自身の美点であるとは、ルナの認識である。
「改めまして、アルベリオン国民の皆様こんにちは。私はルナ、先ほどのエミリー様の演説でも出ました、世界樹の娘でございますわ。どうぞ、お見知りおき下さいませ」
ルナはカメラに向けて、優雅に一礼を決める。それと同時に膨大な魔力を発し、多数の魔法陣を周囲に展開する。
その存在感はさながら太陽か……カメラ越しはともかく、近隣の村々や真下の街など、その脅威を直に感じた事だろう。
「私たちの目的と行動指針は、粗方理解いただいたと思いますわ。なのでここで一つ、私自らその証明を行いたく思いますわ」
展開された魔法陣が、ルナの腕の動きに合わせ移動する。広がり重なり、何重にも折り重なり、一つの形を成す。
遠目から見れば、魔法陣で編まれた塔か、はたまた巨大な槍か……ルナを頂点として造られたそれは、眼下の街にその切っ先を向けていた。
新たにルナは、光球を生み出すと、魔法陣の中に向けて叩きつける様に撃ちだす。
魔法陣の中を光球が突き抜け、膨大な量の付与が光球に施される。
撃ちだされた光球の正体は、簡単な結界の魔法。それに魔術を付与し、何重にも効果を設定、強化したものだ。
魔法と魔術の同時使用、魔導によりつくられた結界の光球は……街の中心である広場へと着弾した。
<魔力操作>が可能な範囲を超えた距離にて魔法や魔術を操作する事は不可能だ。だが、始めからどのように作用するか、発動するかを設定したものを撃ちだす事は可能だ。
着弾をトリガーとし、結界の光球が発動する。弾ける様に幾つもの結界が膨張し街中を駆け抜ける。そして最後には、半球状の結界がすっぽりと街を覆い尽くした。
通り抜けた結界は、普通の人種には何ら悪影響を及ぼしてはいない。だが街中は、阿鼻叫喚の様相を呈していた。
友人が、家族か、隣人が……街に潜伏していた害悪が、先ほど変異した成金法衣と同様の化け物であるケルドに変異し、住民へ襲い掛かったのだ。
「だいたい……1,000体程度でしょうか?」
「1,057体ですわね。思ったよりも少なかったですわ」
「お前たち何をしたんだ!?」
街の様子を眺めていたルナとゴトーへ向け、エミリーが声を荒げる。
地竜は近づきたくない雰囲気を醸し出しているが、エミリーに言われて嫌々ながらも距離を詰めている。
「何とは、街中に潜んでいたケルドを、変異させたのですわ。これは相手側もできる事ですので、実体験してもらおうかと」
「実際に被害を受けなければ、人は真剣に取り組みません。なので、危機感を持っていただかなければならないのですよ」
「だからと言って!」
「もう、放置はしませんわよ。エミリー様は私たちを何だと思っているのです? 被害が出る前に片付けますわ。それに、これにだって意味はあるのですわよ」
「意味だと!?」
ルナが放った結界には、多数の付与が施されている訳だが、その効果は主に5つである。
一つ目は物質の通過を阻害する結界。これには範囲を限定する意味もある。
二つ目は、ケルド化を誘発する魔法が付与された結界。街の様子を見れば説明は不要だろう。
三つ目は、<鑑定>が付与された結界。ルナがケルドの数を正確に把握していたのはこれによるものだ。
そして四つ目、条件に当てはまる対象に対して、目印を付ける結界である。
そして既に目印は付いている。ケルドと言う名の、間違えようのない目印が。
変異しその姿をさらしたケルドに、その隠密性はない。<鑑定>を誤魔化す術はない。故にこの街のケルドは、全て露見している事となる。
「ルナ嬢、恐怖心と危機感が十分満ちました。そろそろよろしいかと」
「では、お掃除と行きますわ」
そして5つ目の結界。それは、これからルナが行う掃除の補助である。魔術の殆どが、これの為のものと言っても過言ではない。
「ふふふ、小細工は入りますが、久しぶりのブッパですわぁ」
艶かしい笑みを浮かべるルナは、喉元に魔力を集める。
煌々と轟々と、魔力光が溢れ出す。圧縮を繰り返し、その輝きを増して行く。
力……純然たる力。それは人々に、衝撃を、絶望を、畏怖を、羨望を、崇拝を呼び起こす。
竜の息吹。それは、純粋な魔力の塊に指向性を持たせ放つ……言葉にすればたったそれだけだが、それ故に並みの攻撃も魔法も軽く凌駕する威力となる。
無慈悲に放たれるルナのブレスは、空を焼き突き進む光線となり、結界の頂点にぶち当たる。それをトリガーに、結界に組み込まれた魔術が起動する。
光線を吸収し、歪ませ、結界内で球を模ると……竜の息吹は、閃光と共に弾けた。光の線を引きながら、跳ね、曲がり、弾き合い、さながら雨の如く降り注ぐそれは、寸分たがわず、ケルドへと降り注ぐ。
何十発と、何百発と、息の根が止まるまで焼き貫く。
<鑑定>による対象識別と生存確認。
<鑑定>を元に指定した標的へのマーキング。
標的以外に誤射しない為の軌道計算。
結界内に存在する生物全ての生殺与奪を握り、選別し、射滅ぼす。
どこまでも傲慢で、自分勝手で、美しく、無慈悲。魔導と竜のブレスを複合した、広範囲選別攻撃……その名を『射貫く滅びの雨』という。
「これならば遺体は残るので、映像が偽物などとごまかしはできないですわ~」
「……」
間近で放たれるブレスを見たエミリーも、その脅威にさらされつつも助かった国民も、等しく感じた事だろう。力の差を、技術の差を、国に蔓延る害悪の存在を……そして死を。
「さて……私は、私たちは、お父様の様に優しくもなければ、お母様の様に甘くもありませんわ。死にたくなければ足掻きなさい。こちらはお前たちが幾ら死のうが構わないのだから」
一仕事終えたルナはその場から飛び去り、地竜が震えるエミリーを背に乗せその後を追う。
その光景を最後に、アルベリオン国内に流されていた映像が途切れた。
上空を無心で旋回し続けていた地竜が、ふと地上の様子の変化に首をかしげる。
耳を傾けて見れば、「あの噂は本当だった」、「まだ死にたくねぇ!」「ここも汚染されているのか」……などと不穏な言葉と共に、慌ただしく荷物をまとめる人の集団が街中にチラホラと現れたのだ。
「あれは、ゼニー様のバラン商会が用意したサクラでございましょう。これを機にアルベリオン国内から全員撤退する予定でして、幾つか作っていた店舗も、エミリー様の演説に合わせて早速店じまいを始めたのでしょう」
「あらあら、フットワークが軽いですわね。流石はゼニー様の子飼いですわ。確か、集団心理でしたかしら? 誰かが逃げれば、他もそれに釣られ逃げ出すと?」
「えぇえぇ、人気を博した店舗が軒並み撤退を始めれば、嫌でも危機感が出ましょう? 商人の情報収集能力は侮れませんから、店舗が無くなり不便になる利用者は言わずもがな周辺の商人も、夜逃げさながらの勢いで逃げ出す姿を目撃すれば、気が気では無いでしょう! メルルルル!」
「不穏なセリフも合わさり、最強ですわね! クワァ~クワァクワァ!」
真っ白な光沢を放つ真っ黒な竜と、腹の中真っ黒の獣顔が、クワァクワァ、メルメルと邪悪なオーラを放つ。
ルナとゴトー……そんな幹部クラス二体を背に乗せた地竜には、そろそろ胃薬の準備が必要かもしれない。
「あ」
そんな折、地竜が小さく声を漏らす。地竜の視線の先、街の様子へ視点を向ければ、エミリーが天を仰いでいた。
「ぇえ演説終わったぽいから、むぅ迎えに行ってくるぅ!」
「あらそうですの、いってらっしゃいませ」
「はぃ~~~」
ルナは空中に結界の足場を設置すると、地竜の背から降りる。それを確認した地竜は、逃げ出す様にエミリーの元へ駆け下りた。
「……で、何故貴方がここに居るのかしら、ゴトー様?」
「メルル、アルベリオンでやる事が有りまして、それが終わったのでこちらにお邪魔させていただいた次第でございます」
「はぁ……何をしているかは知りませんが、お勤めご苦労様ですわ。恐らく私には一生できない事なのでしょうね」
「楽しいですよ? 人が面白いように踊りますからね」
「悪趣味ですわ~」
街の様子を眺めながら、ルナとゴトーは他愛ない話で時間を潰す。
「しかし、お父様もお母様も甘いですわ。人なんて幾らでも居ますでしょう。中には優秀な個体も居るでしょうが、それをこんなチマチマと選別しながらだなんて、時間が掛かって仕方がありませんわ」
「それは今後の平穏の為でございましょう。まぁ、それもエマ様の事情を最優先した上での序ででございましょうが」
「分かっていますわ。けど、回りくどいのは性に合わないのですわ! あ~~~、一掃したいですわ! 吹き飛ばしたいですわ! チマチマしないで纏めてバーンといきたいですわ! クワァ!」
物騒な事を口走るルナであるが、本気では無いので、ゴトーはやれやれと首を振っていると、エミリーを回収した地竜が戻ってくる。
「地竜殿、回収感謝する」
「あいあい~、魔道具操作しているのは僕じゃないけどね~」
エミリーの言葉に対して、地竜は何かから解放されたかの様な清々しい表情で受け答えをする。隣で結界を動かし並走するルナと、それに便乗するゴトーを視界に収めないのは、きっとたまたまだろう。
因みに地竜が纏った雲の中では、囚われていた人々の治療がせっせと行われている最中である。
「言いたいことは言い終わりましたか?」
「あぁ、時間を取らせてすまない。すぐに次へ行くのか、それとも一度帰還するのか?」
「……何のことですの?」
ここでの用事は済んだとエミリーは頷き、ルナに今後の予定を尋ねる。だがルナは、その問いに対しコテンと首をかしげる。
「何とは……この地竜殿の様に、情報が空を飛ぶ訳でもあるまいし、情報が回るのに時間がかかる。私の用事を考慮していただきこの街を最初にして貰ったが……辺境は効率的に難しいとしても、せめて他の街を回らなければ、避難など延々と進まないだろう?」
「あ~~~これは……お父様、説明を端折りましたわね~。えっとですね、先ほどのエミリー様の演説は、アルベリオン国内全域で放映されておりましたのよ?」
「ほう、えい?」
聞きなれない言葉に、首をかしげるエミリー。それに対してルナは、あぁそこからかと頭を捻る。
「う~ん、そうですわね……魔伝は分かります? それの映像付きを想像すればよろしいかと」
「なんと……それを国内全域にか!?」
「エミリー様が気にしていた辺境の開拓村なども含めて、全域ですわ。ほら、そこに小さな球体が浮いてますでしょ? それがカメラですわ」
そんなものまで有ったのかとエミリーは驚き、続けてその設置規模に驚愕の声を上げる。ルナが指し示すそこには、確かに羽虫程度の小さな球体が浮いていた。
未だに迷宮の力と規模を計り切れていなかったこと、さらに既にアルベリオン国の奥深くにまで入り込んでいたことに改めて恐怖を覚えるエミリーであるが、そんな心情に気付いているのかいないのか、ルナは話を続ける。
「まぁその為、エミリー様が他で演説する必要はありません。後は私の役目ですわ」
「なにをする心算だ?」
「あら? 私が、エミリー様の護衛の為だけに同行したとでも? さぁ、この……この私! お父様とお母様の娘である私の力と美しさを、初めて! 公式に! 文明を持った種の公の場に姿を晒すのです。さぁさぁさぁさぁ、カメラの準備は宜しくて? 失敗は許しませんわよ? ばっちり決めて下さいまし!」
「メルル、その事ですがルナ嬢……」
ルナは結界の足場を消して翼を広げると、その場に滞空する。自分の出番だと、テンション高めのルナであるが、それに対しゴトーが待ったを掛ける。
「も~う、なんですのゴトー様? これから私の一世一代の―――」
「もうすでに、カメラは回っております。エミリー様を映していたカメラが回りっぱなしとも言いますが」
「……何ですと!?」
出鼻をくじかれたルナが不満そうに、半目をゴトーへ向けるも、続けて放たれた言葉に対し、ルナは予想外と言わんばかりに、反射的に小さなカメラへ振り返る。
そこにきてルナは、初めてカメラが撮影中である事を認識する。先ほどまでの会話も、結界の上でゴロゴロしていた姿も、ばっちり放映済みである。
「も~~~う! ファーストインパクトが台無しですわ! 何故、こう毎度毎度、締まらないですわ!」
「それは、皆がノリと勢いでやっているからでは? 事前計画や台本など、あってない様なものでございますし」
「……演出家、とか、あった方が良いのかしら?」
「メル、応募でもかけて見ましょうか」
「お願いしますわ~、はぁ……くよくよしていても仕方が無いですわね……もう回っているんですわね!? では始めますわ!」
ルナががっくり肩を落とすが、過去は如何することもできないと、すぐさま気を取り直すと顔を上げる。切り替えの早さと思いきりのよさが自身の美点であるとは、ルナの認識である。
「改めまして、アルベリオン国民の皆様こんにちは。私はルナ、先ほどのエミリー様の演説でも出ました、世界樹の娘でございますわ。どうぞ、お見知りおき下さいませ」
ルナはカメラに向けて、優雅に一礼を決める。それと同時に膨大な魔力を発し、多数の魔法陣を周囲に展開する。
その存在感はさながら太陽か……カメラ越しはともかく、近隣の村々や真下の街など、その脅威を直に感じた事だろう。
「私たちの目的と行動指針は、粗方理解いただいたと思いますわ。なのでここで一つ、私自らその証明を行いたく思いますわ」
展開された魔法陣が、ルナの腕の動きに合わせ移動する。広がり重なり、何重にも折り重なり、一つの形を成す。
遠目から見れば、魔法陣で編まれた塔か、はたまた巨大な槍か……ルナを頂点として造られたそれは、眼下の街にその切っ先を向けていた。
新たにルナは、光球を生み出すと、魔法陣の中に向けて叩きつける様に撃ちだす。
魔法陣の中を光球が突き抜け、膨大な量の付与が光球に施される。
撃ちだされた光球の正体は、簡単な結界の魔法。それに魔術を付与し、何重にも効果を設定、強化したものだ。
魔法と魔術の同時使用、魔導によりつくられた結界の光球は……街の中心である広場へと着弾した。
<魔力操作>が可能な範囲を超えた距離にて魔法や魔術を操作する事は不可能だ。だが、始めからどのように作用するか、発動するかを設定したものを撃ちだす事は可能だ。
着弾をトリガーとし、結界の光球が発動する。弾ける様に幾つもの結界が膨張し街中を駆け抜ける。そして最後には、半球状の結界がすっぽりと街を覆い尽くした。
通り抜けた結界は、普通の人種には何ら悪影響を及ぼしてはいない。だが街中は、阿鼻叫喚の様相を呈していた。
友人が、家族か、隣人が……街に潜伏していた害悪が、先ほど変異した成金法衣と同様の化け物であるケルドに変異し、住民へ襲い掛かったのだ。
「だいたい……1,000体程度でしょうか?」
「1,057体ですわね。思ったよりも少なかったですわ」
「お前たち何をしたんだ!?」
街の様子を眺めていたルナとゴトーへ向け、エミリーが声を荒げる。
地竜は近づきたくない雰囲気を醸し出しているが、エミリーに言われて嫌々ながらも距離を詰めている。
「何とは、街中に潜んでいたケルドを、変異させたのですわ。これは相手側もできる事ですので、実体験してもらおうかと」
「実際に被害を受けなければ、人は真剣に取り組みません。なので、危機感を持っていただかなければならないのですよ」
「だからと言って!」
「もう、放置はしませんわよ。エミリー様は私たちを何だと思っているのです? 被害が出る前に片付けますわ。それに、これにだって意味はあるのですわよ」
「意味だと!?」
ルナが放った結界には、多数の付与が施されている訳だが、その効果は主に5つである。
一つ目は物質の通過を阻害する結界。これには範囲を限定する意味もある。
二つ目は、ケルド化を誘発する魔法が付与された結界。街の様子を見れば説明は不要だろう。
三つ目は、<鑑定>が付与された結界。ルナがケルドの数を正確に把握していたのはこれによるものだ。
そして四つ目、条件に当てはまる対象に対して、目印を付ける結界である。
そして既に目印は付いている。ケルドと言う名の、間違えようのない目印が。
変異しその姿をさらしたケルドに、その隠密性はない。<鑑定>を誤魔化す術はない。故にこの街のケルドは、全て露見している事となる。
「ルナ嬢、恐怖心と危機感が十分満ちました。そろそろよろしいかと」
「では、お掃除と行きますわ」
そして5つ目の結界。それは、これからルナが行う掃除の補助である。魔術の殆どが、これの為のものと言っても過言ではない。
「ふふふ、小細工は入りますが、久しぶりのブッパですわぁ」
艶かしい笑みを浮かべるルナは、喉元に魔力を集める。
煌々と轟々と、魔力光が溢れ出す。圧縮を繰り返し、その輝きを増して行く。
力……純然たる力。それは人々に、衝撃を、絶望を、畏怖を、羨望を、崇拝を呼び起こす。
竜の息吹。それは、純粋な魔力の塊に指向性を持たせ放つ……言葉にすればたったそれだけだが、それ故に並みの攻撃も魔法も軽く凌駕する威力となる。
無慈悲に放たれるルナのブレスは、空を焼き突き進む光線となり、結界の頂点にぶち当たる。それをトリガーに、結界に組み込まれた魔術が起動する。
光線を吸収し、歪ませ、結界内で球を模ると……竜の息吹は、閃光と共に弾けた。光の線を引きながら、跳ね、曲がり、弾き合い、さながら雨の如く降り注ぐそれは、寸分たがわず、ケルドへと降り注ぐ。
何十発と、何百発と、息の根が止まるまで焼き貫く。
<鑑定>による対象識別と生存確認。
<鑑定>を元に指定した標的へのマーキング。
標的以外に誤射しない為の軌道計算。
結界内に存在する生物全ての生殺与奪を握り、選別し、射滅ぼす。
どこまでも傲慢で、自分勝手で、美しく、無慈悲。魔導と竜のブレスを複合した、広範囲選別攻撃……その名を『射貫く滅びの雨』という。
「これならば遺体は残るので、映像が偽物などとごまかしはできないですわ~」
「……」
間近で放たれるブレスを見たエミリーも、その脅威にさらされつつも助かった国民も、等しく感じた事だろう。力の差を、技術の差を、国に蔓延る害悪の存在を……そして死を。
「さて……私は、私たちは、お父様の様に優しくもなければ、お母様の様に甘くもありませんわ。死にたくなければ足掻きなさい。こちらはお前たちが幾ら死のうが構わないのだから」
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貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
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