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神さま(?)拾いました【本編完結】
13.この誘惑には抗えない!
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夕食を片付けて、お風呂に入る。身体が痛むのはいろいろ理由があるのだろうけど憂鬱だ。
肌の保湿をしてから脱衣所を出ると、彼はダイニングテーブルで読書をしていた。
「おかえり」
「お風呂、入ります? お湯は溜めたままにしてありますが」
「うん。入る」
答えて、彼は本を閉じてテーブルに置いた。
この本は私の部屋を掃除する都合で出てきた小説である。あやかしのヒーローと不幸体質の少女の恋愛小説。なんとなく手放せなくて、一人暮らしをするにあたって実家から持ってきた小説の一つである。
「でもさ、やっぱり一緒に入ったほうが効率がいいって、僕は思うんだよねえ」
「シャワー浴びているんですから、浴室の狭さをわかっているでしょう? 大人ふたりは入れないです」
「密着していてもいいんじゃないかな」
なおも食いついてくるので、私は冷たい視線を向ける。
「真面目な話、すごく洗いにくいです」
「僕が洗ってあげるよ?」
「そういう方向での甘やかしは興味ないので」
ぴしゃりと返したつもりだが、彼はめげる様子がない。人差し指を立てて提案してきた。
「じゃあ、お風呂の後のマッサージで妥協しよう」
「ぐいぐいきますね……」
私があきれて返すと、彼は愉快げに笑った。
「触れ合いたい気分なんだよ」
「返事は保留にしておきます。さっさとお風呂を済ませてください」
「はーい」
そう答えて、彼は脱衣所に消えていった。
私は本を手に取りペラペラと捲る。
この作品を面白いとは思っていたが、だからといって憧れることはなかった。素敵なヒーローだけども実際に付き合うことを考えると厄介なことだらけのような気がして、素直に主人公たちを応援できなかったのだ。
この物語はファンタジーなんだから、現実的なことを考えるのは野暮だとは思うけど……
私にとっては現実と近い世界だ。こうはなりたくないと思いながら、私はケイスケと付き合っていた。ケイスケは普通の人間だし、時々ケンカはあったけども仲はよかった。そもそも幼馴染だったし、私の体質や家族についても理解があったから、このまま普通の人生を一緒に歩むのだと考えていた。
「……おかしいな」
視界が歪む。涙が溢れた。
やっぱり忘れられない。ケイスケのことは好きだった。結婚して、ずっと一緒に過ごしていけるなら彼がいいと思っていた。
でも、ケイスケと別れてみて気づいてしまった。私の感覚はほかの人のいう恋愛や結婚とは違うのだと。
私は、私が普通の人であり続けるためにケイスケを利用していたのだ。普通の人の普通の幸せを自分で定義して、そこに身を置くためにケイスケと付き合ってきたのだ。
「そりゃあ、フラれるよなあ……」
乱暴に涙を拭う。
しかも、私は知らされていなかった。ケイスケが私の親公認の婚約者であったことを。どうしてそういうことになっていたのかわからないが、そうしておかねばならない事情があったのだろう。
知らず知らずのうちに迷惑をかけていたんだろうな……
ケイスケは私を好いてくれていたのだろうか。少しでも、想ってくれていたならそれでいい。私は恋愛ごっこを楽しんでいただけだったのだから。
私、最低だな。
「弓弦ちゃん」
声をかけられて慌てて振り向くと、そこには髪をタオルで拭いている彼が立っていた。上半身裸のままで惜しみなく美しいプロポーションを晒している。私はさっと視線を外した。
「上もちゃんと着てくださいよ!」
「このほうが君の気をひけるかなって思って」
「風邪をひきます」
「僕は人間とは違うから風邪はひかないんじゃないかな」
肩をすくめておどけて見せてくる。そして手をポンっと叩いてパジャマの上を着用した。ほんと、便利だな。
「ふふ。僕を異性だと意識してくれていいんだよ。欲のはけ口にして構わないし」
「いやいや、それはちょっと」
私をなんだと思っているのだ。
「僕と触れ合って、忘れたいことをすべて上書きしちゃえばいいのに。泣きたくなるくらい嫌なことなら、僕が消してあげるよ?」
「人体の機能としてストレス軽減のために涙が出ているだけなので、泣くことについてはお気になさらず。それに、同じことを繰り返さないために戒めとしたいので、記憶もそのままで。私はちゃんと折り合いをつけますよ」
「そう?」
顔が近づいてきた。これは性的なアピールではなく、私の心を探るためのものだ。
私はプイッと横を向いた。
「……弓弦ちゃんは強くありたいんだねえ」
「弱くありたいと思わないだけです」
「気を張っているのも大変でしょう?」
そう告げて、彼は私をぎゅっと抱きしめた。お風呂上がりということもあってとても温かい。心が惹かれてしまいそうで、私は焦った。
「ちょ……気安く触らないでください!」
腕を引き剥がそうとしたがうまくいかない。よりぎゅうっと強く抱き締められた。絶妙な力加減で、苦しくならないのがちょっと悔しい。
「このまま一緒に寝ようよ。嫌なことはしないよ」
「嫌なことをしたらアニキを呼びます!」
「あはは。そうすればいいよ」
「余裕ですね……」
私は負けを認めて暴れるのをやめた。逃げないとわかったからか、彼は頭を撫でてくる。
私はされるがままだ。心地よいから腹が立つ。すっかり絆されているのに、そんな自分を認めたくない。
「君が眠るまで抱き締めておくよ。眠ったら、僕は床に布団を出して寝ることにするから、寂しくなったら転がっておいで」
なんで昨夜はそうしなかったのかと考えて、単純に床がなかったからだと察した。となると、彼が掃除を率先して行ったのは自分の居場所の確保のためだったのかもしれない。
意外とちゃんと距離を保つつもりはあるんじゃん?
私が彼の顔を見上げると、妖しい笑みを向けてきた。お風呂上がりで上気しているせいか、色気が増して感じられる。
「うん? 僕の布団に興味があるのかな?」
「ええ、まあ」
一緒に寝ることをごり押ししてくるのかと身構えたのに、そういうときに限ってズレた言葉が返ってくる。天然でやっているのか、私の思考を読んだ上でわざとやっているのか、どっちだろう。
私が頷くと、彼は私を解放して指をパチンと鳴らした。私のベッドの横のスペースにふかふかの布団と掛け布団が登場する。
「衣装だけじゃないんですね、喚び出せるのって」
「なんでも出せるわけじゃないさ。僕が持っている物だけ、出したり引っ込めたりできるんだよ」
「じゃあ、衣装は自前なんですね」
「そんなところ」
そう答えて、彼はすっと自分が用意した布団に潜りこんだ。掛け布団の端を持ち上げて手招きする。
「暖かいからおいでよ」
断って蹴飛ばしてもよかったのだけど、ふかふかのお布団の魅力には抗えない。私は葛藤したものの、結果的に布団の中にお邪魔した。見た目以上にふかふかである。
「ふふふ。よく眠れそうでしょう?」
「すごくあったかいです」
全身を包み込む感触はベッドで眠るよりも幸福度が高い。私は小さくあくびをした。まぶたがおりてくる。
「……おやすみ、弓弦ちゃん」
自分のベッドで寝ないと、と自分に言い聞かせているうちに私は意識を手放した。
夕食を片付けて、お風呂に入る。身体が痛むのはいろいろ理由があるのだろうけど憂鬱だ。
肌の保湿をしてから脱衣所を出ると、彼はダイニングテーブルで読書をしていた。
「おかえり」
「お風呂、入ります? お湯は溜めたままにしてありますが」
「うん。入る」
答えて、彼は本を閉じてテーブルに置いた。
この本は私の部屋を掃除する都合で出てきた小説である。あやかしのヒーローと不幸体質の少女の恋愛小説。なんとなく手放せなくて、一人暮らしをするにあたって実家から持ってきた小説の一つである。
「でもさ、やっぱり一緒に入ったほうが効率がいいって、僕は思うんだよねえ」
「シャワー浴びているんですから、浴室の狭さをわかっているでしょう? 大人ふたりは入れないです」
「密着していてもいいんじゃないかな」
なおも食いついてくるので、私は冷たい視線を向ける。
「真面目な話、すごく洗いにくいです」
「僕が洗ってあげるよ?」
「そういう方向での甘やかしは興味ないので」
ぴしゃりと返したつもりだが、彼はめげる様子がない。人差し指を立てて提案してきた。
「じゃあ、お風呂の後のマッサージで妥協しよう」
「ぐいぐいきますね……」
私があきれて返すと、彼は愉快げに笑った。
「触れ合いたい気分なんだよ」
「返事は保留にしておきます。さっさとお風呂を済ませてください」
「はーい」
そう答えて、彼は脱衣所に消えていった。
私は本を手に取りペラペラと捲る。
この作品を面白いとは思っていたが、だからといって憧れることはなかった。素敵なヒーローだけども実際に付き合うことを考えると厄介なことだらけのような気がして、素直に主人公たちを応援できなかったのだ。
この物語はファンタジーなんだから、現実的なことを考えるのは野暮だとは思うけど……
私にとっては現実と近い世界だ。こうはなりたくないと思いながら、私はケイスケと付き合っていた。ケイスケは普通の人間だし、時々ケンカはあったけども仲はよかった。そもそも幼馴染だったし、私の体質や家族についても理解があったから、このまま普通の人生を一緒に歩むのだと考えていた。
「……おかしいな」
視界が歪む。涙が溢れた。
やっぱり忘れられない。ケイスケのことは好きだった。結婚して、ずっと一緒に過ごしていけるなら彼がいいと思っていた。
でも、ケイスケと別れてみて気づいてしまった。私の感覚はほかの人のいう恋愛や結婚とは違うのだと。
私は、私が普通の人であり続けるためにケイスケを利用していたのだ。普通の人の普通の幸せを自分で定義して、そこに身を置くためにケイスケと付き合ってきたのだ。
「そりゃあ、フラれるよなあ……」
乱暴に涙を拭う。
しかも、私は知らされていなかった。ケイスケが私の親公認の婚約者であったことを。どうしてそういうことになっていたのかわからないが、そうしておかねばならない事情があったのだろう。
知らず知らずのうちに迷惑をかけていたんだろうな……
ケイスケは私を好いてくれていたのだろうか。少しでも、想ってくれていたならそれでいい。私は恋愛ごっこを楽しんでいただけだったのだから。
私、最低だな。
「弓弦ちゃん」
声をかけられて慌てて振り向くと、そこには髪をタオルで拭いている彼が立っていた。上半身裸のままで惜しみなく美しいプロポーションを晒している。私はさっと視線を外した。
「上もちゃんと着てくださいよ!」
「このほうが君の気をひけるかなって思って」
「風邪をひきます」
「僕は人間とは違うから風邪はひかないんじゃないかな」
肩をすくめておどけて見せてくる。そして手をポンっと叩いてパジャマの上を着用した。ほんと、便利だな。
「ふふ。僕を異性だと意識してくれていいんだよ。欲のはけ口にして構わないし」
「いやいや、それはちょっと」
私をなんだと思っているのだ。
「僕と触れ合って、忘れたいことをすべて上書きしちゃえばいいのに。泣きたくなるくらい嫌なことなら、僕が消してあげるよ?」
「人体の機能としてストレス軽減のために涙が出ているだけなので、泣くことについてはお気になさらず。それに、同じことを繰り返さないために戒めとしたいので、記憶もそのままで。私はちゃんと折り合いをつけますよ」
「そう?」
顔が近づいてきた。これは性的なアピールではなく、私の心を探るためのものだ。
私はプイッと横を向いた。
「……弓弦ちゃんは強くありたいんだねえ」
「弱くありたいと思わないだけです」
「気を張っているのも大変でしょう?」
そう告げて、彼は私をぎゅっと抱きしめた。お風呂上がりということもあってとても温かい。心が惹かれてしまいそうで、私は焦った。
「ちょ……気安く触らないでください!」
腕を引き剥がそうとしたがうまくいかない。よりぎゅうっと強く抱き締められた。絶妙な力加減で、苦しくならないのがちょっと悔しい。
「このまま一緒に寝ようよ。嫌なことはしないよ」
「嫌なことをしたらアニキを呼びます!」
「あはは。そうすればいいよ」
「余裕ですね……」
私は負けを認めて暴れるのをやめた。逃げないとわかったからか、彼は頭を撫でてくる。
私はされるがままだ。心地よいから腹が立つ。すっかり絆されているのに、そんな自分を認めたくない。
「君が眠るまで抱き締めておくよ。眠ったら、僕は床に布団を出して寝ることにするから、寂しくなったら転がっておいで」
なんで昨夜はそうしなかったのかと考えて、単純に床がなかったからだと察した。となると、彼が掃除を率先して行ったのは自分の居場所の確保のためだったのかもしれない。
意外とちゃんと距離を保つつもりはあるんじゃん?
私が彼の顔を見上げると、妖しい笑みを向けてきた。お風呂上がりで上気しているせいか、色気が増して感じられる。
「うん? 僕の布団に興味があるのかな?」
「ええ、まあ」
一緒に寝ることをごり押ししてくるのかと身構えたのに、そういうときに限ってズレた言葉が返ってくる。天然でやっているのか、私の思考を読んだ上でわざとやっているのか、どっちだろう。
私が頷くと、彼は私を解放して指をパチンと鳴らした。私のベッドの横のスペースにふかふかの布団と掛け布団が登場する。
「衣装だけじゃないんですね、喚び出せるのって」
「なんでも出せるわけじゃないさ。僕が持っている物だけ、出したり引っ込めたりできるんだよ」
「じゃあ、衣装は自前なんですね」
「そんなところ」
そう答えて、彼はすっと自分が用意した布団に潜りこんだ。掛け布団の端を持ち上げて手招きする。
「暖かいからおいでよ」
断って蹴飛ばしてもよかったのだけど、ふかふかのお布団の魅力には抗えない。私は葛藤したものの、結果的に布団の中にお邪魔した。見た目以上にふかふかである。
「ふふふ。よく眠れそうでしょう?」
「すごくあったかいです」
全身を包み込む感触はベッドで眠るよりも幸福度が高い。私は小さくあくびをした。まぶたがおりてくる。
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